【知っておきたい】認知症による徘徊―その原因と対応方法

「徘徊」とは目的もなく、ただうろつき回ることとされています。

確かに、認知症の人がそのように見える行動をされることがあります。

周囲の人々は転倒や道迷いなどが心配になるでしょうが、ご本人にとっては理由も目的もあるため、基本的にそれを止めるのは困難です。

ここでは認知症における徘徊の原因や対処法についてわかりやすく解説します。

社会問題化する「徘徊」―その理由

警察庁の発表では、令和2年のうちに、全国の警察に届出があった徘徊からの行方不明者数は年間約1万8千人にも上っています。

2016年の桜美林大学老年学総合研究所の調査では、行方不明から5日間経過すると生存率が0%となるという結果も出ています。

生存していた場合でも、自宅から遠く離れた土地で発見されたり、本人が住所な身元を伝えることができず身元不明者とされているケースもあります。

また、踏切事故や交通事故に遭う例や、徒歩ではなく自転車や自動車で出かけ、他人を巻き込んで事故を起こしたケースもあるようです。

社会的にも課題となっている「認知症の方の徘徊」。でも、その理由は、私たちが歩き、外出する理由と全く同じものなのです。

そのため、ご本人に歩く能力がある限り、徘徊と呼ばれる症状は誰にでも起こる可能性があります。

例えば、

  • ご自宅から「家に帰る」といって外出し、その「家」の場所がわからず歩き続ける
  • 近所のスーパーに出かけて行ったはずが、何時間も歩き続けている
  • 家の中で何かを探しているようにうろうろとしている

のように、どれもがご本人にとっての「理由」があります。

しかし、周囲にはその理由が理解できない、現実の状況にそぐわないとされるために「徘徊である」とみなされるだけなのです。

とはいえ、そのような行動がリスクを生む場合があります。

帰ろうとしている「家」がはるか遠くの生まれ故郷の家なら、当然たどり着けず、パニックになるかもしれません。

夏場に道に迷うのは熱中症の危険性もあります。家の中でも探し疲れて転倒し、骨折するかもしれません。

徘徊といわれる行動に対応するには、その理由を探り、その行動にまつわるリスクをうまく管理することが鍵となります。

徘徊の原因

徘徊の動機や原因としては以下のようなことが想定されます。

道に迷って
道順や目印を忘れる記憶障害や、自分のいる場所がわからなくなる見当識障害があると、慣れているはずの場所でも道に迷うことがあり、そのまま迷い続けると、「徘徊」とみなされてしまうことがあります。
また、屋内でも、トイレに行くなどの目的があるのに場所がわからず、迷い続けることもあります。
帰宅しようとして
見当識障害により「自宅」という認識が持てず帰宅しようとすることで、「徘徊」とみなされることがあります。
また、記憶障害により自己認識が若返り、親が待つ家や昔住んでいた家に帰ろうとすることもあります。当然、街並みも全く違うので迷い続け、徘徊とされます。
なぜここにいるのか忘れて
病院の待合室やデイサービスなどの外出先で、記憶障害によりなぜここにいるのか忘れ、何とか現状を理解しようと外に出てしまったり、どこだか理解するため探索しようとした結果、「徘徊」とされることがあります。
過去の習慣の再現として
定年退職した会社に出社しようとしたり、幼い子どもがいる認識となり子どもを迎えに行こうとするなど、記憶障害で現状を忘れ、過去に習慣として行っていた外出をしようとして、「徘徊」とされることがあります。
居場所を探して
家族や知人の顔が認識できず、見知らぬ人がいると思い不安になったり、置かれている環境やそこでの介護に不満があったりすると、感情が抑制できず衝動的に外出につながることがあります。
本人にとっては「より心地よい場所を探している」状態です。
症状の一つとして
前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる前頭側頭型認知症では、同じ行動を繰り返す常同行動という症状が見られる場合があります。
その症状で、同じところを目的なく行き来する場合もあり、結果として「徘徊」とされる場合もあります。
また、レビー小体型認知症では幻視が生じ、不安な幻視から逃れようとする行動が「徘徊」とされることもあります。

徘徊のリスクを低減する方法

それぞれに理由のある「外出」である「徘徊」を止めることは、実際は非常に困難です。

ご本人が開けられないカギを付けて閉じ込めたり、靴を隠すなど外出をさせないようにすると、怒りや暴言・暴力につながることもあり、いざとなれば裸足でも外出します。窓や2階から出ようとして大けがをする場合もあります。

逆説的ですが、閉じ込めるのではなく、むしろ楽しい気分や体調で積極的に外出していただくこと、それもリスクのあるひとり歩きではなく、客観的に見守りのある安全な外出に変えることが最良の対策です。

