- 質問
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一人暮らしの母ですが認知症の症状が進んでいます。昼夜問わず頻繁に電話をしてきては些細な話や、「知らない人が家にあがってきた」といった妄想のような話もします。
深夜になってもかけてくるのでストレスに感じています。母は遠方に住んでおり、頻繁に会いに行ったりはできません。
どうしたら良いのでしょうか?(40代・東京都在住)
- 回答
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それは大変ですね。頻回に電話をかけるのは認知症の人にしばしば見られる行動ですが、受け手にとってとても負担が大きく、そして解決が困難な症状の一つです。まずは、あなたの心身を守るため電話が繋がる時間を制限するなどの対策をとってみてください。
ここでは、認知症をおもちの方が頻繁に電話をかけてくる理由や、考えられる対策を解説します。ご家族の負担軽減のためにお役立てください。
- 【目次】
電話をかけてくる理由は?
電話の内容や、ご家族とご本人の関係性にもよりますが、ご本人が電話をかけてくる理由には以下のようなものが考えられます。
(1)認知症の症状に対する強い不安がある
根本的な要因として、認知症による強い不安や混乱、恐怖があることが挙げられます。わからないことが多い、できないことが増えてきた、一体これからどうなってしまうのだろうかと、漠然と深い苦しみを抱えている中で、ご本人は強い孤独感と、認めてほしい思いを抱えています。
認知症だと自覚しておらず、元気そうに見える人でも、日々暗がりの見知らぬ道を歩むような不安を抱えている場合も少なくありません。
(2)一度家族に認められても、それを忘れてしまう
不安があると、人は他の人に認めてもらいたいものです。たとえ些細な失敗や不安でも、「それでよい」「あなたは正しい」と大切な家族に認められたいからこそ、ご本人は電話をかけます。家族と離れて暮らし、電話という手段が支えならなおさらです。
しかし残念なことに、家族に優しく認められたとしても、認知症の症状である記憶障害によりその体験自体を忘れてしまいます。不安の種は生活の中で次々と生まれ、尽きることがありません。ご家族が電話を受け続けても、電話をかけたい気持ちが解消されることは難しいでしょう。
(3)認知症が悪化し、自分で解決できない問題がある
電話が急に増えてきたタイミングと、認知症の悪化のタイミングが重なる場合があります。問題が目立って表に現れていなくても、電話が増えてきたのは、これまでの生活やサポート体制が限界を迎え、ご本人の周りに問題が発生しつつあるという「シグナル」でもあるのです。
電話の内容をそのままうのみにしたり、深刻にとり過ぎてもいけませんが、電話の内容やその頻回さを下の例のようにヒントにしながらご本人を訪ねてみると、実際は予想以上に生活に困難を抱えていたことが判明することも多いのです。
(例1)お金の心配について電話してくる
悪徳商法の犠牲になっていたり、家賃支払いなどでトラブルに遭遇していることもある。
(例2)誰かが入ってくる話を繰り返す
むしろ周囲と孤立して引きこもっていることもある。
(例3)些細な確認の電話を何回もかけてくる
「些細なこと」さえできなくなってきたという不安を抱えていることもある。
こう見てわかるように、ご家族は、電話が頻回にかかってくることに対して「その電話にどう応対するか」を考えるだけではなく、「これまでの本人の生活や現状の課題を見直し、今後どうしていくかを考えるきっかけが来た」と考えるとよいかもしれません。
考えられる7つの対策方法
ご本人とご家族の関係によりけりですが、段階を踏んでさまざまなアプローチを考えていく必要があります。
(1)繋がる時間を限る
四六時中電話を受けていてはご家族の身がもちません。仕事や外出などの都合をもとに、予めご家族に電話が繋がる時間を設定し、それをご本人に伝え、電話帳や電話の周囲に掲示しておくとよいでしょう。携帯電話ならシールで貼ってもよいかもしれません。
