【はじめての方へ】中心静脈栄養(IVH)の特徴|自宅介護の注意点まとめ

中心静脈栄養:IVH(※1)は心臓近くにある太い静脈に水分・電解質、栄養の補給の点滴を行う方法です。国際的にはIVHよりもTPN(※2)という表記が主流となっています。

病気によって口からの栄養摂取が難しい人や、消化管機能が低下していて長期間の点滴が適切と判断された人に行います。自宅で行う際には医療的な管理が必要となりますが、点滴時間を調整することで生活の幅を広げることが可能になります。

今回は中心静脈栄養のメリット・デメリットや管理方法、起こりやすいトラブルや介護施設での受け入れについて解説します。

※1:Intravenous Hyperalimentation
※2:Total Parenteral Nutrition

IVHは腸が使えず、高カロリー輸液が必要な場合に実施

何らかの理由で口からの栄養摂取が難しい場合、基本的には腸を使用した経鼻経管栄養や胃ろうなどの栄養法を選択します。しかし、消化管が機能していない腸管麻痺や消化管閉塞、潰瘍性大腸炎やクローン病による腸の炎症、消化管の手術後などは腸を休ませるために中心静脈栄養による栄養法を選択します。

中心静脈栄養と一般的な点滴の違いは、使用する期間と点滴で使用する薬液(輸液)の濃度です。一時的な水分や低濃度の輸液で済む場合は末梢静脈から点滴を行いますが、腸を経由した栄養補給ができない場合は高濃度の輸液を使用する必要があるため、太い血管を利用する中心静脈栄養を実施します。

また人によっては中心静脈栄養と口からの食事を併用することもあり、これは在宅ケアにおいても同じです。

中心静脈栄養は在宅ケアも可能で、口からの食事を併用することもあります。点滴の輸液を医師に処方してもらうため定期的な受診や訪問診療が必要です。

中心静脈栄養では事前に体内にカテーテル(管)を挿入しますが、これは長期的に使用できるため、交換のための受診は基本的にはありません。

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中心静脈栄養のメリット・デメリット

口からの栄養摂取が難しいときにどの栄養法を選択するかは、腸の状態に加えてそれぞれの栄養法のメリット・デメリットも考慮します。

ここでは中心静脈栄養のメリット・デメリットをみていきましょう。

メリット

  • 消化管を利用せず、水分、栄養などを補給できる
  • 末梢静脈栄養ではできない高カロリーの点滴もでき、確実に栄養を摂取できる
  • 長期的に利用することができる
  • 自宅でも実施可能
  • 何度も針を刺さなくてよい
  • 外出や入浴に制限がないものもある

デメリット

  • カテーテル挿入部から感染を起こすことがある
  • カテーテルの屈曲によって詰まることがある
  • 消化管機能が低下する恐れがある
  • 自宅で医療的な管理を行う必要があり、介護者に負担がかかる
  • カテーテル(管)の自己抜去※
  • 事前に外科的な処置や手術を行う必要がある
  • 合併症に注意が必要

※誤って抜いてしまうこと

ここまで、中心静脈栄養のメリット・デメリットを解説しました。次に、中心静脈栄養の種類について、解説していきます。

カテーテルと注入方法の種類

中心静脈栄養を行うためには、手術などであらかじめ、心臓近くの太い血管にチューブを接続するためのカテーテル(管)を挿入します。このカテーテルは体の表面に一部が出るものと、全てが体の中に隠れるものの2種類に分けられます。

カテーテルのタイプ

体外式

静脈に入れたカテーテルの一部を体の外に出し、そこに直接、点滴を接続します。入浴や水泳に制限があり、見た目が気になる人もいます。ポート式のように針を刺す必要はありません。

ポート式

CVポート(ポート式で使用するカテーテル)を全て、体の中に埋め込みます。中心静脈栄養を行う際は毎回ポートに針を刺して点滴を接続します。点滴をしていない時間は入浴などの活動に制限がなく、カテーテルが入っていることが見た目ではわかりません。

