質問

40代です。今年に入りパートから正社員となり勤務しています。
先日、同居する義母が転倒で足を骨折しました。医師によると退院後は車イスが必要かもしれないとのことです。
ようやく正社員になれたのに、予期せぬ義母の介護のため仕事を辞めなければならないのではと不安です。介護離職をしなくてもよい方法はあるのでしょうか?

回答
武谷 美奈子

介護保険サービスを上手に活用することで、介護離職をせずに仕事と介護を両立させることはできます。まずは介護認定を受け、ケアマネジャーと相談しながら仕事との両立が可能なケアプランを考えましょう。

また、介護施設に入居するという選択肢もあります。介護は1人で行なうものではなく、いろんな人のサポートが必要です。
家族や親せき、会社の上司や同僚にも協力してもらえる体制づくりをしましょう。また、会社の支援制度や自治体のサービスなどもしっかり確認しましょう。 武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

【目次】
  1. 介護離職のデメリットとは
  2. 介護離職しないための方法
  3. 国の支援制度・介護休業法
  4. 企業の支援制度
  5. 年間10万人の介護離職者 その背景とは
  6. まとめ

介護離職のデメリットとは

まず、介護離職をした場合のデメリットについて考えてみましょう。

●収入源の喪失
質問者様が抱えている不安の通り、仕事を辞めることで収入は無くなります。一時的に親の年金などで生活費を賄うことはできるかもしれませんが、介護が終わった時の年齢を考えると再就職へのハードが上がる可能性が大きくなります。


●キャリアの分断・喪失
これまで仕事で積み上げてきたキャリアが離職により分断されてしまいます。変化の早い現代では、復職時にそれまでのキャリアが通用しない可能性もあります。

●ライフプランの不確実性、将来への不安増大
自分の生活がどうなるのか、将来が見えないことから不安が広がります。
将来への不安やストレスからくるメンタル疾患発症の可能性。そして、家族の介護につきっきりになることによるストレスから、鬱病などのメンタル疾患にかかるケースも少なくありません。

>40代から急増|介護離職の背景と実態


介護離職しないための方法


事前の情報収集で介護離職に備える


●介護に関する情報収集を行う
介護に直面した時に、どこまで想定できていたかで、かかるストレスも違います。仕事との両立の事例なども知っておきましょう。

>要介護認定の申請方法―介護保険サービスを受けるには?


●介護保険制度を理解しておく

介護離職をしないためには介護保険制度のフル活用は欠かせません。内容をしっかり理解しておきましょう。

>介護保険制度とは?しくみをわかりやすく解説します


●いざという時の相談窓口を把握しておく

介護に直面した時は、まずは専門家に相談することが早期解決への道です。各地域の介護の相談窓口となるのが、専門職が常駐する地域包括支援センターです。場所や連絡先を把握しておきましょう。

>地域包括支援センターとは? その活用法


●会社の支援制度を理解しておく
企業には育児・介護休業法に基づく制度があり、独自の制度を制定しているところもあります。内容を理解し、有効に活用しましょう。


●家族や兄弟と親の介護について話し合っておく
いざ介護に直面すると、家族間で介護の方法やお金の使い方で意見が合わず、関係に亀裂が生じることも。できれば、まだ親が元気なうちから介護について話し合っておきましょう。


早い段階で相談し解決策を探る

2017年3月に公表された調査結果によると、介護離職者は離職前の相談状況について「誰にも相談しなかった」と回答している者が47.8%と半数近くにのぼっています。

介護を理由に転職した人も「誰にも相談しなかった」が31.4%で、介護保険サービスなどを利用して両立できる術があることを知らずに転職・離職を選択している人が少なからずいるのではないかと予想されています。

介護に直面したら、自分が何とかしなければと思い込まず、まずは各方面に相談しましょう。SOSを出すことで、仕事と両立できる方法が見つかる可能性が広がります。

 

●役所や地域包括支援センターに相談する
介護申請や介護保険サービスについての説明、独居高齢者の見守りなど、心配事に対する解決方法を提示してくれます。特に地域包括支援センターは地域の介護相談窓口として設置されており、ケアマネジャー・看護師・社会福祉士と専門職が常駐し、さまざまなケースを扱っています。


●ケアマネジャーに相談する
介護保険サービスを導入する場合は、要介護認定の申請を行い、その後担当のケアマネジャーがつきます。ケアマネジャーは介護のプロ。質問者様の就業状況や悩みを伝え、仕事との両立が可能なケアプランを作ってもらいましょう。

>ケアマネージャーの選び方、上手な付き合い方


●職場に相談する
まずは上司に状況を報告・相談し、職場での協力体制構築を依頼しましょう。人事担当者にも相談し、仕事と介護の両立のためにどういった支援制度があるかを確認します。


