- 質問
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要介護2の義父に認知症の症状が出てきました。遠方なので、駆け付けることが難しく、かといって引き取ることもできません。本人合意の上で老人ホームを探していますが、初めてなので何もわかりません。
失敗しないための老人ホームの選び方や、いい老人ホームを見極めるポイントを教えてください。
- 回答
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認知症は長期的な介護となるケースもあるので、入居後にご本人とご家族が満足できる老人ホーム選びが重要です。しかし、いざ探そうとしても「有料老人ホーム」「特別養護老人ホーム」「グループホーム」などさまざまな種類があり、初めての経験ということで迷われてしまうことでしょう。これらは、受け入れられる介護度や料金、設備などが異なります。
さまざまある介護施設の中で、お義父さまに合ったホームを選ぶポイントをご紹介します。ご本人とご家族に適した老人ホームを見つけるためにお役立てください。
- 【目次】
1.まずは、入居する施設の種類を決めます
老人ホームといえば、特別養護老人ホームを思い浮かべる方が多いと思いますが、入所までの待機が長いのが難点です。
また、2015年4月の介護保険法改正により、長期入所対象者の基準が要介護3以上に引き上げられたため、介護が軽度な方は利用しにくくなりました。そこで、特別養護老人ホーム以外の選択肢をご紹介します。現在、要介護3以下の方が利用できる老人ホームは下記のとおりです。
有料老人ホーム
介護が必要な人のための、「介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護事業者)」をはじめ、「住宅型有料老人ホーム」、「健康型有料老人ホーム」などの3タイプがあります。今回は、「介護付有料老人ホーム」を紹介します。
価格 |
平均入所費用 月額10~30万円 ※入居一時金が必要 |
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入居までの期間 | 一般的に待機が少なく、数ヶ月以内で入所できる。 |
介護サービス | 常駐スタッフによる介護が24時間受けられる。 |
医療面の充実 | 看護師が24時間勤務している場合は、胃ろう、インスリン注射などの医療行為が必要な方も受け入れる場合がある。 |
▼メリット
- ・グレードや立地などがバラエティに富んでいるため、自分にあった老人ホームを選ぶことができる。
- ・2013年末の時点で全国8502施設もあるため、選択の幅が大きい。
- ・介護や食事、レクリェーションの内容のグレードが高く、お客様本位のサービスが提供されている。
▼デメリット
- ・特別養護老人ホームなどに比べて料金が高い
サービス付き高齢者向け住宅
バリアフリー構造など一定の基準を満たした高齢者向け住宅です。「高齢者専用アパート」と異なり、介護・医療と連携し、高齢者をサポートしているのが特徴です。
価格 |
平均入所費用 月額10~30万円 ※敷金(0~数百万円) |
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入居までの期間 | 空室があれば待機なく入居。 |
介護サービス | 市町村などから指定を受けていない場合は、 ホームヘルパーなどの通常の在宅サービスを利用することとなる。 |
医療面の充実 | 基本的に住宅と同じなので、医師や看護師は常駐していない。 |
▼メリット
- ・家庭と同様の自由な環境で生活できる。
▼デメリット
- ・常時の介護や看護は行っていないため、介護度が重度の人には不向き。
- ・医療的依存度が高くなった場合、退居しなくてはならないことがある。
グループホーム
認知症の方が9名程度の少数で住む施設です。それぞれの能力に応じて協力し合いながら共同生活を送ります。
利用料金 | 15~30万円※入居一時金や保証金あり |
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入居までの期間 | 空室があれば待機なく入居。 |
介護サービス | 身体介護を24時間受けることができる。 |
医療面の充実 | 医師や看護師は常駐していない。 |
▼メリット
- ・小集団のため介護職員の目が届きやすく、臨機応変な対応が可能。
▼デメリット
- ・地域密着型のサービスなので、その施設と同一地域(市区)に住んでいる(住民票がある)必要がある。
- ・共同生活で性格が合わない人がいる場合、問題が発生することがある。
- ・医療的依存度が高くなった場合、退居しなくてはならないことがある。
以上で挙げた3つの老人ホームそれぞれに特徴があります。認知症の進行により症状が重度になった場合や、それに伴い医療的依存度が大きくなった場合にでも、安心して暮らせることを前提に考えると、今回のケースでは有料老人ホームを選ぶことが得策かもしれません。
