神経難病やがん末期の方を24時間看護と専門医療で支える「ナッセケアベイス兵庫駅前」。言語聴覚士と施設内の調理師が連携して一人ひとりの「食べたい」に応え、週5回の個別リハビリで暮らしの中の「できる」を支えています。病気があっても自分らしい毎日を諦めないための取り組みについて、副施設長の小野さんに伺いました。


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専門医と24時間看護がそばにある、心強い療養環境


──こちらの施設の医療および看護体制について教えてください。

小野さん:神経難病とがん末期の方を主な対象とし、脳神経外科の医師や、がん末期の方を診る訪問診療の医師に来ていただいています。神経難病の方は通院そのものがご本人やご家族の負担になることがありますが、ここでは施設内で専門医の診療を受けられます。薬局とも密に連携し、状態に応じた細かな薬剤調整にも対応しています。がん末期の方には、痛みを和らげるための対応を一人ひとりに合わせて行っています。施設長も緩和ケアに携わってきた看護師としての経験があり、心強い存在です。


また、看護師が24時間常駐し、夜間も看護師2名と介護スタッフ2名で対応しています。急な体調変化にも医師と連携して速やかに対応できる体制です。一方で、ここは病院ではなく生活の場でもあります。ご自宅から家具や好きな物を持ち込み、ご家族やご友人、お孫さんにも9時から18時まで自由に面会していただけます。医療的な安心のそばで、その方らしい時間を大切にできる場所になっています。

<家具や好きな物を持ち込める居室>


──小野さんご自身もご家族の介護経験があると伺いました。

小野さん:はい。病院で看護師として働いていましたが、育児休業中に母が神経難病と診断されました。0歳の子どもを育てながら、呼吸器をつけた母を介護する日々でした。その生活の中で、訪問介護の方々にずいぶん支えていただきました。当時の私は小児科病棟の経験しかなく、母の前で無力さを感じたこともあります。その経験から、いつか自分もこの分野の専門性を身につけたいと思うようになりました。復職後は成人病棟を経験し、病院には産休・育休期間を含めて約17年間在籍。その後、訪問看護ステーションで約3年間勤務しました。

訪問看護の仕事をしているときは、神経難病の方を受け入れてくれる施設が見つからず、ご家族が悩んでいる場面を何度も見てきました。介護を家族だけで抱え続けることは、とても大きな負担になります。施設に介護を任せることに自責の念を抱く方もいらっしゃいますが、ご家族はできる範囲で寄り添い、介護は専門職に任せてもいいのだとお伝えしたいです。


「食べたい」に応える、言語聴覚士と調理師の細やかな連携


──嚥下(えんげ)機能の支援では、言語聴覚士と施設内の調理師が連携しているそうですね。

小野さん:はい。食べる力が低下しても、「できるだけ形のあるものを自分で噛んで食べたい」「とろみを使わず、食材本来の味を楽しみたい」と希望される方はいらっしゃいます。一方で、安全を考えると食形態を変えなければならないこともあります。ご本人の思いと嚥下状態の間で、どこまで希望をかなえられるかを毎日の食事を通して探っています。

<施設内厨房で食事を盛り付ける調理師>


──一人ひとりに合わせ、かなり細かく調整されるのですね。

小野さん:食材を柔らかくしたり、粗刻みや細刻みにしたり、あんをかけたりと、その方に合わせて変えています。基本の献立は同じですが、ペースト食や刻み食など食べやすい形へ調整します。施設内に厨房があるため、介護スタッフや看護師、セラピストから相談があれば、調理師へすぐに伝え、別の食形態を試せます。日ごとに変更をお願いする場合もありますが、そうした細かな対応ができるのは、厨房が身近にあるからこそだと思います。

──言語聴覚士は、食事の場面でどのように関わるのでしょうか。

小野さん:入居者様の隣に座り、実際に食べている様子を観察しつつ、必要に応じて食事介助も行います。飲み込み方や食べる量を見ながら、その方に合う方法を考えていきます。看護師や介護スタッフも日々の変化に気付きますので、変化や課題があればみんなで共有し、次の食事に反映しています。

