- 質問
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遠方に住む父(81歳・一人暮らし)は今のところ元気ですが、この先介護が必要になったら、一人娘の私が手伝わなければと思っています。しかし、私はフルタイムで働いていて、父の家まで片道4時間以上と距離の問題もあるため、どこまでサポートできるか不安です。
いつからどんな準備をしたらよいですか?介護が必要になった時、仕事を続けながらどうやって支援すればいいのでしょうか?
- 回答
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今は元気でも、高齢になっていく親のことは誰でも心配になるものです。離れて暮らしていればなおさらでしょう。
まずは親が元気なうちからコミュニケーションを深め、親の生活リズムや経済状況を確認しておくことから動き出すと良いでしょう。いざ介護が必要になったらケアマネジャーとしっかり連携をとり、介護サービスなどを上手く利用することで「仕事と介護の両立」を優先して考えることが大切です。
ここでは、遠方に住む親がひとりでも安心して暮らし続けられる方法と、介護が必要になった時に、離れている家族がどのような対応をしていけばよいかを解説します。親の介護が心配になってきたら家族が困らないためにもぜひ参考にしてください。
親が元気なうちに準備しておくこと
お盆や年末年始などに帰省したとき、親の老いを感じる人は多いと思います。今は元気でも、いつ介護が必要になるかはわかりません。
そのような不安が多くなってきたら、まずは帰省の回数を少し増やして親とのコミュニケーションを深めてほしいと思います。そして、親の健康状態に気を配り、いざという時のための準備を考え始めます。
具体的には、親の介護で抱えそうな課題を知り、その対応策をあらかじめ想定しておくことです。そのためには、親の気持ちを知ることが最も大切なことです。
親子関係にもよりますが、いきなり質問攻めすると、親のプライドを傷つけて不安をあおる可能性があるので注意しましょう。特に男親の場合は、心配事を隠す傾向が強いため、無理に聞き出そうとすると、かたくなになる場合があります。
遠距離介護で最も肝心なことは、コミュニケーションの取り方です。以前よりも頻繁に電話したり、帰省したりすることで、自然に会話を増やして、話せる雰囲気を作っていくことが大事です。
帰省回数を増やすのが難しかったら、テレビ電話を始めるのもよい方法でしょう。そうやって以前よりも長い時間を親と接してみることで、親の普段の生活を知ることができ、どのような不安があるかも把握しやすくなります。
親のほうも離れて住む家族に少しずつ話しておきたいという気持ちになってくるでしょう。
親が元気なうちに知っておきたいことや準備したいことは次の通りです。
親の生活を知る
毎日の食事や家事、外出状況などの生活パターンを知り、そのなかで困っていることや不安に思っていることを確認します。また、親が日々の暮らしの中で楽しみにしていることも知っておきましょう。
親の経済状況を確認しておく
お金のことは聞きにくい場合もありますが、介護経験者の中には「銀行口座や経済状態を確認しておくべきだった」と後悔する人がけっこういます。
介護費用は原則として親のお金を当てますから、親の年金額や預貯金がどれくらいあるかは知っておきたいところです。お金のことは、介護などの話ができる状態になってから、切り出してみるとよいでしょう。
また、会話が深まれば、借金の有無や入っている保険の種類についても把握しておきたいです。
高齢者には住まい環境も重要な要素です。親が望めば少しずつ片づけなどを手助けし、電気やガス器具の安全性の確認や、老朽化しているものがあれば取り替えも検討しましょう。
親の人間関係を知る
親戚づきあい、友人、近所との付き合い、参加しているサークルや集まりなど現在の人間関係を聞いておきます。また、親に何かあった時に家族と連絡がとり合える人がいると安心です。
特に比較的早く駆けつけられる人は探しておきたいところです。
同時に高齢者に関するよろず相談所の役割をもつ地域包括支援センターや町会、民生委員などの地域の高齢者を見守るしくみも確認しましょう。できれば一度あいさつをしておくと今後気にかけてくれると思います。
親の希望を確認する
元気なうちに最も確認しておかなければならないのは親の気持ちです。介護が必要になったときなど万が一のときはどうしたいと思っているのかなどは、直接聞いてみなければわからないものです。それに沿って今後の準備の心づもりをしておくようにします。