2.希望する条件をきちんと話し合いましょう
入居する施設のタイプが決まったら、今度はそのタイプの中で、どこの施設に入居するかの検討に入ります。その際には、以下のようにポイントを絞って決めていきます。
立地
住み慣れた現在の居住地付近にいたい気持ちもあると思いますが、これからご家族の方が通われることを考えると、ご家族の近くを選ばれた方がよいでしょう。
サービス内容
医療的な処置の有無、食事内容、外出行事の実施の有無など、施設で行われるサービスは様々です。また、個室の広さや騒音、食事の時間、入浴回数や時間、面会時間などの自由度も気になるところ。長く生活する場所ですので、ご本人の暮らしやすさを優先して選んでください。
医療体制
体調を崩した時に、どう対応してくれるかを確認します。必ずしも24時間の看護体制である必要はなく、協力医療機関や嘱託医と、どのように連携を取っているかがポイントです。
協力医療機関が近くにある、または医療機関が併設されているのなら、安心です。
3.条件に合う施設を比較・検討しましょう
まずはWebや雑誌で情報を得ます。口コミも貴重な情報ですが、中には主観論や感情的に書かれている場合があるので注意してください。
情報を参考にして、実際に自分の目で見て、話を聞くのが何よりでしょう。複数を比較するためにも2か所以上見学するのが望ましいですね。
比較・検討すべきポイントは以下の2つです。
介護サービスの内容
有料老人ホーム、グループホームは24時間介護サービスを受けられます。しかし、医療ケアについては、経営者の考え方や看護師などの配置により、どの老人ホームにおいても統一されていないのが現状です。おもに行われている介護、医療ケアなどのサービスを記しましたので、参考にしてください。
<介護サービス>
- ・食事、排泄、入浴の介助
- ・移動・移乗の介助
- ・医療機関などへの輸送
<医療ケア>
- ・服薬管理
- ・バイタルチェック(血圧・検温)
- ・在宅酸素の使用
- ・傷やケガの処置
- ・急変時の医師への連絡と処置
- ・喀痰吸引(認定を受けた介護福祉士がいる場合)
- ・「経管栄養」(認定を受けた介護福祉士がいる場合)
「経管栄養」「インスリン注射」においては、家族及び本人以外が行う場合、「医療行為」となるため、看護師の配置状況によっては、入居を断られる場合があります。医師が常駐している施設は少ないですが、急変時は嘱託医や協力病院と連携を取って、対応にあたります。
経営状況の見極め
社会福祉法人や自治体しか経営できない特別養護老人ホームと異なり、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホームは株式会社をはじめ、様々な企業が経営しています。
近年の高齢者の増加により、「新しいビジネス」として、参入する業者が多く、高齢者を対象とした産業は、右肩上がりに増えています。
その一方で、倒産も増えています。2019年上半期の福祉・介護事業者の倒産件数は、2年連続で前年同期を上回り55件でした。これは介護保険法が施行された2000年以降、年上半期の最多となっています。外部から経営状況を見抜くことは難しいですが、参考にするためのポイントをいくつか紹介します。
・異業種から参入した業者の注意点
新規参入によって異業種業者による経営が増えていますが、ノウハウがないため適切な経営計画が立っていない業者もあるようです。逆に住宅やITなどの得意分野を生かし、質の高いサービスを提供している業者は評価できます。
・在宅サービス事業者が、新規に開業した入所施設の注意点
同じ高齢者福祉サービスでも、在宅サービスと入所施設サービスは別物なため、ノウハウの面で心配がありますが、新しい発想で既存にない老人ホームを展開しているところもあり、評価できる事業所も少なくありません。
・急速な事業展開を行っている老人ホームの注意点
資金繰りや職員の育成が追い付いていない場合があります。職員の応対や既存の老人ホームの評価を見て、判断しましょう。
結論としては、長らく高齢者の入所施設を経営し、時間をかけて職員の育成を行っている老人ホームを選ぶことをお勧めします。まずはWebで情報収集。資料を集めたのちに見学したり、紹介センターを活用するとよいでしょう。
4.見学・体験入居で分かるポイント
短期間で老人ホームの良し悪しを見抜くのは難しいもの。入居するホームの目星がついたら、いくつか見学したり、体験入居をしたり、じっくりと候補を検討していきましょう。
老人ホームは自宅での生活と異なるため、食事や入浴の時間など、実際に入居すると不自由に感じるところもあります。以下に見学、体験入居でのチェックポイントをまとめたので、参考にしてください。
部屋・食堂など
- ・異臭はないか
- ・食堂の椅子やテーブル、床などに食べ物のカスが付いてないか
入居者の状況
