住まいの安全性を確認するのは、住居選びでとても重要です。
東京都品川区にある介護付き有料老人ホーム「ニチイホーム 南品川」。
こちらの老人ホームを運営する、株式会社ニチイケアパレスでは、東日本大震災を機に防災対策を大幅に見直しました。《天災は避けられないけども、人災は回避する》との考えに基づき、2012年9月に自社独自の防災プラン「LPP(ライフプリザベーションプラン)」を策定。
全ホームの防災機能を2013年8月までに整備しました。老人ホームにおける安全対策とは一体どのようなものか、詳しく取材しました。
3つの援助が生む安心
「LPP」の防災プランは、全ホームが災害に備える「自助」、地域で近接のホームが連携する「互助」、そして協力会社や市・区との「協助」という3つの援助体制で構成されており、それぞれ対策が講じられています。自助から順番に、どんな備えをしているのかご紹介します!
非常時の電力供給
【屋上に設置されたソーラーパネル】
電気の供給停止が起きても、医療ケアを継続して行える環境は守らなければなりません。特に痰の吸引ができなくなれば人の生死に関わります。そこで屋上に太陽光パネルを設置し、自分たちで電力を蓄えられるようにしました。供給量は多くないため、痰の吸引器と電気自動車の充電に用途を限定しています。
電気自動車
【各ホームに一台、電気自動車を設置。日常の送迎にも利用しています】
【駐車場には、電気自動車の充電スタンドも】
医療機関への搬送を想定して用意された電気自動車は、ガソリンの供給が停止した場合に活躍します。軽自動車なので車椅子は運べませんが、歩行が可能な方の送迎用としてふだんから使用しているそう。施設の駐車場には電気の供給スタンドも設置されています。
生活用水の確保
【災害に備え敷地内に井戸を設置】
水の供給不足の対策として、なんと井戸を掘りました。水質調査上はろ過器を通せば飲める水ではありますが、想定用途としてはトイレの水洗用です。訓練も兼ねてふだんは草木の水やりに使っています。井戸水とは別に、保存用の飲料水も10日分の備蓄があります。
非常食
【簡易かまどの使い方は、防災訓練で実習しています】
【非常食と備蓄の一例です】
非常食は、缶詰めやレトルトパウチタイプの非常食を3日間、4日目から10日までは備蓄食糧を使っての食事準備という体制を整えています。簡易かまどもあるのでガス、電気がなくても簡単な調理なら可能です。飲み込みが難しい方への食事提供は、細かく刻むなど出来る範囲での対応を考えています。
生活用品
【災害時の深刻な問題となる、清潔用品の不足にしっかりと対応】
【毛布など、スタッフの宿泊対策も】
物品庫にはおむつから掃除用品まで、災害用の備蓄が用意されています。特におむつの不足は深刻な問題となるため14日間分の予備を確保。スタッフのケアとして、帰宅困難者の宿泊用にマイクロファイバーの毛布とエアマットの準備もしています。
【飛散防止シールが貼られた窓ガラス】
続いて互助、協助の体制をそれぞれ見ていきましょう。互助とは、同じ地域にあるニチイホーム同士が連携してサポートし合う体制です。万が一に備えバックアップをとるイメージでしょうか。
たとえば、緊急時の通信手段としての衛星電話を基幹ホームと災害対策本部(本社)に設置する、破損に備えた医療器具の確保をする、そしてスタッフの不足をエリア内で補完するといった体制を整えています。
協助は協力会社や行政との協定に基づく支援体制です。親会社であるニチイ学館からは10日目以降の食糧とスタッフの支援を、災害対応協定書を結んだ業務提携先の協力会社からは物品提供を受けることができます。また、地域については復旧の協力ができるよう進めています。
いかがでしたか?ぜったい安全とは言えないにしても、備えがあれば安心感もそれだけ増えます。ニチイホームの「LPP」は、三段構えでしっかり対策を練られていて、「関わる人をしっかり守る」という企業としての真剣な思いがひしひしと伝わってくる防災プランでした!
「LPP」を支える防災訓練
とはいえせっかく素晴らしい防災プランを持っていても、使いこなす人がいなければうまく機能しません。そこでどんな防災訓練を実施しているのか、ホーム長の松下さんに話を聞きました。
「防災訓練は年に2回、4月と9月に行なっています。実施内容は設備訓練と避難訓練です。設備訓練では、スタッフが想定される状況を踏まえ、緊急時に落ち着いて業務を遂行できるようオペレーションを確認します。
たとえば怪我人を電気自動車で病院に搬送するとか、井戸水を汲んで水洗トイレのタンクに入れて流すとか。あとは炊き出し訓練ですね。
お客様には避難訓練に参加いただいています。被災のニュースが流れるたびにみなさんすぐ不安になってしまうので、避難経路の確認はよく質問を受けるんですよ。お元気な方はいざとなったら自分で逃げようと考えているみたいです。スタッフの誘導を安心してお待ちくださいと毎回お話しています。」
【安心安全なホーム運営のため、スタッフの指導に注力する松下ホーム長】
あらかじめ自力で逃げる方がいる想定をしながら、パニックにどう対処するかもスタッフの課題のひとつ。たしかに、非常時に平常心でいられる人だけではないですよね。
松下さんが災害でいちばん注意を払っているのは火災です。そのため、スプリンクラー、煙感知器といった設備を設置し、火災を未然に防ぐための運営を行っています。
「地震だけではなく火災にも備えるため、、毎年消防訓練を実施しています。現場の状況確認と初期対応を最優先に行えるよう、スタッフに指導をしています。」
【避難経路には消防車の梯子がかけられる専用扉を設けています】
――車椅子の方の避難はどうされるのでしょうか。
「外に消防車の梯子を直接かけられる専用扉があるので、階段で移動できない方は梯子で車椅子ごと下に降りていただく形をとります。階段が詰まっちゃうじゃないとよく聞かれるのですが大丈夫です。」
実際には通常業務もあり、スタッフ全員が防災訓練に立ち会えるわけではないそうです。参加できなかったスタッフには実施要領を配布したり、消火器や屋内消火栓の位置を一緒に確認するなどフォローアップを図っています。
日常的に使える設備は点検と訓練を兼ねてふだん使いし、そうではないものは防災訓練時にしっかり確認する。取材を通じてそんな姿勢が見えてきました。
【お話を伺ったのロビー。落ち着いた雰囲気です】
生命を預かる場所だからこそ
松下さんに館内の防災設備の説明を受けているうちに、自分の身に起きた震災時の記憶が甦りました。そして多くのことを忘れていました。家に歩いて帰宅したこと。計画停電のこと。スーパーから水とお米が消えてなくなったこと。火災の不安。私はいつから心配をやめてしまったのでしょうか。
電気や水。建物に通信。インフラの多くは自分のコントロールが効きません。だからこそ出来るかぎり自前で賄う手段を持つ。そんな根源的な発想を持って「LPP」は策定されたのだと思いました。震災後3年以内にすべての施設に設備投資を断行した事実。生命を預かる仕事への責任を感じずにいられません。
ここまでしっかりとした防災プランを持った老人ホームはまだ少ないとのことです。ぜひご自身の目で『ニチイホーム 南品川』の防災対策を確かめて、ホーム選びの参考にしていただきたいと思います。
(記事中の内容や施設に関する情報は2016年12月時点の情報です)