介護サービスの情報を収集する
地域包括支援センターには介護が必要になる前から相談ができます。一度電話を入れてスタッフに訪問してもらうか、親と一緒に出向いてみましょう。
そして心配している事柄を相談して、介護保険のしくみや地域のサービス情報などについても聞いておきます。
介護保険のしおりや各種サービスに関する冊子などをもらっておくことで、介護が必要となったときに行う手続きなどがイメージできます。 なお、地域包括支援センターには家族だけで相談しに行くことも可能です。また、何かあったときは、親自身が地域包括支援センターに連絡を取るように伝えておきましょう。
そのほか、時間がある時にでもインターネットや介護に関する書籍などから、介護サービスの情報を収集しておくとよいと思います。
知っておきたい遠距離介護のメリット・デメリット
遠距離介護には同居介護とは違った特徴があります。遠距離介護のメリットを生かしながら、デメリットな部分を少しでも軽減する方法を考えましょう。
【メリット】
・親は住み慣れた地域で暮らす安心感を保つことができ、そこで築いた人間関係を維持できる。離れて住む家族のほうも現在の住居環境を変えなくてよい
・時々しか会えないことで、親に優しく接しやすく、介護のオンとオフに気持ちの切り替えがしやすい
・高齢者の一人暮らしや高齢者のみの世帯では、同居介護に比べて訪問介護の生活援助が利用しやすく、特別養護老人ホーム(特養)入居の優先度も上がりやすい。
【デメリット】
・帰省のための交通費、連絡を取るための通信費、お世話になっている近隣の方への手土産代など費用がかかる
・容態が急変したときに、早急な対応がしづらい。また、介護に空白の時間が起こりやすいため、見守りに人の協力が必要となりやすい
・家族が日頃住んでいない地域であるため、情報が収集しにくい
・帰省が増えると仕事を休むことが多くなりやすい
要介護の親の支援が始まったら
介護保険サービスの利用方法をまったく知らなかったために、介護が始まった時に苦労したという話はよく聞きます。介護が必要と判断したら、まず地域包括支援センターに連絡をとり、介護保険(介護認定)の申請をお願いしましょう。介護保険サービスを受けられるようにすることから始めます。
要介護認定を受けたら、介護保険サービスをコーディネイトしてくれるケアマネジャーを決めます。遠距離介護ではこのケアマネジャーが家族の代わりに気を配ってもらう度合いも多くなりますので、遠距離介護に理解の深い人を選びたいですね。
連絡がとりやすくて「一人で無理をしないで」などと声かけしてくれるようなケアマネジャーがいいでしょう。
ケアマネジャーには、親のこと、家族は離れて暮らしていること、親族の状況などをなるべく細かく伝え、介護者の背景を把握してもらうことが大切です。
ケアマネジャーは家族も含めて「介護はチームで行うもの」と考えています。離れている家族がどれくらいの頻度で帰省できるか、本人や家族ができることは何かなどの情報をケアマネジャーに提供し、それも踏まえてどんな介護サービスを利用するのか、介護サービス計画(ケアプラン)を作ってもらいます。
なお、介護サービスには介護保険を利用するサービスと保険外のサービスがあります。いろいろなサービスを組み合わせて活用しましょう。以下よりそれぞれのサービスを解説します。
>ケアマネジャーの選び方、上手な付き合い方について詳しくみる
介護保険サービスを利用する
訪問型サービス、通所型サービス、宿泊サービス、福祉用具、住宅改修など介護度により必要に応じて利用できます。遠距離介護の場合は、緊急時の対応や介護の空白時間が気にならないようにサービスの組み合わせを工夫することを心がけます。
自治体が独自に提供するサービスを利用する
地域により内容は異なりますが、見守りサービス、配食サービス、おむつの助成、ゴミ出しサービスなどさまざまな独自のサービスがあります。
自治体の窓口に高齢者向けサービスをまとめた冊子があるのでもらっておきましょう。自治体のホームページからも確認できます。もちろんケアマネジャーにも相談できます。
地域のボランティア団体などが提供するサービスを利用する
家事代行や見守りサービス、居場所づくりなどの無料及び有償ボランティアが行うサービスです。ケアマネジャーをはじめ、地域包括支援センターやボランティアセンターを運営する社会福祉協議会に問い合わせてみてください。
なお、見守りについては、近所の方に頼めれば、いざという時にとても助かります。親に何度電話しても出ないときは、離れているととても不安になります。
