延命治療とは文字通り延命を目的とした治療で、行うか否かはご本人の尊厳にも深く関わる問題です。ご本人が元気なうちにコミュニケーションを取って、実施するかどうかの意思を確認しておく必要があります。
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- 【目次】
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延命治療とは
延命治療とは、衰弱や病気などで生命の維持が難しい方に対して、回復ではなく「延命」を目的に治療することです。呼吸のサポートをしたり、栄養や薬などを投与したりすることで生存時間を延ばします。
その他のケアとの違い
延命治療と類似したものに、緩和ケアやターミナルケアがあります。それぞれの違いや定義について正しく確認しておきましょう。
緩和ケアとの違い
命を維持するための延命治療に対して、緩和ケアは最期まで穏やかに生きるために療養生活の質を維持することを目的としています。ご本人の身体状況はもちろん、ご家族の心理状況などに至るまでケアを行い、生活の質(QOL)を改善します。
出典:公益社団法人 日本WHO協会「緩和ケア」
ターミナルケアとの違い
命を維持することを最優先とする延命治療に対して、ターミナルケアは患者の生命を尊重しつつ、最期の時間をより穏やかに過ごすことを目的としています。日本語では「終末期医療」や「終末期看護」と訳され、身体的・精神的・社会的なケアを行います。
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延命治療の内容
延命治療では大きく分けて3つの措置が施されます。ご本人の状態によって措置が異なるので、あらかじめ把握しておきましょう。
人工呼吸
人工呼吸は自力で呼吸ができない方に対して行われる処置で、人工呼吸器によって酸素を肺に送ります。呼吸器をつないでいる間は生命を維持できますが、一度外すと延命が難しくなります。
人工栄養
人工栄養は、口から食事を摂れない方に対して行われます。食事による栄養摂取ができないため、胃ろう、経鼻経管栄養法、中心静脈栄養などの方法で栄養を体内に送ります。
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人工透析
人工透析は、慢性的な腎不全を患っている方に対して行われる処置です。腎機能が低下しすると、血液中の老廃物を取り除けなくなるため、人工透析によって除去します。
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延命治療の選択を家族が問われるケース
ご本人が自力での生命維持が難しくなったときに、ご家族が延命治療の選択を急に迫られるケースは少なくありません。延命治療を選択する際は、ご本人に判断能力がなかったり、意思を伝えられなかったりする状態である場合がほとんどのためです。
元気なときに「延命治療をしないで」とご本人が意思を示していても、いざその状況になるとご家族がためらうこともあるでしょう。
こうした問題に対応するため、厚生労働省によるガイドラインがあります。人生の最終段階における医療・ケアの在り方においては、「本人による意思決定が基本」と記載されています。
ご本人の意思確認ができない場合は、ご家族が判断することに。ご本人が元気なうちにしっかりとコミュニケーションを取ったうえで、適切な判断をすることが求められています。
出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
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尊厳死とは
ご本人が自らの意思で延命治療を受けずに、自然な最期を迎えることを尊厳死といいます。日本では法律上認められていませんが、厚生労働省のガイドラインにより、特定の状況下で延命医療の中止が選択されるようになりました。
内閣府の調査によると、高齢者の91.1%が「延命のみを目的とした医療は行わず、自然に任せてほしい」と回答しています。ご本人の意思表示ができなくなる前に、終末期の対応を話し合っておきましょう。
出典:内閣府「平成25年版 高齢社会白書」
出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
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ご本人が延命治療を希望しない場合の対応
ご本人が延命治療を希望しない場合は、終末期においてどのようなケアを望むか意思表明しておく必要があります。複数の方法があるので、最適なものを選ぶとよいでしょう。
リビング・ウイルを作成する
リビング・ウィルとは「人生の最終段階における事前書」です。日本では、公益財団法人日本尊厳死協会による公式な書面があります。リビング・ウイルを作成することで、平穏死や自然死を望み、死期を延ばすだけの延命治療は希望しない旨を表明できます。
出典:公益財団法人日本尊厳死協会「リビング・ウイルとは」
尊厳死宣言公正証書を作成する
尊厳死宣言公正証書とは、延命治療を受けず、尊厳死を希望する意思を示すための公文書です。いざ延命治療の選択を迫られた際に、ご本人の意思として尊重されるケースが多いです。ただし日本では、尊厳死宣言公正証書は法的な拘束力を持たないため、必ずしも受け入れられるわけではありません。
人生会議を行う
人生会議とは、ご本人が望む医療やケアについて元気なうちに考えて、ご家族や医療ケアチームと話し合ったり、共有したりする取り組みです。「アドバンス・ケア・プランニング」の名称でも知られています。さらなる普及拡大を目指して、厚生委労働省により「人生会議」の愛称が付けられました。
出典:厚生労働省 「人生会議」してみませんか
【専門家が回答】親の終末期|延命治療の意思を確認すべき?延命治療について正しく理解して、ご本人が元気なうちに話し合いを
延命治療の選択はご本人の尊厳に深く関わる問題です。ご本人が元気なうちに、いざという時にどのような選択をするか話し合っておきましょう。ご本人の意思を尊重するうえではもちろん、ご家族が必要以上に迷ったり苦しんだりしないためにも必要な作業です。
延命治療をしない場合は、最期を迎える場所ついても考える必要があります。馴染み深いご自宅で過ごしたり、サポート体制の整った施設で最期を迎えたかったりと、さまざまな考え方があるでしょう。「LIFULL 介護」では、看取りについて相談可能な施設情報を掲載中。施設入居も選択肢にある場合は、ぜひ参考にしてください。
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イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:横山由希路(ライター)
町田育ちのインタビューライター。漫画編集、ぴあでのエンタメ雑誌編集を経て、2017年に独立。週刊誌編集者時代に母の認知症介護に携わり、介護をはじめて13年が経った。2020年にひとりっ子でひとり親を介護している経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」(2刷)を企画・構成した。
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