【知っておきたい】老人ホームの資金計画の立て方
老人ホームなどの高齢者施設は、施設ごとに入居条件や必要資金が大きく異なります。
入居する施設を検討する際には、予算の目途を立てておくといい判断材料となるでしょう。
自分の資産や収入を把握した上で、初期費用と月額費用から予算を見積もり、無理のない資金計画を立てましょう。
手持ちの資産
まずは、自分が支払える費用を検討するために手持ちの資産を計算します。
資産として、まずは銀行の預貯金、退職金、売却可能な不動産や有価証券などを確認しましょう。
売却予定のものについては、事前に現在の相場を調査しておくことをお勧めします。価値が変動する資産については、低めに想定した金額で考えておいた方が安心です。
- 現預金
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- 預貯金とその利息、退職金
- マンションや土地など、売却可能な不動産
- 株式や債券など、売却可能な有価証券
- 満期を迎える生命保険
- 自動車や家具など、売却可能なその他資産
今後の収入
定期的な収入として、年金や利息、配当や家賃収入などを把握しましょう。
配当や家賃といった相場と連動する収入については、ある程度低めに見積もっておいた方が無難です。
- 例えば、こんな収入
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- 年金収入
- 有価証券の配当
- 家賃収入
入居期間と健康状態を想定
将来の資金計画をしっかりと立てるには、「入居期間がどれくらいになるか」「その間にどれくらいの資金が必要か」と、順序立てて考えていくことが必要です。
自立期間と要介護期間では必要な費用も変わってきます。介護期間が長くなるようなら、居宅サービスや訪問介護ではなく、介護サービスが提供される施設を選ぶ必要が出てくるでしょう。
もし自立(介護認定なし)で施設入居を考えているのならば、何歳くらいで要介護期間に入るかなど、健康状態の変化も想定しておきましょう。
生命保険文化センターの調査では、80~84歳のおよそ三割の人は要支援・要介護と認定されています。また、平均的な介護期間「5年」を経てご逝去することを考え、その年齢から逆算して入居期間を想定します。
平均寿命や平均介護期間から老人ホームの入居年数を想定することができます。
厚労省資料「令和3年 簡易生命表の概況」によると、平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳のようです。あくまで平均ですが、入居にかかる費用は想定より少し多く見積もっておいた方が安心でしょう。
予算見積もり
初期費用と月額費用のほか、急な病気の治療費や冠婚葬祭費用などの予備費を見積りましょう。
初期費用については施設に支払うお金、月額費用については「介護サービス費」と「その他生活費」を具体的な項目を上げながら施設側に確認します。
- 確認事項(例)
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- 入居時に必要な初期費用をいくらに設定するか?
- 毎月どのくらいのお金を生活に充てるか?
- 医療費や介護費、娯楽や行事などに、どのくらいの費用を見積もるか?
入居時に必要な初期費用
入居時に施設に支払う初期費用は、施設に問い合わせ、契約書などの書面ベースできちんと確認しましょう。
初期費用には、入居一時金と保証金があり、その額は施設によってさまざまです。
以下は、施設ごとの目安です。詳細は施設側に確認して下さい。
介護付き有料老人ホーム | 入居一時金を必要とする施設が多い |
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健康型有料老人ホーム | |
住宅型有料老人ホーム | |
サービス付き高齢者住宅 | 敷金(家賃の数ヶ月分)が必要 |
高齢者専用賃貸住宅 | |
高齢者向け優良賃貸住宅 | |
シニア向け分譲マンション | 物件の購入費用が必要 |
グループホーム | 入居一時金、または保証金(敷金)が必要な施設が多い |
軽費老人ホーム | |
ケアハウス | |
特別養護老人ホーム | 初期費用なし |
介護老人保健施設 | |
介護療養型医療施設 |
※施設に支払う費用以外にも、引越・家財購入費などが必要になります。
自分に合ったプラン選定
施設によっては、「入居一時金を支払う代わりに月額利用料が安いプラン」と、「一時金を支払わず月額利用料が高いプラン」などから選択することができます。
何年入居するかによって、結果的にどちらが費用を抑えられるかが変わります。複数のプランを比較・検討しましょう。
入居後に必要な月額費用
月額費用としては、介護保険給付の対象となる「介護サービス費」「家賃」と、それ以外の「その他の生活費」に分けて見積もりましょう。
