【はじめての方へ】人工透析(血液透析・腹膜透析)の特徴と起こりやすいトラブル

人工透析とは、病気などの影響で腎臓の機能が著しく低下したときに、人工腎臓を使って老廃物や不要な水分を除去すること。血液透析と腹膜透析の2種類があり、それぞれ全く違う特徴を持っています。ここでは血液透析と腹膜透析の違いや経済的な負担、介護施設での受け入れについて解説します。

人工透析の対象は慢性腎不全の方

人工透析は老廃物をろ過・除去する腎臓の働きが徐々に低下し、十分に機能しなくなった慢性腎不全の患者さんに行われます。慢性腎不全は一度発症すると完治することはなく、治療法は主に人工透析か臓器移植。しかし、日本では臓器移植の実施件数が少ないのが現状で、生涯にわたって人工透析を続けていく人がほとんどです。

血液透析と腹膜透析のちがい

人工透析には血液透析と腹膜透析の2種類があります。血液透析は多量の血液を体外に導き出し、特殊なフィルターを搭載した機械に通すことで血液中の老廃物や不要な水分を除去する方法です。

一方、腹膜透析はお腹の中の臓器を支えている腹膜の中に透析液を注入。血液中の老廃物や不要な水分は透析液に引き込まれるため、そのまま透析液ごと排出します。このうち、手動で透析液の注入・排出を行う方法をCAPD(連続携行式腹膜透析)、夜間に機械を使って自動的に透析液の注入・排出を行う方法をAPD(自動腹膜透析)といいます。それぞれの特徴についてみていきましょう。

血液透析 腹膜透析
CAPD APD
導入前の準備 血液を多量に体外に導き出し、また多量に体内に戻すため、手術によって動脈と静脈を縫い付けて太い血管(シャント)をつくる 透析液を腹膜の内部に入れて、また体外に排出するためのカテーテル(管)を、手術によって挿入する
透析場所 医療機関 自宅
1回あたりの拘束時間 4〜5時間 1回30分程度 夜間寝ている間に実施
実施頻度 週に3回 1日に4〜5回程度 1日1回
通院回数 週に3回 月に1〜2回程度
実施可能な期間 とくに制限なし 腹膜の状態を考慮し、5〜7年で血液透析などへ移行する
抗凝固剤の使用 透析中に血液が固まるのを防ぐため、抗凝固剤を使用する 不要
食事制限 水分、塩分、カリウム、リン、タンパク質の摂取量に制限がある 血液透析ほどの厳しい食事制限は不要だが、水分、塩分、カリウム、リンを取りすぎないように、バランスの良い食事を心がける
体重管理 透析時の合併症を防ぐために、透析終了時の目標体重(ドライウェイト:DW)を定期的に見直し、体重が著しく増減することがないように管理する 血液透析ほどの厳しい体重管理は必要ないが、著しく増減することがないように管理する
社会復帰 夜間に血液透析を行うことで可能 会社などで透析液の交換を実施することで可能 可能
旅行 旅行先にある透析施設を利用することで可能 緊急時に受け入れてくれる医療機関を探すとともに、あらかじめ旅行先に機械や透析液を手配することで可能

また、血液透析と腹膜透析では起こりやすいトラブルも異なります。

血液透析で起こりやすいトラブル

不均衡症候群

血液透析を始めたはかりの人によくみられます。透析によって細胞の中と外の体液の成分バランスが崩れてしまい、頭痛、吐き気、けいれん、こむら返りなどが起こります。通常、しばらくすれば症状は和らぎます。

血圧変動

透析中は血圧が乱れやすいため、適宜血圧測定を行います。透析中に冷や汗が出る、生あくびがでる、目の前が暗くなるなどの症状が出る場合、早めに医療スタッフに申し出ましょう。

出血

血液透析では体外に血液を送り出すため、血液が固まりやすくなります。それを防ぐために抗凝固薬を使用するので、血が止まりにくくなます。抜歯や手術がある場合にはスケジュールの調整が必要ですので、医療スタッフにご相談ください。また透析実施後の止血は必ず確認しましょう。

シャントトラブル

血液透析を続けるために、シャントトラブルを防ぐことは重要です。起こりやすいトラブルはシャントの狭窄、詰まり、感染。狭窄・詰まりの防止には、血圧測定やかばんなどでシャントを圧迫しないことが大切です。また体重管理、水分管理もきちんと行いましょう。感染防止には皮膚を清潔に保つとともに、シャントのある腕で採血や点滴をしないなどの注意が必要です。

腹膜透析で起こりやすいトラブル

感染

透析液を注入するときに細菌などの微生物が付着すると、感染の原因となります。透析の実施方法は看護師から指導を受けますので、その方法をしっかりと守って感染を防止しましょう。またカテーテルが入っている皮膚から感染を起こすことも少なくありません。皮膚の清潔を守るとともに、赤みや痛み、腫れ、熱感、膿がみられたときにはかかりつけ医を受診しましょう。

透析液の貯留

透析液の排出がうまくできず、腹膜の中で溜まってしまうことがあります。血圧の変動や息苦しさ、おへそや鼠径部(そけいぶ:足の付け根)、陰部の違和感・腫脹などの症状があらわれることも。日々、体調に変化がないかを確認するとともに、飲水量・尿量・排液量のバランスが乱れていないかをチェック。体重の著しい増加などがみられるときには医師に相談しましょう。

人工透析で使える公的助成制度

人工透析にかかる費用は安くありません。血液透析では月に約40万円、腹膜透析では月に30〜50万円が必要といわれています。そのため、公的助成制度の利用で経済的負担を減らすことも大切です。

医療保険の長期高額疾病(特定疾病) 

医療保険には高額の医療費を支払った場合に、上限額を超えた分を払い戻す高額療養費制度があります。慢性腎不全による人工透析はその特例として、申請することで上限が月額1万円となり、それ以上支払う必要がありません。加入している保険者の窓口に問い合わせるとよいでしょう。

自立支援医療(更生・育成医療)

障害者の負担を軽減するための国の制度で、世帯所得に応じて自己負担分を助成します。まずは身体障害者手帳の交付申請から行いましょう。

重度心身障害者医療費助成制度

障害者の負担を軽減するための都道府県や市区町村の制度。自治体ごとに内容が異なるため、お住まいの地区の障害者福祉課に相談しましょう。

介護施設に入居できる?人工透析の方の受け入れ

血液透析の場合、通院に付き添う職員の確保や体重・食事の管理が必要になるため、受け入れが難しい施設も少なくありません。一方、医療機関との協力・連携関係を取り、送迎体制を整えることで、積極的に血液透析患者を受け入れる介護施設も増加しています。また、透析クリニックを併設する有料老人ホームもありますので、探してみるとよいでしょう。

一方、腹膜透析は本人・家族・医師以外は、看護師でなければ行えません。看護師が在籍していても手技が煩雑なために、受け入れられない場合もあります。ただし訪問看護といった介護サービスを使ったり、自分で透析液を交換できる場合は受け入れが可能なこともあるため、主治医やケアマネジャーに相談してみるとよいでしょう。

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イラスト:坂田 優子
監修:岩本 大希
 

この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

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noteKaori Yagome*看護師

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