- 質問
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老人ホームで集団感染のニュースをみました。インフルエンザやノロウイルスなどの感染症で入居者が亡くなることもあるようですね。
老人ホームではどんな感染症対策が取られているのでしょうか?
- 回答
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老人ホームでは介護スタッフや看護師が入居者の健康を管理し、居住環境を衛生的に保つよう細心の注意を払って生活を送っています。基本的には厚労省の「感染対策マニュアル」に沿って、マスクや手袋の着用、手洗い・うがいの徹底、食器の煮沸消毒、嘔吐物や排せつ物の適切な処理など、その内容は多岐に渡ります。
また面会者、ボランティア、委託業者など、外部から感染源が持ち込まれないよう工夫しています。具体的には手洗いや擦り込み式消毒剤での消毒やうがいの実施、マスクの着用を促しています。インフルエンザが流行する時期は湿度管理などにも気を付けています。
ここでは実際に起きた感染症の事例や、老人ホームが行う感染症対策について解説します。老人ホームに入居するときも、した後も安心した生活を送るためにお役立てください。
- 【目次】
1. 国が定める感染症対策とマニュアルの中身
感染症に対する抵抗力が弱い高齢者が多く生活している老人ホームは、感染が広がりやすいことを認識し、感染の被害を最小限にすることが求められています。
そのため国は「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」を作成し注意喚起しています。
内容は、感染対策の基礎知識・普段からの予防の大切さ・拡大防止のための対応などについて示しています。具体的な内容を簡単に紹介しておきます。
1-1.感染症拡大防止のための対応
①施設内に感染対策委員会を設置する
②職員が実践しやすいマニュアルを作成する
「いつ・どんな場合に」「誰が」「何を」「どうするか」
③職員を対象とした定期的講習会や研修を開催
1-2.入居者の健康状態の把握
一人ひとりの職員が感染症に対する正しい知識を持ち、何が危険かを理解して、入居者や家族が不安にならによう配慮する。
参考:厚生労働省より「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(平成25年3月)」
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/tp0628-1/dl/130313-01.pdf
2.老人ホームで多い感染症
集団感染の可能性があり、入居者及び職員にもかかりやすい感染症としては、インフルエンザ、ノロウィルス(感染性胃腸炎)があります。
また健康な人は感染しにくいですが、免疫力の低下した高齢者に発生しやすい「MRSA」があります。MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症といい、多くの抗生物質に耐性を示すことで知られています。
2-1.老人ホームにおける集団感染の事例
①ノロウィルスによる集団食中毒で入居者16人(65人入居)が下痢や嘔吐の症状を訴え、80代の男性が1人が嘔吐物を器官に詰まらせ心肺停止の状態でみつかり死亡が確認されました。給食が原因とされ、調理担当者や入居者からノロウィルスが検出されました。
②老人ホームで、80代から100歳までの入居者14人と30代から60代の職員4人がインフルエンザに感染し、入居者の女性が2人死亡しています。このホームでは建物内への入居者や職員以外の出入りを制限するなどインフルエンザ対策をしていたとの事です。
次に老人ホームで取り組んでいる感染症対策をみていきましょう。
3. 老人ホームにおける感染症対策事例
〇手洗いの徹底
入居者・面会来られた家族・スタッフ・業者などホームに出入りする全ての人に対し「感染症を持ち込まない」「感染症を広めない」という目的で、手洗いを必須としている、ホームが多いです。
〇湿度管理
ウィルスは乾燥に強いため、加湿器などを利用し湿度を40%以上に保つ
〇排泄物・嘔吐物の適切な処理
使い捨て手袋・ビニールエプロン・マスク・ペーパータオルなどを処理用キットとしてまとめ、いざという時にすぐ使える場所に置いている
〇食品取扱者に下痢・嘔吐など症状がある場合、調理に関与しない
〇入居者の健康状態の観察(発熱・嘔吐・下痢・便の状態・腹痛・咳・頭痛・鼻水・発疹)
〇ワクチンの予防接種(インフルエンザ・肺炎)
〇施設内で手に触れる場所の消毒(ドアノブ・手すり・椅子など)
〇連絡体制(感染ルートの確認、職員が状況を把握できるようにミーティングで報告)
老人ホームでは以上のような対策をしていますが、家族や訪問者から感染源が入ってこないようにすることも重要です。
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4.面会に行く家族が気を付けるべき6つのこと
①施設や居室に入る際に手洗いや擦り込み式消毒剤を使用し、手指の消毒を行いましょう
②咳が出る場合には、必ずマスクを着用しましょう
③風邪をひいている、発熱している場合は面会を控えましょう
④インフルエンザが流行する時期は、家族も予防接種をうけるなど、感染防止に協力しましょう
⑤家族が持ち込む食品に関しても職員が把握できるよう、内容など伝えておきましう
⑥赤ちゃんは免疫力が弱く感染しやすく、小さなお子様は幼稚園などで経由してウィルスを持ち込んでしまう可能性があるため、連れて行く場合は事前にホームに確認しましょう
5.入居者が感染症にかかった時はどうなるの?
職員が入居者の健康管理をする上で、発熱、おう吐、下痢、咳など感染症を疑ったとき
○速やかに施設長に報告
○施設長は協力医に診察・医療処置を依頼
○施設長は職員に症状に応じたケアや消毒、衛生管理の徹底などの指示を行う
○施設長は市町村及び保健所に報告
<報告が必要な場合>
1.死亡者・重篤患者が1週間に2名以上発生した場合
2.同一の感染症が疑われる者が10名又は入所者の半数以上)
3.上記の該当しなくても、通常の発生を上回り、報告が必要と判断した場合
老人ホームにより異なりますが、居室で介護を受けたり、介護室に移動する場合もあります。
まとめ
老人ホームでは、厚生労働省のマニュアルをもとにホームごとの対策を計画し実施するよう心がけています。各感染症ごとの対応マニュアルを作成し、実際に現場の職員が対応できるような模擬訓練を行っているホームもあります。
日常は感染源を持ち込まないことを意識し、予防に重点を置き、訪れる全ての人が感染症を認識し、協力してもらえるよう促しています。感染症の教育を介護職員だけでなく、関わる全ての職員が受け、感染症の正しい知識を共有し、同じ対応ができることが大切だと思います。
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(監修:森 裕司 株式会社HOPE代表、介護支援専門員、社会福祉士)