介護保険料の支払いはいつから?納付額や利用できるタイミングも解説

介護保険料は年金から引かれる

介護が長期にわたると、費用面でも大きな負担がかかります。その負担を軽減するための制度が介護保険制度です。

日々利用する介護サービスの利用料はもちろん、介護に必要な物品の購入費用まで、介護保険が適用される範囲は多岐にわたります。

ただし、制度を支える介護保険料の支払いには無頓着な方も多いかもしれません。今回は介護保険料の支払いについてご紹介します。

介護保険制度とは

介護保険制度は、高齢化や核家族化、介護による離職が深刻化したなかで、家族の負担軽減、社会全体で介護を支援することを目的に2000年に創設された制度です。介護保険制度には第1号保険者(65歳以上)と第2号保険者(40~64歳)があり、基本的には65歳以上で要支援・要介護認定された方が利用できます。

ちなみに2023年10月時点で706.4万人の方が要支援・要介護認定されており、何らかの形で介護保険制度を利用していると考えられます。(介護保険事業状況報告の概要)

介護保険制度については「介護保険制度とは?しくみをわかりやすく解説」にて詳しく解説しているので、あわせてご確認ください。

介護保険料の支払いは満40歳から

介護保険料の納付は国民の義務であるため、満40歳を迎えると介護保険料が徴収されはじめ、支払いは一生涯続きます。支払いに関しての手続きはとくに不要で、年齢層別に下記のように支払い方法が異なります。

  • 現役時代(40~64歳)…健康保険の一部として支払う
  • 年金支給年齢(65歳)…健康保険とは切り離されて、「介護保険料」として支払う

支払いは40歳を迎える月から始まります。たとえば誕生日が4月10日の場合は、4月から介護保険料を納める必要があります。

ただし注意してほしいのが、誕生日が1日の方です。「年齢計算に関する法律」により、誕生日の前日に歳を重ねると考えられるため、誕生日が1日の人は前月より介護保険料の支払い義務が生じます。また、65歳からは健康保険とは別に支払う必要がある点に留意しておきましょう。

先にも触れていますが、介護保険料の納付は義務なので脱退はできません。介護保険料を納付することで、被保険者でいられるわけであり、滞納してしまうと介護保険を利用する際の自己負担が増える、または延滞金が請求されます。かえって負担額が増えることになるので、保険料は滞納しないようにしておきましょう。

!POINT!

  • 40歳になる誕生日の前日から、健康保険料の一部として月単位で介護保険料を納付する。
  • 年金受給年齢になると、健康保険から切り離され介護保険料という名目で支払いが始まる。

介護保険料の支払い方法

介護保険料の支払い方法は、第1号保険者と第2号保険者で下記のように異なります。

種別 対象者 支払い方法
第1号保険者 65歳以上 ・年18万円以上の年金受給者・・・特別徴収(2ヵ月ごとに年金から天引き)
・年18万円未満の年金受給者また年金受給を繰り下げた方・・・普通徴収(口座振替もしくは役所、コンビニなどで支払い)
第2号保険者 満40歳以上64歳 ・会社員の場合・・・会社で加入している健康保険と併せて徴収される
・自営業の場合・・・国民健康保険と併せて国民健康保険税として世帯主が徴収される

自営業などの場合は、国民健康保険の支払いの滞納が介護保険料の滞納に直結する点に注意が必要です。また、第1号保険者で複数の年金を受給している場合は「老齢基礎年金 → 老齢・通算年金 → 退職年金 → 障害年金・遺族年金」の順に天引きされる年金が決まることを覚えておきましょう。

第1号保険者で年間18万円以上の年金受給がある場合は、普通徴収への変更はできません。ただし、自治体によっては変更できる可能性があるので、普通徴収を希望する場合は自治体に確認してみましょう。

ちなみに主婦など、第1号保険者に該当する人が扶養に入っている場合の介護保険料は、扶養主の介護保険料に含まれるので、別途納付する必要はありません。介護保険料の納付方法については、下記の動画でも詳しく解説しているので、参考にしてください。

!POINT!

