東京都板橋区にある『グランフォレストときわ台』。住友林業グループである株式会社フィルケアが2016年11月、6年ぶりに新設した介護付有料老人ホームです。こちらのホームでは、最新のICTテクノロジーを用いた介護を実践しています。

介護主任を務める油井美和子さんは、立ち上げ責任者としてご入居者とスタッフ、それぞれの状況を見守りながらホームの運営に当たっています。油井さんに介護職との出会いや立ち上げにあたっての課題を伺いました。

介護業界は理想を持って入るとぶつかる壁がある

キビキビとした印象の中にお茶目な一面をのぞかせる介護主任の油井さん

【キビキビとした印象の中にお茶目な一面をのぞかせる介護主任の油井さん】

――油井さんは『グランフォレストときわ台』オープンにあたって神奈川県小田原市から転勤されてきたそうですね。

はい。2007年から同系列の介護付有料老人ホーム『富士ロマンス』に勤務していました。実は働き始めたときは、介護に全然興味がなかったんです。我ながらよく続いたな、と思いますね(笑)

――そんな油井さんが介護を仕事にしたきっかけは?

『富士ロマンス』でスタッフとして働いていた友達からの紹介です。「来ないか?」と誘われました。当時は収入も安定しているし、行ってみようかなと軽い気持ちでした。

――どちらかというと「お年寄りが好き」「人の役に立ちたい」という想いを持った方が、介護業界は多い印象がありますよね。

そうですね。私自身はそうではなかったことが、結果的に仕事をする上ではよかったのかなと思っています。介護職に憧れて仕事を始めた方は、理想と現実の間でジレンマを抱えるケースがあるように感じています。

――どういうことでしょうか?

たとえば「自分のしてあげたいこと」と「ご入居者が望むこと」のギャップに悩むといったケースですね。その点、私はそういった悩みに直面せず、サービス提供に徹することができたのは強みだと感じています。特に主任として現場の責任を預かるようになってからは、その気持ちが強いですね。

――介護職にかける想いが強いと、ときに仕事が辛くなることがあるのかもしれないですね。

私もその想いは否定しません。スタッフそれぞれの想いは個人のあり方として、私自身大切にしているのです。そのうえで、いかに求められていることに応じて手を動かしていくかを伝えていけたらと思っています。

ICTの導入は現場にとっての新しいチャレンジ

 今はスタッフと団結して業務を定着させていくのが課題、と油井さん

【今はスタッフと団結して業務を定着させていくのが課題、と油井さん】

――『グランフォレストときわ台』は、ICTの導入を積極的に推進しているそうですね。ご入居者とスタッフ、どちらにとっても新しい経験ではないかと思うのですが、導入してみてよかった点を教えてください。

誤薬(※薬の種類や量などを誤って服用してしまうこと)防止対策として導入した端末システムは、とても重宝していますね。投薬ミスを防ぐのに、これまでは目視でのダブルチェックが一般的でした。けれど人間のミスをゼロにするのは限界があるんです。新しいシステムは薬の袋に印字されたQRコードを読み取って確認を行なうので確実ですし、ひとりで業務を進められるので助かっています。 

薬包紙に添付されたコードを読み取り本人確認を行なう誤薬防止システム

薬包紙に添付されたコードを読み取り本人確認を行なう誤薬防止システム

【薬包紙に添付されたQRコードを読み取り本人確認を行なう誤薬防止システム】

――テクノロジーの力を使ってヒューマンエラーを防いでいるのですね。

そうですね。とはいえICTに関しては思うようには使いこなせていないのが現状です。他にもセンサーを使ってご入居者を見守るシステムなども導入したのですが、今はまだ必ず巡視を行なっています。はじめてのことなので、本当に作動しているのか心配になってしまうんですよ。今後は機械に頼ること、人間がやるべきことをしっかり分けていく必要があると思っています。

――デジタル機器の操作に弱いスタッフは大変ではありませんか?

各フロアにはパソコンとiPadが設置してあり、スタッフもインカムとiPodを携行し、リアルタイムでの情報共有を図っていますが、なかなか操作が追いついていません。ベテランのスタッフほど機械操作に弱いのが悩みの種ですね。ペーパーレス化や、リアルタイムの情報共有が実現した反面、現場でどう順応していくかは課題です。システム自体はとてもいいものなので、より効果的な運用ができるようになりたいです。

ご入居者もスタッフもともに快適な環境を目指して

厳しさと優しさとを持ち合わせ、周りに目を配る油井さんの温かさを感じました

【厳しさと優しさとを持ち合わせ、周りに目を配る油井さんの温かさを感じました】

――ご入居者が快適に生活するために、心がけていることはなんでしょうか?

自立支援を目的としたサービスを提案しています。ご入居者も自立・要支援といった比較的軽度の方が多く、それだけにご要望も多いです。できるかぎりご希望に沿いたいと思っていますが、現場の責任者としてはスタッフの業務量が増えることでもあり。私はどちらの立場も守っていかなければならないので、なかなか線引きが難しいところです。

――「ご入居者のため」を優先し業務を抱えてしまう優しいスタッフもいると思います。そこは主任である油井さんらしい視点ですね。

つい全体的に見てしまうんです。ご入居者への丁寧なケアとスタッフの業務負荷のバランスをどうとっていくか?という視点で見ています。たとえば帰宅願望が強くてかつ転倒リスクが高いご入居者には、スタッフがずっと付き添う必要があります。そうなると他の業務がおろそかになって。なかなか平等にサービスするのが難しくなります。「あの時、ああすればよかった」と、反省することも多々ありますね。

油井さんにとって仕事のやりがいは“入居者の笑顔に触れること”なのだそう

【油井さんにとって仕事のやりがいは“入居者の笑顔に触れること”なのだそう】

――常に完璧なホームを目指していらっしゃるのですね。

仕事を終えて帰宅するときに「今日もしっかり働いた!」って感じたいんです。だからいい加減な仕事をしたくないですね。やりきった!!と言いたい(笑)。振り返ってみると、この仕事に就くまではこんな気持ちで働いたことがなかったですね。ほどほどでやりすごしていた気がします。当初は介護に興味なかったはずなのに、いざ始めたらハマっちゃった感じです。


――介護職のどんなところに魅力を感じていますか?

ご入居者の笑顔に触れられるところでしょうか。ご入居者の中に、認知症を患い、いつも怒っているような方がいらっしゃいます。しかし、自分が対応することで気分を変えて笑顔になってくださったときの姿を見ると、思わず「良かった!」って思います。ご入居者の笑顔に接することで、私もたまらなく癒されるんです。ときには忙しくてピリピリするときもありますが、そういう時ほどご入居者の笑顔に安らぎを感じますね。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年7月時点の情報です)