- 質問
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認知症の母が夜間に何度もトイレに行きます。足腰が弱く一人ではトイレに行けないので、私がそのたび起こされます。オムツも試してみましたが不快だと拒否されました。
母の夜間トイレ介助が辛いです。このままだと私の身が持ちません。どうしたら負担を軽くできますか?
- 回答
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夜間の頻繁なトイレ介助は、介護者の睡眠不足につながるため、毎日続いてしまうと体力的にも精神的にもつらいものになります。就寝の環境を整えるなどの工夫や、どうしても大変な場合は夜間の訪問介護サービスの利用も検討してみてはいかがでしょうか。
ここでは、認知症の高齢者がなぜ夜間に何度もトイレで起きてしまうのか、その原因と対処法について考えます。夜間のトイレ介助の負担軽減のためにも参考にしてみてください。
夜間に起こされる悩み
認知症の高齢者を介護している家族が夜間に起こされてしまう理由にはいろいろあります。夜間のトイレ介助、おむつ交換、本人が起き出したり大声をあげたりするために起こされるなどです。
質問者のケースでは、お母様の歩行に介助が必要なため、介護者がトイレのたびに起こされるということです。
認知症の人の中には、夜間にひんぱんにトイレに行きたがる人がいます。介護者がそのたび付き添わねばならない状況になると、介助者自身の睡眠が確保されないという大きな問題が生じてきます。同じ悩みを抱えている人は、おそらく大勢いるのではないでしょうか。
認知症の高齢者が夜間に起きる原因がトイレの介助であっても、本当にトイレに行きたいのか、それとも他の理由で起きてしまい、念のためにトイレに行きたがるのかなど原因を探ることが大切です。
夜間にトイレで起きる原因と対策
認知症の人が夜間にトイレに起きる場合、加齢が原因であるのか、それとも認知症の症状が原因で起きてしまっているのかを見極める必要があります。そして、その原因に沿った対策を考えます。
加齢が原因の場合
60代以上で夜間に1回以上トイレに行く人は、約8割にのぼるといいます。高齢になると寝つきが悪くなって眠りが浅いうえに、排泄機能も低下します。そのため、膀胱に尿がさほど溜まっていなくても尿意を感じてトイレに行きたくなる頻尿が増えるのです。
昼夜共に頻尿がある場合は、就寝前にコーヒーやお茶など利尿作用のある飲み物を控え、布団に入る前には必ずトイレに連れて行きましょう。また、日中に体に溜まった水を出すことも大切です。就寝する2~3時間前に入浴して代謝をよくしましょう。
但し、高齢者は老化によって水分が失われやすくもなっています。水分が足りなくなると血液の流れが悪くなり、意識障害が起こりやすくなるため、結果として認知症の症状が悪化しやすくなるといわれています。日中は水分摂取を心がけるようにしてください。
認知症の症状が原因の場合
認知症を患っていると、物忘れがある不安感から、場所や時間などがわかりにくくなる見当識障害が起こってきます。
そうすると、昼と夜の区別がつきにくくなりますので、日中に寝すぎてしまい、夜に眠れなくなるのです。また、光や音に敏感になって起きてしまう人もいます。
認知症の人の場合は、目が覚めると尿意が無くてもトイレに行きたがります。これは念のために行っておくというよりも、トイレにいつ行ったのかがわからない不安感があるためとも言われています。
昼夜が逆転してしまっている場合は、夜によく眠れるように生活リズムを整えることが大事です。
午前中に散歩をしたり、カーテンを開けて太陽の光を浴びたりして、体内時計を刺激しましょう。明るさは認知症の人に安心感をもたらすため、部屋の中を明るくするのもよいとされています。
また、毎朝決まった時間に起きて着替えをし、食事をする場所に移動して朝食をとるという規則正しい毎日を送ることで生活にリズムが生まれます。昼寝をする場合も、寝すぎないよう1時間ほどで起こすようにしましょう。
そして、日中は活発に動いてもらうことも大事です。本人ができる仕事をしてもらったり、デイサービスやデイケアを利用したり、本人の好きなことや趣味を取り入れた活動など、取り入れやすいものを検討してみてください。
その他の効果的な対策
その他の効果的な対策法を紹介します。
▼就寝の環境を整える
眠りやすい環境を整えることも大切です。夜は灯りを落として暗くしますが、認知症の人の中には、暗くなると不安になって起きてしまう人もいます。その場合は、常夜灯を点けるなどして、夜間でも安心できる明るさを工夫しましょう。また、身体を温めることもリラックス効果が高まり寝つきがよくなります。就寝前に足浴を行ったり、靴下をはいてもらったりするのが効果的です。
