【はじめての方へ】認知症による服薬拒否―対策とやってはいけないこと
服薬拒否は認知症の人にしばしば起こる現象です。
ご本人の健康を守る薬を飲んでくれないというのは、ご家族にとって、大変心配なことでしょう。
このページでは、服薬拒否の背景や原因はなにか、どのように対応すればよいかについて説明します。
服薬拒否のとらえかた
必要がない、信頼できない薬は飲みたくないもの
子どものころ、家族が薬を飲ませてくれた思い出はないでしょうか。薬は単なる物質ではなく、そこにかかわる人間関係やその思いに裏付けられて、はじめて疑問を持たずに服用できます。
信頼がおけない人から渡された薬や、出所がはっきりしない薬、なぜ飲むのかわからない薬は飲みたくないのは当然で、服薬拒否はご本人のそうした切実な思いの結果であるといえます。
このように、服薬拒否は根深いことが多く、無理に服薬させようすると、毒を盛られているという妄想につながる場合もあります。
特に、何とか服薬してもらおうと薬を飲食物に混ぜてしまって、それがご本人に知られた場合は、信頼関係を大きく損なうことにもなりますし、食事拒否にまで発展しかねません。
介助者側の都合で、安易に薬を食事に混ぜ込んで問題解決してはいけません。
医師や介護職、薬剤師など、様々な専門職の力を借りながら、注意深く対応していきましょう。
服薬拒否の原因と対策
原因1:薬の必要性がわからない
ご本人に病気の自覚や記憶がなく、何のために飲む薬かわからなければ、誰でも当然服薬する気にはなれないのではないでしょうか。
処方箋の写しや、お薬手帳などを見せて、服薬のたび根気強く説明をしてもいいかもしれません。
主治医との関係がよければ、医師と本人が一緒に撮った写真を見せ、「先生が特別にくれた薬です」と伝えたり、医師からの「1日3回飲んでください」というメモなどを手掛かりに促してもよいでしょう。
原因2:薬が飲みこみづらい
実は飲み込む力が低下したために、薬がうまく飲めなくて拒否している場合も多いようです。
錠剤は大粒過ぎても、小粒過ぎても飲み込みづらいことがありますし、粉薬はむせてしまうことがあります。
のどや口の中に長く残れば、不快なだけではなく、薬剤の効果が十分に発揮できなかったり、副作用が生じたりする恐れもあります。咳払いやむせなど服用後の様子も観察し、必要なら医療職や介護職に相談しましょう。
また、薬の種類によっては、口の中ですぐに溶ける口崩剤や、水と一緒に飲むことができる液剤に変えてもらうなど、薬の形態を変えてもらうこともできます。
原因3:そもそも薬に否定的である
もともと薬を飲むことや医療にかかること自体に否定的な方の場合、薬を飲まされること自体に病人扱いされていると感じ、自尊心が傷ついていることがあります。
その場合、医師にその状況を相談し、薬の種類を必要最小限に絞り込んでもらうことも必要かもしれません。
その上で、「さすが、お元気だからこれだけ薬が減りましたね」「同世代の人はもっとたくさん飲んでいるよ。すごいね」などと声をかけると、納得されて服用することもあります。
また、ご家族や周囲が一緒に薬を飲むと、自分だけ病気ではないのだと安心して飲むこともあります。もちろん、ご家族の分は本当の薬でなく、ラムネ菓子などにしておきましょう。
原因4:タイミングが悪い
食後のほっとするひと時に、薬の服用を勧められることに嫌気が差している場合があります。
服薬拒否がある場合には、服薬を勧める側も表情が硬く、緊張していることが多いものなので、お互いに少しゆとりがでるタイミングを待つことも必要かもしれません。
また、特にレビー小体型認知症などで自律神経の乱れがある場合、食後に血圧が降下し、ぼんやりしたり、急に眠気に襲われて、服薬どころではないこともあります。
もちろん、食前、食後など服薬の指示は守りたいものですが、医師に相談の上、そうしたタイミングをずらすこともできるかもしれません。
原因5:服薬を勧める人との相性が悪い
いつも服薬を勧める役割の人との相性が悪い場合もあります。他の人が服薬を勧めると、意外とすんなり飲む場合もあります。
これは決して、その人を信頼していない、嫌っているというのではありません。薬を飲む姿を見せるというのは、ある意味、自分の不健康なところ、弱みを見せることにもつながります。
愛する人だからこそ、健康で強い自分を見せたいと願うのも自然なことです。他人だからかえって服薬に応じることもあるのです。
他の家族や、デイサービスや訪問介護の職員など、いろいろな人に薬を勧めてもらうのもよいでしょう。
いったん、その薬を飲み始めると、拒否されていたご家族が勧めても、変わらず飲み続けることもあります。
原因6:実際に副作用が出ている
この薬を飲むと具合が悪くなるという理由で服薬拒否をしているケースでは、実は本当に副作用が出ている場合があります。
認知症に限らず、高齢者の身体特徴として、代謝が衰えたり腎機能が落ちている場合もあり、薬の副作用が出やすいという特徴もあります。
認知症の方だからと訴えを全て聞き逃してしまうのではなく、ご本人の訴える症状を素直に聞き取り、医師に伝えることも必要です。
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以上のようにしても服薬がうまくいかず、しかも、ご本人との信頼関係を損なうリスクを考えてもなお、飲まなければ生活や生命に影響の大きい薬の場合、やむなく飲食物に混ぜ込む手段を取らなければならないこともあります。
その場合は、必ず医師・薬剤師に確認しましょう。少量のジャムや練乳、アイスなど、甘味の強いものと一緒に服薬してもらうなど、飲み方の工夫を医療者と一緒に考えましょう。
大切なのは、無理をせず、他の人の力を借りながら、柔軟に対応していくことです。
監修者
- 伊東 大介 慶應義塾大学医学部神経内科・准教授
- 1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。2012年、日本認知症学会学会賞受賞。
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この記事の制作者
著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)
現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。
(編集:編集工房まる株式会社)