●家族・兄弟・親族に相談する
「介護に協力してほしい」「一緒に考えてほしい」ということをはっきり意思表示しましょう。SOSをしっかり出すと助けてくれる人が現れるものです。


在宅介護サービスを利用する

仕事との両立を図るためには、介護保険サービス・介護保険外サービスをフル活用することが不可欠です。ケアマネジャーとよく相談し、被介護者本人と介護者の仕事の状況を踏まえたケアプランを立ててもらいましょう。

また、介護はいつまで続くか先が読めません。長丁場となる介護生活を踏まえて、介護する人の休息もしっかり取れるプランを立てることも重要なポイントです。

目的 介護保険サービス 保険外サービス
排泄・入浴・食事介助 訪問介護
訪問看護
訪問入浴
デイサービス
買い物・清掃・食事提供 訪問介護 家事代行サービス
配食サービス
機能訓練 デイケア
機能訓練特化型デイサービス
訪問リハビリテーション
高齢者向けスポーツジム
見守り強化 デイサービス
訪問介護
見守りサービス
緊急通報サービス
環境整備 福祉用具貸与・購入
住宅改修
通院介助 訪問介護 介護タクシー
家事代行サービス
出張・時間外勤務対応 ショートステイ
夜間対応型訪問介護看護
訪問介護
有料老人ホームなどの
民間ショートステイ
介護者の休息(レスパイト) デイサービス
ショートステイ
民間ショートステイ

>在宅介護サービスの種類と特徴


老人ホーム、介護施設を検討する

老人ホームや介護施設に入居できれば、仕事との両立は現実的なものになります。また、介護度が重くなり在宅介護の限界を感じた時には、あくまでも介護離職はせず老人ホーム入居を検討しましょう。

要介護3以上であれば、とりあえず特別養護老人ホームの申し込みをしておくことをお勧めします。
待機者が多いことで有名ですが、地域やタイミングによって早期に入居できるケースもあります。有料老人ホームについては費用や内容がさまざまですので、まずは情報収集をして把握しておくことが大切です。

>老人ホームってどんなところ?老人ホームを知ろう



国の支援制度・介護休業法


育児・介護休業法とは

仕事と介護の両立を支援する法律として「育児・介護休業法」 があります。この法律では、介護を行う従業員が介護休業などを取得する権利を定め、従業員が介護を行いやすくするため事業主に短時間勤務制度などの措置を講じるよう義務付けています。

就業規則に制度がなくても、介護休業、介護休暇、法定時間外労働・ 深夜業の制限の制度は、申出により利用でき、それを妨げることはできません。(勤務先の規定によっては、 勤続年数などで取得できない場合があります)。

平成29年1月には、介護休業の分割取得や介護休暇の取得単位の柔軟化など、仕事と介護の両立が図りやすい内容に改正されています。

<対象>
勤務先の業種や規模に関わらず、原則として要介護状態(※1)の家族(※2)を介護する従業員

※1要介護状態=負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態。介護保険制度の要介護・要支援認定を受けていない場合も取得可能。
※2対象家族の範囲:配偶者(事実婚を含む)・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫


具体的な支援制度

支援制度 内容
介護休業制度 対象家族1人につき、3回まで、通算して93日を限度として、原則として従業員が申し出た期間仕事を休むことができる
介護休暇制度 1年度において5日(その介護、世話をする対象家族が2人以上の場合にあっては10日)を限度として、介護休暇を取得できる
介護休暇は、1日単位又は半日単位(1日の所定労働時間の2分の1。労使協定によりこれと異なる時間数を半日と定めた場合には、その半日)で取得できる
短時間勤務制度等の措置 事業主は、①短時間勤務制度、②フレックスタイム制度、③時差出勤制度、 ④介護サービスの費用の助成のいずれかの措置を講じなければならない
時間外労働の制限 1ヶ月につき24時間、1年 につき150時間を超える時間外労働が免除される
深夜業の制限 深夜における労働(午後10時から午前5時までの労働)が免除される
勤務地の配慮 事業主は、従業員を転勤させようとする場合には、その介護の状況に配慮しなければならない
不利益取扱いの禁止 事業主は、介護休業、介護休暇、所定外労働の制限、所定労働時間の短縮措置等、時間外労働の制限及び深夜業の制限について、その申出をしたこと又は取得等を理由として、従業員に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはいけない


介護休業給付金

介護休業に対しては原則として企業から給与は支払われませんが、65歳未満の従業員が介護休業を取得した場合、雇用保険から「介護休業給付金」が支給されます。介護離職防止のための施策として、平成28年8月より支給率も引き上げられました。