- ・髪型が画一でなく個性的か
- ・服装の乱れや汚れはないか
- ・爪、髭は伸びてないか
- ・身体は清潔に保たれているか
- ・尊厳に配慮した入浴介助がなされているか
- ・身体拘束がなされていないか
慣れない環境で生活するのは疲れるもの。また、体験入居では、医療行為はあまり行われません。複数の体験入居をするより、見学を十分に行い、一箇所候補を決めたら一度体験入居をし、問題なければそのまま入居を決定した方が、ご本人への負担が軽減されます。
もし不都合などが生じても、入居して90日以内であれば、入居金の全額(家賃は除く)が返還される「クーリングオフ」等の制度がありますので、活用してください。
雰囲気・人間関係について
施設の雰囲気は、入居者と職員の関係性が空気に伝わっているものだと思います。特に認知症の方は、気配を察しておびえることが多いため、柔らかな対応が求められます。
雰囲気・人間関係のチェックポイント
- ・突然の訪問にも笑顔で対応できるか
- ・プライバシーが守られている場所で話を聞いてくれるか
- ・ダラダラとした行動はないか、無駄話をしている職員はいないか
- ・忙しく走り回っている、表情が疲れ切っている、覇気がない職員はいないか
- ・入居者や家族が望まない呼び方をしていないか(「ちゃん付け」や「ニックネーム」など)
- ・乱雑な言葉遣いや怒鳴り声は聞こえていないか。
理解力が衰えた認知症の方のケアは、イライラが募るもの。それをうまくコントロールできるかが、「よい介護」のためのカギとなります。あえて「食事前後」などの、忙しい時間帯に見学すると、本質が見えるかも知れませんよ。
>Q.雰囲気の良い老人ホーム、良い職員のいる介護施設の選び方を教えてください。
立地・周辺環境について
今まで慣れ親しんだ土地に住むか、そこから離れて家族の近くに住むかによって異なります。また、広大な土地を必要とする大型施設と異なり、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホームは、住宅街に建っていることが多いので、利便性は高いと思います。
ご自分で外出することができれば、近くに商店などがあると便利ですが、ほとんど外出をしないのなら、特に必要はありません。周辺環境は、自然が好きなら緑が豊かな公園の近く、長年漁師などをされていた方なら海が見えるなど、本人が落ち着く環境を選びます。
設備について
ほとんどの施設が、介護ベッド、カーテン、エアコン、洗面所やトイレを完備。テレビなどの家電やタンスなどは、自分で用意しなくてはならないところが多いようです。認知症の方は新しいことを覚えるのが難しいため、新しいものを買うのではなく、使い慣れた物を持ち込んだ方がよいです。
食事について
老人ホームでは、栄養士によって栄養価を考慮した献立が立てられていますが、味や見た目はもちろん、雰囲気作りが大切。ご飯やみそ汁はお部屋近くで作り、匂いを嗅いでもらうことで食欲をそそりますし、認知症の方に対して、どんな料理なのか説明しながら介助するなど、ちょっとした工夫が食事をよりおいしくします。見学の際は食事風景を見たり、できれば試食させてもらいましょう。
また、中には厨房設備を持たず、施設向けの配食サービスを利用している老人ホームもあるようです。個人の好みや療養食にも対応できるか、事前に確認しておきましょう。
私物の持ち込みについて
例えば、写真を撮るのが好きならばカメラなど、趣味として使われていたものがあるといいですね。もし認知症などで写真を撮れなくなったとしても、愛着のあるカメラがそばにあるだけでも落ち着くものです。
昔の記憶は比較的保たれているため、アルバムなどもあると、お話が進むことでしょう。盗難や紛失の恐れがあるため、多額の現金や貴金属の持ち込み、「私物」とは少し異なりますが、ペットを連れてくることを禁止されている施設は多いですね。
その他については、スペースや倫理上問題がなければ、あまり制限はありませんが、心配であればスタッフの方に聞いてみましょう。
イベントについて
正月から大みそかまで、様々な年中行事が行われます。これは入居者に楽しんでいただくためだけでなく、室内で過ごすことが多いため「季節」を感じてもらうために行います。
夏は野外での食事や、地域の幼稚園児や保育園児によるお遊戯の披露、地域の方々を招いたお祭りなど、地域性を重視したイベントも開催されます。それ以外では、日々の楽しみを実現できているかも重要です。
毎日の晩酌やたまに夜更かしをしてテレビを見るなど、家庭では日常的に行われていた楽しみが、施設入所とともにはく奪される。それが一番のストレスの原因になります。入居者の希望をどこまで尊重してくれるかを確認しましょう。
5.不安があれば介護のプロに相談を!
ご家族に介護が必要になると困惑するもの。特に認知症は長期的な介護を必要とする場合があるため、お互いに無理をしないことが大切です。老人ホームは、「介護のプロ」。不安なことがあれば何でも相談してください。