質問

同居する父はもうすぐ90歳で、ここ数年は肺炎による入退院を繰り返しています。病院から自宅に戻るたびに痩せ行く父の姿を目の当たりにし、もう長くはないかもと思うようになりました。
先日、私の兄弟だけで「もしものときに延命治療をすべきか」という話が上がりました。結論は出てませんが、やはり本人にその意思を確認するべきでしょうか。どのように聞いたらいいか、注意点や併せて確認すべきこともあれば教えてください。

回答
浅井 郁子

親が90歳という高齢であり、肺炎を繰り返していることで、終末期が近づいてきていると感じるようになったご家族の切実は思いが伝わってきます。質問者の文章にある「もしものときの延命治療」とは、終末期における延命治療のことです。
ここでは、終末期における延命治療の内容と、親の意思確認、そして家族の役目と覚悟について解説します。 浅井 郁子(介護・福祉ライター)

【目次】
  1. 親の尊厳を護るためにも意思確認は必要
  2. 「事前指示書」を作るにあたり、注意したいこと
  3. 「事前指示書」の書き方
  4. 入院中の「事前指示書」作成は、ドクターも交えた話し合いで
  5. まとめ

親の尊厳を護るためにも意思確認は必要

医療の進歩により、死期をある程度引き延ばすことができる時代になりました。それを延命治療と言います。死期が迫った終末期の治療を行う時、医療機関はこれまで患者本人の意思や希望はあまり確認せず、医療技術を駆使して延命をしてきました。患者も家族も医師にその判断を任せてきたといえます。


変わりゆく延命治療の考え方

しかし近年、最期の時期医学的介入あまりしない方が、本人は楽に過ごせる場合が多いことが知られるようになってきました。

例えば、生命の最終段階になると、体が食べ物を受け付けず、人は自然と食べなくなるといいます。家族としては、つい点滴からでも何か栄養を与える延命治療を行ってもらいたくなります。しかし、それが却って本人に苦しい思いをさせている場合もあり、終末期においては、治療しない方が穏やかな最期につながるとして、延命治療を希望しない人も増えてきたのです。同時に、延命治療については、家族や医師ではなく、患者本人が決めるものではないかという考え方も広まってきました。


本人の意思を示す「事前指示書」

高齢者が病院に入院した時や老人ホームに入居の際に、「延命治療に関する意思確認書」や「終末期医療の事前指示書」というような書類への記入を求められることが増えてきています。また、入院や介護施設に入居の際だけでなく、在宅で元気なうち事前指示書をつくる高齢者も増えています。

これらの書類は、本人が意思表示できなくなった場合に、どのような延命治療を受けるかどうかを、あらかじめ記入しておくもので、「生前の意思」を意味するリビング・ウィルとも呼ばれています。いわゆる尊厳死や平穏死、自然死を希望する人が増え、それに伴い生前の意思を残すこと浸透してきたのでしょう。文書の名称は、「尊厳死の宣言書」「事前要望書」「事前指示書」というように、特に統一はされていません。(ここでは以下、「事前指示書」とします)

質問者のケースのように、親の意思を確認できる状態であり、家族の話し合いが可能な状況であれば、本人の意思を尊重するためにも、親に終末期の意思確認の準備をしておくとよいと思います。本人の意思確認がされていれば、いざという時に家族もあわてず覚悟をもって医者や看護師に伝えることができますから、安心できるでしょう。


「事前指示書」を作るにあたり、注意したいこと

終末期を在宅で迎えるには、家族にも覚悟が必要

事前指示書を作成するには、まず親が終末期になっても自宅で過ごしたいか確認することが大切です。親が在宅で最期まで過ごす希望がある場合は、家族及び協力してくれる医療介護看取りのチームが必要になり、家族の負担もそれなりにあるからです。
親の終末期の過ごし方の意思を確認するということは、家族がその意思実現させてあげるための覚悟があるかどうかの確認にもなることを知っておきましょう。

本人だけでなく家族も一緒に考える

親の意思を確認するときには、家族が親に一方的に聞くという態度ではなく、親と一緒に考えていくというスタンスが大切です。判断に迷ったときは、必要に応じて医師などの関係者に助言を求めるのも良いでしょう。

