- 質問
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80歳になる認知症(要介護2)の父は、施設入居を検討しています。認知症ケアに力を入れ、安心できる環境の老人ホームを探していますが、世の中には身体拘束をするホームがあると聞き不安になりました。
身体拘束とは実際どんな状況なのでしょうか?介護現場の実情を教えてください。
- 回答
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平成12年4月から施行されている介護保険法において、介護施設での身体拘束は原則禁止とされています。しかし、「緊急時にやむを得ない場合」には、必要最低限の身体拘束が認められています。したがって、老人ホームでも場合によっては身体拘束を行う場合があります。
ここでは身体拘束とは何か、どういった状況下で行われるのかについてご紹介します。
入居するご本人の安全と、家族を不安から守るためにもぜひご覧ください。
介護現場における身体拘束とは?
老人ホームが身体拘束をしている、とわかると、「うちの家族も拘束されてしまうのか」と不安になってしまいますよね。では、なぜ原則禁止とされているはずの「身体拘束」をしているのでしょうか?
そして、具体的にどのような身体拘束をしているのでしょうか?解説していきます。
身体拘束とはどういう状態をさすのか
身体拘束とは、本人の意思で自由に動けないようにするため、体の一部を拘束、あるいは運動を制限することを指します。
例えば
「車いすから自由に立ち上がれないようにベルトで固定する」
「ベッド上で自由に起き上がれない様、胴体部分に拘束帯を設置する」など。
また、直接体を縛り付けなくても、本人が立ち上がる、あるいは部屋から出ようとするとブザーがなるというような「徘徊防止」のものも、そのブザーによって本人の行動が制限されるようならば、「身体拘束である」とされています。
認知症の方に対する身体拘束とは
認知症を発症すると、判断力や記憶力が低下してしまいます。そのため、通常ならば「危ない」と判断できることでもその判断ができず、危険な行動をとってしまう可能性があります。認知症だからすべてのケースにおいて拘束が行われる、ということはありません。
しかし、介護現場において認知症が進行し、拘束をしなければご本人の安全が守れないと判断された場合には、必要最低限の拘束が行われるケースは多くなっています。
どういった場合に身体拘束が行われるのか
身体拘束は原則として「緊急時にやむを得ない場合」に行われます。この場合、「拘束以外の方法では本人の安全を確保できず、事故を引き起こす可能性が極めて高い」と判断されたとき、としています。
身体拘束を行うにあたっては、一人の職員の独断ではなく、複数の職員が参加するカンファレンス等にて必要性が議論され、かつご家族の同意がなければ基本的には行いません。よって、「ある日突然拘束された」ということはまず起こりません。
身体拘束・3つの原則
厚生労働省では、「緊急時にやむを得ない場合」の身体拘束を行うにあたり、以下の3つを原則としています。
1.切迫性 :本人または他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が高いとき
2.非代替性:身体拘束以外に代替する介護方法がないこと
3.一時性 :身体拘束は一時的なものであること
この原則の他にも、留意事項として
●「緊急時やむを得ない場合」の判断は、担当の職員個人またはチームで行うのではなく、施設全体で判断することが必要である。
●身体拘束の内容、目的、時間、期間など高齢者本人や家族に対し十分に説明し、理解を求めることが必要である
●介護保険サービス提供者には、身体拘束に関する記録の作成が義務付けられている
※出典:厚生労働省「身体拘束に対する考え方」より
また、施設側が家族の同意なく拘束を行っていた場合、高齢者虐待防止法違反となりますが、この法律には罰則が設けられていないため、発覚したとしても行政指導しか行うことができない、というのが実情となっています。
病院における身体拘束の考え方
病院では、身体拘束については「患者さんの安全が確保できない場合」に行われています。患者さんによっては、医療行為に対しての理解ができず、点滴を抜いてしまう、医療機器を外してしまう、といった行動をとられる方がいます。このような行動は、特に手術直後やご年配で理解力が低下されている方に多くみられます。
このとき、「医療行為を持続させないと、患者さんの生命に危険が及ぶ」と判断された場合に、必要最低限の拘束が実施されます。病院で拘束を行う場合には、必ずご家族など親族の方に「同意書」をいただいた上で、医師の指示の元、必要最低限の拘束を行います。
老人ホームにおける身体拘束の考え方
老人ホームも病院と同様に、基本的には「利用者様の安全が確保できない場合」に身体拘束が行われます。病院と違うのは、病院は「医療行為に対する危険行為」に対して身体拘束を行うのに対し、老人ホームでは主に転倒や徘徊など、「理解力低下や認知症による事故防止」の観点から身体拘束を行うという点です。
身体拘束は職員全体の会議や教育などによって必要性が検討されたのち、ご家族の同意を得て必要最低限行われます。
身体拘束について確認すべきポイント
老人ホームにおいて、身体拘束を行う理由についてここまでご紹介してきました。過剰な身体拘束を避けるためにも、老人ホームを選ぶ際にはどういった点に注意すればよいでしょうか?見学時などにぜひチェックしたい2つのポイントをご紹介します。
①過去に身体拘束をしたことがあるかを確認する
老人ホームに入居する際には、必ず職員との面接が行われます。その際、「過去に身体拘束をしたことがあるか」について質問をしてみましょう。
この質問に対し、怪訝な顔をして、「どうしてそういった質問をするのですか」といったようなことを言ってくる老人ホームについては、利用者様目線ではなく、職員目線での介護を提供している可能性があります。そのような老人ホームにとって、身体拘束とは「職員の負担を減らすための行為」として受け止められている可能性が高いからです。
一方、誠実な老人ホームならば「こういった例で過去に身体拘束をしたことがありますが、このような対策を行い、極力そういったことがないようにしています」というような、具体的な説明をするはずです。身体拘束は、あくまで「それ以外の解決策がない」場合に必要最低限で行われるものです。よって、職員の都合で行うものではなく、「利用者様の安全を守る」ということが重要になるからです。
②施設の職員数は足りているか
介護業界は深刻な人手不足となっています。そのため、老人ホームの中には職員の人数が足りないために、業務が十分に回らず、本来入居者優先で考えられるべき介護が、職員優先での介護となってしまっているホームが存在しています。
そして職員優先の介護の結果、本来「それ以外の解決策がない場合」行われるべき身体拘束が、「人手不足による事故防止」という理由で行われてしまう可能性が高くなります。
よって、老人ホームを選ぶ際は、在籍職員数は足りているのか、足りていない場合はどのように対応しているかについても確認し、職員優先の介護が行われていないかを確認する必要があります。
まとめ
身体拘束は「しない」というのが一番良い方法であることに間違いはありません。しかし、介護は24時間365日続くものであり、一人の利用者様について一人以上が付きっきりで介護を行うというのは、様々な面からもとても難しいものとなっています。
そのため、身体拘束を全く行っていない老人ホームを探すというよりも、利用者様の状態をよく観察しているという自信の元、必要最低限の拘束を行う場合もある、という老人ホームを探したほうが、結果として事故を防ぐことができます。
また、ご家族としても安心して任せられるという考え方もできます。何よりも大切なのは、利用者様とご家族がいかに老人ホームを信頼できるか、です。
身体拘束をするか・しないかだけに捉われず、「利用者様を一番に考えてくれる施設」に巡り合えることをお祈りしております。