「幼老複合施設」をご存じでしょうか? これは老人ホームやグループホームなどの高齢者施設と、保育園や学童保育所などの子どもを預かる機関が併設された施設のこと。10年前に開設したユーカリ優都ぴあは、その先駆けといえる施設です。

子どもたちは入居者と接することで思いやりや優しさを学び、入居者は子どもたちから元気を分けてもらいます。「気分がすぐれなかった利用者さんが子どもたちの顔を見た瞬間、ぱっと笑顔になる。子どもの力ってすごいなと感じます」……介護スタッフの比江島恵さんに、幼老複合施設が利用者に与える影響について伺いました。


子どもたちの「ただいま」の声が、利用者の元気の源


――ユーカリ優都ぴあでは、子どもと入居者の間で、日々どのような交流が行なわれているのでしょうか。

学校がある日は、午後になると授業を終えた子どもたちがぞくぞくと学童にやってきます。その際、まずは「ただいま」と利用者さんに挨拶にきてくれます。

 すると、利用者さんの表情ががらっと変わるんです。それまで「お家に帰りたい」と気分が落ち込んでいた方も、「おかえり」と言葉を発した途端に笑顔になります。本当に不思議なんですが、子どもがそばにいるというだけで利用者さんの気持ちが明るくなります。大人にはない癒しがあるんでしょうね。



――入所したばかりの利用者さんは、お子さんたちの存在にびっくりされませんか?

新しい方が入所されると、子どもたちから挨拶をしにきてくれます。「今日からここで暮らす○○さんです」と学童の先生が紹介すると、子どもたちは元気に「こんにちは」と言いながら、利用者さんの手を握ってくれます。最初はちょっと戸惑いをみせていた利用者さんも、それですんなり子どものいる環境を受け入れ、しだいに子どもたちの存在が心の安定につながっていきます。

――子どもたちの反応はいかがですか?

自然と接してくれますね。子どもの順応性にはいつも感心させられます。もちろん、学童の先生方が子どもたちに認知症について説明してくれているということもあります。すぐに理解できなくても、実際に接する中で認知症とはこういうものなんだと徐々に認識していくようです。



子どもとの触れ合いが、認知症の進行を遅らせる


――幼老複合施設ならではのトラブルはありますか?

私がこの施設で働くようになって2年になりますが、開設当初はやはり不安はあったと聞いています。たとえば、利用者さんが子どもたちを叩いてしまったり、子どもが走り回って利用者さんにぶつかったりしないかと。でも、そんな心配も杞優に終わり、これまでほとんどトラブルはありません。

たまに利用者さんが子どもたちの荷物を持ってきてしまうことがあるんですけど、そんなときも子どもたちは私たち介護スタッフに「○○さんが私の荷物を持っていった」と伝えにきてくれます。「これは私のだからダメ、取らないで!」と奪い返すような態度は決して取りません。子どもたちが認知症という病気を理解してくれているからだと思います。

――幼老複合施設には、子どもたちの理解が大切なんですね。

そこが一番重要だと思います。子どもたちの理解なくして幼老複合施設は成り立たないと思います。ありがたいことに、ここはとても理解のある子どもたちばかりで助かっています。

高齢者施設には珍しいのですが、当施設は常に玄関を施錠しているわけではありません。学童が開いている時間帯はこちらの玄関ドアも開け放たれているので、利用者さんも自由に出入りできます。ちょっと目を離した隙に外に出てしまう方がいると、子どもたちが「○○さん、外に出ていますよ」と教えてくれるので、私たちスタッフも助けられているんですよ(笑)。


――子どもたちの存在が、認知症の進行に影響を与えていると感じますか?

一般的に、認知症の影響で暴力的になったり、暴言が出てしまったりする方もいらっしゃいますが、ここでは子どもたちに対して怒鳴る利用者さんはほとんどいません。

専門家の方がおっしゃっていたのですが、「子どもに対して怒らないのは、理性が残っている証拠」なのだそうです。病気が進むとこうした理性も働かなくなると思うのですが、子どもに対して暴言が出ないというだけでも、子どもの存在が認知症の進行に好影響を与えているあらわれなのではないかと思います。



利用者さんの昔話を聞いたり、自分の悩みを相談したり……1対1でコミュニケーションがとれる喜び


――比江島さんがこちらの施設で働くようになったきっかけを教えてください。

特別養護老人ホームや介護老人保健施設(在宅復帰を目的としたリハビリ介護を提供する施設)で働いた経験がありますが、どちらも入居者数が多く、それに対しての職員数がとても少なかったんです。ただただ流れ作業のように仕事をこなすだけで、利用者さんとゆっくり話をすることもできませんでした。

介護士としての学びはたくさんありましたが、気持ちに余裕のない働き方ではいけないと感じていました。もっと利用者数の少ない施設で働きたいと思っていたときにユーカリ優都ぴあの募集を見つけたんです。それがきっかけでこちらに転職しました。


――ユーカリ優都ぴあで働くようになって、何か変化はありましたか?

利用者さんと1対1でお話ができて、一人ひとりとしっかりコミュニケーションがとれるようになったことが一番の変化であり喜びです。

以前はあまりにも忙しすぎて、利用者さんと座って話をするなんて考えられませんでした。ここでは座ってゆっくりと利用者さんの昔話を聞くことができます。ときには私の悩みごとを聞いてもらったりもします(笑)。

――どのような返事が返ってくるのでしょうか?

みなさん、とても真剣に考えてくれるんですよ。「あなたはまだ若いんだから、頑張りなさい」と励ましてくれます。本当はこちらが聞いてあげる立場なんですけど。

名前は覚えてもらえないけど、顔は覚えてくれているんだなと感じることが多々あります。そうするとこちらも話しやすいし、利用者さんも私の話を真剣に聞いてくれようになるのかもしれないですね。


――今後も介護の世界で頑張られるとのことですが、目標はありますか?

「外に出たい」など、もっと利用者さんの希望に応えられるようになりたいです。ユーカリ優都ぴあには健脚な方が多いし、庭も広くて環境も素晴らしい。お世話をする私自身がフットワークを軽くして、利用者さんには外に出ないとわからない季節感を肌で感じてほしいと思っています。


(塚本佳子+ノオト)