理学療法とは、身体の機能回復を目的としたリハビリです。たとえば歩く、起き上がる、寝返りを打つなど、日常の基本動作をひとりでできるようになることを目指して実施されます。
東京都品川区にある介護付き有料老人ホーム『ニチイホーム南品川』では、主に運動療法をメインとしたリハビリをご入居者に提供しています。こちらのリハビリは、身体マヒなどの障害のある方や介護認定を受けている方はもちろん、そうでない方も介護予防のために受けることが可能だそうです。
リハビリの現場を取材しました。
身体機能を保つための運動プログラム
【リハビリサロンには、機能訓練用のマシンも設置されています】
施設の5階にあるリハビリサロン。窓が大きく開放的で気持ちのいい空間です。今回はこちらで実際にリハビリの様子を見せてくださるとのこと。取材ということもあり、特別にマンツーマンでのリハビリを見せていただきました。
ニチイホームは集団リハビリが基本です。たとえば、歩く力を維持したい方には歩行訓練を、車椅子生活の方には立位訓練をと、強化したい機能に応じたグループをつくり、週に2回ほど日替わりでリハビリを実施しているのだとか。
理学療法には、「運動療法」と「物理療法」の二種類があるそうです。運動療法とは、身体を使って動作や筋力の強化を図るリハビリです。いっぽう物理療法は、温熱電気など機器を使って行われるもので、主に病院で取り扱われているそうです。
これから始まる機能回復訓練は、関節可動域を広げるリハビリと歩行訓練。車椅子の生活を送られている方のためのプログラムです。まずは関節可動域のリハビリから見ていきましょう。
【負担のないよう車椅子からベッドにご入居者を移乗します】
股関節の可動域が狭いと、立ち上がったり歩いたりする動作に制限がかかってしまうため、関節の動く範囲を広げるリハビリを行なうそうです。ゆっくりと入居者を抱きかかえ、ベッドに移します。
【関節をゆっくり曲げ伸ばし、可動域を確認しながらストレッチを行ないます】
痛みを感じる部位がどこかにないか気を配りながら、股関節の動きを確認します。むりのない角度に足を曲げ伸ばし、ゆっくりとストレッチをしていきます。入居者に声かけをして加減を調整しつつ、少しずつ広げていくイメージです。【歩行訓練の様子。ゆっくり立ち上がるご入居者】
続いては歩行訓練です。つかまり立ちのできる平行棒を手がかりにして、まっすぐに歩いていきます。ひとりでは難しいようで、サポートを受けながら車椅子から立ち上がる入居者さん。
【支えられながら、一歩一歩前に踏み出します】
ゆっくり、ゆっくりと歩みを進めていきます。座りっぱなしの生活を続けていると、いつの間にか筋力が低下して動作が難しくなります。定期的に歩く機会を持つことにより、機能の維持を図ります。
リハビリを見学しているとき、ふだん私が当たり前にできている何気ない動作の一つひとつが、年を重ねるにつれてだんだんと難しくなっていくのだなぁと、どこか遠い未来の自分と重ね合わせる瞬間がありました。
そして、たとえ身体機能が低下しても、こうやって誰かの手を借りながらも生活できることは、すごく頼もしいことだと思いました。
「自分でできる」を増やすサポート
【リハビリへの熱い思いを語る、理学療法士の根本さん】
「どんなに年を重ねても、できれば自分の力で生活したいと望まれる方が多いです。生活の中に機能訓練の要素を取り入れられれば、健康でいられる時間をより長く作れるのかなと。だったら自分が勉強してその世界を見てみたいなと思いました。」
今回リハビリを見せてくださった理学療法士の根本拓也さんの前職は、介護士だったそうです。入居者の身の回りの生活すべてを支援する中で、「ご本人が自力で生活できるためのサポートをしたい」と思い始めたと言います。
「週に数回のリハビリだけで機能を回復できるかといえば難しいんです。介護士と連携をとって、日常生活において自力で動作を行なう状況を設定してもらえるようにお願いしています。
理学療法士になりたての頃は、リハビリの時間だけで治そうとばかり思っていたんですけど、実は全然違いました。生活全体を通してリハビリしてもらうことがすごく大事なんです。」
たとえば歩行が可能な方は、食事の際に居室からホールまでを自分の力で歩く時間をつくる。歩行のふらつきが多く転倒される方の場合は、ベッドからトイレまでの間に手すりを設置し、極力自分でトイレまで行ける環境づくりをする。
「いくらサポートが必要だと言っても、トイレのたびに介護スタッフを呼び出すのに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。”自分の意思で動ける”という当たり前の状態でいつづけられるってすごく大事なんです。」
理学療法士の仕事とは、「自立した日常生活を送れるように支援をする専門職」だといいます。加齢とともに身体機能が低下していくのは自然なことで止められないけれど、遅くすることはできる。根本さんの言葉が胸に響きました。
届けたいのは、ゆたかな生活の質
【リハビリに取り組む様子は真剣そのもの】
「お客様同士で仲良く生活したり、趣味に楽しみを見出したり、人との関係によって生まれる喜怒哀楽が味わえて、充実した社会生活を送れるという生活の質をきちんと届けたいんです。身体の健康のサポートは、そのためのベースなんですよね。」
機能訓練だけではなくて、生活の質をトータルで高めるようなお手伝いがしたい。その強い思いは、たとえばこんなかたちでご入居者に届けられています。
「リハビリじゃなく“レクリエーションリハビリ”を介護スタッフと協力して企画しています。みなさんに楽しみを持ってもらう場づくりですよね。
麻雀クラブに通っているお客様がいらっしゃるんですけど、その方を巻き込んで誰でも参加できる麻雀の時間をつくっています。昔やっていたけど、忘れちゃったから覚え直したいって方に声をかけたりして。対戦相手になったり冗談言って笑いあったり。
そんな楽しみも知らないうちに機能向上につながりますしね。」
リハビリで機能の回復を伸ばすには、理学療法士としての専門知識と、他の専門職スタッフとの連携、なにより楽しみながらリハビリを行なう入居者ご本人の意欲が不可欠です。そのいちばん大事な「回復したい」との意欲を、楽しむ機会の中で自然と引き出していく。
最後に、仕事をする上で大切にしていることを聞いてみました。返ってきた答えは、「その人にとっての“ふつう”に気づく」こと。
「人それぞれふつうって違うじゃないですか。そこを見つけて寄り添っていくと、信頼が生まれるんです。でも難しくて壁にぶち当たったこともあります(笑)。
笑っていても本心を言ってくれないことも。そういう時は、他の方の世間話をヒントにしたり、ご本人の表情をみたり。いろんなサインを見つけて求められているものを探すことですね。」
【今日のリハビリを終えて、ほっと一息をつくご入居者と根本さん】
取材を終えて: 生きているかぎり、「生」の実感を
「ただ生きるって難しいんですよね。」インタビュー中に根本さんが何気なく言ったこの言葉にハッとしました。ただ起きて、ごはんを食べて、ただ移動する。
人はその繰り返しだけで生きるようにはできていなくて、やっぱり誰かと楽しみを共有したり、ときにはケンカしたりして「生」を実感していくもの。
「生活の場全体がリハビリの機会」そんな自立的な生活を送れるのが、『ニチイホーム南品川』の魅力。ぜひいちど、根本さんのリハビリサロンを見学しに来てください。
(記事中の内容や施設に関する情報は2016年12月時点の情報です)