健康状態によって「医療費」が多く必要となったり、「水道光熱費」や「通信費」「交際費」などがかかります。
また、個別に受けたいリハビリやマッサージなど、追加でオプションサービスを受けようと考えている場合にはそれらの費用も想定しておきましょう。満足できる生活のために必要な雑費も含めて見積もることが大切です。
急な病気の治療費や冠婚葬祭費用などに充てるための予備費も忘れずに考慮しておきましょう。
親の施設を探すときも考え方は同じです。親の健康状態、施設での生活年数、持っている資産・収入を鑑みて、基本的には親の資産・収入でまかなえる施設を探すのがよいでしょう。
利用可能な補助金・助成制度
国や自治体からの補助金、居住費や食費などの減免制度もあるので、条件に該当するかを調べましょう。
補助金・助成制度の対象となるかは、介護施設の種類、収入額や納税額、介護サービス費の自己負担額などによって決まってきます。
以下に、主な減免制度と補助金を示しました。詳細は自治体担当者やケアマネジャーに確認しましょう。
- 主な減免制度と補助金
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- 居住費・食費・サービス提供費の減免制度
- 高額介護サービス費
- 介護保険利用促進補助金
入居までに必要な費用│退去までのシュミレーション
ここで、自立で入居するAさんとBさんのケース、要介護で入居するCさんとDさんのケースについて、具体的どれくらいのお金が必要か考えてみましょう。
自立で入居する70歳のAさん、Bさんの場合
現在70歳のAさんとBさん。二人とも老人ホームへ入居するにはまだ若く介護も不要で元気ですが、一人暮らしのために万が一を考えて施設への入居を考えています。
ケース1:Aさんの場合
- 基本情報
- 入居時年齢:70歳、要介護認定:なし、想定入居期間:25年
- 預貯金
- 総資産:1億円
(預貯金)5,000万円
(不動産)土地付き一戸建て 時価5,000万円 - 入居後も得られる収入
- 25年間の総収入額:4,350万円
(年金)25万円/2ヶ月
(その他)個人年金:2万円/月 - 料金プラン
- 「入居一時金:3,000万円 月額25万円」のプランで老人ホーム入居希望
※初期償却30%
※月額に管理費・食費込み
ケース2:Bさんの場合
- 基本情報
- 入居時年齢:70歳、要介護認定:なし、想定入居期間:25年
- 預貯金
- 総資産:3,000万円
(預貯金)1,000万円
(不動産)マンション 時価2,000万円 - 入居後も得られる収入
- 25年間の総収入額:9,000万円
(年金)60万円/2ヶ月
(その他)なし - 料金プラン
- 「入居一時金:なし(0円)月額45万円」のプランで老人ホーム入居希望
※月額に家賃・管理費・食費込み
Aさんの年金は多くありませんが、預貯金と土地付き一戸建ての資産があり、BさんはAさんに比べると資産は少ないものの年金額が多めです。
二人とも元気な状態で入居するので、居室が広くキッチンや浴室などを備えた自立者向けの有料老人ホームを検討しています。
70歳で入居し、89歳までは自立。90歳から要介護となり、95歳でご逝去すると仮定し、トータル25年間を施設で暮らすと想定します。
25年間の施設暮らしに必要な金額は「入居一時金」と「月額費用」のほか、水道光熱費の支払い、そして自立期間なら交際費、通信費、交通費、外食代など自由に使えるお小遣いが必要です。
介護期間になると、外出頻度も減ることが予想され、お小遣いはそれほど必要ではなくなると仮定します。
その代わりに介護サービスの自己負担分の支払いや、おむつ代の追加、医療費の増額といった実費負担がかかります。自立期間の諸経費(お小遣い)と、介護期間にかかる月額実費負担分は、ほぼ同額で月10万円と考えておきましょう。
さらに万が一の予備費として500万円程度見積もっておくと安心です。
すると、トータルでかかる金額は、下記のようになります。
25年間もの長期入居と考えると、Bさんの「入居一時金0円プラン」だと割高になるため、Aさんのように「入居一時金」を支払って入居した方がよいということがわかります。
Aさんの場合、入居前の総資産は1億円なので、持ち家を売却して入居一時金を作ります。
入居後の費用は持ち家売却の残りと、預貯金・個人年金でまかないます。
入居後の25年間に得られる収入は4,350万円のため、予備費500万円が必要になったとしても、単純計算であればそのまま施設暮らしが継続できそうです。
一方のBさんは、入居前の総資産が3,000万円で、入居後の25年間に得られる収入が9,000万円のため、合計すると1億2,000万円の資産となります。
その見通しで希望施設に入居すると、途中で生活が継続できないという予測が立ちます。
この場合だと月額費用がより安価な施設にするなど、施設選びそのものから考え直さなければならない、ということがわかります。
要介護状態で入居する85歳のCさん、Dさんの場合