このほか、中心静脈栄養は注入の方法も2種類に分けられます。ご本人の体の状態で、どちらかを選択します。

注入方法の種類

持続注入法

24時間を通して点滴し続けます。血糖値のコントロールが難しい場合、心臓・肺・腎臓の機能が低下している場合に選択します。点滴のルート交換が週1〜2回と、後述する間欠注入法に比べて少なくて済みます。

間欠注入法

6〜12時間かけて点滴を行い、残りの時間は点滴を外せるので外出や入浴などに制限がありません。持病がなく、日中活動することが多い場合に選択します。点滴のルートは毎日交換します。

自宅介護で必要な医療的ケア

在宅で中心静脈栄養を行う場合には、家族やご本人が医療的なケアを実施する必要があります。細菌などが注入する薬液やカテーテルに付着すると感染の原因となるため、ケアをする人の手や服だけでなく、作業スペースを清潔にすることも大切です。

日常生活に必要となるケアについて看護師から指導を受けて、手順を身につけていきましょう。

輸液製剤の混注

点滴する輸液製剤は医師が処方します。基本的には調剤薬局や病院で輸液製剤を作りますが、場合によっては看護師が指導して家族やご本人がいくつかの薬液を直前に混ぜてから使用することもあります。

輸液バッグは冷所保存ですが、使用する1時間前には取り出して常温に戻しておきましょう(保存方法については医師から指導を受けます)。

輸液バッグの交換

連続して輸液を行う場合で輸液バッグが空になったときは、看護師または、家族やご本人が新しい輸液バックに交換します。介護職員は実施できません。

点滴のルートにいくつかストッパーがあり、それを閉めてから、点滴ルートを古い輸液バッグから新しいバッグに差し替えます。

カテーテルの接続・穿刺(せんし)、交換

間欠注入の開始時や入浴などで長時間はずしていたときは、看護師または、家族やご本人が、新たに輸液バッグを利用者ご本人のカテーテルに接続します。こちらも、介護職員は実施できません。

体外式の場合はご本人側のカテーテルに輸液ルートをつなげ、ポート式の場合は輸液ルートに針を接続し、その針をポートに刺します。

輸液バッグを長時間はずす際の処置

輸液バッグを長時間はずす場合、そのままではカテーテルの中で血液が固まり、カテーテルが使用不可になってしまいます。

そのため、看護師または、家族やご本人が、血液が固まらないようにするヘパリン製剤を注射器でカテーテルに注入して、血液が固まるのを防ぎます。これも、介護職員が行うことはできません。

入浴前後の対応

体外式の場合は入浴前に、普段からカテーテル挿入部に貼っている保護用テープの上を覆うように、保護フィルムを貼ります。保護フィルムには防水作用があり、挿入部がぬれるのを防ぎます。入浴中は保護した部分を擦らないように注意します。

挿入部が濡れたときは必ず、入浴後に看護師やご本人がカテーテル挿入部を消毒しましょう。その後、保護用テープを貼り、テープでカテーテルを留めましょう。輸液ルートを接続したら、安全ピンなどで洋服に固定します。

ポート式の場合、入浴する数時間前には針を抜き、皮膚を消毒するだけで大丈夫です。入浴時のばんそうこうでの保護や、入浴後の処置は必要ありません。

中心静脈栄養で起こりやすいトラブル

中心静脈栄養を使用しているときに起こりやすいトラブルは主に感染症です。

感染の原因としては、チューブ挿入部の皮膚からの汚染、輸液セットや接続部からの汚染、調剤した薬剤からの汚染が考えられます。またこの他、カテーテルの自己抜去や合併症があります。

感染症

対外式の場合、チューブ挿入部は最低1週間に1回程度、挿入部を保護しているフィルムドレッシング(透明テープ)の交換と消毒が必要です。発汗や入浴で湿った場合や浸出液(しんしゅつえき)などで汚染した場合は、その都度交換し消毒しましょう。

