認知症で施設を追い出されることがあるって本当?理由や対策、安心して入居するための備え

施設入居後に認知症を発症したり、認知症を理由に施設に入居したご家族がいたりする際に気になるのが「追い出されてしまうことがあるのかどうか」。本記事では、そんな不安を解消すべく、実際にどのような理由で退去勧告を受けるのか、退去勧告を受けたときはどう対応すべきかまとめました。また、認知症の方が安心して入居できる施設の選び方も紹介します。

認知症が原因で施設を追い出されることはある?

結論から言うと、「認知症そのもの」が原因で施設を追い出されることはありません。全国有料老人ホーム協会が定める「有料老人ホーム標準入居契約書」には「認知症」を原因とした退去勧告に言及した条文は記載はされていないためです。しかし、認知症以外の要因で一定の条件のもとで退去勧告に至るケースがあることは留意しておかなければなりません。

老人ホームなどの施設ではそれぞれ契約書や重要事項説明書に記載されたルールがあり、入居者やその家族はこれを遵守することが求められます。ルールに反する行為をしたときには、退去を勧告されることがあるため注意が必要です。
施設のルールのなかには、認知症が原因で起こり得る行為も禁じられていることがあります。たとえば、認知症の問題行動として暴力が見られることもありますが、多くの施設では通常の介護方法では防止できないほどの暴言・暴力行為は禁じられているため、退去勧告につながるケースもあるでしょう。

認知症が原因で起こりうる退去勧告にあたる状態例

・暴力をふるいケガを負わせた
・過度なセクハラ行為があった
・施設内の器物を破損した
・金銭や金品、物品などを盗んだ

いわゆる問題行動となりうる認知症の「周辺症状」とは、一部の認知症患者に見られる症状で、種類や頻度・程度には個人差があります。たとえば、自傷や暴力・暴言、徘徊、もの盗られ妄想などの迷惑行為につながる周辺症状もあります。

暴力行為により他の入居者にケガを負わせたときや、過度なセクハラ行為、他人の金品を自分のものだと思って盗ってしまう行為は、退去勧告となることがあります。もしそのまま放置し、入居を容認しているなら、他の入居者の生活を守れないからです。また、施設内の器物を破損した場合や自傷行為をする場合も退去勧告となることがあります。

その他の退去勧告にあたる例

・身体状況の変化
・施設外への長期滞在
・不正入居
・施設費用の滞納

認知症の問題行動以外にも、退去勧告の対象となる行為や状況があります。全国有料老人ホーム協会の定める標準様式にも記載があるため、正確に把握しておきましょう。

身体状況の変化

施設ごとに対応できる医療行為が異なります。入居者の身体状況が変化し、施設では対応できない医療行為が必要になったときは、退去する流れになることが一般的です。

たとえば、糖尿病と診断されてインスリン注射が必要になったときは、医師や看護師がいない施設では対応が難しくなります。また、医師や看護師がいる場合でも、透析などの特別な機器が必要なときは対応できる施設は限られます。ただし、訪問看護サービスの利用や通院により退去せずに済むケースもあるため、施設のスタッフやケアマネジャーに相談してみましょう。

施設外への長期滞在

病状の変化によっては、入院が必要になることもあります。施設によっては一時的な入院であれば籍を残しておけるため、退院後も再度入居が可能です。しかし、退院の目途が立たないときは退去を求められる施設や、入院期間が3ヶ月程度の長期に及ぶときは籍を残せない施設もあります。退院後の行き先が決まらないということにならないためにも、施設外への長期滞在の対応について確認しておきましょう。

不正入居

不正入居とは、偽の情報を提供して入居することです。施設に入所するときは、その施設が定める条件を満たしていることが求められます。条件を満たしていない場合には、原則として入居できません。たとえば、認知症の症状や日常生活でできること・できないことなどについて、虚偽の情報を施設に提供していたとしましょう。その結果として入居できたとしても、後日、虚偽の情報を提供していたことが判明するなら、不正入居と判断されて、退去を勧告される可能性があります。

施設費用の滞納

施設費用の滞納も退去勧告の対象となることがあるため、注意が必要です。施設費用を滞納すると、通常は入居時に定めた連帯保証人に請求がいきます。連帯保証人が滞納額を支払えば問題はありませんが、支払えないときや支払いを拒否したときには退去勧告を受ける可能性があります。

なお、施設費用の滞納への対応は、施設ごとに異なります。数ヶ月分を滞納してから退去勧告を受けるケースや、支払いの目途が立たなくなってから退去勧告を受けるケースもあります。    