  • 年金受給年齢になると、介護保険料は年金から天引きされる「特別徴収」になるのが一般的。
  • 特別徴収は介護保険法により定められているもの。どうしても普通徴収にしたいという場合は、役所で相談してみてもよいが、認められない場合も。

介護保険サービスの利用は原則65歳から

種類 サービスを利用できる人
第1号被保険者 要支援・要介護の認定を受けた人
その状態になった原因を問わない
第2号被保険者 要支援・要介護の状態になった原因が
16種類の特定疾病に該当する人

65歳以上の第1号被保険者は、要介護認定または要支援認定を受けたときに介護保険のサービスを受けることができます。要介護認定には要支援1~2と要介護1~5があり、それぞれの介護度合いに見合ったサービスの利用が可能です。ちなみに介護が必要となった原因は問いわれません。

一方、第2号被保険者(40歳以上、65歳未満)は、「16の特定疾病」が原因で要介護(要支援)認定を受けたときにのみ、介護保険のサービスを受けることができます。

16の特定疾病

厚生労働省が定める、介護保険上の特定疾病は以下のとおりです。下記の疾病に当てはまる場合は、65歳以下でも介護保険サービスを利用できる可能性があります。

特定疾病 概要
がん末期 医学的根拠をもとに進行性で治癒が困難だと医師が判断した状態にあるがん(悪性新生物)
関節リウマチ 身体中の関節に炎症による痛みやこわばりが現れる状態。筋肉や腱の機能低下により身体が動かしにくくなる
筋萎縮性側索硬化症(ALS) 運動神経細胞の障害により、筋肉が萎縮し筋力が低下する病気。末期になるまで感覚障害や眼球運動障害、膀胱直腸障害、床ずれ(褥瘡)は認められない特徴がある
後縦靱帯骨化症 後縦靭帯が骨化して肥大し硬くなることで、脊柱管(脊髄の通り道)を圧迫。知覚障害や運動障害を引き起こす
骨折を伴う骨粗鬆症 腰背部痛を伴う脊柱の変形が特徴的である脊椎圧迫骨折や、転倒等の後に股関節の痛みを訴え起立不能となる大腿骨頚部骨折・転子部骨折など。日常生活レベルの運動負荷でも骨折を起こすこともあり、結果として寝たきりや歩行不能となるケースもある
初老期における認知症 もの忘れから始まり、意欲の低下や物事の整理ができなくなるアルツハイマー認知症や、もの忘れに加え、歩行や排尿に障害を伴う脳血管性認知症、意識レベルの変化やリアルな幻視体験が特徴のレビー小体認知症など
パーキンソン病関連疾患 こわばり、ふるえ、動作緩慢、突進現象などのパーキンソン症状(パーキンソン病)をはじめ、異常な姿勢や垂直方向の眼球運動障害(進行性核上性麻痺)、大脳皮質症状が同時に見られる(大脳皮質基底核変性症)など
脊髄小脳変性症(SCD) 初期症状として歩行のふらつきや、ろれつが回らない、手の震えが現れ、非常にゆっくりと進行していく。末期には寝たきり状態になる
脊柱管狭窄症 脊柱管(脊髄の通り道)が狭くなり神経が圧迫されることで、歩行中にだんだん足がしびれてくるけど休むと回復する間歇性跛行(かんけつせいはこう)が起こる
早老症 若年性白内障、白髪、毛髪の脱落、骨の萎縮、血管や軟部組織の石灰化などが20代から起こる、遺伝子異常の病気
多系統萎縮症(MSA) 自律神経症状(起立制定血圧や排尿障害など)、パーキンソン症状(筋肉のこわばり、ふるえなど)、小脳症状(立っているときや歩行時のふらつき、ろれつが回らないなど)の症状が現れる
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症 糖尿病が原因で引き起こされる合併症。足のしびれや痛み、高血圧、むくみ、視力の低下などの症状が現れる
脳血管疾患 脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血などの疾患により、麻痺などの運動障害・感覚障害を引き起こし、通常の社会生活ができない状態
閉塞性動脈硬化症 全足の血管の動脈硬化がすすみ、血流が悪くなることで、冷感、しびれ、安静にしているときの痛み、壊死が起こる状態
慢性閉塞性肺疾患 肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎により、咳痰、呼吸困難を引き起こす病気
両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 両足の股関節、膝関節が変形し、痛みを伴い活動に制限がある状態

こんなこともある...第1号被保険者と第2号被保険者の違い

65歳のA男さんは階段でよろけてしまいました。それを支えようとした妻のB子さん(63歳)ですが、支えきれず、2人一緒に階段から転落。2人とも骨折してしまいました。

その後遺症で、A男さん、B子さんともに、日常生活において介助支援が必要に。このとき、65歳以上のA男さんは要支援の認定を受けることで、介護保険のサービスをすぐに利用することができましたが、65歳になっていないB子さんは、この時点では介護保険サービスを利用できません。

もちろんB子さんが65歳の誕生日を迎え、要支援の認定を得られれば、その時点から介護保険のサービス利用が開始できます。

!POINT!

  • 介護保険サービスは、65歳以上であれば、要介護・支援の判定を受ければ、その原因を問わず利用できる。
  • 65歳未満の場合は、原因が加齢によるもの認められた「16の疾病」以外では介護サービスを利用できない。

介護保険料はいくら払う?

