せん妄とは?その原因や認知症との違いをわかりやすく解説
誰もいないはずなのに「人がいて眠れない」と訴える。突然興奮して怒りだす。
夜間に活動的になり昼夜逆転の生活が続くなど、家族や身の回りの人にこのような症状が起こると、戸惑ってしまう人もいるのではないでしょうか。
このような症状は認知症の症状と間違えられることもありますが、実は認知症とは全く別の「せん妄」という病態になっている可能性もあります。
せん妄は軽い意識障害で、薬や疾患などによる体への悪影響が原因で起こる病態で、特に高齢者に多く見られます。
ここでは、「せん妄」について詳しく解説していきます。
せん妄とは どんな症状が現れるのか
せん妄とは、脳が機能不全を起こすことによる軽度の意識障害のことで、この障害に付随したさまざまな精神症状が起こります。また、原因や状況により現れる症状にも個人差があり、せん妄ではなく、認知症やうつ病といった症状と間違われることもあります。
ここでは、せん妄の代表的な症状を説明します。
集中力がない
ぼんやりとしている、または朦朧としているように見え、集中力がない状態がみられます。また、注意力が散漫になることもあります。
幻覚や妄想
見えるはずのないものが見えると言ったり、いるはずのない人の存在を感じる、また辻褄の合わないことを言います。
昼夜逆転
睡眠と覚醒のリズムに障害が起こり、昼夜逆転の生活となります。昼夜逆転はせん妄の最も代表的な症状の1つです。
夜に興奮状態になる
昼夜逆転に伴い、夜に感情がたかぶり興奮状態になることがあります。不眠にもつながる恐れがあるため、注意が必要です。
感情が不安定になる
突然怒り出す、泣き出す、夜に興奮状態になる、やる気がなくなるなど、感情が不安定になることがあります。
夜間せん妄とは
せん妄の症状が夜間に頻繁に現れる場合は「夜間せん妄」といわれます。夜間せん妄の場合は、昼間になると症状が落ち着いていることが多いです。
なぜ夜間にせん妄を発症しやすいのでしょうか。それは、外が暗いことで電気をつけないと周囲が見えにくく、不安や恐怖、孤独を感じやすくなるためです。
せん妄と認知症の違い
せん妄の症状に「幻覚」や「妄想」、「落ち着きがないこと」が挙げられますが、これらは認知症の症状にみられる見当識障害と似た部分が多く、間違われる場合があります。
認知症と比較したときに、せん妄には「意識障害がある」「急激に発症する」「1日の中でも症状に波がある」という特徴があります。せん妄は、脳の機能不全により引き起こされる軽度の意識障害とも言えるのです。
せん妄と認知症との違いは下記の表のとおりです。
せん妄 | 認知症 | |
---|---|---|
発症 | 急激 | 徐々に |
初期症状 | 幻覚、妄想、興奮 | 記憶障害 |
主な症状 | 注意散漫、集中力欠如 | 時間や場所などの 感覚が薄れる |
日中の変動 | 夕刻〜夜間に 悪化することが多い |
変動は少ない |
症状の持続 | 数時間〜数日 | 永続的 |
認知症患者の方がせん妄を発症した場合
認知症とせん妄は別の病態ではありますが、認知症の人がせん妄の症状を同時に発症することは少なくありません。
認知症の原因となる疾患によりせん妄の有症率は変動します。例えばアルツハイマー型認知症患者の場合、患者全体の約10%が同時にせん妄を発症していたという研究結果もあります。
症状が似ているために、せん妄を認知症であると勘違いし、せん妄の治療を怠ってしまうこともあります。せん妄は軽度の意識障害に当たるため、認知症とはアセスメント方法も対応方法も異なるのです。
また、せん妄は早期に意識的にケアを行うことで、症状を和らげられることがあります。そのため、せん妄の症状には早い段階で気づくことが重要です。
せん妄とうつ病の違い
せん妄は、認知症と同じくうつ病でも似たような症状が出現するため混同されやすいです。せん妄との大きな違いとしては、うつ病は急激に発症することはなく何かを契機に徐々に症状が進行すること、思考内容が自責的であることなどがあげられます。
せん妄とうつ病との違いは下記の表のとおりです。
せん妄 | うつ病 | |
---|---|---|
発症 | 急激 | 契機をきっかけに徐々に |
初期症状 | 幻覚、妄想、興奮 | 抑うつ、無気力 |
思考の内容 | 無秩序 | 悲観的、自責的 |
睡眠リズム | 夜間に覚醒することが多い | 不眠、早期覚醒など |
症状の持続 | 数時間〜数日 | 数週間〜数ヶ月 |
なぜせん妄が現れるのか、その原因
せん妄は、準備因子・直接因子・促進因子の3つが影響しあうことで発症します。発症しやすい要素(準備因子)がある方に、促進因子が誘発されやすい状態を作り、直接因子が引き金になって発症するのです。
準備因子
準備因子は、その人が元々持っている、せん妄になりやすいとされる要因を指します。
例えば、高齢であること、認知症を発症していること、ADLが低下している状態にあることなどがあげられます。
そのほか、せん妄の既往症やアルコールの大量摂取なども準備因子としてあげられます。
直接因子
