- 質問
-
近所の新しい老人ホームの建物内に保育園が入るそうです。高齢者と幼児の生活の場を一緒にするメリットって何ですか?実際にどんな関わり方をするのでしょうか?
- 回答
-
保育園などの児童施設と高齢者向けの住まいが一体となったものを「幼老複合施設」といい徐々に増加しています。
子どもと高齢者が同じ建物で交流することは、実は双方にメリットがあります。子どもにとってはお年寄りをいたわる気持ちが育まれ、思いやりやマナーが身につくなどが報告されています。高齢者にとっては子どもと触れ合うことで自分の役割を見つけ、活力が生まれるなどのメリットがあります。
ここでは幼老複合施設のメリットや実際の生活について解説します。こうした住まいに対する理解を深め、施設を選ぶ際の参考にしてみてください。
増加する幼老複合施設 その背景とは
幼老複合施設は、土地・建物の有効活用が見込めるほか、高齢者の生きがいづくり、子どもの教育的効果などが期待できることから、その数は少しずつ増えています。
保育園、幼稚園、学童保育など乳幼児から小学生までを対象にした子どもの施設と、デイサービス、特別養護老人ホーム、小規模多機能施設、認知症グループホームなどの高齢者施設を合体させた形態で、その組み合わせはさまざまです。中には障害者施設が一緒になっているところもあります。
新規開設のほか、既存施設と同じ敷地内に増築したり、建物を改装したりするケースも多いです。
幼老複合施設のメリットとは
高齢者だけでなく、子どもや事業者にも多数のメリット
幼老複合施設にはそれぞれの立場においてメリットがあり、主に下記のことが挙げられます。
< 高齢者にとってのメリット >
●笑顔が増える
無邪気で積極的な子どもたちと触れ合うことで、自然に笑顔が多くなる
●生きがいを持てる
子どもを守り育てようとする役割意識が生まれ、人のために役に立てる存在価値を再確認し、生きがいが持てるようになる
●活動量が増える
子どもの世話をしたり、一緒に遊んだりする時間が多くなることから活動量が増える
●脳の活性化が期待できる
動き回る子どもを見守ることで、気配り・目配りする機会が増え、脳の活性化が期待できる
< 子どもにとってのメリット >
●お年寄りをいたわる気持ちが芽生える
高齢者の身体や認知症について理解が深まり、優しくいたわる思いやりの気持ちが育まれる
●挨拶などマナーが身につく
高齢者と一緒に過ごす中で、家庭内で学べなくなっている挨拶やマナーなどについて注意を受けたり、教わる場面が多くなる
●幅広い知識が得られる
学校では教わらないお年寄りが持つ知恵や知識を学ぶことができる
●子どもの情緒にも良い影響を与える
「早くしなさい」などと急かされることもなく、褒められることも多いなどから、子どもの気持ちが安定し自信につながる
<子を持つ親にとってのメリット>
●子どものしつけに高齢者の力を
親の言うことは聞かないがお年寄りの言うことは聞くことがあり、親の力が及ばない部分を助けてもらえることがある
●若い世代の親だけではできない子育てを担ってもらえる
いろんな世代の大人が関わることで、子育ての内容がより豊かになる
<運営事業者にとってのメリット>
●土地・建物の有効活用
複合化することで土地や既存施設の有効活用ができ、財源の節約が可能になる
●コストの低下
複数の施設機能を複合して設置することで設置・運営コストが抑えられる
●特色あるケア
高齢者も子どもも、一方的にケアを受けるだけでなく与える側にもなることで、ケアは「介護スタッフ+子ども」「保育士+高齢者」がすることになり、特色のあるケアが実現できる
●スタッフの採用
同一施設に子どもを預けられるので、子をもつスタッフの採用に繋がる
幼老複合施設にデメリットはあるのか
上記のように、幼老複合施設にはメリットが多くありますが、下記のようなデメリットも考えられます。
●介護・保育両スタッフの採用が困難
介護スタッフ・保育スタッフ共に人材不足と言われている中、両スタッフを確保するには困難が伴う
●スタッフの負担が大きい
介護・保育の両分野の知識がある程度必要となり、専門分野以外の勉強も必要となる。また、高齢者と子どもの交流には、より細やかな配慮と見守りが必要となる。
●高齢者・子ども共にトラブルを起こしやすい
身体機能や判断力が低い者同士でのトラブル、子どもが走り回ることで高齢者が転倒する、高齢者の薬を子どもが誤飲するなどの事故リスクが高い
●感染症のリスク
抵抗力の弱い者同士で、お互いに感染症が伝染しあってしまうリスクがある
幼老複合施設 実際の交流事例
幼老複合施設とはいえ常時一緒に過ごすとは限らず、関わりあう時間や内容はそれぞれの施設で違いがありますが、イベントやレクリエーションに高齢者と子どもたちが一緒に参加するケースが多いようです。
また、「何をするか」は特に決めず同じ場所で自由に過ごすことで自然に交流機会が生まれるように意図したものもあります。
< 高齢者と子どもの交流事例 >
●毎日同じ時間に一緒に体操をする
●一緒に絵を描いたり料理を作るなど、共同で作業をする
●子どもが高齢者施設の居室を訪問して、一緒に歌を歌ったり本を読んだりして過ごす
●保育園の子どもたちのお昼寝前後の着替えや寝かしつけ、起床時の着替えやあやしなどを高齢者が手伝う
●お誕生日会や季節の行事などを中心に、合同で行事を行う
●学童の子どもたちが放課後にデイサービスで高齢者と一緒に過ごし、学校での話をしたり宿題をみてもらったりする
>子供たちとの触れ合いで高齢者に笑顔がー幼老複合施設の運営でわかったこと
幼老複合施設は普及する? 国の政策とは
高齢者と子どもの施設が一体となることでの双方のメリットは大きく、国や各自治体も運営費や設備設置に対する補助金給付などの支援策を講じていることから、幼老複合施設は今後も増え続けると思われます。
首都圏だけでなく、人口減少が著しい地方では人や施設の有効活用が強化され、幼老複合施設のニーズは高まることでしょう。
現在、国においては、人口減少、家族・地域社会の変容に対し「地域共生社会」を実現する方針を打ち立てています。「地域共生社会」とは、相互に支え合い、子ども・高齢者・障害者なども支えられるだけでなく支え手にとなって活躍できる社会を言います。
その対策の1つに「高齢者・障害者・児童福祉の一体化」があり、幼老複合施設の増加はその流れにも合致しています。
幼老複合施設が増えることは、多様な人たちがお互いに支え合うことを当たり前とする「地域共生社会」を担う次世代を育てることにも大きく貢献するでしょう。
まとめ
地域共生社会は、人口減少、社会保障費の増大という大きな課題を乗り越えていくための対策であり、日本人特有のきめ細やかさやおもてなしの精神が活かされるものです。
幼老複合施設では、そうした思いやりの心を表現できる子どもを育て、親たちも支えてもらえる、まさに地域共生の中核を担うものと期待されています。
施設運営にあたっては介護スタッフの育成や人材不足解消など課題も多々ありますが、共に生き、共に創る社会を実現したいものです。