質問

認知症で要介護2の母を自宅で介護しています。母はここ最近、おむつの中の自分の排泄物を指で触っては、布団や壁を汚してしまうことが多くなってきました。症状のため仕方ないとはいえ私はショックが大きく、掃除をしていると精神的疲労を強く感じます。母に注意しても繰り返してしまいます。よい対策はありますか?

回答
志寒 浩二

大変つらい思いをされましたね。おっしゃる通り、このように、自分の便を触ってしまったり、周囲に擦り付けたりしてしまう行為は「弄便(ろうべん)」と呼ばれ、認知症のBPSD(行動・心理症状)の一つとされています。しかし、たとえ症状だとわかっていても、排泄物を触っているご本人の姿を見たご家族のショックは大変なものです。

弄便がなぜ起こるのかを知り、よりご本人の気持ちを理解することが、ご家族自身のショックを和らげる一助になるかもしれません。 志寒 浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者)

【目次】
  1. 弄便をしてしまう背景とは?
  2. 弄便が起こる理由
  3. 弄便への対策方法は?

弄便をしてしまう背景とは?

弄便はほとんどの場合、排便の課題が要因になっています。

高齢になると排便の課題を抱えることが多くあります。腸の筋肉が弛み、便をスムーズに肛門へ送る力が衰えます。さらに運動量の減少、水分や食物繊維の不足も加わり、便秘がちになります。便秘になると、便は肛門近くの結腸と呼ばれるところに溜まり、水分が腸壁に吸収されて、カチカチになります。そうなるといっそう排便が難しくなり、便秘が続くという悪循環が起こります。

また、通常は結腸に便が溜まるとその刺激が脳に伝わり、便意を引き起こして排便につながるのですが、常に結腸に便が溜まっている状態では、その刺激に慣れてしまい、便意が起こりづらくなります。そしてますます便が溜まりやすくなるのです。

こうした排便力の低下と便意の薄れにより便秘が重度化すると、下剤を使用することも多くなります。うまく下剤が調整できればいいのですが、「効果が薄いから」とどんどん下剤を増やすことも多く、自力での自然な排便がさらに難しくなります。

ようやく薬の効果が現れたと思ったときには逆に効き過ぎて下痢になるなど、便の失敗につながりやすくなります。こうして、次第におむつを使うことが増えてきます。トイレで排便するときよりも、おむつの中に排便されたときに弄便が生じやすいのです。

便意の薄れ、便秘による苦痛、薬の調整ができないことによる下痢からくる便失禁。これらは弄便の引き金になります。

弄便が起こる理由

前項の排便の課題から、ご本人の中にどのような意識が生じて弄便に至るのでしょうか。

(1)自分で何とか後始末をしたい

おむつの中の物が便らしいと認識している場合、それを何とか自分で後始末しようとしている場合もあります。家族の手を煩わせるのも嫌で、こっそり後始末をしようとしたが適切な方法がわからず、結果としてただ便を弄っているだけになってしまったのです。

便をどこかに隠そうとしたり、汚れたおむつを脱いだり破いたりして処理しようとして、かえって収拾がつかなくなり、パニックになっていることもあります。

(2)おむつの中の異物を取り除きたい

便意が薄く、排便した意識や記憶がなければ、便はいつの間にかおむつの中に入っていた異物と感じられます。おむつの中に「何かわからない異物が入っている」と感じ、それを取り除こうとして弄便が起こることがあります。

ちょうど、靴の中に小石が入ったときのような感じで、「これは何だろう?」と触って確かめ、取り除こうとするのは自然なことではないでしょうか。その結果、手が汚れてしまうので、衣服や布団で拭ってきれいにしようとして、周囲に擦り付ける行為につながります。

(3)かゆみや痛みを何とかしたい

便が肛門や周囲の皮膚に長く接触していると、かゆみや痛みの原因となります。特に下痢便や下剤を使用したときの便は、皮膚が荒れやすく辛いものです。かゆみを感じてお尻を掻くと、当然近くにある便も手指に付着します。