<「食べたい」を実現させるための重要な役割の言語聴覚士(左)>


──実際に口から食べられる量が増えた方もいらっしゃいますか。

小野さん:ほとんど食事が難しい胃ろうの方がいらっしゃいました。ただ、ご本人の「食べたい」という思いが強かったので、まずはご家族に用意していただいたゼリーや少量のペースト食から始めました。言語聴覚士が昼食時に関わり、状態を見ながら少しずつ量を増やした結果、今では昼食を全量召し上がれるまでになっています。ご本人の希望で現在は一日一食、食堂でみなさんと一緒に昼食を楽しまれています。

──食べることは、栄養を摂るだけではないのですね。

小野さん:口から食べることは、人が生きるうえでの根本であり、元気の源だと思います。食形態が変わることは、ご本人にとって病気の進行を実感するつらい出来事でもあります。だからこそ、安全を守りながら、「何を、どのように食べたいか」との思いにも耳を傾けたい。言語聴覚士や看護師、介護スタッフ、調理師が力を合わせ、食べる喜びをできる限り守っていきたいと考えています。

<厨房と現場がスピーディに連携>

<実際の献立表をもとに、食形態を個別に調整>


週5回の個別リハビリで、暮らしの中の「できる」を広げる


──こちらでは、週5回の個別リハビリを行っているそうですね。

小野さん:はい。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職を入居者数に応じて配置し、一人ひとりの状態や生活上の課題に合わせたリハビリを行います。例えば、嚥下機能への支援が特に必要な方は、週5回のうち3〜4回を言語聴覚士が担当することもあります。運動機能を高めた方がよい場合は、理学療法士と作業療法士の回数を増やすなど、セラピスト同士で相談しながら内容を組み立てています。

<入居者様の状態や生活上の課題を共有する作業療法士(左)と理学療法士(右)>

──決められた訓練を一律に行うのではなく、その方の暮らしに合わせて考えるのですね。

小野さん:そうですね。ここは生活の場ですから、リハビリも「生活の中で何に困っているか」を解決するためのものだと考えています。例えば、トイレまでの移動が難しくなってきた方には、その動作を重点的に練習します。パーキンソン病の方には、最初の一歩が出にくい「すくみ足」などの症状があります。そのため、並行棒を使った歩行訓練用具を活用し、不安定な足場でもバランスを保てるよう練習をしたりします。


<理学療法士、作業療法士ともに身体に関わる幅広いリハビリに携わっています>


──リハビリ室には、ペダルを回して下肢を鍛えるエルゴメーターなども備えられていますね。

小野さん:入居者様の体力や目的に合わせて器具も使いますが、機能訓練だけがリハビリではありません。作業療法士は、折り紙や絵を描くことなど、入居者様が好きなことを続けられるように支援しています。物を持ちにくい、手を伸ばしにくいといった日常動作も、その方の暮らしに直結する大切な課題です。好きなことに取り組む時間には、必要に応じてそばでじっくりと寄り添います。

もちろん、がん末期の方などに、無理に運動していただくことはありません。体調に合わせ、リラクゼーションやマッサージを行うこともあります。一方で、もっと身体を動かしたいという方には、1回約30分の個別リハビリだけでなく、看護師が訪室した際に一緒に歩くなど、日常の中にも身体を動かす機会をつくっています。

<スタッフの見守りのもと、エルゴメーターで下肢を動かすご入居者>


──リハビリの目的は、身体機能を高めることだけではないのですね。

小野さん:はい。歩く、食べる、手を動かす、好きなことを楽しむ。そうした日常を少しでも長く続けられるようにすることが、ここでのリハビリだと思っています。専門職が連携しながら今できていることを守り、広げていきますので、ご家族にも安心してお任せいただきたいと思います。

<理学療法士(左)、副施設長の小野さん(中央)、作業療法士(右)>