この先の介護生活について総合的に話をしていくなかで、「事前指示書というものがあるから書いておく?」という風に、普段の会話の中で確認できるとよいと思います。例えば、祖父母や片親を先に見送られた経験をしていれば、「おじいちゃんの時は病院で延命治療をしたけど、あれでよかったのかな?お父さんは万が一のときはどうしたいと思っている?」などと親族の話をきっかけにするのは方法のひとつかと思います。

また、在宅介護や延命治療に関連するニュースや新聞の記事、テレビ番組に接した時に、さりげなく聞いてみるのもよい方法かもしれません。但し、そのためには、延命治療にはどういうものがあって、その治療のメリットデメリットをかかりつけ医や在宅医にきちんと聞いておく必要があります。そういった情報もなく、単に延命治療の意思確認を親に行うのは難しいのです。



「事前指示書」の書き方

「事前指示書」に決まった書式はありません。終末期医療の在り方について研究する学会などでは、尊厳死という独自の概念に基づいた事前指示書の書式があります。訪問医療スタッフやかかりつけ医と相談しながら、ご自分の親の場合はどういった書式がよいのかを話し合って決めるとよいでしょう。


事前指示書の内容

事前指示書には、主に次のような具体的な内容について判断したことを記入します。

①最期を迎えたい場所:自宅、介護施設、ホスピス等の病院、家族の判断に任せる、など

②蘇生について:心臓や呼吸が停止した時に救急蘇生治療はしない、人工呼吸器はつけない、蘇生治療をしてほしい、家族の判断に任せる、担当医の判断に任せる、など

③食事を口から食べられなくなったとき:管を入れたり胃ろうは造らないでほしい、管を入れたり胃ろうを造ってほしい、家族の判断に任せる、担当医の判断に任せる、など

④注射や輸血などの治療について

⑤そのほか自由に希望する要望について など

そして、自分に代わりに意思決定をする人を指名しておきます。
以上のような延命治療の可否について、本人の病状に合わせて在宅医や訪問看護師に内容を聞きながら、一つ一つ判断するようにします。


本人の意思が変われば修正もできる

例えば、悩むことが多い治療の一つに高齢者の「胃ろう」があります。口から食べられない親の姿を目の当たりにしたとき、家族はどうしたらよいのかを考えると、胃ろう造設の選択を事前に決断するのはなかなか難しいものがあります。その場合は、状態に伴った治療内容今後の症状の見込みを、その都度在宅医に確認しながら決めていくとよいと思います。

なお、事前指示書を書いたとしても、親の意思が変わる場合もあります。親や家族が方針を修正したいことがあったときは、その都度、柔軟に話し合いをすることも大切です。



入院中の「事前指示書」作成は、ドクターも交えた話し合いで

病院の「事前指示書」の場合は、現在の医学では回復の見込みが無く、治療について本人の意思表示ができないような状態になった時に、本人及び家族してほしくない治療を文書で伝えておくものです。高齢者が肺炎などで入院した場合や、終末期の治療について希望を聞くことが適切だと医師が判断した時に、「事前指示書」があることを患者や家族に伝えるケースが多いようです。


具体的な内容は、回復の見込みがない時に、次の治療を希望するかどうかの意思の確認です。

・心臓マッサージなどの心肺蘇生

・人工呼吸器の装着

・鼻チューブによる栄養補給

・胃ろうによる栄養補給、など


しかし、入院中にこれらのことを本人や家族が判断するのはむずかしい部分が多くあります。また、入院した時は同意したことであっても、途中で本人や家族の気持ちが変わる場合もありますし、本人の意思が確認できない状態になっても、いざという時に何も治療をしないというのは、見守る家族にとって楽なことではありません。病院で看取る場合は、担当医と随時、相談できることが重要です。



まとめ

親の意思をきちんと尊重して、望まない延命治療をしないためにも、あらかじめ事前指示書を作成しておくと良いでしょう。在宅医療に協力してくれる専門職の人たちとともに、親の意思を共有して家族を励まし見守ってくれる環境があればこそ実現できることです。
このようにリビング・ウィルは、本人の意思だけで決めるものではなく、家族や医師など関係者みんなで決める方向になりつつあります。


このQ&Aに回答した人

浅井 郁子
浅井 郁子(介護・福祉ライター)

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級