その際、チューブ挿入部の発赤(ほっせき)、腫れ、ぬれや膿(うみ)の有無の観察をしてください。

フィルムドレッシングでかぶれる場合は、ガーゼもしくはその他の保護テープを使用してもかまいません。ただしその場合は、週2回程度の交換と消毒が必要です。

カテーテルの自己抜去

誤ってカテーテルを抜去しないように注意が必要です。カテーテルのテープ固定に加えて、安全ピンで輸液ルートを洋服に止めておきましょう。

万が一抜けてしまった場合は点滴を中止し、医師、看護師に連絡して指示を仰いでください。

合併症

よくみられる合併症には物理的な閉塞、断裂、位置異常の他に、糖代謝異常(低血糖・高血糖)、高トリグリセリド血症、過剰投与、ビタミン欠乏症、微量元素欠乏が挙げられます。またこの他、血栓症や空気塞栓症があります。

物理的な閉塞、断裂、位置異常

カテーテルや点滴ルートがねじれてしまい、点滴がうまく落ちなくなることがあります。カテーテルなどをきれいに整えることでトラブルは解消されます。

また、カテーテルが破れる断裂や、カテーテルがずれてしまう位置異常が起きることもあります。カテーテルをきれいに整えても点滴が落ちないときは、直ちに医師や看護師に連絡しましょう。

高トリグリセリド血症

中心静脈栄養ではカロリー摂取や栄養バランスの観点から、定期的に脂肪をとるために脂肪乳剤を投与します。その影響で高脂血症になることを高トリグリセリド血症といいます。定期的な医師の診察を受けて、発症しないようコントロールしていきます。

過剰投与

点滴で投与するエネルギーや糖の量が多いと、いわゆる脂肪肝になりやすくなります。脂肪乳剤を使用して予防します。

ビタミン欠乏症、微量元素欠乏

体にため込むことができないビタミンやミネラルは中心静脈栄養では不足しがちです。これらを補うためにビタミンや微量元素も投与します。

低血糖、高血糖

口から栄養を摂取する場合と比べて、血糖値の変動が起きやすくなります。看護師は中心静脈栄養の導入直後は1日に数回、血糖値を測定して異常がないかを確認します。

血糖値が落ち着いてからも冷や汗、嘔吐、意識障害、尿量の変化、喉の渇きなどが見られたら要注意です。異常な状態があった場合は、医師、看護師に直ちに連絡しましょう。

血栓症

血管に刺したカテーテルが刺激となり、血の塊(血栓)を作りやすくなります。これが原因で血管が詰まってしまうことを血栓症といいます。肺や脳に血栓が飛ぶと、命に関わることもあります。

発熱、腫れ、痛み、皮膚が青くなる、むくみ、点滴の落ちが悪いなどがないかを日々観察し、すぐに異常に気づけるよう気を付けましょう。

空気塞栓(そくせん)

カテーテルを通って空気が血管内に入り込んでしまい、血管を詰まらせてしまう状態。輸液ルートの交換時には必ずストッパーを使用したり、空気抜き機能のあるフィルターを使用したりして防ぎます。

空気が肺で詰まった場合には咳、呼吸困難、胸痛などが、脳で詰まった場合には痙攣、意識障害、麻痺などがみられます。このような症状が見られたら直ちに医療機関を受診しましょう。

介護施設でのケア

中心静脈栄養は医療行為のため、介護福祉士では行えません。看護師が24時間常駐、または24時間連絡があれば看護師が対応する体制が整っている訪問看護ステーションとの連携がしっかりと行われている介護施設であれば、受け入れが可能です。

看護師の体制が整った介護施設や有料老人ホームは少しずつ増加しており、中心静脈栄養に対応できる施設も増えています。老人保健施設や看護小規模多機能型居宅介護施設、介護医療院や介護療養病床、訪問看護ステーションによる在宅療養も可能です。

まずは退院前に医療ソーシャルワーカーや担当のケアマネジャーに相談してみましょう。

イラスト:坂田 優子

この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

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noteKaori Yagome*看護師

Twitter@KaoriYagome

佐野 けさ美

監修者:佐野 けさ美(日本在宅看護学会理事)

慈恵会看護専門学校卒業。国際医療福祉大学大学院保健医療学修士、社会福祉法人生活クラブ風の村顧問、東京大学工学系研究科化学システム工学専攻水流研究室

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