そんな時に様子を見に行ってくれる近所の人がいると、とても助かるでしょう。どうしても頼める人がいない場合は、担当地域の民生委員にお願いするのも一つの方法です。
民間サービスを利用する
お弁当を自宅へ届けてくれる「配食サービス」や、離れて暮らす家族が安否を確認できる「見守りサービス」から家事支援全般まで、民間が行う高齢者向けサービスは、昨今多くの業種や企業が参入しています。
こんなサービスはないだろうか?と思ったら、インターネットで探してみましょう。なお、地域に密着した民間サービスは、地域包括支援センターにも情報が集まっているはずです。
遠距離介護の場合、安否確認カメラの利用もひとつのアイデアです。離れていてもいつでもスマートホンなどで親の状況が確認できますので、親のほうも安心を感じるのではないでしょうか。
遠距離介護では、実際の介護はケアマネジャーやヘルパーなどの専門職に信頼して任せ、家族は介護のキーパーソンとして親の気持ちを踏まえて判断や決断をする役目があると考えればよいと思います。
帰省時には、家族ならではの役割として、親の話を聞いて精神的なケアをし、例えば車でどこかへ連れて行ってあげたり、服を見立てたりなどヘルパーには頼めないことや親が家族にしてもらいたいということを中心に手助けするとよいでしょう。
また、介護と医療のケアが手厚くされても、親には介護の専門職以外の人とのかかわりも大切です。地域の方や友人との過ごし方も考えてあげられるとよいと思います。
遠距離介護を持続させるコツ
仕事と介護の両立
遠距離介護に限界を感じて介護離職を考える人も多くいます。経済状態にもよりますが、仕事を続けることは、多くの人にとっては自分自身の経済的な基盤確保のために必要なことです。
従って、遠距離介護を続けるときは、仕事と介護が両立できる方法を優先して考えることが大事です。
関係者との連携
仕事と介護の両立のためには、介護者の味方が必要です。そこで、ケアマネジャーに安心して任せることができれば遠距離介護でも介護者の生活が維持しやすくなります。
そして、ヘルパーなどの介護スタッフ、日頃気にかけてくれる近所の方や友人、かかりつけ医などとのコミュニケーションが大切です。
このような人たちに帰省した時はなるべく会うようにして、あいさつと情報交換を行い、必要なときに適切な対応をしてもらえるようお願いしておくと安心です。
介護支援制度の活用
勤務先では、介護と仕事の両立支援制度を確認して、利用できそうならば利用しましょう。職場にも遠距離介護をしている人がいると思いますので、できれば自分が介護をしていることを話せるとよいでしょう。
また、職場に限らず介護仲間を作ることは心の支えになります。そのほかNPO法人や民間会社が運営する遠距離介護セミナーなども開かれていますので、参加してみるのもよい考えです。
割引制度で交通費を節約する
遠距離介護の悩みのひとつに帰省にかかるお金があります。多くの航空会社で「介護割引」などの各種割引制度がありますので、詳しい利用条件など各航空会社へ問い合わせてみてください。
また、格安航空券を求めるのも一つの方法です。JRでは年齢による割引制度や往復割引などがあります。JR窓口で問い合わせてみてください。
さて、以上のようなことを努力して遠距離介護のための協力体制が整えても、さまざまな理由で遠距離介護を続けることが難しい状況になることもあります。
また、親に地元の友人が少なくなってそこに住み続けることにそれほどこだわりがなくなるケースもあります。そのような場合は、家族が住む地域への呼び寄せや、家族が訪問しやすい距離にある介護施設への入居も選択肢の一つでしょう。
無理のない方法でより良い介護のかたちを検討するようにしてください。
まとめ
遠距離介護を成功させるポイントは、何と言ってもコミュニケーションです。親とのコミュニケーション、ケアマネジャーや介護に協力してくれる人たちとのコミュニケーションをしっかりとって信頼関係を築くことが遠距離介護を乗り切るためには重要です。けっして一人で抱え込まないようにしてください。
介護は想定していても予想通りにはいかないことのほうが多いのが現実です。準備は必要ですが、大事なのは状況に合わせてベストの方法をとることです。
親にすれば、離れていても気にかけてくれる娘の存在がどれほどの安心感を与えていることでしょう。親子の絆と信頼感ができていれば、娘が決めたことを父親は受け入れてくれると思います。
イラスト:安里 南美
(監修:森 裕司 株式会社HOPE代表、介護支援専門員、社会福祉士)