【入居できないことも?】老人ホーム|感染症の受け入れ

老人ホーム・感染症

老人ホームや介護施設の契約前には、感染症の有無についての確認が必要です。

これは全ての入居者の安全を担保するためで、感染症があると入居を断られるケースがあります。しかし、感染症の内容や状態によっては受け入れ可能のホームもあります。

ここでは、感染症に対する考え方や老人ホームの対応の違い、入居中に感染した場合の対応について解説します。

契約前に感染症の確認は必須事項

老人ホームでは、入居予定者に対して入居契約前に「健康診断書」や「診療情報提供書」の提出を求め、感染症の有無を必ず確認しています。

健康診断書では血液検査やレントゲンの結果が記載など健康状態を示す内容が記載されています。診療情報提供書もそれに準ずる内容で、傷病名やこれまでの経過、治癒状況などが記されています。

老人ホームによって必要な書式は変わってくるので入居を検討しているのであれば確認しておきましょう。

また、こうした書類は病院から発行されるまで1~3週間程度かかることもあり、入居を検討されているようであれば早めに手配しておきましょう。

【はじめての方へ】意外と時間がかかる!老人ホームへの入居までの流れ

老人ホームや介護施設は、感染症に対する免疫や抵抗力が弱い高齢者が集団で生活している場であり、感染が広がりやすい状況にあります。

感染症の中には感染力が強く死亡リスクが高いものもあり、入居者の安全を守るためにその確認をすることは当然と言えるでしょう。

【知って予防】高齢者に多い感染症の特徴とは|感染経路と予防法

感染症があると老人ホームには入れない?

感染症の対策では、感染経路を遮断するために感染源を持ち込まないことが重要なポイントです。そのため、感染症を持つ方が感染源となりうる場合は、老人ホームに入居できないことがあります。

代表的なものでインフルエンザ、ノロウィルス感染症、腸管出血性大腸菌(O157)、疥癬、肺炎、結核は、特に感染力が強く集団感染が起こる可能性が高いため、それを完治するまでは入居できません。

他方で、MRSA、ウィルス性肝炎、HIV感染症などについては、感染経路が限定されており、日常生活において感染する可能性は極めて低いとされています。

そのため、施設側にはそれを理由に入居を拒否することはできない「応諾義務」があります。

しかしながら、施設側の理解不足やリスク回避のため入居を断られるケースもあります。

入居できるケースもある

下記のように、感染症(保菌者)があっても状況によっては入居が可能なケースがあります。

感染症があっても入居相談ができるケース

結核
感染者であっても「症状が出ていない」場合は感染しないので隔離する必要はありません。検査で排菌していないことが書面等で確認できれば、入居できる可能性があります。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
院内感染を起こす菌として知られるMRSAですが、通常の生活で保菌しているだけでは健康被害はほとんどなく、一般的な清潔維持ができていれば特別扱いをする必要はありません。こうした正しい知識を持ち、応諾義務があることを知っている施設であれば、入居の相談は可能です。
ウィルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)
ウィルス性肝炎は血液、体液が皮膚や粘膜にできた傷から人の体内に入ることによって感染します。入居者の間でそのような接触をすることはほとんどないので、蔓延する可能性は低いと考えられています。こちらも正しい知識を持ち応諾義務があることを知っている施設であれば、入居の相談は可能です。
HIV 感染症
上記のウィルス性肝炎と同じく、HIV感染症も感染する可能性は低く、施設側には応諾義務があります。偏見を排除し正しい知識を持っている施設であれば、入居できる可能性はあります。まずは施設側に相談してみましょう。

あくまで受け入れ可否の判断は各ホームにより異なりますので、個別に問い合わせてみましょう。

LIFULL 介護では、HIV、MRSA(ブドウ球菌感染症)、肝炎、結核、梅毒、疥癬(かいせん)の受け入れが可能な老人ホームを探せます。

老人ホーム入居中に感染した場合の対応

老人ホームや介護施設では、感染の拡大を防ぐため「感染対策マニュアル」に従って、感染対策委員会を設けるなどの体制を敷いています。入居中に感染した場合は、それに沿った対応が行われます。

必要に応じて居室に隔離

感染力の強いインフルエンザやノロウィルス感染症などに感染した場合、ホームでは他の入居者との接触を防ぐため、感染の可能性が無くなるまで居室に隔離することがあります。

特にノロウィルスは、嘔吐物や排泄物からの二次感染を起こすことが多く、下記のように厳重な対策を講じます。

(例)ノロウィルス発症時の施設の対応

栄養補給/おう吐物の処理
脱水防止のため水分補給に注意する
口から水分補給ができない場合は点滴等で対応する
生ものや牛乳、消化の悪いものは避ける
嘔吐症状がでたら食事を摂るかは様子をみながら判断する
食器が嘔吐物で汚れた場合には消毒液に漬け込んで下膳する
洗濯
シーツや衣類など、周囲を汚染しないように運搬し個別に洗濯する
消毒液につけるか熱湯消毒し、洗濯機で洗濯して乾燥させる
入浴
感染の恐れがなくなったら入浴開始
入浴後の洗い場やタオル等の洗浄・消毒も実施

面会や老人ホーム見学も自粛に

嘔吐した人の近くにいて、嘔吐物に触れた可能性のある人に対しては、潜伏期48時間を考慮して様子を見ます。

感染ルート、施設内で他に発症者がいないかどうかを確認し、24時間のうちに水様便や嘔吐症状の発症者が2人以上になった場合には、施設全体に緊急体制が敷かれます。

特に、嘔吐物・排泄物の処理の手順、使い捨て手袋、マスク、消毒液の使用、手洗い、換気を徹底します。

また、状況が落ち着くまで面会は必要最小限となったり、老人ホームの見学も自粛されるなど、外部の出入りが極力ないような措置がとられます。

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まとめ

施設運営では入居者の安全を守る義務があり、感染症の受け入れに対して敏感になるのは当然のことです。

しかし、それが偏見や差別意識に繋がることがあります。それぞれの感染症について、スタッフ全員が正しい知識を持ち、適切な対処方法を知っておくことも重要です。

ウィルス性肝炎やHIV感染症の方に対する入居拒否が、「応諾義務」があるにも関わらず行われていることは、まさに施設側の勉強不足と言えます。

インフルエンザやノロウィルスなどの感染力が強いものが発症した時は、スタッフの知識、対応力がものを言い、普段の研修成果が現れます。

感染症に対する考え方でも、そのホームの教育体制の在り方や成熟度がわかると言えるでしょう。

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この記事の制作者

武谷 美奈子

著者:武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

学習院大学卒 福祉住環境コーディネーター 宅地建物取引士
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の高齢者の住まい選びについての相談を受ける。 「高齢者住宅の選び方」「介護と仕事の両立」等介護全般をテーマとしたセミナーの講師をする傍ら、テレビ・新聞・雑誌などでコメンテーターとして活躍。 また日経BP社より共著にて「これで失敗しない!有料老人ホーム賢い選び方」を出版。

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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