●介護休業給付金 概要

支給条件
内容
支給対象者 介護休業を取得した雇用保険の一般被保険者(週20時間以上働く人)で、介護休業開始前2年間に、賃金支払い基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上ある場合
対象家族 介護休業取得者の配偶者(内縁含む)
父母(養父母含む)
子(養子含む)
配偶者の父母(養父母含む)
祖父母
兄弟姉妹

支給日数 介護休業取得期間(最長93日・分割取得3回まで)
支給額 原則 休業開始時賃金日額×支給日数×67%
(上限月額1万6410円×30日×67%=32万9841円)
※介護休業期間中に支払われる賃金によって支給額が異なる
・13%以下の場合:賃金月額の67%相当額を支給
・13%超80%未満の場合:賃金月額の80%相当額と賃金の差額を支給
・80%以上の場合:支給されない
申請手続き 手続きは通常、事業主が遂行
「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」および「介護休業給付金支給申請書」に、介護対象家族の住民票などの必要書類を添付し、介護休業終了翌日から2か月経った月の末日までに、会社の所在地管轄のハローワークへ提出
支給日 「支給決定通知書」の通知後1週間ほどで、本人名義の金融機関口座に振り込み


企業の支援制度

介護離職は、中核を担う人材の流出、それに伴う売り上げ・利益の減少。残った社員の業務量増大、労災リスク増大など、企業にとってもダメージが大きく、深刻な問題となっています。
それに対して、独自の制度を設けるなど介護離職防止策を講じる企業も増えています。

ここでは企業の取り組み例についてご紹介します。

<企業の取り組み>

●研修 ・情報提供
・介護セミナーの実施(テーマ:介護保険制度、認知症、介護施設など)
・管理職研修(相談してもらえる雰囲気づくり、協力意識醸成、仕事の視える化など)
・両立支援ツールの提供(仕事と介護の両立の手引きなど)
・ウェブサイトの提供

●相談体制構築
・相談窓口設置
・専門家による無料相談・カウンセリング(電話、メール、対面など)

●勤務制度導入
・介護休業制度
・法定(通算93日、分割取得3回まで)以上の取得が可能
・介護休暇制度
・法定(1年度において5日(対象家族が2人以上の場合にあっては10日))以上の取得が可能
・積立有給休暇利用制度
・期間中に消化しきれない有給休暇を積み立て、有給の介護休暇として利用できる
・短時間勤務制度
・フレックスタイム制度
・勤務時間の繰り上げ・繰り下げ
・在宅勤務制度(テレワーク)
・勤務地変更制度
・希望勤務地への異動が可能

●費用助成
・介護サービス利用補助
・オムツ代支給

●職場復帰支援
・介護を理由に退職した人の再雇用
・復職支援プログラム制定


年間10万人の介護離職者 その背景とは

平成24年「就業構造基本調査」によると、介護離職者の数は2011年10月から2012年9月の1年間で10万人を超えています。特に女性の介護離職者数は、全体の8割以上を占め、年齢別では男女共に50代及び60代が約7割を占めています。

「介護は家族、特に女性が行うもの」という古い意識や、夫婦間で女性のほうが収入は少ない、会社での立場も女性のほうが辞めやすいというケースが多いことから、女性が介護を担うことが多くなっています。また、要介護状態になる割合が増える75歳以上の親を持つ子供の年齢は、50代~60代が中心となります。

この世代は働き盛りで企業においても中核を担い、管理職など責任ある立場にいることも少なくありません。介護は突然起こり、また長丁場になることも多く、周囲の理解や協力が得られずに仕事との両立が困難になることが考えられます。


まとめ

介護離職という選択を取った人で、退職前に「誰にも相談しなかった」と答えた人が47.8%と半数近くにのぼりました。介護と両立する術があることを知らずに仕事を辞めてしまった人が多いと推測されていますが、それは大変残念なことです。

また、仕事と介護の両立支援制度がありながらその利用率は低迷しており、制度の使い勝手が悪いという声を聞く一方で、そもそも存在を知らなかったということも聞きます。さらに、在宅介護サービスは支給限度額の6割程度しか使われていないというデータもあります。

それらを考え合わせると、実はまだいろんな制度を使い切っていないことがわかります。仕事と介護の両立の実現は、その余力の部分をどう使うかにかかっているとも言えるでしょう。

>40代から急増|介護離職の背景と実態

このQ&Aに回答した人

武谷 美奈子
武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

学習院大学卒 福祉住環境コーディネーター 宅地建物取引士
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の高齢者の住まい選びについての相談を受ける。 「高齢者住宅の選び方」「介護と仕事の両立」等介護全般をテーマとしたセミナーの講師をする傍ら、テレビ・新聞・雑誌などでコメンテーターとして活躍。 また日経BP社より共著にて「これで失敗しない!有料老人ホーム賢い選び方」を出版。