質問

80代後半の母親が老人ホームに数年前より入居しております。高齢で、日に日に弱っていく姿を見て、そろそろ覚悟もしなければならないと思いますが、病院ではなく老人ホームで看取ってもらうことに不安を感じています。

今の施設で看取り介護も対応しているそうなのですが、老人ホームでの看取り介護ではどのようなことをしていただけるのでしょうか。また、よく聞く「ターミナルケア」との違いはありますか。

回答
吉田 匡和

看取りは、病状の改善が見込まれない方に対し、延命治療のような積極的な医療行為は行わず、慣れ親しんだ施設で、ご家族やスタッフなどの見送りにより、最期の時を迎えていただくケアです。これまでは、高齢や病気などにより衰弱が著しい場合、医療機関で療養することが一般的でしたが、近年では看取り介護を行う老人ホームが増加しています。 吉田 匡和(社会福祉士 介護支援専門員)

【目次】
  1. 1.看取り介護とは
  2. 2.ターミナルケアとの違い
  3. 3.老人ホームでの看取り
  4. 4.人の死を見届けるためのケア
  5. まとめ:本人にとって何が幸せな最期かを選ぶ

1.看取り介護とは

平成26年に、「公益社団法人全国老人福祉施設協議会」が発表した「看取り介護指針・説明支援ツール」では、次のように定義されています。

『看取り』とは、近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること。

これまでは終末期になると、入院を余儀なくされ、少しでも生命を維持することが優先されてきました。しかし、「鼻から管を通し、体中に機器を取り付け、モニターで心拍数を確認する”スパゲティ症候群”と言われる状況が、人道的であるのか」という意見も少なくありません。

そうした状況を踏まえ、平成18年4月の介護報酬改定において「看取り介護加算」が創設されました。その人らしい最期を迎えるために、医師の指示による疼痛緩和等の処置を適切に行い、自宅や施設で静かに死を迎える「看取り」の考えが広がりました。



2.ターミナルケアとの違い

「医療対応か、介護対応か」という点が異なります。

ターミナルケアが「終末期医療」や「終末期看護」と訳されることからもわかる通り、点滴や酸素吸入などの医療的ケアを中心とするのに対し、「看取り介護」は、食事や排せつの介助や、褥瘡の防止など、日常生活のケアが中心になります。



3.老人ホームでの看取り

厚生労働省が提出した「平成27年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(平成27年度査)」によると、特別養護老人ホームの76.1%、老人保健施設の64.0%、介護療養型医療施設の81.9%が「終末期に入った入居者に対して看取りを行っている」と回答しています。

これは前年度の調査より増加傾向にあります。病院のように医師が常駐する必要がないため、比較的実施しやすいのが増加の理由と考えられます。

看取りにおいての医師の役割は、「検死」です。家族に人生の終焉を知らせる大切な役割といえるでしょう。


看取りができる施設、できない施設

介護保険には「看取り介護加算」が設定されています。 介護における加算とは、基本のサービス料の他にサービス内容によって料金が増加することで、要件を満たせば、サービス料に付加されて事業所の収入になります。

看取り介護加算は、ご家族より看取りに同意いただいてから4~30日以内は144点となります。また、死亡前日・死亡前々日は680点となり、死亡日は1280点が加算されます。この加算はご家族に請求するものではなく、国から事業所への報酬となります。

加算の対象となる条件は下記のとおりです。

・常勤看護師(必ずしも常駐でなくてよい)を1名以上配置し、施設又は病院等の看護職員との連携による24時間の連絡体制を確保していること。
・看取り指針を定め、入所の際に本人・家族等に説明し同意を得ていること。
・看取りに関する職員研修を実施していること。
・医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した場合であること。
・本人や家族等の同意を得て、介護計画を作成していること。
・医師、看護師、介護職員等が共同し、利用者の状態を、随時、本人や家族に説明し、同意を得て介護を実施していること。
・医師、看護師、介護職員等が協議の上、当該施設の看取り実績を踏まえ、適宜、看取りに関する指針の見直しを行うこと。
・看取りを行う際に個室または静養室が利用できるよう配慮すること。

