- 質問
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81歳で認知症の父は要介護2の認定を受けています。老人ホームへの入居を検討中ですが、父は腎臓が悪く、人工透析が必要です。老人ホームではこのような医療行為の受け入れは可能でしょうか?
老人ホームで受け入れられる医療行為の内容や、病院との連携などについて教えてください。
- 回答
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介護施設は沢山の種別があるので消去法で考えてみましょう。
お父様は要介護2ということですので、要介護3~5を対象とする特養(特別養護老人ホーム)には入所できません。長期入所となると、在宅復帰を目的としている老健(介護老人保健施設)も対象から外れます。また、最近急増しているサービス付き高齢者向け住宅は、あうまでも「住宅」であって老人ホームではないので、これも除外です。
その結果、利用できる施設は、「有料老人ホーム」と「グループホーム」の2つになります。ただし、施設ごとに医療行為の対応が異なるため、人工透析については個別に候補の施設に確認する必要があります。
ここでは老人ホームで可能な医療行為を中心に説明します。医療行為の必要な方が施設を探す際に参考にしてみてください。
1.「医療行為」とはどこまでを指すの?
一般的に「医療行為」とは、医師または医師の指示を受けた看護師・助産師などの医療従事者が行う治療や処置などのことです。
点滴など、医師や看護師のみが行える処置のほか、救急救命士が行う心肺蘇生や、理学療法士などが行うリハビリテーション、介護福祉士が行う健康管理や、服薬管理なども医療行為に含まれます。
>【入居前に確認!】老人ホームで受けられる医療行為(医療的ケア)2.医療行為を受けられる施設、受けられない施設
有料老人ホームや老人保健施設は、経営母体が医療法人などの医療関係団体であれば、協力体制が取りやすいため、医療依存度が高い方でも対応してくれる施設があります。
一方で、グループホームや特別養護老人ホームは、医療的依存度の高い方の受け入れについては、施設ごとの看護・介護の体制が大きく影響します。多くの施設では、夜間に看護師が不在となるため、医療行為は介護職員が行える範囲内となります。
施設別職員設置基準
施設名 | 医師の配置義務 | 看護師の配置義務 | 医療行為の充実度 |
---|---|---|---|
有料老人ホーム | なし | あり | 施設による |
グループホーム | なし | なし(任意) | あまり充実していない |
老人保健施設 | あり | あり | 充実している |
特別養護老人ホーム | あり(非常勤可) | あり | 施設による |
おもな医療行為
おおむね対応が可能 | 施設によっては対応が可能 | 対応が困難 |
---|---|---|
・胃ろう ・膀胱留置用カテーテル ・在宅酸素 ・人工肛門 ・褥瘡(床ずれ)処置 |
・インスリン注射 ・人工透析 ・経管栄養 ・日中の痰の吸引 ・常時の点滴 ・終末期ケア ・末期がん |
・人工呼吸器の使用 ・気管切開 ・感染病 ・ALS(筋萎縮性側索硬化症) |
介護職員が行うことができる医療行為
1.水銀体温計・電子体温計による腋下の体温測定、耳式電子体温計による外耳道での体温
2.自動血圧測定器による血圧測定(※水銀血圧計を使っての血圧測定はできない)
3.軽微な切り傷、擦り傷、やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置(絆創膏を貼る程度の傷など)
4.軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
5.湿布の貼付(麻薬を除く)
6.点眼薬の点眼
7.一包化された内服薬の内服介助(舌下錠の使用も含む)
8.座薬の挿入
9.鼻腔粘膜への薬剤噴射の介助
「認定特定行為業務従事者」の認定を受けた介護福祉士のみできる医療行為
・喀痰吸引
・経管栄養
昔は爪切りさえも医療行為とされ、介護職員が行うことができませんでした。現在でも在宅で本人や家族が当たり前に行っている「インスリン注射」などは、介護職員が行うことは禁止されています。しかし、「喀痰吸引」や、「経管栄養」は、講習会を受けることで可能になりました。
看護体制について
多くの施設では、看護師の勤務は日勤体制(遅番や早番を含む)を採用しています。その理由は、病院と異なり病状が安定している入居者が多く、介護保険法でも24時間の看護体制までは求められていません。
夜間に容態が急変した場合には、嘱託医の往診や協力病院への搬送を行うため、日頃からの医師と看護師の連携が重要になります。
介護療養型医療施設について
介護療養型医療施設とは、慢性期の高齢者を入院させて、治療やリハビリなどを行って療養する病院です。介護保険施設のひとつとして、医療的依存度の高い人の受け入れを行ってきましたが、医療費の増大が問題視され、平成23年度までに老人保健施設等へ転換する予定でした。
しかし、受け皿となる施設の整備が進まず、廃止が何度も先送りになっています。
※平成30年4月に新設された「介護医療院」への転換が決まりました。転換期限は2024年3月までになります。
介護療養型医療施設は、慢性期の医療対応を行う施設ですので、終の棲家としての役割は求められません。また、介護保険制度上、原則は要介護1から入所できることになっていますが、より重度の方を優先するため、実際には要介護3以上でないと利用できないようです。
老人ホームは生活施設なので、レクリエーションや外出行事が充実しています。治療の必要がないのなら、老人ホームのほうが楽しく生活できるのではないでしょうか。
老人ホームで受けられる医療行為は?