「出かけさせない」のではなく、徘徊のリスク・危険性をより低くするためにできることを考えてみましょう。

ひとりで外出する気分にならないように

趣味や仕事を見つける

何もすることがなく、話し相手もいなければ、「自分の居場所ではない」「ここはどこだ」と疑いはじめ、外に出ようとしがちになります。

集中できる手作業や、充実感のある作業、楽しめる趣味があることが、「ここが居場所だ」という感覚につながります。

適度に運動する

誰しも、同じところにじっとしているのはつらいものです。エネルギーがあり余って「徘徊」とされる行動につながることがあります。

適度に運動してエネルギーを発散し、心地よい充実感や疲労感を味わうことで外出衝動が改善する場合があります。

特に、散歩など外出する機会を増やせば、足腰も鍛えられ、交通法規を守り、正しい道を記憶し続けるトレーニングにもなります。

体調や生活リズムを整える

逆に体調が優れず、夜眠れないなど生活リズムが乱れているために、徘徊とされる行動につながることもあります。

水分不足で意識がもうろうとしていたり、便秘や腰痛で不快感があったり、夜目覚めてしまうと、ご本人がどうしていいかわからず、徘徊につながることがあります。

こういった場合は、体調や生活リズムを整え落ち着いてもらう必要があります。

外出のリスクを減らすために

一緒に外に出る

無理に止めようとせず、一緒に出かけてみましょう。徘徊する理由も、歩いているうちに忘れることも多いのです。

外出したことによって気分も晴れ、徘徊の原因となったストレスも緩和されていきます。

表情が和らいだ頃を見計らい、「きれいだねえ」と一緒に季節の花を見たり、喫茶店に寄ってみたり、楽しい「外出モード」に切り替えましょう。

また、一緒に外に出ると、ご本人が迷いやすい曲がり角や、立ち寄りやすいところ、休みたい、トイレに行きたいタイミングなどの傾向や、経路での危険もわかります。

安全に出かける先をもつ

徘徊の症状が出ていても、安全に通える外出先があれば、どんどん外に出てもらうほうがよいでしょう。

安全に外に出る機会を増やすことで地理感覚を保ち道迷いのリスクを軽減したり、外出する能力そのものを維持したりすることができます。

デイサービスや地域のいこいの場など、ご本人の状態を理解し支援してくれる外出先を見つけ、安全に外に出る機会を多く作りましょう。

徘徊に備えて

徘徊が生じても、大きな事故にならないように以下のような対策をしておくことも大切です。

徘徊するタイミングを知らせる

玄関にセンサーを付けたり、ドアベルを付けたりすることで、周りの人がご本人の外出に気づくことができます。また、玄関に鏡や花など、ご本人が興味を持つものを用意することで、外出行動に気が付く時間を稼ぐ仕掛けになります。

早期発見のための工夫をしておく

万一行方がわからなくなっても、早期に発見できるよう予め準備しておくことで、外出のリスクが低減できます。

  • ご本人の行動パターンや立ち寄り場所を知っておくと、発見しやすくなります。
  • 記憶障害により自分で言えない状況を想定し、名前や連絡先をキーホルダーや財布など常に持ち歩くもの、衣服に目立たぬように記入するなど、複数身につけてもらいましょう。
  • 位置情報を知らせてくれるGPS端末を利用するのも有効です。首から下げたり、ポケットに入れたり、靴につけておくことができるタイプがあります。携帯電話のGPS機能を使用するのも良いでしょう。地域包括支援センターなどに相談してみましょう。
  • 探索しやすいよう、顔写真を準備したり、当日の服装を記録しておくと有効です。

地域との連携

徘徊対策には地域との協力が欠かせません。ご近所・地域とは日ごろのお付き合いが大切です。

  • 立ち寄る可能性のある店舗や、駅などの交通機関を事前に知っておくと、いざというときに協力をお願いすることもできます。
  • 行方不明者を発見保護するSOSネットワークなどがある自治体もあります。外出傾向がある場合は、地域包括支援センターに相談し、事前に登録しておくとよいでしょう。
  • 介護職は認知症や道迷いの高齢者に気が付きやすいもの。サービスを利用している事業所やケアマネジャーに、前もって相談しておくといいでしょう。
  • 担当ケアマネジャーやデイサービス、ヘルパー事業所など、介護事業者同士で声をかけあい、捜索に協力してくれることもあります。

徘徊が発生したとき

実際にご本人が行方不明になると、認知症に対する家族の「恥」の意識が、捜索の足かせになることがあります。

家族がご近所に「認知症の人がいる」と知られたくないために、捜索を自力だけで行い、結果、手遅れになってしまうケースもあります。

しかし、家族が思っているより、認知症の方の行方不明はありふれていて、地域との連携が当たり前、おたがいさまの時代になっているのです。たくさんの人の協力を心おきなく仰ぎましょう。

具体的には、以下のようなことを行います。

  • 立ち寄りやすい場所やなじみの商店やコンビニ、公園や交通機関をさがします。
  • 並行して、自力での捜索だけに頼らず、まずは迅速に警察に連絡しましょう。戸惑うかもしれませんが、通報時間が早ければ早いほど捜索範囲も狭まり、発見する確率はずっと高くなります。
  • 地域包括支援センターや担当ケアマネジャー、利用している介護サービス事業所に連絡してください。良い対策法や捜索のコツを心得ていることが多いものです。

認知症高齢者の行方不明は、そのままでは命の危険もあり大きなリスクを伴いますが、どれだけ気を付けていても、行方不明になることはあり得ます。

ご家族だけで徘徊対策に気を張り続けて、共倒れや虐待につながるようなことがあってはいけません。介護職も巻き込みながらこの記事のような手段を講じてみましょう。

認知症サポーター制度などにより、一般の方々にも徐々に認知症理解が促されてきています。専門職や地域の方の力を借り、それでも「もう難しい」という場合は施設入居も選択肢にいれながら、ご本人もご家族も心安らかになるように対応していきましょう。

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この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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