介護付有料老人ホーム『アズハイム川越』では、2ヶ月に一度、高齢者の介護・認知症予防を目的にしたフラワーアレンジメントのレクリエーションを実施しています。このレクリエーションを提供するのは、全国で約200店舗を展開するフラワーショップの日比谷花壇です。

日比谷花壇は、研究機関とともに「フラワーアクティビティプログラム」を開発し、社会福祉事業としてその普及に取り組んでいます。高齢者がお花に触れることで得られる効果とは?プログラムを取材しました。


季節の花に触れて楽しむ。五感に働きかけるプログラム

 
今回生けるアレンジの見本を紹介する講師の重田さん

【今回生けるアレンジの見本を紹介する講師の重田さん】


「今日は、おひな祭りに飾れるようなお花のアレンジを用意しました」
午後2時。フラワーアレンジメントのレクリエーションに集まった入居者を前に、講師の重田章子さんが今日アレンジするお花のテーマを発表しました。一週間後にひな祭りを迎えるということで、今回は春の花々をあしらったひな祭りのイメージでお花を用意したそう。

花材は、早咲きの啓翁桜(けいおうざくら)、ピンクの花弁が魅力的なラナンキュラス、一つの茎に沢山の花をつける紫色のストック、そして春の訪れを感じさせる黄色い菜の花の4種類。

参加者の手元には花器が用意されており、中に水を含ませたオアシス(生け花の土台となるスポンジ)が入っています。まずは、オアシスが十分湿っているかを各自手で触れて確認。その後、重田さんの指導に従って、一本ずつお花を生けていきます。

 

オアシスの含水量を確認する参加者の様子
【オアシスの含水量を確認する参加者の様子】


重田さん「桜の枝から生けましょう。どの向きで生けたらキレイか、枝ぶりを見ながら、倒れないように生けてみてくださいね」

桜の枝は切るのに力が必要なため、予め長さを揃えてあります。生ける際にも少々力が要りそうです。スタッフのサポートを受けながら、3本の長さの異なる枝を順番に生ける参加者のみなさん。まなざしがとっても真剣……!

全体のバランスを考えながら、真剣な表情で桜の枝を生けるご入居者
【全体のバランスを考えながら、真剣な表情で桜の枝を生けるご入居者】


重田さん「次はラナンキュラスを生けましょう。“とても魅力的”という花言葉を持つお花です。とても女性らしい雰囲気がありますよね」

ラナンキュラスは、参加者が自分の手で枝を切りました。長さの目安は手首より少し長いくらい。スタッフが見守るなか、花切りバサミを使って茎を切り落とし、花器の真ん中に生けました。

菜の花、ストックも同様に生けていきます。お花の数が増えるにつれて、テーブルの上が華やいできました。同じように生けていても、参加者の好みが反映されてそれぞれに個性的な仕上がりに。

ときどき重田さんやスタッフにバランスを確認しながら、自由にのびのびとアレンジを楽しんでいる参加者の様子がとても印象的でした。

 だんだんと完成に近づいてきました。とってもきれいです!

【だんだんと完成に近づいてきました。とってもきれいです!】


重田さん「みなさんとっても素敵に仕上がりましたね!ひとつひとつ、見せてくださいね。こちらのアレンジは、桜がスッと伸びやかですし、その後ろに広がる菜の花もすてきですね!お花たちもきっと喜んでいますよ!」

完成したアレンジは、重田さんがひとつひとつ講評していきます。お花から受ける印象や工夫を凝らしていたポイントなどを丁寧に解説。「その作品にどんな魅力があるか?」をとても具体的に伝えていました。その言葉を聞いて、嬉しそうな表情をみせる参加者に私もほっこり。

 花器を手に取りながら、出来上がった作品の魅力を語りかける重田さん

【花器を手に取りながら、出来上がった作品の魅力を語りかける重田さん】


今日完成したアレンジは、毎日お水をあげることで桜の開花を楽しめるデザインになっているのだとか。桃の節句のころには、美しく咲く桜の様子をお部屋で眺めることができるそうです。
さいごに、全員でひな祭りの歌を合唱してプログラムは終了。みなさん、お疲れさまでした!