当然、それを守ってくれない可能性はあります。しかし少なくとも、「その時間帯なら家族に連絡できる」というご本人の安心材料にはなります。それ以外の時間は留守電にしたり、数回に一回だけ出るようにしてもよいでしょう。「いつも繋がらない」と文句を言われるかもしれませんが、毎回対応したところで、電話の本数が減るわけではありません。
(2)ご家族から電話をかける
あえてご家族から電話をかけてみるというのも、試してみる価値はあります。一日の決まった時間や決まった曜日に定期的にかけるようにしましょう。
ご本人がご家族とのつながりをより強く感じ、認められたという安心感が生まれるかもしれません。ご家族からかかってくることがわかっていると、何か尋ねたいことや話したいことがあっても「今度かかってきたときに聞いてみよう」と思い、結果として電話が少なくなることもあります。
(3)電話の話をしっかり聴く
ご家族には嘘のように思えるでしょうが、どんなに頻回でいつも同じ内容でも、ご本人にとっては「初めての電話」です。ご本人に電話の多さを指摘したり、迷惑だと訴えても通じません。ご家族はお辛いでしょうが、その気持ちをおくびにも出さず、しっかりと話を聴くようにしてください。
上記の時間を限り、ご家族から電話をするなどの対策をした上で、本数を減らすためにも、1本の電話の内容を濃くするのです。「しっかり話をした」という満足感が電話を減らしてくれるかもしれません。
(4)電話の内容を工夫する
苦しみや不安を受け止めることも大切ですが、ただ漫然とそれを続けても、苦しみや不安は消えずにぶり返します。それなら、その話題から離れてみるのも、試す価値があります。
時にはご家族から話題を振ってみることも考えてみましょう。いつもとは反対に、ご本人にちょっとした相談事を持ちかけてもよいし、昔の思い出話を持ち出すのもいいかもしれません。ご家族ならではの親密さで、ご本人が楽しくなるようなキーワードや合い言葉を作ってもいいかもしれません。
(5)客観的な情報を集める
先に説明したように、電話が頻回になってきたときは、何かしらご本人の身の回りでトラブルが起きていたり、問題があることが少なくありません。
しかし、電話でご本人に尋ねるだけでは、出来事を客観的に伝える能力が低下している可能性があるご本人はうまく説明できず、はたしてどのような問題があるのかはっきりしないことがほとんどです。ご本人以外の方にお願いし、情報を集めて、客観的な事実を探りましょう。まずは電話でよいので、ご本人の友人やご本人がお住まいの地域包括支援センターに相談して、情報を集めてみましょう。
(6)ご本人のサポート体制を整える
上のようにして集めた情報をもとに、ご本人を支える新体制を整えましょう。介護サービスや地域包括新センター、民生委員など、多くの人やサービスが支え、見守ることができるようにします。
認知症は進行していきます。現状の課題だけではなく、これからどうするのかなど、中長期的な視点で考える必要があります。ご本人が電話をかける能力がある状態のうちに、ご本人の思いを活かし、その未来に備えることが大切です。
(7)ご家族自身のサポート体制を整える
電話をかけられたご家族は、これまでずいぶん電話に悩まされ、辛い思いをしたことでしょう。職場に電話が何度もかかり、肩身の狭い思いをされたでしょうか。電話を無視したこともあり、罪悪感をもったかもしれません。他のご兄妹にはかけないのに、なぜ自分だけがと理不尽に感じたかもしれません。
ご家族自身が癒されることは、電話をかけてくるご本人にとっても、とても大切なこと。支援を受けることは、介護の一部です。上のようにご本人へのサポート体制を整える過程で、ぜひご家族自身も支援を受けられるように相談してください。
職場に事情を説明したり、家族会に参加し辛さを打ち明けたり、介護サービスをうまく使い休息したりと、ご自身の回復にも十分に力を注いでください。
以上、頻回にかかってくる電話への対策を挙げてみました。もちろん、上記の対策だけで電話のベルがやむとは限りません。しかし、ここで浮上している問題は、電話の回数だけではないのだと捉えてみていただければと思います。
近い将来、ご本人は電話をかけることさえできなくなります。電話が沈黙するそのときに備える必要があると、頻回な電話は示しているのです。ご家族は、電話による現在の辛さを抱え込むのではなく、可能な限り周囲の助けを借りながら、電話の先にある未来を考えてみてください。