賃貸で一人暮らしの高齢者、ご本人やご家族に知ってほしいリスクと対処法
持ち家がなく、賃貸住宅での一人暮らしを続けていると、ふと不安になるのが「今後の生活」です。今は元気でも、これから体力が低下したり、病気や怪我に見舞われたりすることもあるでしょう。年齢を重ねて、このまま賃貸で暮らし続けられるのかという点も気になります。そこで、賃貸で生活する一人暮らし高齢者に潜むリスクと、困りごとを少しでも減らすための対処法を詳しく解説します。
一人暮らし高齢者の現状
出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書」内閣府が公表している「令和5年版高齢社会白書」によると、65歳以上の一人暮らし高齢者の数は、過去40年で7倍以上にまで増加しています。
この数は今後も増え続けると予測されており、2040年には、65歳以上人口の約20~25%が一人暮らしになる見通しです(女性24.5%、男性20.8%)。
現代社会において高齢者の一人暮らしは決して珍しいものではなく、むしろこれからどんどん一般的になっていくでしょう。
身寄りのない高齢者への生活支援が社会問題にもなっている今、高齢者自身が、安心できる生活環境の構築へ向けて、積極的に対策を講じていく必要があります。
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高齢者は何歳ごろまで賃貸が借りられる?
出典:国土交通省住宅局「家賃債務保証の現状」一般的に、一人暮らしのための賃貸住宅をスムーズに契約できるのは60代までと言われています。これは入居時に必要となる家賃債務保証の審査が、70代から極端に通りにくくなってしまうためです。
家賃債務保証とは、連帯保証人を立てる代わりに、保証会社がそれに近い役割を果たす制度のことを指します。
利用時には家賃等の支払い能力が審査されますが、年金などが主な収入源となる高齢者は、この審査に通らないケースが増加するのです。身元保証も兼ねたワンストップサービスの保証会社もありますが、またまだ少ない現状にあります。
実際に家賃債務保証会社を対象としたアンケートの結果でも、60代までは約半数の保証会社が「(審査に)通りやすい」と回答しているのに対し、70代になるとその割合が約2割まで減少することがわかります。
この結果から、賃貸住宅を借りられる年齢のボーダーは「70歳」がひとつの目安になると言えるでしょう。
高齢者に対して貸し渋りがある背景
出典:全宅連「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書」(PDF)一人暮らし高齢者が賃貸住宅を借りづらくなる背景には、支払い能力以外に「孤独死や、認知症等による意思能力の喪失などが危惧されている」という点もあります。
公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が平成30年に行った調査によると、大家や不動産業者が高齢者の入居を渋る理由の上位2つが「孤独死の恐れ」と「意思能力の喪失の恐れ」でした。
今は元気でも、将来的に貸している住宅がいわゆる事故物件になってしまったり、入居者本人との意思疎通が難しくなったりするリスクを考えたとき、どうしても家主は高齢者よりも働き盛りの世代を優先してしまいます。特に心身機能が低下する高齢者の一人暮らしには、貸し出す側にリスクが付いて回るのが賃貸住宅の実情です。
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一人暮らしでも賃貸住宅を借りやすい高齢者の特徴
・自立状態など健康状態に関する配慮が不要な方 |
賃貸住宅が借りづらいと言われる高齢者でも、すべての方が「契約できない」というわけではありません。
たとえば健康状態に問題がなく自立した生活を送れる方や、収入や貯蓄が十分にあり家賃の支払い能力に不安がない方、そして保証人や緊急連絡先にもなり得る家族や親族がいる方などは、家賃の未払いや孤独死等のリスクが低いと考えられるため、年齢を重ねていても賃貸契約を交わしやすくなります。
実際に高齢者が賃貸住宅を借りようとする際には、これらのポイントで問題がないことをアピールするのがよいでしょう。
一人暮らし高齢者の賃貸物件選びのポイント
