見当識障害とは? 対応方法やせん妄との違いを解説
見当識障害とは、時間や場所などの感覚が薄れ、社会生活や日常生活に支障をきたす障害のことをいいます。
記憶障害などと同じく認知症の中核症状として現れる障害で、認知症の症状の中でも比較的早い段階からみられます。
原因は認知症の発症原因によってさまざまですが、介護する家族にとっては理解できない言動や行動を伴う障害であるために、症状を理解しておくことが重要です。
ここでは、見当識障害の症状や、よく混同されるせん妄との違い、見当識障害が原因で発生しうるトラブルや対処法などを解説します。見当識障害の症状改善に繋がるリハビリテーションについても説明していますので、参考にしてみてください。
見当識障害とはどんな症状?
見当識障害とは、薬を自分で飲めない、気候に合った服が選べないなど、時間や季節・場所の感覚が薄れることで社会生活に支障をきたす障害を指します。
認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状(周辺症状)の2つに分けられます。中核症状は認知機能の低下から起こるもので、理解力の低下や記憶障害などの症状を指します。見当識障害はこの中核症状にあたり、記憶障害と同じく早くから現れます。
症状の現れ方
見当識障害は時間、場所、人の順番で発生します。
まず、時間の感覚が薄れ、約束の時間に合わせて準備をする、長時間待つなどができなくなります。さらに進行すると、日付や季節感が失われ、今日の日付が分からなくなったり、自分の年齢が分からなくなったり、季節感のない服装をしたりということが起こります。
症状が進行すると、次に場所の見当識障害が現れます。初めは周りの風景を頼りに歩くことができても、頼りがなくなると途端に迷子になってしまいます。近場で迷子になったり、歩くには遠い場所へ歩いて行こうとしたりするようになります。
さらに症状が進むと、自分や人に関する記憶がなくなり、自分が今誰と話しているのか、目の前にいるのが誰か分からなくなります。
せん妄との違いは?
せん妄と見当識障害の大きな違いは「症状が急性なものであるか」「意識障害があるか」です。
せん妄とは、脳の機能不全により引き起こされる軽度の注意・意識の障害で、多くは睡眠リズムの障害や感情障害などの精神症状を伴います。また、せん妄は「数時間〜数日単位で急激に発症する」「1日の中でも症状の変動がある」という2つの特徴があります。
せん妄の症状としては幻覚や幻視、落ち着きがないなどがよくみられるため、見当識障害による症状と混同されることが多くあります。
せん妄と比べ、見当識障害は認知や記憶の障害であるため、基本的に意識ははっきりしており、症状も急激ではなく徐々に進行するという違いがあります。
せん妄 | 見当識障害 | |
---|---|---|
発症 | 急激 | 徐々に |
初期症状 | 幻覚、妄想、興奮 | 記憶障害 |
主な症状 |
注意散漫、集中力欠如 |
時間や場所などの 感覚が薄れる |
日中の変動 | 夕刻〜夜間に 悪化することが多い |
大きな変化はない |
症状の持続 | 数時間〜数日 | 継続的 |
見当識障害の原因
認知症自体には、アルツハイマー型認知症や血管性認知症などの種類により、発症の原因がいくつかあります。そのため、認知症の中核症状にあたる見当識障害の発生原因も、認知症の種類によってさまざまです。
例えば、最も発症率の高いアルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質の一種が脳に蓄積することが原因となり発症します。アミロイドβというタンパク質が蓄積した結果、脳の萎縮が進み、記憶障害・見当識障害といった中核症状を発症するといった仕組みです。
見当識障害によって起きるトラブル
見当識障害は社会生活や日常生活にも影響を与え、症状が原因で他者とのトラブルに発展することもあります。
例えば下記のようなトラブル例が挙げられます。
約束の時間に遅れる
時間や日付の感覚が薄れ、約束の時間に間に合うよう準備ができずに到着が遅れてしまい、先方に迷惑をかけてしまうことが起こり得ます。
約束したこと自体を忘れてしまう場合は記憶障害ですが、「約束の時間までに準備ができない」は時間の見当識を失っている状態と言えます。
時間の感覚がなく夜中に電話をしたり外出したりする
時間を認識できなくなることからさらに症状が進行すると、朝や夜などの区別もつかなくなります。
そうなると、例えば夜中なのに知人に電話をかけてしまったり、夜中で店も開いているはずがないのに買い物に出かけようとしたりすることがあります。
歩いて行けるはずのない場所を目指して出かけ迷子になる
場所の見当識障害により、道順を認識できない、目的地までの距離が掴めない、などが起こり、知らない場所で迷子になってしまうケースもあります。
