質問

要介護1の母親と同居しています。親と世帯分離した方が負担が減ると聞いたのですが本当ですか?具体的にどういった費用が減りますか?

世帯分離の手順についても教えてください。(65歳・会社員)

回答
笠原 洋子

世帯分離は同居していながら住民票の世帯を分けることを言います。この世帯分離をすると介護費用を軽減できるメリットがある一方、デメリットになることもあります。

このページでは、世帯分離により介護費用のどの部分が軽減されるのか。世帯分離の方法やメリットとデメリットについて解説します。正しく理解し、世帯分離をすべきか迷った際の参考にしてみてください。 笠原 洋子(2級ファイナンシャルプランニング技能士)

【目次】
  1. 世帯分離とは
  2. 軽減できる費用
  3. 世帯分離の手続き方法と必要な持ちもの
  4. メリットだけじゃない?世帯分離のデメリット
  5. まとめ


世帯分離とは

世帯分離とは、同じ住所に一緒に住んではいるが、住民票上の世帯を分けることです。

介護サービスを利用している場合、その自己負担額は「本人の所得で決まる場合」と「世帯の所得で決まる場合」の二つのパターンがあります。

世帯分離をして、お母様が単独世帯になれば、お母様の所得だけですべての介護費用の負担額が決まることになります。お母様の年金収入と資産で介護費用を負担することとなり、家計の費用負担も分離されることでわかりやすくなります。

質問者さんのお母様の年金収入は遺族年金で住民税非課税と推測できますので、世帯分離をすることで一般の所得の方よりは介護サービスにかかる負担が減る可能性があります。

では具体的に、どの程度軽減できるかを見ていきましょう。


>介護負担を軽減する制度・支援金


軽減できる費用

高額介護サービス費

介護保険の「利用者負担」が高額になったときに利用できるのが「高額介護サービス費制度」です。

高額介護サービス費は、ひと月に支払う介護保険の自己負担の上限が定められており、それ以上負担した場合に上限を超えた金額が申請により後から利用者に返還される仕組みです。

自己負担の上限は所得により異なり、所得が低いほど自己負担の上限も低くなります。



※1同じ世帯住めて65歳以上の方(サービスを利用していない方を含む)の利用者負担割合が1割の世帯に年間上限額(446,400円)を設定。

※2「世帯」とは、住民基本台帳上の世帯委員で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額「個人」とは、介護サービスを利用したご本人の負担の上限額。

(画像出典:厚生労働省資料)

たとえば、質問者さんとお母様が同一世帯で、同じ世帯に住民税が課税されている方がいる場合は、1か月の負担の上限は4万4,400円となります。世帯分離をすることでお母様が単独世帯になり住民税非課税であった場合は、上限が2万4,600円となります。


現在お母様は 要介護1で自己負担額が少ないため、高額介護サービス費の上限には達していないと思われます。しかし、今後介護度が重くなると自己負担額がふえますので、上限が低くなり介護費用負担は軽減される可能性があります。



世帯分離の手続き方法と必要な持ちもの


市区町村の窓口に世帯変更届を出す

世帯分離の手続きを行うには、市区町村の担当窓口で「世帯変更届」を出します。

このとき、届け出ができるのは、本人・世帯主・同一世帯の方で、同一世帯の方が申請するときは親族であっても、「委任状」が必要です。

今回の場合は、世帯主が質問者さん、世帯分離をする人がお母様である場合、手続きするのはお母様となります。

手続き時の持ちもの

①本人確認書類

いずれか一枚の提示で済むもの

・マイナンバーカード、運転免許証、パスポート

・写真付き住民基本台帳カード、在留カード、特別永住者証明書など


二枚以上の提示が求められるもの

・写真なしの住民基本台帳カード、健康保険証、

・年金手帳、国民年金、厚生年金または船員保険の年金証書など


②国民健康保険証:国民健康保険に加入している方は忘れずに

③世帯変更届:窓口で所定の用紙をもらい必要事項を記入します。

④印鑑:念のため持参したほうが安心です

以上を揃えて窓口に提出します。

ただし、同一世帯の夫婦による世帯分離は、民法の規定により原則できません。詳しくは、法律の専門家にご相談されることをお勧めします。



メリットだけじゃない?世帯分離のデメリット


世帯分離のメリット

「高額介護サービス費」や「高額介護・高額医療合算制度」は同じ世帯でかかった介護や医療の費用を合算します。世帯分離をしてお母さま世帯の所得が下がれば、それに応じて自己負担の上限額が下がり介護費用の節約になります。

世帯分離のデメリット

国民健康保険に加入している世帯が世帯分離した場合、各世帯主がそれぞれ国民健康保険料を支払うことになるので、負担額はかえって増えるケースもあります。

また、世帯が別々になることにより、住民票取得や印鑑登録などの行政手続きを本人以外の人がする際には、委任状が必要になるなど手間がかかります。

委任状は原則本人に書いてもらう必要があり、心身の状態によっては本人が委任状を書けないケースも予想されます。その場合は、本人の意思を確認する作業が生じます。一方、世帯が同じなら、委任状は必要はありません。

勤務先(会社)の健康保険組合を利用したほうがよい場合も

親御さんを介護している人が会社勤めをされている場合などは、会社の健康保険組合に親御さんを扶養家族として加入したほうが負担軽減できる場合もあります。(家族手当がつく会社や扶養控除が利用できます。)

「世帯合併」で分離した世帯を戻すことも

同一住所にあった別々の世帯を一緒にすることが「世帯合併」といいます。

世帯分離をしたところ、思ってもみなかった不都合が生じたなど、世帯分離前の状態に戻したい場合は「世帯合併」の届け出をすることで戻すことができます。



まとめ

家計が一緒ならば、介護の費用を安くすることを目的とした世帯分離は、本来好ましくありません。介護保険料や介護費用が安くなるなどの理由で個人の利益のためではなく、社会的保護を受けなくては生活が立ち行かなくなる方を守るための手段です。

世帯分離をするには、お母様自身が「自分に係る費用は自分のお金で負担したい」という意思があることが大切です。

世帯分離をすることによる不都合や、デメリットもよく理解のうえ、お母様やご家族のみなさまと話し合って進めてください。


イラスト:安里 南美

このQ&Aに回答した人

笠原 洋子
笠原 洋子(2級ファイナンシャルプランニング技能士)

川崎市在住。神奈川県内の私立中学・高等学校で15年間保健体育と家庭科の教職に就き、生徒への金銭教育の必要性を感じFP資格を取得。銀行での営業職を経て旧共済年金の厚生年金への一元化や年金に関するテーマのセミナー講師業を立ち上げました。
趣味は温泉。特に「にごり湯」が好きで箱根によく出かけます。また猫が大好きで岩合光昭さんの写真展に必ず行きます。