直接因子は、脳の機能に悪影響を与える直接的な出来事や環境の変化などを指します。
例えば、直近である手術をした、せん妄の要因となるような薬を投与した、脱水症状を起こしたなどの出来事などがあげられます。手術の後に発症するせん妄として「術後せん妄」という言葉もあるほど珍しいことではありません。
促進因子
促進因子は、対象の人が置かれる環境や社会心理、コントロールの効かない状況を指します。例えば、入院や施設への入居、騒音のする部屋に長時間居座る、痛みや苦痛などにより感じるストレスなどがあげられます。
また、抗うつ剤や睡眠薬、ステロイド製剤などはせん妄を引き起こしやすい成分を含んでいることがあるため、注意が必要です。医師や薬剤師の指導に従いましょう。
せん妄を発症しやすい人
せん妄の原因には3つの因子が関わっていることは前述のとおりです。これらの因子から、具体的にどのような人がせん妄を発症しやすいのかをまとめたのが以下です。
- 65歳以上
- 認知症を発症している
- 直近で病気にかかったことがある、また今病気にかかっている
- 最近手術を行った
- 過度な飲酒をする
- せん妄の既往歴がある
せん妄の原因となる3つの因子を理解することは、せん妄の予防にもつながります。発症しやすい状況をできるだけ遠ざけることが大切です。
また、せん妄自体は認知症の1つの症状として現れることも多く、せん妄の要因によらない他の要因から引き起こされていることもあり、見極めが必要です。
予防方法
せん妄を予防するには、発症する要因をできるだけ遠ざけるような環境をつくることが最も大切です。ここでは、せん妄予防のためにすぐにでもできることをご紹介します。
生活習慣を整える
まずは、日中は陽の光を浴びて活動する、夜は眠るといった規則正しい生活リズムをつくることが重要です。せん妄の代表的な症状である昼夜逆転や、夜間せん妄への予防にもつながります。
そのほか、質の良い睡眠がとれるように睡眠環境を整えることも大切です。日中は家族が一緒に買い物に行くなどして適度に運動することも効果的です。
薬剤のコントロール
薬の服用が必要な場合は、適切なタイミングで必要な量だけ服用するよう、家族がコントロールすると良いでしょう。身体の状態を安定させることは、せん妄の予防にもつながります。
また、せん妄を引き起こす可能性がある薬もあります。これらの薬の投与には特に注意しましょう。
ただし、薬剤の中止によってもせん妄が起きます。勝手に服用を注視することはせず、薬剤師や医師とよく相談をしましょう。
不快感のない生活環境をつくる
不安を和らげてあげることが最も重要です。なじみのある環境を整え急激な変化を避ける、見当識を維持できるように場所を分かりやすくしておくなどの対応も効果的でしょう。
また、騒音や光など耳や目への刺激に配慮することも大切です。
せん妄が現れた場合の対応方法
せん妄は軽度の意識障害に該当するため、症状が現れた場合もそれに沿った対応を行うことが必要です。せん妄は早期に発見しケアを行うことで、症状を和らげられるかもしれないので、「せん妄の症状かも」と思ったらすぐに対応しましょう。
もし、せん妄の症状と思われる行動を目にしたら、まずは一旦心を落ち着けましょう。慌てて本人の行動を制止したり、むやみに怒鳴ったりしてはいけません。優しく声かけを行い、本人の言動に耳を傾け、表情を注視します。
また、騒音や視界を遮るものがある、危険なものが近くにあるなどの場合は、本人が不快に思わない環境にし、危険なものはその場から排除しましょう。
せん妄のような症状が長く続く、何度も繰り返し続く場合は、迷わずに医師に相談しましょう。
治療方法
せん妄の治療方法については、いまだに確立されたものはないといわれています。現れている症状や本人が置かれている状況を考慮し、まずは整えられる環境を整える、できることを確実に行うことが大切です。
例えば、睡眠と覚醒のリズムに異常があるのであればまずは生活リズムを整える、本人の置かれている環境に何か問題があるのであれば改善する、といった対応をします。
薬物療法について
もし、原因となりうる状況に対処してもせん妄の症状が改善しない場合、または何らかの理由で早期の治療が必要な場合は、抗精神病薬による薬物療法を行うこともあります。しかしこれはあくまでも抗精神病薬であり、せん妄を根本的に治療できるものではなく、症状を和らげるにとどまります。
また、せん妄の症状を誘発しうる成分が含まれている薬剤もあるため、薬物療法を行う際は特に注意が必要です。
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この記事の制作者
監修者:橋本将吉(内科医)
杏林大学医学部医学科を卒業。2011年に株式会社リーフェ(リーフェグループ)を設立し、医大生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営と、健康情報の発信を通した啓蒙活動に力を入れる。実際に現役の内科医として診療を行う一方で『医学生道場』にて医学生の指導を行いつつ、YouTuber『ドクターハッシー』としての顔も持つ。