褥瘡や傷、皮膚疾患の処置、発熱時のクーリング、人工呼吸(酸素)の対応。老人ホームによっては、痰の吸引、点滴、インスリン注射、経管栄養を行います。老人ホーム内で行えない医療行為については、看護師同行のもと、適切な医療機関を受診します。
薬の管理は老人ホームでおこなう
自己管理もできますし、施設で管理することもできます。入所後に主治医が変わる場合は、それまで飲んでいた薬か、同様の効果がある薬が処方されます。
通常、薬代は自己負担ですが、老人保健施設は施設負担となるため、それまで飲んでいた薬とまったく同じものは出してもらえない場合があります。薬の受け取りは外来診察時ですが、調剤薬局が施設に運んでくれることもあります。
老人ホーム入居前に病院との連携について確認
医療的ケアが対応できるかは、病院と関係性がどのくらい構築できているかによって異なります。
関係性が密な協力病院であれば、時間に関係なく往診に来てくれるところもありますが、そうでない場合は、外来診察と同等の対応しかしないところもあります。気になるようであれば、入所前に協力病院との連携を確認しておくべきでしょう。
協力病院は、総合病院とクリニック(町医者)の場合がある
クリニック(町医者)を受診して、そこで対応できない場合は、総合病院に紹介されるのが一般的な流れです。
協力病院の規模としてどちらが安心かは一概に言えません。「信用している医者が一番安心」としか言えないでしょう。クリニックに希望する診療科がない場合は、直接総合病院を受診することもあります。その時の状況によってケースバイケースですね。
医療機関との連携体制について
施設に回診に来て健康状態を把握する「嘱託医」、入院や手術などが必要な時に頼りになる「協力病院」、協力病院で対応できない専門的な治療は、「他の病院への紹介」など、医師同士で連携を取り、最善の治療を行っています。
①受診や往診
嘱託医がいる場合は、およそ週2回の回診が行われます。それ以外に体調を崩した場合は、病院で受診するのが一般的です。
②健康診断について
だいたい1年に2回行われます。健康診断についても往診で済ませる場合と、病院での受診で行う場合があります。その時の状況と医師・施設の判断によってケースバイケースですね。
③緊急時の対応について
まずは協力医療機関に連絡し、医師の指示を仰ぎます。医師と連絡がとれない場合や一刻を争う場合は、救急車を呼んで適切な病院に搬送します。このあたりは在宅介護と同じです。
④協力病院について
精神科・心療内科など協力医療機関に受診したい科目がない場合は、適切な病院を紹介してもらうか、本人及び家族が希望する病院を受診します。
まとめ:増えつつある医療行為対応ホーム
老人ホームは医療機関ではないため、現状では医療的依存度が高い方の受け入れが整っているとは言えません。また、何か起きた時の訴訟などを恐れ、受け入れを拒否している施設も存在します。
しかし以前に比べると医療的依存度の高い方を受け入れている老人ホームは着実に増えています。まずはネットを活用して幅広く情報を集める。次に、実際に見学し、職員や施設長に詳しい話を聞くなど状況を確認して、適切な老人ホームを見つけてください。