- 質問
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ニュースで「無届けホーム」や「無認可ホーム」という言葉を聞きました。
これも老人ホームの一つなのでしょうか?どういった施設なのか教えてください。
- 回答
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無届けホームとは、義務化されている設置届を行政に提出しせずに運営している、法令違反の老人ホームを指します。「無認可施設」「未届け介護ハウス」など様々な呼称がありますが、どれも同じ意味合いです。入居金などの初期費用は不要で、毎月10万円程度で入居できる物件もあり、低所得の高齢者が入居している実態があります。
今回は無届けホームがなぜ存在するのか、その問題点を解説します。また、無届ホームの見分け方も紹介します。正しく理解し、介護施設選びにお役立てください。
- 【目次】
1.高齢者施設の運営は行政の認可や届出が必要
一口に老人ホームと言っても様々な施設種別があります。それぞれ法律に基づき、下記のように都道府県や市区町村への届け出や登録といった手続きが必要です。
・特別養護老人ホーム → 都道府県の認可が必要 ・グループホーム → 市区町村に指定申請が必要 ・有料老人ホーム → 都道府県へ届出が必要 ・サービス付き高齢者向け住宅 → 都道府県や市に登録 |
このように、法律に基づいた手続きを踏むことで、行政側も高齢者施設や住宅の状況を把握しやすくなります。
2.無届けホームは全国600ヶ所以上!その問題点とは?
令和2年6月の時点で、無届けホームの件数は643件となっています。この件数は、有料ホーム全体の4.2%となります。
無届けホームは、2015年時点で1,650件、有料ホーム全体の8.7%でしたので半分以上減少しています。これは、国が無届けホームを問題視し、2018年4月から都道府県が業務停止命令を出せるようになったからといえるでしょう。
しかし、減少しているとはいえ、無届けホームは、未だ存在している現状があります。届けを出さない理由は、免責や人員配置など国の基準を満たすことが困難、設置費用の捻出、届けが煩雑などの理由があります。
無届けホームの問題点の具体的な例をみていきましょう。
以下はこれまで問題となった無届けホームの報告一例です。
・居室面積や廊下の幅などが非常に狭く、住環境として問題がある。 ・防火設備の基準を満たしておらず、消防訓練なども実施していない。 ・冬場の感染症対策など、保健所の衛生指導も行き届かない。 |
さらに、以下のように悪質な事業者の存在も報道されています
・入居者の預金通帳を施設側が管理し無断で使う。 ・居室に外から鍵をかけて、入居者を部屋に閉じ込める(身体拘束)。 ・必要のない介護サービスを過剰に提供し、事業者が不当に介護報酬を得ている。 |
このように、入居者の安全性が確保されていないところや、いわゆる貧困ビジネスの温床となっている無届けホームも存在している、ということが問題となっています。
届け出をすると行政指導の対象になる
何らかの生活支援サービスを提供して高齢者住宅を運営している事業者は、「有料老人ホーム」の届け出か「サービス付き高齢者向け住宅」に登録するかのどちらかが必要になります。
届け出や登録を行うと、面積基準や人員配置基準などの各種規制に従わないといけません。
しかし、行政の指導や監査が行われることから、あれやこれやと理由をつけて届け出も登録もしていない高齢者住宅が存在します。
一方、届け出や登録という制度を設けることにより、高齢者住宅の一定のサービス水準は保たれているともいえるでしょう。
3.過去に起きた無届けホームでの事故
2009年3月に群馬県渋川市の『静養ホームたまゆら(運営会社は2010年に解散)』で、火災が発生し、10人の入居者が亡くなられた事故がありました。
本来有料老人ホームとして満たすべき自動火災報知機の設置や部屋の広さに関する基準が守られていませんでした。
国は都道府県に届け出の強化を指示していますが、事業者は、「入居者は高齢者だけを対象にしていないので老人ホームではない」、「生活支援サービスは別法人が行っているため、うちは有料老人ホームに該当しない」などと主張。
一方の都道府県側も、これまで本格的な実態調査をしておらず、届け出に関する指導が十分に行えていないというのが実情です。