ご覧のとおり、高いハードルは課されていませんので、現在では、看取り介護を行っていない老人ホームの方が少数派です。

それでも実施できていない場合は、「医師と連携が取れていない」「スタッフの教育が実施できていない」という理由が考えられます。そうした施設で入居者の体調が悪化した場合には、看護師が嘱託医に指示を仰ぎ、協力病院もしくは指定病院に緊急搬送することが多いですね。


病院で看取る場合との違い

病院で看取る場合は、老人ホームの場合よりも、点滴や人工蘇生などを行うターミナルケアに近い対応になります。病院と老人ホームの特質によってケアの内容も異なるのです。


看取りの準備・エンゼルケアについて

「もう長くないかもしれない」何人もの患者を看取ってきたベテラン看護師は感覚的に死を察知するようです。看取り介護を受けている入居者の容態は突然悪化します。

すぐに家族に連絡を取り、施設に直行してもらいますが、人生の終焉は人それぞれで、数時間後に息を引き取る場合もあれば、意識が低下したままの状態が数日間続くこともあります。そのため、家族の宿泊スペースを設けている施設も存在します。

看取りの準備で、職員が行えることは多くありません。ひとつは家族が到着するまで、できる限りのケアを行い、最期の灯を絶やさないようにすること。

何もできずに祈るだけのこともあります。息を引き取ると、エンゼルケアを行います。タイミングとしては、医師の到着を待つまでの間に行うこともありますし、検死後に行うこともあります。体をきれいに拭き、新しい服に着替えさせ、整容や化粧を施します。

葬儀社が到着したらあとは対応を引き継ぎます。最後に職員や親しかった入居者に出棺を見送られ、施設をあとにするのです。



必要な手続き

看取り介護の実施については、看取り介護指針(看取り介護で提供する各種書類を含む)、重要事項説明書、急変時や終末期における医療等に関する意思確認書の内容を説明し、同意が得られた場合のみ、看取りケアを行います。

看取り介護を行うにあたり、「看取り介護計画書」が作成されます。これは簡単に言えば、看取りに特化したケアプランで、いつ、だれが、どのように、何をするのかが立案されます。

また、看取りに同意していたとしても、途中で状況や本人や家族の考えがかわった場合には、変更することが可能です。



老人ホームでの看取りの実例

エンゼルケアは、通常看護師や介護職員が行いますが、筆者は、事務長職としては異例ながら、看護師と一緒にエンゼルケアを行ったことがあります。

丁寧に、そして愛しむような動作を見て、看護師の仕事に頭が下がりました。その時の「淡々とやっているように見えるかもしれないけど、生前のことをいろいろと思い浮かべているんですよ」という看護長の言葉は、ずっと忘れられません。



4.人の死を見届けるためのケア

残念ながら、常に眠るように亡くなるとは限りません。末期がんなどの場合、苦しみながら死を迎えることがあります。

ご家族にとっては目を伏せたくなるようなことや、「こんなことなら入院させればよかった」と後悔することもあるでしょう。看取りとは、「怖い、苦しい」など、死を迎えた方々のつらい思いを、ご家族や慣れ親しんだ職員が寄り添うことで、少しでも和らげるためのケアなのです。

職員の中には、勤務時間が終わっても、亡くなるのを見届けるまで帰らなかったり、休みの日でも心配で施設に来たりする者も少なくありません。ご家族におかれましても悔いなく最期を見届けてください。



まとめ:本人にとって何が幸せな最期かを選ぶ

看取りがよいのか、最大限の医療を尽くすべきなのか、正解はありません。しかし、どういうプロセスを辿っても「死」は必ず訪れます。もし迷われているのであれば、ご家族や施設とよく話し合って、後悔しない方法を選択してくださいね。


>関連リンク:ターミナルケアが可能な施設特集

このQ&Aに回答した人

吉田 匡和
吉田 匡和(社会福祉士 介護支援専門員)

高齢者福祉施設生活相談員及び管理職。福祉専門学校において教職員の経歴を持つ、実践力と学術的知識の二つの顔を持つスペシャリスト。自身も介護を必要な親を抱えており、親身になって懇切丁寧にご質問にお答えします。