認知症による問題行動などが原因で施設から退去勧告された場合の対応

1. 契約書の事項の確認
2. 退去に伴う具体的な対応事項の確認
3. 住替え先の検討

認知症の問題行動が原因で、あるいは認知症以外の原因で退去勧告を受けることがあります。しかし、退去勧告を受けたとしても、退去を免れるケースもあります。慌てず適切な対応を行うためにも、以下のような初動をとってみてください。

1.契約書の事項の確認

まずは退去勧告の理由を施設に尋ね、入居契約書や施設の規定に記載されているか確認してください。退去勧告の理由となる事柄が、入居契約書や施設規定において禁じられている事項に該当する場合は、入居者側がルール違反を犯したと判断できるため、退去勧告を受け入れる必要があります。

しかし、告げられた退去の理由が入居契約書・施設規定で定められていない場合や、施設側が事実を誤認していると思われる場合もあるかもしれません。不当な退去勧告と判断されるときは、施設のスタッフや施設長と話し合ってみてください。話し合っても問題が解決できないときは、以下の窓口や団体に相談してみましょう。

不服がある場合の相談先例

・市役所/区役所等の高齢者相談窓口
・各都道府県の国民健康保険団体連合会
・社団法人全国有料老人ホーム協会(ホームが加盟している場合)

2. 退去に伴う具体的な対応事項の確認

退去勧告の理由が妥当なものと判断されるときは、退去の準備を進めていきます。まずは入居契約書を確認してみてください。退去時の手続きについて記載されています。入居の際に保証金や入居一時金を支払っていた場合は、一部が返還されるかもしれません。

また、退去時に精算が必要になることもあります。入居契約書に原状回復義務を定めている施設では、居室や設備において自然劣化や通常使用の範囲内と判断できない汚れや傷みが見られるときは、修繕などにかかる費用を支払うことが必要です。

主な確認事項

・退去時期
・返還される費用
・発生する費用
・原状回復の範囲

3. 住替え先の検討

退去後の住替え先も検討しておきましょう。多くの施設では退去勧告後すぐに強制退去となるのではなく、90日程度の猶予期間が設けられています。その間に住替え先が見つかれば良いのですが、希望条件を満たす施設が見つからない可能性もあるため、早めに探し始めることが必要です。施設探しはケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談して進めましょう。身体状況や費用面での希望に合う施設を紹介してもらえます。

相談先例

・地域包括支援センター
・ケアマネジャー
・介護施設入居相談窓口

退去勧告されないための備え

・認知症の対応に強みがある施設を選ぶ
・介護度や必要とする医療行為に合わせた施設を選ぶ

問題行動が表れると、悪意はなくても他の入居者やスタッフに迷惑をかけてしまう可能性があります。入居した施設で長く落ち着いて暮らすためにもご本人に合った環境を精査しましょう。

認知症の対応に強みがある施設を選ぶ

認知症の患者を積極的に受け入れている施設なら、周辺症状に対する理解もあり、万が一のときにも柔軟に対応してくれる可能性があります。納得できる施設を見つけるためにも、見学の際には認知症の入居者の割合や暴言にどう対応しているか尋ねてください。可能であれば、認知症の入居者に対するスタッフの対応を見せてもらうと良いでしょう。入居者に笑顔で接している施設なら、周辺症状に対しても穏やかな対応を期待できます。

介護度や必要とする医療行為に合わせた施設を選ぶ

入居可能な要介護度や対応できる医療行為についても確認しておきましょう。入居後に要介護度が高くなることや、持病が進行して別の医療行為が必要になる可能性があります。

現状よりも高い要介護度を受け入れている施設、想定される病気に必要な医療行為に対応している施設なら、要介護度や医療を理由として追い出される可能性が低くなります。たとえば、糖尿病や腎不全に罹患している場合なら、将来的に透析治療が必要になるかもしれません。透析治療に対応した施設なら、病状が進行しても退去勧告を受けにくくなるでしょう。

まとめ

認知症などの持病が進行することで、入居中の施設では対応できなくなることがあります。退去勧告を受けると、施設側に事実誤認などのミスがない限り、約90日以内に住替えを実施しなくてはいけません。施設探しは、ぜひ「LIFULL 介護」の無料サービス「入居相談室」にご相談ください。実績豊富なプロの専門相談員が、施設探しからご入居まで丁寧にサポートいたします。

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この記事の制作者

高畑 俊介

監修者:高畑 俊介(介護支援専門員/介護福祉士)

施設職員、通所介護事業所の生活相談員、居宅介護支援事業所の管理者などを経験。業界14年目の現役のケアマネジャー。業務のかたわら、フリーコンサルとしても開業。介護事業所向けのコンサルティング、Webサイト制作や広告デザイン(ブランディング)などの依頼も受注開始。SNSでは「幸せに働く介護職を増やしたい」をモットーに、業界を明るくする発信を続けている。

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