質問

有料老人ホームに入居する父の認知症状が進行し、ホーム内を徘徊するようになりました。先日ホーム側から、父が別の入居者の部屋に入ってトラブルになったと連絡を受けました。そして、職員数も限られ頻繁に徘徊する父を看ることが難しいので退去してほしい、と告げられました。
退去勧告を受けたら必ず退去しなければならないのでしょうか。

回答
武谷 美奈子

まずは、入居契約書と重要事項説明書を確認しましょう。「退去要件」や「事業者からの契約解除の内容」という項目に該当するかが、退去勧告に従うことになるかのポイントになります。事業者側からの契約解除は、入居者の権利を不当に狭める内容ではないことが条件となっています。それまでの経緯の説明を受け、ホーム側の努力が納得できるものであるかを確認しましょう。

退去勧告に納得できなければ、裁判や苦情申し立てを行うこともできます。しかし、結論が出るまでには時間や費用がかかることがあります。その状況がお父様やご家族にとってベストかどうかをよく考え、場合によっては、有料老人ホーム側の協力を得て転居先を探すことも一法でしょう。 武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

【目次】
  1. 退去勧告される状況とは
  2. 退去勧告に強制力はあるのか
  3. すぐに退去しなければならないのか
  4. 入居金は戻ってくるのか
  5. 退去勧告に納得いかない そんなときどうする?
  6. まとめ

退去勧告される状況とは


退去要件を必ず確認

有料老人ホームとの入居契約はいわゆる「終身利用」を確約するものではありません。途中の契約解除は、入居者側が解約した場合はもちろん、事業者側の申し出により解除に至る場合もあります。入居契約書の「退去要件」、重要事項説明書の「契約の解除の内容」にその内容が記されていますので、契約の際には必ず確認しましょう。

事業者側からの契約解除事由としては、下記のようなものがあります。

入居金や利用料の滞納
有料老人ホーム側からの再三の督促にも関わらず、保証人からも支払いがない場合

身体状況の変化
看護師の配置時間帯などにより、ホームでは対応できない医療処置が必要になった場合など

他の入居者や従業員への暴力等の迷惑行為
認知症が進行するなどして、他の入居者や従業員に暴力をふるったり、夜間の奇声、器物損壊などの迷惑行為が通常の介護方法ではおさまらない場合

一定期間以上のホーム不在
長期の入院などで、6ヶ月以上などホームによって決められた一定期間以上不在にする場合

不正入居が発覚した
入居を断られるのを恐れ、認知症症状が進んでいたにも関わらず、その事項を偽って申込書に記載するなどして入居したことが発覚した場合など


転居を伴う退去の具体例

①認知症介護に定評がある老人ホームに転居
老人ホーム入居後に認知症症状がさらに進行し、スタッフに噛みつくなどしたため退去勧告を受けた。知人からの紹介で認知症介護に定評のある別のホームに転居し、現在は状態も落ち着いている。

② 24時間たんの吸引が必要になり、療養型医療施設に入院
嚥下機能が低下し誤嚥性肺炎で入院、たんの吸引が必要な状態となったが、それまでいた老人ホームは看護師が日中しかおらず、夜間のたん吸引対応は難しいと言われ退去。近隣で24時間看護師常駐のホームを探したが、費用が折り合わず、療養型医療施設に入院した。


③看取り体制が整うホームに転居
老人ホーム入居中に癌が発覚、ステージⅣまで進行していた。余命3ヶ月と宣告され、それ以上の治療行為は行わないことを決意。ホーム側に相談したところ、ホームでの看取りはできないとのことで、看取り体制が整っているホームを紹介してもらい転居した。

>老人ホームの退去要件とは?

退去勧告に強制力はあるのか


有料老人ホーム側からの退去勧告は、入居契約書に記載されている退去要件に該当していれば効力があります。しかし、他の入居者や従業員への暴力等の迷惑行為が事由での退去勧告は、「通常の介護方法・接遇方法では防止できない場合」と条件があり、それに該当するかは双方に判断の相違が出ることもがあるでしょう。退去勧告に納得できない場合は、裁判や苦情申し立てなどを行うことができます。

そのまま何もせず、退去勧告にも従わずにいれば、有料老人ホーム側から訴えられる可能性もあることを心に留めておきましょう。


すぐに退去しなければならないのか


「すぐに出てください」は現実的にありえない

事業者側からの契約解除は概ね90日の予告期間を設けているところが多いです。その間で転居先などを決める必要があります。転居先探しは、入居しているホームにも協力してもらいましょう。


次の行き先が決まらない場合の住まい

退去勧告の期日までに次の施設が決まらない場合は、入居しているホームに相談してみましょう。
ホーム側がそれ以上の入居を認めない場合は、ショートステイやミドルステイを行っている民間施設(有料老人ホームなど)を探したり、いったん在宅介護に戻り、ケアマネジャーに特別養護老人ホームなどの公的施設のショートステイやミドルステイを探してもらうことも検討してみましょう。


入居金は戻ってくるのか


退去が確定した場合、退去日が入居金の償却期間内であれば、設定されている計算式に従って入居金の一部が返金されます。償却期間を過ぎていれば返還金はありません。

償却期間とは、入居金を預かる期間のことです。その期間中は1ヶ月ごとに償却され、事業者側の売り上げに計上されます。退去日が償却期間内の場合は、未償却の部分が返還されることになります。    
>介護付き有料老人ホームの費用の仕組みを詳しく見る

退去勧告に納得いかない そんなときどうする?


退去勧告に納得いかない場合は、下記のような外部の苦情対応窓口に相談する方法があります。

・市役所/区役所等の高齢者相談窓口

・各都道府県の国民健康保険団体連合会

・社団法人全国有料老人ホーム協会(ホームが加盟している場合)など

各老人ホームの「重要事項説明書」の苦情対応窓口欄に必ず明記してあるので確認しましょう。また、場合によっては裁判に持ち込むこともできます。どちらにしても、経緯の調査など決着までは時間がかかります。また、裁判の場合は費用がかかることも心得ておきましょう。



まとめ


有料老人ホームは終身利用ができるイメージがありますが、必ずしもそうではありません。入居契約書には必ず「退去要件」の項目があり、退去せざるを得ない場合があることを覚えておきましょう。

事業者側からの契約解除については、入居者の権利を不当に狭める内容になっていないことが条件となっています。しかし、認知症対応などについては、ホームによって介護力に差があることも事実です。どうすることが本人や家族の幸せに繋がるのかを考えることも必要でしょう。

また、ホームと家族のコミュニケーションがうまくできていれば、早めに対策を講じるなど、事態がこじれることは少なくなります。ホームにすべてを任せきりにしないことも大切です。


このQ&Aに回答した人

武谷 美奈子
武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

学習院大学卒 福祉住環境コーディネーター 宅地建物取引士
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の高齢者の住まい選びについての相談を受ける。 「高齢者住宅の選び方」「介護と仕事の両立」等介護全般をテーマとしたセミナーの講師をする傍ら、テレビ・新聞・雑誌などでコメンテーターとして活躍。 また日経BP社より共著にて「これで失敗しない!有料老人ホーム賢い選び方」を出版。