- 質問
-
母と二人暮らしの父が、要介護3に認定されて特養を検討しているのですが、相談に行ったところ「待機者が200人」「1年以上待つと思うが入居の約束はできない」などと言われ入居が出来ません。
待機者が多いのは知っていたのですが、この状況に対して、行政はどんな対策をしているのでしょうか?
- 回答
-
現在、政府が進める「1億総活躍国民会議」で、特別養護老人ホームの待機者を2020年代初頭までに解消するという目標が設定されており、施設の整備、人材確保を行うことで、50万人分以上の受け皿を新たに用意する方針が打ち出されています。
2015年には入居対象を「要介護3~5」と厳格化したこともあり、地域によっては空室がある特養も出現しています。
ここでは「特養待機は何故多いのか」「特養待機は解消されるのか」「今後の政策は」など、特養を取り巻く現在の状況をお伝えします。特養を検討する際に参考にしてください。
1.そもそも、なぜ特養の待機者数が多くなってしまうのか
2017年度の「厚生労働省 特別養護老人ホーム入居申し込み者の概況」によると、特別養護老人ホームを申し込まれている方は、全国に約30万人にのぼると報告されています。数ある高齢者施設の中において、なぜ特養は人気が高いのかを分析してみました。
料金が安い
介護保険の指定を受けた公的な施設(介護保険施設)なため、介護付有料老人ホームやグループホームなどと比べると、料金は安く抑えられています。
終身利用できる
介護保険施設には、特養のほかに「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」があります。介護老人保健施設は、リハビリテーションを中心とした施設であり、介護療養型医療施設は、医療機関(病院)になります。
いずれも在宅復帰を目指す施設です。特養は要介護状態の方が終身利用できる施設なため、ご本人や家族の安心が得られます。
山間部や漁村、農村、離島などにも設置されている
民間企業の経営が多い介護付有料老人ホームなどは、採算性の高い都市部に集中しますが、特養は山間部や漁村、農村、離島など、いわゆる過疎地にも設置されています。
特養は全国で8,900施設以上あり、人口の少ない市町村にもほぼ1施設は設置されています。これにより住み慣れない都会の施設に入居することなく、慣れ親しんだ地域で暮らし続けることが可能となります。
経営母体が安定している
特養は第1種社会福祉事業(利用者への影響が大きいため、経営安定を通じた利用者の保護の必要性が高い事業)であり、経営は自治体または社会福祉法人に限定されています。市町村によっては補助を受けることができるなど、民間企業に比べて安定した経営のための措置が取られているため、突然閉鎖されるリスクは少ないといえるでしょう。
入居申し込みがしやすい
それまで細かな入居申し込み申請書類を自治体に提出し、入居できる施設も自治体が決定していたシステムが、介護保険制度施行(2000年)によって、希望の施設(複数可)に直接申し込むシステムに変更されたことや、入居申し込み申請書類が簡略化されたことにより、申し込みやすくなったことも、希望者が増加した理由の一つといえるでしょう。
待機者が実際より多くカウントされている可能性も
申込数が待機者の数ではありません。前述したとおり、特養は重複して申し込むことが可能ですので、例えばA施設の申込者の中にはB施設の申込者もカウントされている場合があります。また、すでに他の施設に入居しているにも関わらず、申し込みを取り下げていない、容態が悪化していて退院できない、死亡しているなど、入居に至らない人も混在しています。
2.特養の待機解消に向けた行政の動き
ただ、重複した申込者を差し引いても特養はすぐに入居できる状況ではありません。待機者を減少させるために政府は、以下のような施策を実施、検討をしています。
介護保険制度を改定し、入居要件を変更
平成27(2015)年4月1日に、特養の入居要件が「要介護1以上から要介護3以上」に引き上げられました。これにより、入居者の減少が見込まれています。
また、介護サービス費の自己負担額が原則1割から、所得に応じ2割~3割に引き上げるよう法改正されました。今後も所得に応じ負担額を引き上げる方針で調整が進められているため、更なる利用者減少が予想されます。
民間企業の特養への参入を認めようとしている
地方自治体と社会福祉法人のみに認可されていた特養の開設を株式会社にも認めることを提案するなど、新しい構想が発表されています。施設数の増加がねらいです。しかし、これについては社会福祉法人関係団体の同意が得られないことや、待機の実体が精査されていないことから、まだ決定には至っていません。
外国人が介護士として日本で働く道を開いた
介護業界が抱える問題に「人材難」があります。厚生労働省が発表した「職業安定業務統計(平成26年7月現在)によると、求職者1人あたりの求人数を示す「有効求人倍率」をみると、全国の職業の合計の有効求人倍率が全体平均0.95倍であるのに対し、介護関連では2.19倍にも上っています。
いわゆる「人材難」の傾向は、都市部において顕著に見られ、東京では4倍以上になるなど、深刻な状況になっています。
人材確保のために政府は、外国人が継続的に就労できるよう在留資格に「介護」を設け、専門学校などの養成校を卒業と同時に、日本で就労することを可能とする法律を制定しました。
これにより不足している介護士が充足。採用難によって開設できなかった施設が全面オープンすることにより、待機者が減少することが期待されます。
3.特養の待機者数は減少している
平成27(2015)年4月1日より入居要件が介護度3以上に引き上げられました。その前年の平成26年3月26日付の厚生労働省の発表によると、要介護1~2の特養申込者は、全国で17.8万人、全体の34.1%に及んでいるため、入居要件の引き上げにより、この約3割の人が入居待機者ではなくなったと考えられます。
実際に、需要が多い東京都内においても、郊外の特養は定員割れを起こし、生活相談員が営業に回っているようです。
4.エリアを広げて待機者の少ない特養を見つける方法も
以上で説明してきたように、行政は積極的に特養への入居待機者を減少させる政策をとっています。しかし、現実的には依然として質問者さまのように入居待機に時間がかかっていらっしゃる方もいます。
入居要件の引き上げなどの政府の政策によって、一部地域を除いて特養待機者は減少傾向にあり、地域によっては、ほとんど待たずに入居することができるように改善されています。
つまり、検討されている特養の待機者が多いことは、地域性の問題の可能性もあります。もし近隣の特養の待機が多いのであれば、探すエリアを広げてみてください。