      

花を通じたコミュニケーションを楽しむことが介護予防につながる


『アズハイム川越』を運営する株式会社アズパートナーズは、2012年より日比谷花壇と業務提供し、レクリエーションとして「フラワーアクティビティプログラム」を導入したそうです。

講師を務める重田章子さんは、『アズハイム川越』のオープン時からクラスを担当しています。日比谷花壇が取り組む「フラワーアクティビティプログラム」について、詳しくお話を聞きました。

ホーム内に飾ってあったひな壇の前で

【ホーム内に飾ってあったひな壇の前で】


――今日は、春の訪れを感じるすてきなフラワーアレンジが仕上がっていましたね。

重田さん:ありがとうございます。季節の移りゆく様に合わせて、1年を24等分にした24節気に基づいて、旬の花材を使用し、その季節に合ったテーマを設定しています。また、5節句などの季節の行事もテーマに取り入れています。今回は、おひな祭りも近いので、桃の節句に合う春らしいアレンジをご用意いたしました。


――二十四節気に基づいてテーマを決める理由はなんでしょうか。

重田さん:普段なかなか外出の機会がない高齢者の皆さまに、少しでも季節の移り変わり、四季を感じていただくため、季節に合ったテーマ、お花をご用意

しています。また、桃の節句をはじめ、端午の節句や七夕などの昔ながらの行事は、高齢社の皆様にとってとても馴染み深いものなので、思い出話に花が咲くんですよね。


――うたも歌っていらっしゃいましたよね。

重田さん:最後にうたを歌うと、わーっ盛り上がって、みなさん「すごく楽しかった!」と言ってくださるので、取り入れるようになりました。うたをきっかけに気持ちがほぐれて、ご家族との思い出を話してくださるようになったりするんですよ。不思議ですね。


――フラワーアレンジメントが高齢者の介護予防にどのように役立つのでしょうか?

重田さん:大きく3つあります。生花に触れると元気をもらえる、というのがまずはいちばんの効果かなと思います。花の香りには副交感神経活動を活性化し、脳の前頭前野をリラックスさせる効果があります。

次に、一つの作品をつくりあげるまでの一連の作業によって、身体機能のリハビリ効果も期待できます。意思決定など思考力の維持にもつながります。

また、講座を通して他の人とのコミュニケーションの機会を持つことができたり、達成感を味わえたりします。終わった後にお部屋に飾って育てるのも、生活を彩る楽しみになるのではないでしょうか。

 参加者に笑顔で語りかける重田さん

【参加者に笑顔で語りかける重田さん】


――プログラムのゴールは設定してますか?

重田さん:このプログラムは説明した通りにつくらなくても、ご本人が満足していればオッケーなんです。ですので、参加者が笑顔で「よかった」と思ってもらえるアプローチをすることをゴールにしています。


――そのためにどんな工夫をしていますか?

重田さん:毎回、講座終了後に個人シートを記入して、参加者ごとのご様子をぜんぶ控えています。それを踏まえて、次回はどうアプローチしようかと考えます。たとえば、自己否定の強い方にどんな言葉かけをすれば笑顔になっていただけるのか?とかですね。毎回試行錯誤しています。


――重田さんのように高齢者向けに「フラワーアクティビティプログラム」を実施するためには資格が必要なのですよね。

重田さん:フラワーライフスタイリスト協会という、日比谷花壇が賛助会員となって応援している団体がありまして。そちらが開講するフラワーファシリテーター養成講座で認定された者がプログラムを実施しています。高齢者の方に配慮した会話や進行の仕方、寄り添い方などの大事なスキルを学びます。


――『アズハイム川越』のホーム長やスタッフの方も受講されたと伺いました。

重田さん:はい。おかげさまで講座運営に、資格を持った介護スタッフの方が加わっていただけているので、現場の動きもスムーズです。参加者さまに何かあった時も専門の方がそばにいるのは安心感がありますね!これからも一緒に学びながら取り組んでいけたらと思います。

 

アズハイム川越:レクリエーションの取材を終えて


ただ見本通りにお花を生けるだけではなく、生花に触れたときの感覚的な充足感、ものを作る喜びや参加者同士のコミュニケーションなど、介護予防に効果的な要素が織り込まれた「フラワーアクティビティプログラム」。

このプログラムは、研究に基づいたマニュアルをベースに、現場の経験を踏まえ、何度もブラッシュアップを重ねて今の形になっているそうです。実際に現場で起った出来事から、効果のあったものを取り入れているのですね。

また、重田さんの自然な進行のなかに、会話のテンポ、目線の高さ、向き合う距離感など多くの配慮が散りばめられていたのにも驚きました。講師がどれだけ参加者のいいところを引き出せるかが、楽しい講座運営のコツだそう。

今回はそばで見学しているだけでしたが、次回はぜひ、一緒に参加してみたいなと思いました!