CさんとDさんはそれぞれ一人暮らしで要介護2。現在訪問介護サービスを利用していますが、一人暮らしは不便も多く、遠方に住む子どもの後押しもあり入居できる施設を探しています。
ケース3:Cさんの場合
- 基本情報
- 入居時年齢:85歳、要介護認定:2、想定入居期間:10年
- 預貯金
- 総資産:5,000万円
(預貯金)2,000万円
(不動産)マンション 時価3,000万円 - 入居後も得られる収入
- 10年間の総収入額:1,440万円
(年金)20万円/2ヶ月
(個人年金)2万円/月 - 料金プラン
- 「入居一時金:2,000万円 月額25万円」のプランで老人ホーム入居希望
※初期償却30%
※月額に管理費・食費込み
ケース4:Dさんの場合
- 基本情報
- 入居時年齢:85歳、要介護認定:2、想定入居期間:10年
- 預貯金
- 総資産:4,000万円
(預貯金)2,000万円
(不動産)マンション 時価2,000万円 - 入居後も得られる収入
- 10年間の総収入額:4,800万円
(年金)60万円/2ヶ月
(家賃収入)10万円/月 - 料金プラン
- 「入居一時金:なし(0円)月額40万円」のプランで老人ホーム入居希望
※月額は家賃・管理費・食費込み
Cさんは年金額が2ヶ月で20万円のため、預貯金を切り崩しながら生活してきました。
あとの資産は土地付きの一戸建て。子どもは住まないといっているので、売却してもいいと思っています。
Dさんは年金額が2ヶ月で60万円と多く、年金だけでやりくりをし、預貯金には手を付けていません。
資産であるマンションは立地がよく、借り手もすぐ見つかりそうなので、いずれ子どもに相続したいと思っています。
2人とも85歳で入居し、95歳でご逝去すると仮定。トータル10年の施設暮らしで想定することにしました。
その場合にかかる金額は下記のようになります。
ケース1のAさんとは異なり、今回は入居一時金なしの方がトータルの金額が安くなるという結果になりました。
そのため、Cさんの場合は入居一時金なしならば、最初の4年は預金を切り崩しての支払いが可能。
その間に持ち家を売却すれば総資産は6,440万円となるので、予備費が少々足りませんが、なんとか生活できそうです。
Dさんの場合も同様に、入居一時金なしで入居。最初は預貯金と年金で月額利用料を支払いますが、マンションを賃貸し、家賃収入が入るようになれば、預金の切り崩しが減らせます。
うまく家賃収入が得られれば、Dさんの総資産は6,800万円+時価2000万円のマンションとなり、万一家賃収入が得られなくなった場合でも、マンションを売ることで余裕ができます。
(※今回のシミュレーションでは不動産価値の変動は加味していないため、この想定通りにいかない場合も十分考えられます。)
10年で償却期間は終わるものの、まだ入居一時金なしの方が支払総額は安い計算となります。
ただし、11年3カ月以降の生活が見込まれる場合は入居一時金を支払った方がトータルのコストはかからなくなります。
しっかりとシュミレーションをしたい
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最初から有料で相談をするのは…という方は、無料相談会を利用してみましょう。
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収支には余裕をもって
解説したように、月単位の収支はプラスであることが望ましいものの、年金以外の収入源がないと難しいのが現実です。
そのような場合には、入居時の預貯金などから月額費用を支払っていくことになるため、試算にあたっては「平均寿命よりも長めの余命年数」「身体状況の変化による月額費用の上昇」を見積もっておくとよいでしょう。
「自分が入居したい施設では予算がギリギリ」という場合には、金銭的に余裕を持てる別の施設を検討することも必要になるでしょう。
資金計画を立てるコツとしては、こんなにお小遣いは使わないと思っても、少し多めに見積もることと、予備費をもっておくことです。
すぐに使えるお金が少し余分にあると、生活に潤いが出ますし、少しまとまったお金があれば、急な病気や怪我などにも対処できます。
自分の生活にあった資金計画を立てて、老後を安心して暮らせるようにしましょう。
【3分でできる】はじめての施設さがし診断この記事の制作者
著者:株式会社回遊舎 酒井富士子(フィナンシャル・プランナー)
“金融”を専門とする編集・制作プロダクション。
お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで担う。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」、「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点1 0」(株式会社ダイヤモンド社)など