高齢者が一人暮らしのために賃貸物件を選ぶ際には、家賃や間取りはもちろん、生活の「これから」を意識した次のようなポイントも忘れずにチェックしましょう。
エレベーター、手すりなどのバリアフリー設備
高齢者の住まい選びでは、バリアフリー対応の有無が大きなポイントになります。
65歳以上の事故のうち77.1%が家庭内で起きているというデータもあることから、ちょっとした段差や手すりの有無などをチェックし、転倒のリスクが低いと考えられる物件を選ぶべきです。
また、将来的な体力の低下や、場合によっては在宅介護サービスを利用することも想定して、「居室への移動手段が階段しかない」「浴室やトイレが狭い(介助が難しい)」といった物件は避けるのがよいでしょう。
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医療施設、買い物施設などの周辺施設
「病院やスーパーなど、頻繁に通うことになる施設へのアクセスがよい」ことも、重視すべき条件のひとつです。
今よりも体力が落ち、健康面に不安が出始めてからも無理なく暮らし続けられるかどうかを、立地の面から具体的にイメージしてみましょう。
現在の交通手段が主に自家用車の人も、今後免許を返納する可能性があります。特に大都市よりも地方の方が徒歩圏内での自立した生活が難しくなることが予測されます。歩いて行ける範囲にはどんな施設があるか、駅・バス停からの距離がどれくらいかを忘れずにチェックしてください。
生活支援や見守り環境
高齢者の一人暮らしは、外部のサポートを受けやすい環境であるかどうかで質が大きく変わります。
外部との交流が少ない高齢者には、健康面や防犯面で、何か異変があっても気づいてもらいにくいリスクがあります。
公的でも民間でも、定期的な安否確認や生活相談などのサービスが利用できる地域・物件であれば、他者との交流機会を確保でき、生活上の不安を減らすことに繋がるでしょう。
高齢者向けの生活支援体制も地域ごとに違いがあるため、その地域でどのようなサポートが受けられるかまでチェックしておくと安心です。
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家族や親族の住まいとの距離
「家族や親族の住まいに近いかどうか」も、高齢者の一人暮らしでは意識すべき点でしょう。
日頃のちょっとした困難についても頼りやすい距離感の物件なら、高齢者本人はもちろん、家族の安心にも繋がります。
また、何か問題があっても家族のサポートが期待できるという事実は、大家さんの不安を解消し、賃貸住宅を契約しやすくなるという点でも大きなメリットです。
ただ、住み慣れた地域を離れたくないなど、さまざまな事情で家族や親族の近くに住むのが難しいこともあるかもしれません。可能な限り自立した生活をするためには近所の人など地域住民とのつながりを大事するとよいでしょう。
また、近年は遠距離介護をする親子も珍しくありません。
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一人暮らしの高齢者が賃貸で暮らし続けるリスク
高齢者が賃貸物件で一人暮らしを続けることには、次のようなリスクがあることも見逃せません。
生活に潜む危険性を知り、それをできる限り最小化する環境の構築を意識することが大切です。
犯罪やトラブル
詐欺や窃盗、強盗など、一人暮らしの高齢者を狙う犯罪は増え続けています。
特に年々手口が巧妙化する特殊詐欺は、相談できる人が身近にいないと「おかしい」ということにもなかなか気づきにくいものです。
周囲からのサポートを受けにくい一人暮らし高齢者は、そうでない人よりも、犯罪に巻き込まれるリスクが大きいと言えるでしょう。
災害時の対応
また、地震や火事などの災害が発生した際、高齢者の一人暮らしでは避難などの対応が遅れやすい点も無視できません。
身体機能や判断能力の衰えから、そもそも自力での避難が難しいケースもあるでしょう。
異常気象によって発生頻度が高まっている豪雨や水害も、近年特に対策しておくべきリスクのひとつとなっています。
出典:国土交通省「令和4年版 国土交通白書」健康被害やケガ
一人暮らしの高齢者には、他者との交流機会が減ることにより、健康面での異常の発見・対応が遅れやすいというリスクもあります。
熱中症や転倒による怪我などで動けなくなってしまったり、自分でも気づかないうちに認知症が発症・進行していたりするケースは珍しくありません。
