介護業界に携わって20年、そしてユーカリ優都ぴあの管理者(ホーム長)になって10年。鈴木直人さんは管理者と介護スタッフを兼任しながら、日々利用者との密なコミュニケーションを欠かしません。

「しんどいなと思うこともあるけど、現場を離れると寂しくなってしまう」と話す鈴木さん。利用者への温かな思い、そしてグループホームの在り方についてお聞きしました。


「面接してください」……老人ホームへの飛び込みで始まった介護士人生


――鈴木さんは、ずっと介護業界で働いていらっしゃるのでしょうか?

実はこの世界に入る前に一般企業の営業をしていたのですが、2年で退社し、もともと興味があった福祉関係の仕事に進む決意をしました。中学から高校時代にかけて、母が認知症の祖父と寝たきりの祖母を在宅で介護していた影響だと思います。


――転職を決意してからの経緯を教えてください。

経験も資格もなかったので履歴書のみでの採用は難しいと思い、いきなり有料老人ホームをたずねて「面接してください」と頼み込みました。飛び込み営業みたいですよね(笑)。運良く支配人がいらして面接してくれましたが、「やめたほうがいい」とさんざん止められました。


――それはどうしてでしょう?

「これまでやっていた仕事とはまったく違うし、きつい仕事だよ。君は他人の汚物の処理ができる?」と、親身になって心配してくれたんです。何度も「やめたほうがいい」と言われたんですけど、どうしてもやりたいと伝えると、特別に採用してもらえることになりました。


――すごい熱意ですね。実際に働いてみていかがでしたか。

覚えることが山ほどあって、俗に3Kといわれる「きつい」「きたない」「きけん」を感じる余裕もありませんでした。まだ若かったこともあって、最初はやりがいを感じるということもなく、とにかく資格を取るために仕事をこなしていました。

介護福祉士の資格の取得には3年間の実務経験が必要でしたので、突然飛び込んだ有料老人ホームで3年間、経験を積ませていただきました。


――その後、特別養護老人ホーム、居宅介護支援のケアマネジャーを経験されたそうですね。

ステップアップを目指して特別養護老人ホームに転職し、約7年間働きました。有料老人ホームとは異なり、特別養護老人ホームの利用者の身体状況はさまざまです。当たり前のことですが、身体状況によって介護内容や注意点が違うことを学びました。

その後、介護だけでなくケアプランから携わりたいと思い、居宅介護支援のケアマネジャーをしていたのですが、ユーカリ優都ぴあのオープンを知って応募しました。


 

利用者の純粋さ、感性の鋭さに触れることで、仕事に対する気持ちに変化


――ケアマネジャーはどのくらい経験されたのでしょうか?

約1年です。利用者さんとの間に距離を感じてしまい、私には合いませんでした。ケアマネジャーは直接的な身体介護をしませんし、お話をするにも時間的に限りがあります。私はすぐそばに利用者さんがいるという空間に身を置いている方が好きなんだと実感しました。

きついし、しんどいと思うこともあるけど、ちょっと現場を離れると寂しくなってしまう。私がこの仕事を続けていくためには、利用者さんとお話をしたり、日々の暮らしのお手伝いをしたりすることが、気持ちのバランスを取る上でも必要になっていたんです。


――そう感じるようになったきっかけを教えてください。

認知症の方々と触れ合う中で、みなさんの純粋さを感じるようになってから仕事に対する意識が変わったように思います。言葉尻がひねくれていたり、へそ曲がりだなと思ったりすることもあるけど、根っこはやさしいし、ピュアな人たちばかりです。だからこそ、より真摯に利用者さんと向き合うことが重要なんです。


――それは認知症という病気、特有なのでしょうか?

認知症で複雑な物事が理解しづらくなったり、考えるスピードが遅くなったりする分、相手の表情を読み取る感性が研ぎすまされている気がします。普通ならコミュニケーションの中で、いろいろなことを忖度(そんたく)しながら結論を出していくけど、認知症の人にそれは難しい。

だとすると、フィーリングというか感覚を研ぎすますしかありません。この人は本当に自分のことを理解してくれているのか、味方なのか敵なのか、それを感覚で感じ取っている気がします。


――繊細な感性をお持ちの利用者に対して気をつけていることはどういったことでしょうか。

「私はあなたの味方ですよ」という雰囲気を醸し出すことです。言葉のテクニックではありません。ときにはこちらの言っていることが理解いただけないことにストレスを感じることもあるけど、コミュニケーションがとれたときのうれしさは格別です。



 

認知症の進行を緩やかにするのは、共同生活で毎日が穏やかに過ぎること


――利用者とのエピソードで印象に残っていることはありますか?

入所したばかりの頃、毎日泣いていた利用者さんがいました。とにかくすべてのことに怒り嘆いていたんです。体はいたって健康で健脚なので、すぐに外に出て行ってしまう。気が済むまで一緒に歩き、愚痴を聞く毎日でした。これがほぼ毎日、半年くらい続きました。


――特別な対応方法があるのでしょうか。

ただ話を聞いてあげること、そして利用者さんに「ここにいてもいいんだ」と思ってもらうことです。安心してもらうためには「ここにいていいんだよ。ここがお家だよ」と伝え続けるしかありません。病気ゆえに周囲とのトラブルが増え、それに疲れきってしまった結果、気持ちがギザギザになっている方ばかりです。それを丸くするには一朝一夕にはいきません。


――今はみなさん穏やかな表情をされていますが、同じ病気の方々が共に生活することがプラスになっているのでしょうか。

推測ではありますが、みなさん、自分がいつの頃からかどこかおかしいということには気づいている。それを否定しながら暮らしてきたけど、グループホームで暮らすようになると周囲も同じ状況の人ばかりだから「認知症でもいいんだ」と、ありのままの自分を認められるようになり、気持ちが楽になるのだと思います。

グループホームが目指しているのはそういうことです。共同生活が成立し、毎日が穏やかに過ぎていく。そんな当たり前の日々を積み重ねていけることが、認知症の進行を遅らせることにつながっているのではないでしょうか。

――今後に向けての課題はありますか?

地域の方にもっと理解を深めてもらい、ボランティアの数を増やしていけたら、利用者さんの生活もさらに豊かになると思っています。


(塚本佳子+ノオト)