- 質問
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現在、親の老人ホームを探しています。そこで最期まで住み続けてほしいと思いますが、退去を求められる場合があると聞きました。どういった場合に退去しないといけないのでしょうか?
- 回答
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老人ホームは死亡するまで入居を保証しているワケではありません。入居後、身体状態などの変化によっては途中で退去しなければならない場合があります。これを定めたものが退去要件で、契約書や重要事項説明書などにも記載されています。
基本的に入居者に不利になるような退去要件は認められていません。しかし、入居者本人に問題がある場合は要件に該当すると判断し、ホーム側から退去を求められることがあります。
ここでは、老人ホームの退去要件を確認し、注意点を解説します。退去のリスクを知っておくことで少しでも不安を軽くするためにお役立てください。
- 【目次】
老人ホームを退去するのはどんなとき?
老人ホームに入居すると決めたら、老人ホームと入居するかたとの間で入居契約書を交わします。入居後に退去する要件は、入居時に交わした契約書を基に判断することになります。退去の状況は大まかに次の三つに分類できます。
①老人ホームが規定する退去要件に該当したとき
施設内でのトラブルが原因で退去を求められるケースがあります。他の入居者やスタッフへの暴力・暴言なども退去要件に当てはまります。
さらに、体調急変などで、長期の入院が入院が必要になる場合もあります。そして、体調の変化により常時看護師がいる施設でないと生活が困難な場合は転居することもあります。
また、施設費用の支払いの遅滞が続いてしまうようなときや契約書に虚偽の記載があった場合にも退去要件に当てはまります。
②本人や家族が退去を望んだとき
退去勧告以外に自ら退去することも考えられます。例えば、介護サービスへの不満や入居者同士の交流がなくホームの生活になじめない、想定以上に月額の費用がかかってしまいやむを得ず退去する場合です。
③倒産など、老人ホーム側の運営に問題があったとき
老人ホームが倒産した場合、別の運営会社が引き継ぐ場合と閉鎖してしまう場合があります。
閉鎖してしまう場合は退去せざるを得ないでしょう。また、別の会社が運営を引き継いだ場合でも、引き継いだ会社の方針で月額費用やサービス内容が変更する可能性があります。それに納得できない場合は退去しなければならないことも理解しておきましょう。
①や②は、入居者本人・家族の意思や問題として扱うことができますが、③のように入居者に非が無くとも退去となることもあります。運営会社が倒産、経営譲渡、業務縮小するなどの理由で、ホームに居続けることが出来ない場合があります。こういった場合は、入居一時金が保全(未償却金の利用者返還)されているかどうかを必ず確認しましょう。
老人ホームが規定する退去要件について、次の項で詳しく見ていきましょう。
老人ホームが規定する4つの退去要件
各老人ホームによって多少の差はありますが、主に次の4項目が退去要件として定められています。これは契約書や重要事項説明書に記載されているので必ず確認しておきましょう。
①他の入居者への迷惑行為
迷惑行為とは、他の入居者やスタッフへの暴力や暴言、または大声で奇声を発するなどがあります。このような行為は、他の入居者やスタッフ等に危害を及ぼす、あるいは及ぼすおそれが非常に高く、通常の介護方法では防止することが出来ないと判断されます。
原因としては、認知症などの症状に起因する場合も考えられますが、もともとの本人の性格上の問題や、生活環境が変わったことによるストレスが原因で起こる場合もあります。適切なケアによっては、ストレスが解消されて改善することもあります。
老人ホームの生活にストレスを感じた時は、ストレスを溜め込まず、速やかにスタッフに相談しましょう。また、入居者の家族は、定期的に老人ホームを訪れるように心がけ、本人に不安や悩み事がないか聞くようにしましょう。
なお、2020年から流行った新型コロナウィルス感染症の影響で家族との面会が出来ず、ストレスをためてしまう入居者のために、オンライン面会も実施している施設もあります。新型コロナウィルス感染症が終息した後も、家族が遠方の方などには、オンライン面会は需要があるでしょう。入居した老人ホームがオンライン面会を実施している場合は、利用してみるといいですね。
②入居者に重度の医療行為が費用になり対応できない
③入居者の長期入院
長期(一般的に「3か月以上」とされるところが多い)にわたりホームの居室を空けて入院したままの状態だと、老人ホームへ戻ることが困難と判断されて、退去を求められることがあります。
「本当はホームへ戻りたいのに、病状が回復せず戻ることができない」といった場合があります。
④支払いの滞納
入居後の経済状態の変化により、月々の費用を支払えなくなる場合も考えられます。本人に支払い能力がない場合は、連帯保証人や身元引受人に請求が行くことになります。
退去勧告を受けても90日の猶予期間がある
もし勧告されても即時退去ではなく、90日の猶予期間があります。この期間に、慌てず新しい住まいを探しましょう。希望通りの老人ホームが90日間で見つからない場合は、ショートステイなどを利用しながら入居先を決める方法もあるでしょう。
また場合によっては、在宅介護に戻る可能性もあります。在宅介護をする場合は、「誰が主で介護するのか」「介護負担は重くないのか」など家族でよく話し合うことが重要でしょう。
納得いかない?退去勧告について相談したいとき
退去勧告に、納得がいかない場合や不服がある場合には、自治体の介護保険課や高齢福祉課、都道府県に設置された国民健康保険団体連合会や全国老人ホーム協会などに相談してみましょう。第三者の立場から冷静な助言を受けることができます。
老人ホーム退去時に注意すべきこと
退去に伴って、引っ越し作業が必要になることはもちろんですが、その他にも必要な手続きが生じてきます。
①入居一時金など返還される費用について
入居時に入居一時金を支払っていた場合、入居期間に応じて未償却分が返還されます。返還金の計算方法は契約書・重要事項説明書に記載がありますので必ず確認しましょう。
②居室の原状回復の範囲と費用について
契約書に、「通常の使用に伴い生じた居室の損耗を除き、居室を原状回復すること」のような記載がされています。
入居期間内の自然劣化に伴うものは通常はホーム側が負担することになりますが、損傷の原因が入居者の故意や過失による場合は、入居者の負担となります。
原状回復の内容や方法についてトラブルが生じた際は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にしているホームが多いです。
まとめ
老人ホームは、終身入居する場合もありますが状況によっては途中で退去する可能性があることを理解しておきましょう。
前項で紹介したように、老人ホームの生活で他の入居者やスタッフとのトラブルに巻き込まれてしまうことやストレスを抱えてしまうこともあります。入居前に実際の退去した方の例を聞いておくことで、予期せぬ事態に備えましょう。
また、入居前には、契約書や重要事項説明書などにはきちんと目を通して、理解しておくことが大切です。高齢者が契約をするときは、説明を聞き逃したり、理解できない事柄があったりするかもしれません。
老人ホームは高額な費用を必要とする場合もあります。したがって、老人ホームとの契約の際は家族や信頼できる人と同席すること、または家族や信頼できる人に契約書や重要事項説明書を確認してもらうことをおすすめします。
さらに、入居前にトラブルが起こったときの対処法も調べておきましょう。専門的な言葉やわからない点は、担当のケアマネジャーや包括支援センターの相談員など専門家にも相談しておくと安心です。