- 質問
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母がアルツハイマー型認知症になって3年がたち、症状が進行してから夜に起きて行動することが増えました。夜中に掃除や料理を始めたり、外出しようとしたりするので心配です。
こうした行動は母だけなのでしょうか?改善する方法はあるのでしょうか。
- 回答
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心身の不調や加齢による影響、認知症による脳機能の低下など、さまざまな理由で昼夜逆転が起こることはあります。改善のためには原因を探り、環境を整えることが必要です。
ここでは、どんなことが昼夜逆転の原因になっているのか、それに対してどのような対応が必要か解説します。介護の負担軽減のためにも参考にしてみてください。
昼夜逆転の原因
体内時計の機能低下
人間には覚醒と睡眠のリズムを作る、「体内時計」と呼ばれる能力が備わっています。体内時計は、脳の視床下部や松果体(しょうかたい)という部位、メラトニンなどのホルモン、自律神経などが複雑に影響し合う繊細な能力です。
このため、心身の不調や加齢による影響を受けやすく、多くの高齢者は、寝付けない、途中で目が覚めてしまうなど、何かしら体内時計に起因すると思われる睡眠の課題を抱えています。
さらに、認知症は脳の機能低下によるものです。そのため、体内時計の不調も引き起こしやすくなります。
活動量の低下
「昼間だらだらと過ごす」「居眠りをし過ぎる」など、日中の活動量が低下すると、夜になっても眠れなくなります。「体が疲れないから寝付けない」という面もありますが、日中の活動による体温上昇や、午前中に自然光を浴びることが体内時計の調整にかかわっているからでもあります。
日中を活動的に過ごすことは、夜間の良い睡眠に深くつながっているのです。
見当識障害
見当識障害により、時間の見当をつける能力が低下すると、昼夜逆転はいっそう進みます。未明の4時を夕方の4時と認識して、夕食の準備を始めようとするなど、昼夜を取り違えるような行動も増えていきます。
夜間せん妄
本人は眠くないと思っていても、やはり夜間は脳の機能が低下しています。水分不足や一日の疲れによりさらに脳の状態が低下している場合は、ちょっとした刺激に過剰反応して興奮したり、一時的に幻覚が表れるなど、「夜間せん妄」という症状が表れやすくなります。興奮が続けば、より睡眠できる状態から遠ざかります。
不安や恐怖など負の感情の再体験
どなたでも、寝入りばなや夢うつつに嫌な思い出がよみがえった経験があるのではないでしょうか?それでも私たちはそれが過去の出来事だと記憶しているため、すぐに立ち直り、眠りにつくことができます。
しかし、認識力や記憶力が低下した認知症の人には、それがいままさに起きている現実と感じられ、不安や恐怖、怒りを生々しく感じてしまうことも多いようです。そうした入眠直前の負の感情が、興奮や睡眠障害を引き起こす原因にもなります。
痛みや不快感がある
認知症の人は自分の心身の状況を正確に把握し、他人に伝えることが苦手です。例えば、便秘や腰痛などの不快感で眠れないのに、その原因をうまく伝えられず、結果として、夜も不快で眠れず動き回るなどの行動につながることがあります。
レム睡眠時行動障害
睡眠には深い眠りといわれるノンレム睡眠と、浅い眠りといわれるレム睡眠があり、一晩の眠りの中でこの2つを交互に繰り返しています。レム睡眠では体は眠っているが、脳は目覚めているといわれ、夢はこのときに見ているといわれています。
レビー小体型認知症の場合、このレム睡眠時に大声をあげたり、突然飛び起きてしまうなどの異常な行動を示すことがあります。これを「レム睡眠時行動障害」と呼びます。睡眠障害や昼夜逆転の原因の一つです。
昼夜逆転への対応
睡眠日記をつける
まず、原因を探るために、睡眠時間や睡眠時の状況、日中の様子や寝室の状態を、簡単でよいので一定期間記録してみることをお勧めします。後から見返してみると、「神経が高ぶるようなテレビ番組を寝る前に見ていた」「日中に昼寝をしていた」「排便のリズムと関連しているようだ」など、改善のヒントが得られることも多いでしょう。
こうした記録は、昼夜逆転にかかわらず、介護職や医師などに相談するときにも役に立ちます。
睡眠環境を整える
寝室が明るすぎる、もしくは暗すぎる、外の音や時計の音が気になる、外の光が漏れてくる、寒すぎる、暑すぎるなど、安らげない環境では安眠は難しいものです。ご本人自身でそれを改善できないならなおさらです。
ご本人の睡眠環境を家族がいまいちど確認し、安心できるように整えましょう。
身体の状態を整える
トイレに行きたいと眠るに眠れません。寝る前にトイレをしっかり済ませておくことも大切です。また、腰痛や痒みなどの不調があれば、湿布を貼ったり軟膏を塗ったりすると、寝付きやすくなる場合もあります。痛みのひどい場合は、軽い鎮痛薬の適用も考慮してみましょう。
人間は体温が下がるときに眠気を感じやすいといわれています。入眠2-3時間前に入浴や足浴をするなど、体温をいったん高めておくことも有効でしょう。
日中の活動量を増やす
日中の活動は体内時計の調整に大きく役立ちます。散歩など適度な運動を行ったり、デイサービスを利用して外出の機会を作るなど、日中できるだけ活発に過ごすことで、夜、良質な睡眠が得られやすくなります。昼寝をし過ぎないことも大切でしょう。
特に午前中に自然な光を浴びることは、体内時計の調整効果が高いといわれています。居室のカーテンを開けておくことは、快眠に役立つのです。
就寝前の「安心」習慣を身につける
良い眠りのためには、寝る前にゆったりと安心した気持ちになることが大切です。
興奮を静め眠りに向かう準備として、ご本人が安心できる「寝る前の安心習慣」を取り入れましょう。ご家族がハンドクリームを塗ってあげたり、マッサージをしてあげたりすると、ご本人は触れられることによる安心感を得やすくなります。また、ご本人の好みの香り(アロマオイルなどでなくても、ヒノキの木材やみかんなど、ご本人が安心できるお好みのもの)を枕元に置き、香りから心を落ち着かせる習慣を作るのもいいですね。
医師・薬剤師に相談する
服用している薬の中には、睡眠に悪影響を及ぼすものもあるかもしれません。かかりつけの医師や薬剤師に相談すれば、そのような薬を調整してもらうこともできます。逆に、適切な睡眠薬の使用も、睡眠リズムを調整したり、ご本人・ご家族に休息してもらうには必要なことです。
ただ眠れないというだけではなく、どれくらい、どのように眠れないのか、前述の睡眠日記などの記録を活用して相談すると、なおよいでしょう。
おわりに
昼夜逆転の辛いところは、ご家族も睡眠障害に巻き込まれ、気力体力が消耗していくことです。日中の介護や仕事で、ただでさえ疲れ切っているところに、睡眠不足が続けば共倒れの危険性もあります。
時には他の家族やショートステイなどにお任せし、しっかり体を休めることもより良い介護のためには必要不可欠です。たかが睡眠不足、昼夜逆転と軽く見ることなく、医療や介護職、他者の手助けを求めるようにしてください。