介護保険料は第1号保険者と第2号保険者をはじめ、各種条件によって異なるため一概には言えません。種別による考え方は下記のようになります。

第1号保険者の場合

課税状況や家庭の状況によって9段階(標準)の基準(保険者によっては9段階以上)が設けられており、その基準によって納付額が決まる。また、介護サービスが充実していたり、高額サービスの利用者が多かったりすると、保険料も上がるため保険料は地域差がある。

第2号保険者の場合

社会保険加入者の場合:給与やボーナスを元に計算して納付額が決まる。社会保険料と同じく、介護保険料も勤務先が半分負担してくれる

国民健康保険加入者の場合:前年の所得と世帯の被保険者の人数で決まる。

第1号保険者と、第2号保険者かつ国民保険加入者は、計算方法が自治体に左右されるので、お住まいの自治体に保険料を確認してみましょう。

また、厚生労働省の発表によると、第8期(令和3年度~令和5年度)の介護保険料の全国平均は6,014円。第7期(平成30年度~令和2年度)の5,869円から145円増加しています。

制度開始の第1期は2,911円であり、第2期は3,293円、第3期は4,090円と年々、介護保険料の負担が増しているのが現状です。

滞納すると介護サービスが受けられなくなることも

基本的には健康保険料の一部として納付する、もしくは年金から天引きされる特別徴収のため、滞納するというケースはあまりないのですが、普通徴収で納付書支払いを選択していると、うっかり納付を忘れてしまうことも。

万が一介護保険料を滞納した場合には、滞納期間に応じてペナルティが課せられ、今後、必要となったときに介護サービス利用を十分にできなくなる可能性があります。

また、介護保険料には納付期限があり、納付期限から2年が経過してしまうと、その分を後から支払うことができなくなり、「未納」という扱いになります。

未納が確定してしまうと、2年以上滞納した場合と同じ扱いになり、同じ介護サービスを十分に受けられなくなる可能性があるので、十分注意しましょう。

介護保険料を滞納したらどうなる!?

介護保険料を滞納してしまうと、滞納状況別に下記のような不利益を被ることになるので注意が必要です。

滞納状況 扱い
保険料の納付期限が過ぎた場合 延滞金を請求される
保険料を一年以上滞納した場合 介護サービスを利用した場合、全額(10割)を支払う。
申請すると、9割~7割が後日払い戻される
保険料を一年半以上滞納した場合 費用の全額を自己負担。
払い戻し申請をしても保険給付の一部が一時的に差し止めとなり、
滞納していた保険料と相殺される
保険料を2年以上滞納した場合 2年を超えた分は追納ができず「未納確定」となる。
これにより自己負担割合が「3~4割」に引き上げる。
さらに「高額介護サービス費」の払い戻しも受けられなくなる

「自分は生涯現役であり、介護保険を利用することはない」と考えている人もなかにはいるかもしれません。しかし、人生なにが起こるかは誰にも予測がつきません。

下記は、弊社が行った調査により分かった、介護施設に入居した年齢の分布図です。60歳以下でも入居している人がいるのに対して、70代で一気に入居数が増えているのが見て取れます。

※出典:株式会社 LIFULL senior「介護施設⼊居に関する実態調査」より

こうした施設をはじめ、利用するサービスによっては月に何十万円というお金が出ていくことになり、経済的負担が急増します。その負担を助けてくれるのが、介護保険制度です。要介護の度合いに応じて給付金制度が設けられているので、少しでも自己負担を減らすためにも介護保険料は滞納することなく納めておくようにしましょう。

介護保険料を納付しなくていい人はいる?

介護保険料の納付は国民の義務であるため、基本的には納付しなくていい人は「いません」。たとえ無職の方でも納付義務が生じるので注意が必要です。ただし、自治体によっては生活保護を受けている場合は、自己負担分の介護費1割分が生活扶助からの給付になるため、自己負担なしでサービスを受けられることもあります。

また水害・火災などの被害により経済的損害が大きく、保険料の負担が重い場合や、著しく所得が低い場合は減免措置を受けられる可能性もあります。

!POINT!

  • 今は必要なくとも、いざ介護サービスが必要になったときに困らないよう、納付書支払いの方は、納付漏れがないようにしておこう。
【専門家が回答】介護保険料を滞納するとどうなるの? 【初めての方へ】介護保険料はどうやって決まるの?

介護保険料は何歳から払う?どうやって納める?

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イラスト:安里 南美

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この記事の制作者

株式会社回遊舎 酒井富士子

著者:株式会社回遊舎 酒井富士子(フィナンシャル・プランナー)

“金融”を専門とする編集・制作プロダクション。
お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで担う。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」、「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点1 0」(株式会社ダイヤモンド社)など

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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