しかし、このような対策は、一人ひとりの状態や習慣によって違ってきます。その人に合う方法をいろいろと試してあげることが大事です。また、認知症の人が安心した眠りにつくには、強引に寝かしつけないことも大切です。例えば、寝付くまで寄り添うような対応が必要になることもあります。介護者が同じ部屋で寝てみたら、本人が安心して眠るようになったという事例もあります。
▼夜間だけ「ポータブルトイレ」を利用する
自分で立ち上がることができれば、ベッドの横にポータブルトイレを置いて、夜だけそれを使用する方法もあります。但し、認知症の人は新しいことが苦手なので、ポータブルトイレを導入する場合は、慣れるまで介助する必要がありますし、夜中に暗いなか動くことは危険を伴いますから、足元がふらつくようでしたら、やはり介助が必要になります。
なお、ポータブルトイレは介護保険サービスの対象ですので、介護認定が出ていれば、自己負担1割~3割(所得により変動)の金額で購入することができます。
▼夜間のみ「紙おむつ」を利用する
質問者のケースでは、紙おむつは不快だと拒否されているということですが、トイレまでの移動が難しい場合や、トイレに行くまでに失敗しがちなときは、やはり紙おむつの使用も検討したいところです。
紙おむつにはいくつか種類があります。下着のようにはくパンツ型、両脇をテープで留めるテープ式、おむつの中に入れて使用する尿取りパッドです。初めて使用するときは、パンツ型に尿取りパッドを組み合わせると使いやすいと思います。
また、おむつを拒否する理由はいくつか考えられます。トイレで排尿したい、おむつを付けているだけで違和感がある、付け方が悪い、自分の尿に触れて気持ち悪い、おむつをすることに屈辱感があるなどです。
付けているだけで違和感があったり、付け方がよくなかったりする場合は、正しいつけ方をすることで解決するかもしれません。例えば、足の付け根におむつが食い込んでいたり、尿取りパッドが中で動いていたりするために不快なのかもしれません。介護者がおむつの仕方をヘルパーなどに手ほどきしてもらったり、自治体等で行う介助の仕方の実習を受けてみたりするのもお勧めです。
おむつをしていても尿が漏れてしまう時は、夜間専用の長時間用のものを使用してみましょう。おむつのサンプル品などを入手して、本人に合うものを探すようにしてください。
▼夜間の訪問介護サービスを利用する
夜間に介護サービスの訪問介護を利用するのも一案です。トイレ介助は身体介護にあたるため、同居家族がいても利用できます。決まった時間に訪問してもらって、介護者の負担を軽減することを検討しましょう。
認知症の症状に伴い、変化するトイレ介助
認知症の症状が進むとトイレ介助がより厄介になる可能性もあります。トイレに間に合わなくなって失禁してしまい、羞恥心から汚れた下着を隠したり、トイレに行きたいことを介護者に伝えられなくなったり、トイレの場所がわからなくなったりするのです。また、本人の自覚ないまま居室で排便をしてしまうこともあります。
このような認知症の症状の変化に伴い、介護者の負担はますます増えていきます。日中は何とか対応できていても、夜中にまで起こされるとイライラが高じて怒りたくなるのは無理ないことです。しかし、そこで感情的に叱ったり、抑圧的な対応をしたりすると、本人がおびえて介護者にきつく当たるなど状況は悪化します。
認知症が進んでも、本人の感情は強く残っています。怒られることで自尊心は傷ついています。介護者の負担をより大きくしないためには、本人から信頼されるコミュニケーションを早めに築いておくことが大事になります。これは相当に難しいことではありますが、本人の「不安感」をなくす方法を探すことが一番の近道なのです。
主治医である認知症専門医には、介護のつらい面や困っていることをその都度相談するようにしましょう。これまでの受診経過から、今後排せつについてどんな症状が現れやすいかを聞き、具体的な対応の仕方をアドバイスしてもらってください。
また、認知症の薬の中には尿意を促すものもありますので、頻尿がひどい時は、薬の種類と量の変更や泌尿器科への受診の必要性なども相談してください。
なお、本人の安眠のために主治医からきちんと処方された睡眠剤を使用する方法もあります。
まとめ
年をとると、夜間のトイレは頻繁になりがちですが、認知症の人の場合は、不安感から何度も起きて、起きたのでトイレに行きたくなっていることが多いのです。
認知症の人のケアでは、不安感を安心感に変えてあげることが最も重要なポイントになります。特に排せつというデリケートなケアにおいては、なおさら本人の安心感が大事になります。本人と介護者が二人三脚で認知症の症状の変化に合わせた最適なトイレ介助ができるようになってほしいと思います。
イラスト:安里 南美