便秘の場合、硬くなった便が肛門に引っかかり出きらず、痛みを感じることがあります。それを何とかしようと自分で肛門から便を掻きだそうとして、弄便となることもあります。

(4)便を他の物と認識している

便は不潔な物、触れてはいけない物という認識は、実は私たちが成長していく中で後天的に学習されたものです。その学習が認知症によって薄れると、便は「汚物」と感じにくくなり、「何か不思議な好奇心をそそる物」と感じられます。

好奇心から、おむつの中にあった物質に触れてみるとねっとりとした感触がして、まるで化粧クリームのような感じがして顔に塗ることもあるかもしれません。なんだか食品のような色に感じられ、食品として食器の上に盛り付けられた例もあります。

普段は意識していないものの、「排便」「便」に対する認識は実は人それぞれで、とても個性的です。以上の例がそのまま当てはまるとは限らず、またいくつかの理由が重なる場合もあります。

しかし、どのような理由にせよ、弄便にはご本人なりの理由があります。それを探ろうとする姿勢が大切です。

弄便への対策方法は?

弄便を強引に止めたり、注意してやめさせようとする対応は、ほとんど効果が期待できません。前述の理由の通り、ご本人は間違ったことは何もしていないと認識しているからです。強く注意をしたり叱ったりすれば、怒りや不信、その他の症状を招きかねません。

弄便をやめさせるよりも、まずは以下のような方法で影響を最小限に食い止めることが優先です。

(1)おむつに便が入っている時間を減らす

弄便防止の本質的な対策は、おむつに便がある時間を減らすことです。ご本人の排便のリズムを把握し、おむつではなくトイレで排便できるように誘導できればベストです。おむつに排便されたときも、すぐにおむつ交換をし、便が長時間おむつにあることを避けることで、弄便はぐっと減らせます。

(2)便から意識をそらす

外部からの刺激がなければ、人間が自分自身に意識が集中するのは当然のことです。音楽や花、会話など適切な外部刺激を提供することで、自分の便やおむつの状態に注意が向きすぎず、多少おむつ交換が遅れても便を弄らず忘れてくれることもあります。

(3)手指の便汚れを防ぐ

本人が手についた便を拭こうとして周囲を汚している場合もあります。自分で手をきれいにできるよう、タオルやウェットティッシュを近くに用意しておきましょう。

(4)周囲を便汚れから保護する

ビニールや防水シート、汚れてもよい布やタオルなどで、周囲を保護しましょう。

(5)肛門やお尻、手指の皮膚を保護する

皮膚にこびりついた便は取りづらいものです。あらかじめワセリンや、肌に合うクリームを、手や肛門周辺、臀部に塗っておくのも効果的です。含まれている油分が便をはじき、拭きとりやすくなるだけでなく、皮膚を保護してかゆみや痛みによる弄便を防止します。

(6)眼鏡やマスクを使う

以前眼鏡を使われていた方は、眼鏡の調整と装着をおすすめしましょう。よく見えないために便を手で弄って確かめている場合もあるからです。眼鏡をかければ、便が目に入るリスクも低減できますし、マスクをつければ便を口に入れてしまうリスクも低減できます。

触って欲しくないからと、本人の手を不自由にするために、ミトンや手袋をつけるのは慎重にしましょう。自力で外せるならあまり意味がありませんし、自力で外せないなら「身体拘束」の一つともいえ、さらに考えものです。人間にとって手の感覚を奪われることは、非常に強いストレスになるので、やはり別の症状を招くおそれがあります。


以上のように、様々な対策が考えられますが、まずは医療者や介護職に相談しましょう。

家族の弄便を相談するのは抵抗があるかもしれませんが、医師に相談して下剤を調整することで解決に至ることもあります。ヘルパーが訪問時間を変更することで排便のタイミングに合わせることができ、おむつへの排便を回避できるようになることもあります。

なにより、ご家族が、ご本人の弄便で受けたショックを一人で抱え込まないことが第一です。

このQ&Aに回答した人

志寒 浩二
志寒 浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者)

認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者
介護福祉士・介護支援専門員

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。