- 質問
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久々に実家に帰ると、母の様子がおかしいことに気づきました。好きだった料理も「作り方がわからない」とお弁当で済ませたり、地域の集まりにも行かず、家の中も散らかりふさぎがちな様子でした。
よく聞く認知症の症状に当てはまる気がしますが、大ごとにするのもよくない気がします。どう対応すればいいのでしょうか?
- 回答
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離れて暮らす親に認知症のような症状が出たときは、情報を集めるなどして慌てず対応をましょう。
早い段階から有効な手を打つことで、将来の更なる困難を回避できるでしょう。
ここでは、離れて暮らす親に認知症の疑いがあると思ったときに、家族がどのような対応をとればよいのかをお伝えします。ぜひ参考にしてみてください。
ピンチは改善のチャンス!
まずは、あなたがお母様の変化を感じた機会をぜひ「大事」にしてください。といっても、むやみに騒ぎ立て取り越し苦労をする大事(おおごと)にしろというのではなく、大事(だいじ)にしてほしいのです。
あなたが感じたお母様の変化は、認知症のはじまりであるかどうかは別として、お母様に何らかのトラブルがあり、生活に困難を抱え始めていることの明確なサインです。
この機会に有効な手を打っておけば、今認知症であっても、そうでなくても、今後の生活が改善され、このままだと起こり得る将来の困難を回避できるでしょう。
このピンチは大きなチャンスです。
はたして認知症のはじまりか?
料理の作り方がわからない、地域の集まりに行かなくなることは、確かに認知症の兆候に当てはまります。料理がうまくできないのは、認知症の症状の一つ、ものごとを計画立て順にこなすことが難しくなる「実行機能障害」が出始めると生じます。
地域の集まりに参加しなくなったのは、記憶障害で何らかの人間関係のトラブルを抱えているとも、認知症の症状の一つである意欲の低下が影響しているとも考えられます。
家が散らかっているのは、実行機能障害により片付けられなくなったのか、意欲の低下なのか、認知症による判断力の低下により「片付けなければ」という判断が鈍っているせいかもしれません。
しかし、これらの状態は他の疾病(うつ病など)でも起こりえます。腰痛や膝痛があれば、料理も地域の集まりも億劫になり、同じような状態になるでしょう。
数週間前に転倒し頭部を打ったとしたら、脳内でじわじわと出血が広がり脳を圧迫する慢性硬膜下血腫の疑いもあります。また、疾病ではなくとも、親しい地域の友人を亡くされたとしたら、同じことが起こり得るのではないでしょうか?
つまり、これらの状況が全て認知症の初期症状に当てはまるからといって、一概に「認知症である」とは言えないのです。
ご家族にとって認知症であるかどうかはとても気になるでしょう。認知症の一歩手前の状態といわれる軽度認知障害(MCI)の状態であったとしたら、認知症予防の観点からも対応が必要です。もちろん、その他の疾病だったとしても、放置していいわけではありません。
いずれにせよ、お母様の状況変化からして、今後の生活や生活の質を考えるうえでは、認知症であるかどうかにかかわらずここで何らかの対策を打つ必要があります。
どんな対応をとればよいか
情報を集める
まずは、情報収集です。じっくりと時間をとり、まずはご本人のお話を聞いてみましょう。認知症であればご本人はそのことには触れないかもしれませんが、ご本人の現在の見方や心情は、あらゆる状況の把握と改善に有用な情報です。
さらに、認知症を想定しつつ、他の体の病気の可能性も考慮に入れて、ご本人の生活状況を把握します。生活上の不都合や、近所や地域とのかかわりの変化など、幅広く情報を集めましょう。ご近所や友人にお話を伺ってもよいでしょう。
地域の介護情報に詳しい地域包括支援センターは、その地域の独居高齢者の情報を持っていることもあります。お母様の情報収集のついでに、今後の不安について相談してみることもお勧めします。
医療機関で健康チェック
前述の通り、体調不良から起こる生活変化も十分考えられます。このため、総合的な健康チェックは必須です。さらに、健康診断の一環として認知症の検査を受けに行くようにしましょう。ご本人にとっても、「認知症の疑いで頭の病院に行く」というよりも心理的なハードルが低いですよね。
現在ご本人が通院しているかかりつけ医があれば、まずはそこに出向きご本人の状態を確認しつつ、総合的な健康診断を依頼するか、それが可能な病院を紹介してもらうとよいでしょう。認知症の可能性をかかりつけ医に伝えれば、心療内科、精神科、もの忘れ外来などの適切な通院先を紹介してくれるでしょう。
かかりつけ医がいない場合も、総合的な健康チェックは必要です。地域包括支援センターに相談すれば、総合的な健康チェック、認知症診断それぞれに適した医療機関を紹介してくれます。
認知症の診察にあたって
認知症を想定した診察の場合、以下のような情報が必要になると想定されます。かかりつけ医の紹介ならば、すでにこれらの情報は紹介状に書かれています。かかりつけ医がいない場合は、以下の情報をなるべく正確に伝えられるよう、メモなどに準備するとよいでしょう。
・現在治療中の疾病と医療機関
・服薬状況(のんでいる薬の種類や頻度)
・これまでの病歴や通院歴
・気になる症状はどのようなもので、いつからみられるか
認知症の疑いで診察を受けるときに大切なのは、これはご本人にとって大変な不安であり、ご家族はその不安を受け止めることが大切だということです。こちらの記事も参考にしてください。
>Q&A「認知症を認めたがらない父に、診断・治療を受けてもらうには?」
本人に家族がしてあげられること
認知症であるかどうかにかかわらず、今の状態はお母様にとってとても辛い状況でしょう。原因はどうあれ、好きだった料理もせず、地域の集まりにも顔も出さず、一人で不安に耐えていらっしゃいます。
ご家族は、まずはそのことをねぎらってあげてください。そして、短くても可能な限りの時間をともに過ごし、お話を聞いてあげてください。それだけでも、ご本人にとってとても力になるでしょう。
その間、ご本人を尊重して話を聞くとしても、決して全て後ろ向きである必要はありません。過去の楽しかった出来事やお母様の料理の味をともに思い出し、楽しい気持ちを思い出させてあげられるのは、ご家族ならではのサポートです。
仮に認知症であっても、それは「おしまい」ではなく、新たな家族や人々とのかかわりの「はじまり」です。認知症の進行を遅らせ生活の質を高めていくために、ご本人を中心にして、たくさんの人々や医療・介護の専門職とともに歩んでいく新しい生活のスタートラインに立ったということです。その歩みの一端を担うことが、ご家族がご本人に対してできることなのです。
自分に対してもねぎらいを
離れて暮らす自分の親が認知症かもしれないこと。ご家族にとっては、大変つらいことだと思います。これからどうなるのか、どうすればいいのかという先行きへの不安だけではなく、もう少し早く気づけなかったのか、離れて暮らしていたのが悪かったのかと、ご自身を責めたり、後悔するお気持ちもあるかもしれません。
しかし、近くにいたとしても、認知症の早期発見は難しいものです。「よくぞ気がついた」「おかげで対応できるようになったのだ」とご自身をいたわってください。
そして、不安や困難をご本人だけ、ご家族だけで抱え込まないでください。この超長寿社会において、認知症は一人の責任、一つの家族の問題ではありません。社会全体で悩みを分かち合い、ともに助け合うことが求められているのです。