【入居者100人に聞いた】特別養護老人ホーム(特養)の入居条件と待機期間
特別養護老人ホーム(以下、特養)は、地方自治体や社会福祉法人が運営する公共性の高い老人ホームです。
たいてい各市町村に1つ以上あり、利用料も安価なことから入居を希望する人が多く、待機者の多さが問題視されていました。
この記事では、待機期間の長さについてのアンケート結果をご紹介し、早く入居するためにはどうすればよいか?また、待機期間をどう過ごすかについてお伝えします。
特養の入居基準は?
特別養護老人ホームの入居基準は介護保険法などにより、下記のように定められています。
入居条件
- 介護度が要介護3以上で、感染症などの医療的処置を必要としない方。
- 特定疾病が認められた要介護3以上で40歳~64歳までの方。
- 特例による入居が求められた要介護1~2の方。
<40歳から64歳までの特定疾病>
- がん【がん末期】(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病【パーキンソン病関連疾患】
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
<要介護1~2の特例要件>
- 認知症で、日常生活に支障を来すような症状等が頻繁に見られる。
- 知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状等が頻繁に見られる
- 深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態である
- 単身世帯等家族等の支援が期待できず、地域での介護サービス等の供給が不十分である
なお、特別養護老人ホームは、老人福祉法に基づく居住施設であり、生活保護を受給している方でも入居は可能です。
医療費についても医療扶助が適用され自己負担がなくサービスを受けることができます。
入居までに待った期間
特別養護老人ホームの申し込みから入所までの待機時間
調査方法:インターネットリサーチ
調査期間:2014年4月4日~4月10日
調査対象:全国40~79歳のご家族が高齢者施設に入居した経験がある男女1,630名
入居待ち(待機)とは、申し込んでから実際に入居する期間のことを言います。
行政が窓口となっていた時代と異なり、直接施設に申し込めるようになったことや、書類や手続きが簡略化されたこと、有料老人ホームなどに比べて費用が安く人気があることも、待機期間が長い一因とされています。
2014年3月の厚生労働省の発表では、約52万人が待機しているということでした。
また上のグラフは2014年のインターネット調査によるものですが、この調査でも42%の人が3ヶ月以上の待機期間があったと回答しています。
しかし、2015年4月1日の介護保険制度改正で、入居要件が要介護3以上に変更になったため、法改正以降は大幅に減っていることが予想されます。
ある施設では、待機者リストから要介護3以下を削除したところ150人いた待機者が80人ほどになったそうです。
さらに要介護3以上の方の現況を調査したところ「退院できる病状でない」「他の施設に入所して落ち着いている」「すでに死亡した」などの理由から、入居希望を取り下げた方が多く、実質的な待機人数は40人程度になったそうですので、これまでよりも待機期間は短くなることが予想されます。特養の入居待機者について詳しく見る
特養に早く入れる方法はある?
待機者が減少している見込みはあるものの、実際に申し込んだら少しでも早く入居を実現したいと考えるもの。
ここでは、特別養護老人ホームになるべく早く入居するためにできることをご紹介します。
状況や介護度の変化は逐次報告する
特養の入居判定は、「申し込み順」ではなく、「緊急性」を考慮します。申込書に「どのくらい緊急を要しているか」を具体的に書いてください。
また、施設でも定期的に待機者の状況確認を行っていますが、総数が多い場合一人一人を把握することは困難です。
緊急性が上がれば入居も早くなりますので、介護度や状況に変化があれば、申込者からその都度報告してください。
また、公共性のある特養には今も、やむを得ない事情がある場合に市町村が認める「措置(行政による保護)」があります。
「やむを得ない場合」は柔軟に判断されるもので、下記に該当するような場合は、市町村に相談すると早く入居できる場合があります。
- 高齢者が、虐待を原因として、家を出たいなど、保護を求めている。
- 頭部外傷、腹部外傷、重度の褥瘡などで、重篤な外傷がある。
- 衰弱状態である。
- 意識混濁があり、意識レベルが低い状態にある。
- 重い脱水症状、栄養失調がある。
- 高齢者が、強く自殺を訴えている。
- 養護者が、高齢者に対して、殺意等を訴えている。
- 養護者が、高齢者に対して、暴力をふるっているところを発見した。
探す地域を広げてみる
現在、都内などの一部の特養を除き、待機者は減少しているようです。また同じ東京都内でもすでに定員を割り、生活相談員が入居者募集の営業に歩いている施設もあります。
この待機者数には地域差があるので、ご希望の施設の待機者が多い場合は、他の市町村や県をまたいで特養を検討してみるのも一つの手です。近隣の自治体に問い合わせ、情報収集を行ってみてください。
【動画】特別養護老人ホーム 何年待ち?
