まだら認知症とは?原因と特徴・予防、家族がすべきこと

認知症では、さまざまな認知機能が全体的に同程度に低下するわけではありません。

昨日できていたことが今日はできないなど日時やタイミングによる症状の波があります。

また、もの忘れが激しいのに難しい計算をしたり本を読んだりできるなど、できることとできないことの差が非常に大きいことも珍しくありません。

こういった波のある状態を「まだら認知症」と呼んでいます。このページでは、周囲の人には誤解を生みやすいまだら認知症について説明します。

まだら認知症の原因

上記のように、まだら認知症は特定の病気を示している用語ではなく、症状の波が大きい状態を指します。

しかし、周囲の人々は「朝はできたのに今できないというのは、単に怠けているだけだ」「こんなに難しい本を読んでいるのに認知症のわけがない」と誤解し、周囲の人もご本人も混乱します。

では、なぜ認知症において、このような「まだら」な状態が生じるのでしょうか。

脳のダメージにかたよりがあるから
まだら認知症の正式名称は脳血管性認知症といいます。
脳は、各部分で担う機能が異なるため、脳血管性障害によるダメージを受けた部分の機能は低下しますが、ダメージを受けなかった部分の機能は比較的健在なままです。
そのため、例えば記憶能力はダメージを受けたが言葉の理解や計算能力は保たれている、というような「まだら」の状態が発生するのです。 脳血管性認知症とは
脳の血流が変化しているから
よく、「低血圧の人は朝ぼんやりする」といわれますが、人間の脳の血流は寒暖の差や一日の中でも上下します。
起床直後、食事後、入浴や暑さで体温が上昇した後、水分不足のときなど、脳の血流量が低下するタイミングには、一時的に認知症の症状が強まっているように見えることがあります。
これは脳血管性認知症に限らず、その他のタイプの認知症でも広く生じます。
自律神経が乱れているから
レビー小体型認知症やパーキンソン症状を併発している場合、意識の覚醒や血圧の調整を司る自律神経が失調しやすいという特徴があり、夕方や食後に一時的に症状が悪化することがあります。
例えば、食後にぼんやりして反応がとても鈍くなったり、時には幻覚をみたり、せん妄と呼ばれる意識混濁・混乱状態になることもあります。
レビー小体型認知症とは
身体の不調などその他の原因から
身体的な不調と、認知症の症状の出現が関わっていることも多くあります。
認知症の人は自分の身体の異常を正確に把握し、伝えることがうまくできないことがあります。
数日おきに認知症の症状の悪化と改善を繰り返し、一見「まだら」な症状の出現に見えた方は、実は便秘の不快感のためにその症状を引き起こしていたというケースもあります。

脳血管性認知症とまだら認知症

様々な原因で起こりうるまだら認知症ですが、ひときわ注意を必要とするのは脳血管性障害による「能力の偏り」から起こるまだら認知症でしょう。

他の能力が保たれているということは、ご本人にも自分の状態が自覚しやすく、そのもどかしさや苦しみを非常に強く感じておられるということでもあります。

脳血管性認知症には感情のコントロールが難しいという症状がありますが、そうした苦しみも深い絶望感や苛立ち、怒りへとつながりやすいものです。

さらには周囲への暴言・暴力へつながり、絶望のあまりセルフネグレクト(自分の環境や状態が悪化しているのに改善する意欲をなくしてしまう状態)につながることもあり得ます。

できないことに目を向け過ぎず、できることを大切にし、ご本人の自信や尊厳に慎重に配慮することが大切です。

また、症状の変化や波が、新たな脳血管性障害の徴候である可能性にも注意が必要です。

小さな脳梗塞は、意識障害や麻痺などの大きな症状をもたらすことは少なくても、徐々に能力を低下させることはあり、小さな脳梗塞からまだら認知症が生じることもあります。

小さな症状でも、大きな脳梗塞の兆候可能性もあります。気になる症状の変化や波があれば、医師に相談しましょう。

まだら認知症のリハビリテーションと予防

リハビリテーションは状態をみながら
脳血管性認知症により能力が偏っている場合、一定程度はリハビリテーションによる改善が期待されます。脳の機能は部分により決まっていますが、失われた機能を脳の他の部分がカバーする可能性もあるとされています。
特に、年齢が若いうちはリハビリテーションの効果も高いとされています。
ただし、脳の機能の偏りについては、ご本人が一番苦しまれていますので、リハビリテーションを無理強いすることは厳禁です。できることに着目し、残された能力を伸ばすことで自信を深めることが必要でしょう。
また、症状の変動に注意し、なるべく状態がよい時にリハビリテーションに取り組むことも必要です。
症状の変動を観察・記録する
脳血管性認知症に限らず、症状の変動については、身体的な原因をつかむことが大切です。どのような時に症状が悪化するのか観察し、記録してみましょう。
食後に症状があらわれている場合、食後に血圧を計測すると、自律神経の失調により血圧が急降下していることがわかったケースもあります。
また、夕方に症状が表れる方が、水分不足であることが判明し、水分をしっかりとってもらうことで抑えられたこともあります。
そうした「身体状態の把握」が対策や予防につながります。
症状が悪化したときは安全・静かな環境を
症状の波により、意識状態の低下が引き起こされることが多くあります。
ぼんやりとした状態で無理をさせたり、騒々しい環境だったりすると、せん妄や思いがけぬ症状を引き起こしてしまうことがあります。
症状が表れるタイミングでは安全で静かな環境を保ち、無理をさせないことが必要です。
新たな脳血管性疾患を予防する
新しい脳血管性疾患が起きないようにコレステロールや血圧などのコントロールに努めることが、ひいては「まだら認知症」の予防につながります。

まだら認知症に対して家族がすべきこと

観察し、記録する
ご家族は、気になる症状の変化がみられたら、上の「症状の変動を観察・記録する」で示したように、その状態やタイミング、引き金になりそうなできごとを記録しておくとよいでしょう。
この情報は、身近なご家族にしか集められないことです。
身体的な要因を思いがけず発見するきっかけにもなれば、「実は症状の変化や波が睡眠薬などの薬のせいだった」ということもあるので、医師や専門職に相談するときにも役立ちます。
「病気に波があるのはあたりまえ」と思う
まだら認知症はとても誤解を招きやすい状態です。
症状の波が強いタイミングに気を取られすぎて、その度にご家族が気落ちしたり、普段身近にいない人間がご本人のしっかりした部分だけを見て「こんな人を認知症扱いにして」とご家族を責めることもあります。
しかし、誰よりも、まだら認知症で辛いのはご本人です。まだら認知症への対応で大切なことは、ご家族がそれに振り回されないことです。どのような病気であっても症状に波があるのはあたりまえのことです。
あまり深刻にとらえず、長い目で見守ってください。

そもそも、認知症でない人の間でも、能力にはそれぞれ波があり、得手不得手があります。認知症であると診断されたとたん、その人が別の人間に変身してしまうわけではありません。

それに認知症は、ある日突然現れるのではなく、様々な症状が行きつ戻りつ少しずつ進行していくことがほとんどです。

この意味では、全ての認知症の人も、そうでない人も、またその境界線も「まだら」であるといえるかもしれません。

ですから、認知症になって、ややそれが極端になってしまっても、「まだら」であることに振り回されず、ご本人のマイペースな生活を守ることが一番大切なのです。

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イラスト:安里 南美

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この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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