- 質問
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伯母は認知症をもつ祖父と同居して、付きっきりで介護をしています。無理をしているようなので、施設入居やデイサービスを勧めるのですが「以前、暴力をふるって断られたことがある」と諦めてしまっています。
認知症の症状が重いと、老人ホームや介護施設には入れないのでしょうか?どんな場合に入居を断られるのでしょうか?
- 回答
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認知症の症状がほかの入居者を傷つけてしまうような場合、入居を断られることがあります。しかし、そこがダメでも別の介護施設ではすんなり受け入れてくれることもあります。
このページでは、実際に入居を拒否されるケースや施設により受け入れ条件が異なる理由、不安を抱えている施設探しの時に心がけるポイントを解説します。
よくお読みいただき施設探しにお役立てください。
高齢者施設に入居を拒否されるケースはある?
施設によって、入居に関する条件があります。それに適合しない状態のときには、残念ながら、入居を断られる可能性はあります。
例えば、特別養護老人ホームは、介護保険法※により「正当な理由なく介護サービスの提供を拒んではならない」とされています。ご質問で懸念の「暴力」は、他の利用者を傷つけてしまう危険性があるとみなされ、「正当な理由」の一つとされる可能性があります。
その他にも、点滴や痰の吸引など、ご本人に医療処置が必要なのにそれに対応できない施設でも、入居を断られる可能性は高くなります。
※指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準
ご家族としては、入居を断られるのは理不尽に感じられることでしょう。
しかし、原則として施設側も「対応が大変だから」という短絡的理由でお断りすることはないはずです。むしろ、他のご入居者との関係が悪かったり、入居に伴う混乱や不満があまりに強い状態は、結局ご本人の生活の質を著しく低下させてしまう、という理由でお断りしていることがほとんどです。
その状態で何とか入居しても、結局、懸念されていた理由で入居が継続できなくなってしまうことが考えられるという判断です。そうなれば、ご本人もご家族も「入所は骨折り損だった」ということにもなりかねません。
ただし、お断りするにしても、介護事業所側はその理由をしっかりお伝えし、他の介護サービスの紹介や代替手段など、ご家族の気持ちに寄り添った対応をすることが求められています。
そのような対応が感じられないようでしたら、その施設には見切りをつけ、むしろ別の事業所や介護サービス探しに力を注いだ方がよいでしょう。
デイサービス利用、高齢者施設入居を断られても
現在、デイサービスでも、高齢者施設でも、介護サービス事業所は数多くあります。1カ所で受け入れを断られても、あきらめることはありません。別の事業所や施設ではすんなり受け入れてくれることもあるからです。施設により、以下のような状況が異なるためです。
施設の種類ごとの得意なこと、施設の対象者
施設は、その種類ごとに対象者が異なり、それによって職員の人員配置や環境設定など細かい基準が決められています。
例えば、認知症対応型生活介護(グループホーム)では、特別養護老人ホームよりは人員配置が手厚く、職員も認知症をお持ちの人への対応を専門にしていますので、他で入居を断られた認知症の方を受け入れてくれる可能性はあります。
同様に、一般のデイサービスより、認知症対応型デイサービスの方が認知症の人への対応は手厚いと思われます。人員や職員の技術の差もありますが、その施設で培ってきたこれまでの認知症の利用者への対応や、様々な認知症の症状に接した経験が施設運営に活かされているからです。
施設の雰囲気
自分の住まう場所の好みは千差万別です。
落ち着いた雰囲気の古民家を再利用した場所を好む人もいれば、ホテルのような現代風の施設になじむ人もいます。和気あいあいとした人間関係の濃い施設がお好きな人もいれば、適度に距離を置いてくれる施設を好む場合もあります。
こればかりはご本人の好みもありますので、ご家族も施設側もそれを予測することは難しいでしょう。心配をするより、体験利用してみると意外にうまくいってしまうケースも少なくありません。
スタッフ・他の利用者との人間関係や相性
人との相性が大切なのは全ての場合で言えることですが、特に認知症の方の場合、「人との相性」が不思議な力を発揮してご本人の症状を変化させることが多く、非常に大きなポイントになります。
もちろん、職員との相性は大きな要因です。例えば、孫のような年齢の職員を気に入って落ち着く人もおられますし、職員に配偶者や学友、仕事仲間のイメージをかぶせて落ち着く人もいらっしゃいます。
また、利用者同士の人間関係も大切です。暴言や妄想の強かった方が、なぜか相性の良い他の入居者と関係を築いていく中で、穏やかに生活を送れるようになるケースもあるのです。
不安を抱えた事業所・施設探しで心がけたい3つのポイント
いくつかの事業所・施設で断られても過度の心配をする必要はないのですが、とはいえ、断られる経験を重ねるご家族も辛いものでしょう。焦って探して奔走するのも、ご本人・ご家族にとって精神的・肉体的負担は小さくありません。
こうした、「断られるかもしれない」という不安を抱えて事業所・施設探しをするご家族に、お伝えしたいポイントが3つあります。
ポイント1. 施設側を対等なパートナーと考える
「こんな大変な状態なのだから受け入れてくれさえすればいい」と卑屈になったり、断られる経験を重ねるうちに気構えてしまい、対立するような態度になったりするかもしれません。そのお気持ちはもっともです。
しかし、施設側も何とか力になりたいと思っているはずです。介護のプロフェッショナルたちですから、過去の同様なケースや相談事例、役立つ可能性のある様々な情報も持っています。まずは対等なパートナーとして話を聞き、相談してみてください。
ポイント2. 多くの人を巻き込む
質問者様の伯母さんのように、人間は「どうせ断られるだろう」と思うと、支援を求めたり、情報を集めることも諦めがちになります。しかし、よい介護にとって一番の敵は「孤立」です。少しでもいいので、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどとのつながりを保ってください。
また、「口コミ」は、施設選びのノウハウやその施設の特徴を知るためにはとてもよい手段です。地域の介護家族会に参加するなどして、周辺事業所や施設の利用者側からみた情報を集めると、大きな力になるでしょう。
ポイント3. 医療を活用する
問題の症状があれば、一時的に精神科病院などの相談室に相談し、通院・入院して服薬などで調整・治療を受けたのち、穏やかに施設入居にこぎつける場合もあります。
かつて通院したり、診断を受けたことがあっても、ご本人の症状や状態が変化している場合、再受診して別の治療が必要かもしれません。かかりつけ医がいれば相談し、適した医療機関を紹介してもらうこともできます。このような医療的手段も検討の余地はあります。
おわりに
今回の質問のように、暴力等の症状がありサービス利用を断られる可能性があるケースでは、ご家族自身も認知症への偏見にとらわれ、相談もできず孤立してしまい、抱え込んでしまいがちです。時には絶望のあまり、「自分たちで何とかするから放っておいてほしい」という態度をとることもあります。
しかし、このようなご家族やご本人にこそ、今回の質問者様のように、周囲の人が心配し、手を差し伸べ続けることがとても大切なのです。ぜひ諦めず、上のようなヒントも参考にしながら、やさしい気持ちを介護当事者の方々に注ぎ続けてほしいと思います。