また、身体機能や判断能力の衰えにより今までのように家事や食事の準備ができなくなり、自身の健康を保ちにくくなるという点も、あわせて知っておきたいリスクです。いずれにしても異変が生じた際に発見が遅くなるため、定期的に誰かに見守ってもらう仕組みが必要となります。
物の溜め込み
高齢者の一人暮らしでは、身体機能の衰えや認知症の進行により物を溜め込みがちになり、ゴミ屋敷化しやすいという点もリスクに挙げられます。
公益財団法人「日本都市センター」の資料によると、ゴミ屋敷化の問題をもっとも多く抱えるのは、75歳を超える男性の単身世帯だそうです。
自宅のゴミ屋敷化が進むと、健康へ悪影響を及ぼす恐れがあるほか、ご近所トラブルへの発展や、火災リスクの増大などの問題が生じることも考えられるでしょう。
出典:公益財団法人 日本都市センター「自治体による「ごみ屋敷」対策ー福祉と法務からのアプローチー」賃貸を検討中の一人暮らし高齢者におすすめの施設
持ち家がなく、賃貸住宅で一人暮らしを続ける高齢者には、身体機能の衰えや判断能力の低下に起因するさまざまなリスクが付きまといます。また、将来的には「年齢が原因で、そもそも賃貸契約が結べない」という問題が出てくるかもしれません。
それらを解決するためには、生活の見守りやサポートが受けられる高齢者向けの施設を、住まいの選択肢のひとつに含めるのがおすすめです。いま自立した生活を送れている方であれば、たとえば次のような施設が入居先の候補になるでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは、常駐しているスタッフによる安否確認や、生活相談などのサービスが提供される賃貸住宅です。
そもそも60歳以上の高齢者を対象とした住宅のため、バリアフリーなどの設備もしっかり整っています。
賃貸で自立した生活を送りつつも、リスク回避のために第三者との交流は最低限保っておきたい、と考えている人におすすめです。
関連記事サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは?費用や入居条件、他施設との違い
一般型(自立型)ケアハウス
一般形(自立型)ケアハウスとは、自立状態の高齢者を対象に、洗濯や食事などの生活支援サービスを提供する施設です。
他の高齢者向け施設と比較すると入居にかかる費用の負担が少ないため、これから賃貸で高い家賃を払い続けることに不安がある、という方も選択肢に含められるでしょう
ただし、ケアハウスによっては「身の回りの世話が自分でできること」「頼れる身寄りがないこと」などが入居条件に含まれる場合もあります。
関連記事ケアハウスとは
健康型有料老人ホーム
健康型有料老人ホームとは、身の回りの対応は自分で行える、自立した高齢者を対象とした施設です。
プロのスタッフによる家事のサポートや、食事の提供などのサービスが受けられます。
今の健康な状態を維持するための設備が充実しているため、一人暮らしでなかなか運動の機会がなかった人にもおすすめです。
「自立した生活を送りながら、少しでも健康寿命を延ばしたい」と考えているなら、入居を検討してみてはいかがでしょうか。
関連記事有料老人ホームとは?種類や定義、料金、人員基準など詳しく解説
まとめ
高齢者が賃貸住宅で一人暮らしを続けるにあたっては、「特に70歳を超えると新たな物件を契約しにくくなる」「一人暮らしに起因するさまざまなリスクがある」などの、知っておきたい注意点があります。
元気なうちにバリアフリー対応や周辺の立地、他者との交流の保ちやすさなども含めて住まいを選択し、生活の“これから”を見据えた環境を整えておきましょう。
老後に潜むさまざまなリスクを最小化するという意味では、サービス付き高齢者向け住宅 やケアハウス、有料老人ホームなどの施設を住まいの選択肢に含めるのもおすすめです。
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【無料】プロのスタッフに入居相談を行うこの記事の制作者
監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)
地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。