入居待ちの期間はどうする?
特養への入居待ちの期間、家庭での介護が難しい場合は、一時的に家庭外のどこかへ入居して生活する必要があります。
入居待ちまでの期間をどのように過ごすかについて、選択肢をご紹介します。
- 有料老人ホームで待機する
- 月払い方式で入居一時金などがない、比較的安価な介護付き有料老人ホームで待機するのもよいでしょう。
- なお、有料老人ホームでは自分で用意しなくてはならないベッドや寝具、収納家具は、特養では備品になりますのでので、購入よりもレンタルの方がよいでしょう。
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- ユニット型の特養を狙う
- 近年増加している「ユニット型特養」を狙うという選択肢もあります。
- 比較的費用が高いため、空室の可能性が高い居室タイプとなっています。比較的費用が高いと言っても、一般的な有料老人ホームの価格よりは安く入居が出来ます。
「ユニット型」とは、それぞれの居室は個室となっているのですが、10人程度の「ユニット」が組まれ、その単位で介護職員がつき、生活を行うタイプの特養です。プライバシーが守られた生活が送れる上に、キメ細やかなケアができるよう配慮されたものになっています。 - 入所希望の特養の短期生活入所介護(ショートステイ)を利用して待機する
- 短期生活入所介護(ショートステイ)は、数日間、施設に短期入所して日常生活の世話やレクリエーション、リハビリなどを受けられます。
- その名称通り短期間の利用となるため、在宅介護も行わなければなりませんが、現在申込されている施設で、特に入居を希望している施設や、早めに入居できそうな施設の「短期生活入所介護(ショートステイ)」を利用して、施設に馴染んでおくのもよい方法です。
- 特養のショートステイの利用方法や注意点は?
特養への入居手続き
特養の入居申し込みはとても簡単です。施設や市町村によって申込書の記載内容や必要な書類が異なるので注意してください。
申し込み
- 希望する施設に訪問または郵送で、入居に必要な書類を入手。
- 入居申込書・介護保険証のコピーなど必要書類を揃えます。市町村や施設によっては、介護認定調査票の写し(市町村で発行)、健康診断書(主治医に依頼)などが必要になってきます。
- 必要書類を揃えて希望の施設に直接申し込みます。希望の施設が複数の場合は、施設ごとに申し込みが必要です。
入居手続き
- 入居が可能との連絡が入ったら入居予定日を調整します。その際の送迎は施設が行うこともありますが、場合によっては家族に委ねられる場合もあるので、事前に確認しておきましょう。自分で送迎を手配しないといけない場合には、介護タクシーの利用もあります。 介護タクシーの料金と利用方法について詳しく見る
- 自宅または施設にて、契約書、重要事項説明書、身元引き受け書その他多数の書類の説明を受け、署名と捺印を行います。
- 特養に入居した場合、原則として住民票を特養の所在地に異動しなければなりません。もし、住所変更を行わない場合は、介護保険関係や老人医療関係などの郵便物が施設に届くようにしておくと、事務処理がスムーズです。
入居先選びは慎重に
特養は「終の棲家」といわれ、多くの方々が施設で最期を迎えています。平均的な入居期間は4年ほどですが、そこが「家」である以上、楽しく暮らしたいものです。
時々「現在入居している特養が合わないので、他の施設に移りたい」と相談される入居者の方がいますが、他の特養の空き状況の兼ね合いから、簡単には移ることができないのが実情です。
現在の施設に緊急性をもって入居していても、すでに施設に入居している場合は「緊急性が低い」とみなされ、施設を移ることは難しくなります。
待機や立地など、施設を選ぶにはさまざまな要素がありますが、日々楽しい生活を送れるよう、「終の棲家」としてふさわしい特養をお選びください。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
監修者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。