その後も、2014年11月に東京都北区の無届けホームで、入居者をベルトでベッドに固定する虐待が判明するなど、劣悪な環境下で虐待・拘束・介護放棄といった問題は絶えません。
4.無届けホーム増加の背景
こういった無届けホームの利用者は、次のような事情で行き場がなく、無届けホームと分かっていて入居した高齢者もいます。
・特養(特別養護老人ホーム)に入居したいが、入居までに何年もかかる ・認知症などの症状で他の施設への入居を拒まれた ・身寄りがないので入居先が見つからない ・経済的事情で届け出ありの施設に入れない |
介護をする家族にとっては、劣悪な状況でも、入れてもらえるだけありがたいというのが実情。そのため無届けであっても受け皿的に入居者が集まってしまうこともあります。
また、他に選択肢がなければ無届けホームを紹介するケアマネジャーもいるようです。
やむを得ず無届け状態で運営するホームもある
しかし、一概に無届けホームが全て悪いという訳ではありません。例えば、現在のような規制がない時代から有料老人ホームを運営している事業者で、スプリンクラーの設置などの法改正に伴う高額な費用を捻出できないとして、やむを得ず無届け状態になっている場合もあります。
実際、無届けホームの半数近くは届け出を一度は検討したがことがあるようです。ちなみに、無届けホームの3割以上が基準を満たしていません。基準を満たすためにかかる費用を捻出できない事業者が、無届けホームになっている傾向にあるでしょう。
しかし、第三者の監視の目がないため、どうしても運営法人によってサービスのバラつきが生じ、悪質な住宅が散見されるのです。
介護や医療サービスがついていてあたかも有料老人ホームであると思わせる宣伝活動をしているにも関わらず実際は一般的な賃貸住宅であった、というように利用者を混乱させるような記載をしている住宅がその最たる例です。
5.無届けホームの見分け方
前述したように、有料老人ホームなら「届け出」が、サービス付き高齢者向け住宅なら「登録」が必要です。
ホームページやパンフレットで、介護サービスや食事の提供記載があり「シルバー向け〇〇マンション」、「ケア付き〇〇住宅」、「高齢者専用〇〇」といったそれらしい名前の介護施設も存在します。しかし、これらも届け出や登録がされていなければ無届けホームということになります。
有料老人ホームの届け出状況については、所在地の市区ホームページや、担当部署への問い合わせることで確認ができます。
また、サービス付き高齢者向け住宅の登録の有無については、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供サービス」のサイトから登録の有無が確認できます。参考にしてみてください。
誰もが入れる安価な施設整備が急務
内閣府よると、65歳以上の世帯の平均所得は、312.6万円で中央値は255万円となっています。
ここで注目したいのは、中央値以下の世帯(所得250万円以下の世帯)が37%いることです。1人あたりの有料老人ホームの平均的な年間費用は約240万円ですから、平均的な有料老人ホームへの入居は困難と言える世帯がいるということです。
また、公的施設のケアハウスは有料老人ホームに比べて少なく、特養老人ホームは、要介護3以上と入居基準が高いため待機者が多く、入居が困難だという状況です。このような状況を踏まえると、低所得者向けの施設整備が急務といえるでしょう。
適切なサービス運営か確認を
届け出がされているかそうでないかに関わらず、「老人ホームなんてどれも同じでしょ」「大手企業が運営している施設だから安心ね」といった先入観を持たずに、実際に適切なサービスがされているのかご自身で確かめることが重要です。
そして、老人ホーム見学の際は、ホームのスタッフが入居者や来客に対して丁寧に接しているかも確認してみましょう。その際、どんなサービスを行っており、そのサービスに対していくらの費用がかかるのかということも後のトラブルを防ぐ意味でも、細かく確認しておくべきです。
また、お一人で話を聞いたり見学されたりするのだけではなく、家族や親族などの信頼できる人と一緒に見学に行くと様々な視点で確認できます。さらに、各地域に設置されている地域包括支援センターや役所の高齢福祉課などに相談し、アドバイスを求めることも重要でしょう。