目的地がはっきりしていたとしても、その距離感が掴めていないために、到底歩いて行けるはずのない場所へ歩いて出かけようとすることもあります。
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見当識障害への対応
見当識障害が認められた時、家族や周囲の人々はできる限り本人の自尊心を傷つけないように対応することが大切です。
症状を示す本人が大切にしたいものを理解し、伝えようとすることに耳を傾け、焦らずに話を合わせて感情を理解した上で働きかけるようにするのが良いでしょう。
まだ自分でできることも多くある状態なので、決して本人の可能性を妨げることなく、できることはさせてあげることも重要です。
そのほか、以下の対策も有効です。
- 環境の急激な変化を避ける
- できるだけ1人にさせない
- 刃物やガラスなどの危険物を目につく場所に置かない
- 自宅のトイレの場所を分かりやすくする
ここでは、具体的に3つの状況に対して家族や周囲の人間がとれる対応を紹介します。
時間の感覚がなくなり、夜に出歩いてしまう場合
時間の感覚がなくなり夜に出歩いてしまう場合、まずは本人の外出の理由を理解することが重要です。
時間を間違えて外出しようとしているのであれば、まずは本人の意思を理解した上で、外出する必要がないことを伝えます。
しかし、直接外出を止めることは非常に困難で、時には逆効果となることもあります。
また、夜の外出には、事故の危険や自力で帰って来られなくなる危険、夏場であれば脱水などの危険も考えられるため、日頃からそれらについて対策をしておくことが大事です。
暗い場所でも見つけやすいように明るい色の服を着用させる、出ていくことが分かるように玄関にセンサーをつける、今どこにいるのか把握できるようにGPS器具を身に付けさせるなどの対策も有効でしょう。
トイレが認識できなくなり、トイレに失敗してしまう場合
排せつについては羞恥心や拒否感を伴うもので、本人は人の手を借りたくないと思っている場合も多いです。
場所の見当識障害でトイレが認識できなくなっている場合は、トイレに「ここがトイレ」であると分かりやすい目印をつけるほか、「トイレ」という表現から本人がより理解できる表現を探して認識させるなどの工夫をするといいでしょう。
また、それらの対策と合わせて、リハビリパンツやおむつなどの失禁対策をとっておくことも1つの方法です。トイレに失敗してしまっても頭ごなしに咎めることはせずに、できるだけ本人の尊厳を傷つけないような対策を心がけましょう。
場所の感覚がなくなり、自宅なのに帰りたがる場合
自宅なのに帰りたがる場合は、その場所を自宅だと認識できていないことが原因です。
ただ、この場合は、単に「自分の家に帰りたい」と思っているわけではない場合があります。
まずは、本人に帰りたい理由を尋ねて理解します。
例えば「◯◯に会いたいから帰りたい」などであれば、会いたい気持ちに寄り添って声かけなどで対応したり、気を紛らわせるために散歩へ出かけ、一緒に自宅へ帰ったりすることで安心させると良いでしょう。
見当識障害のリハビリについて
見当識障害の症状へのリハビリテーションとしては、問いかけを行うことで時間や場所、状況などの見当識を確認する「リアリティ・オリエンテーション」が有効です。
リアリティ・オリエンテーションとは、今日の日付や季節のほか、今いる場所などの見当識を確認する訓練です。「今どこにいる?」「今日は何月何日?」といった問いかけを繰り返し行ったり、これまで行ってきた日常的動作などを通じて協調性を取り戻したりを目的としたものです。
リアリティ・オリエンテーションには「24時間リアリティ・オリエンテーション」と「クラスルームリアリティ・オリエンテーション」の2種類があり、いずれも氏名や場所、時間などを繰り返し与えていく方法です。
24時間リアリティ・オリエンテーション
「自分は誰なのか」「今は何月何日の何時何分か」「今どこにいるのか」など、現実を認識する機会を繰り返し与える方法です。食事や排せつ、入浴など日々のケアの中で起きている出来事を利用しながら、見当識を補っていくものです。
クラスルームリアリティ・オリエンテーション
少人数のグループに、あるプログラムに沿ってメンバーの氏名や時間、場所などの現在の情報を与え、皆で確認をしながら訓練する方法です。
決まった時間と場所に決められたプログラムに沿って毎日行うことで、メンバー同士の理解やコミュニケーションが深まり、信頼関係を築くことにも繋がります。
この記事の制作者
監修者:橋本将吉(内科医)
杏林大学医学部医学科を卒業。2011年に株式会社リーフェ(リーフェグループ)を設立し、医大生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営と、健康情報の発信を通した啓蒙活動に力を入れる。実際に現役の内科医として診療を行う一方で『医学生道場』にて医学生の指導を行いつつ、YouTuber『ドクターハッシー』としての顔も持つ。