- 質問
-
要介護3の母と二人暮らしで介護をしています。母の年金で介護費用をやりくりしていますが、足りないので医療費やオムツ代などは私が支払っています。弟もいるのですが、遠方に住んでいて親に無関心です。介護も金銭支援もありません。
弟にも母の面倒をみる義務があると思います。介護をしない弟に介護費用を請求することはできますか?
- 回答
-
民法では、質問者さんも弟さんも「扶養義務者」となりますので、親に必要な介護費用を負担する義務があります。そのため、離れて暮らす弟さんに介護費用を請求するこができます。
ただし、兄弟とはいえそれぞれに生活がありますので、負担したくてもできない場合もあります。
ここでは、兄弟で負担する親の介護費用についての考え方や、トラブルの法的な解決策について解説します。親族間の介護費用をめぐって大きなトラブルに発展しないためにも、ぜひ参考にしてください。
介護費用の分担は状況の整理からはじめる
介護負担は、実際に身の回りの世話をする「人的負担」と、介護に必要なお金を援助する「経済的負担」の2つを考える必要があります。
質問者さんのように、人的負担も経済的負担もほとんど一人で担っている場合は兄弟間の不公平を感じるのも無理はありません。
民法には「扶養義務者」が定められており、ひとり親の扶養義務者は、子ども、兄弟となっていて経済状況に応じ余力のある範囲でお互いに扶養する義務があると定められています。
親の介護費用を分担しあうには、「1.状況を整理して共有する」「2.可能な範囲で負担を求める」の二つが必要です。
お金が絡んでくれば親族間でもトラブルは起こりがち。感情的になると話し合いはまとまらなくなってしまいます。
①状況を整理して共有する
最初に生活と介護にかかる収支と支出を明らかにします。
収入は、お母様と質問者さんは同居していますので二人の収入を合わせて考えます。
支出は、お母様と質問者さんの「生活費」と、お母様に係る「介護費・医療費」を分けて整理します。そうすることで、質問者さんが実際に月々いくらの負担をしているかが、はっきりわかります。
そして、質問者さんの人的支援を表すものとして、1週間のお母様の介護スケジュールと質問者さんの就業や介護のスケジュール表をつくってみましょう。
誰が見ても一目でわかるように書き出すことで、介護にどのくらい時間をかけているのかがわかります。これを弟さんと会う機会に見せて状況を共有しましょう。
「私はここまでやっているから、あなたもにできる範囲で協力してほしい」と伝えることで、弟さんの姿勢も変わってくるものです。
伝え方としては「あなたもやりなさい」とやって当然という口調ではなく、あくまで協力を求めることがポイントです。
②可能な範囲で兄弟に負担を求める
弟さんが遠方に住み人的負担が期待できない状況であれば、経済的負担だけでもしてほしいと気持ちを伝えます。
例えば、生活費の支援は質問者さんが行い、入院時などまとまったお金が必要なときには、弟さんにも負担してもらう。「全額」や「半分ずつ」などその負担割合を決め、お互いできる範囲の妥協点を探っていきましょう。
まとまったお金が用意できないということであれば、月々いくらなら負担できると決めるのもひとつの方法です。
この先、お母様の介護度が重くなり費用負担が重くなってきたときに「介護費用を誰がどのくらい負担するか」や、施設入所や介護サービス利用が必要になった際の「保証人に誰がなるのか」など、兄弟間で避けては通れない事柄があります。
ひとりだけ負担が集中することを避けるには話し合いが必要です。
話し合いで解決しなければ調停を申し立てる
兄弟間の事情や介護に対する考え方の違いにより、話し合いがうまくいかない、まともに対応してもらえない場合があります。その際は、家庭裁判所に「扶養請求調停」を申し立てることで、解決に向けて話し合うことができます。
調停は家庭裁判所で行いますが、裁判ではなく、あくまで調停委員を交えた「話し合いの場」と理解しておきましょう。
今回のケースにあてはめると、質問者さんが申し立てを行います。その後、裁判所が選任した調停委員が質問者さんと弟さんの間に入り、双方の合意を目指して助言や提言を行います。
この話し合いの際に、調停委員は以下のことについて確認します。
①生活状況
介護に必要な人的負担(質問者さんが介助をする具体的な状況を説明します)
②経済状況
お母様、質問者さん、弟さんの収入(それぞれの源泉徴収票や所得証明書などを提出します)
このように、「兄弟それぞれの置かれている客観的な状況」や「親御さんへの想い」そして「介護に対する考え方」などを調停委員が聞き取ります。
併せて、客観的な資料を基に経済状況を確認し、調停委員が解決策を提示します。例えば、
「弟さんも毎月●万円の金銭援助をする」
「まとまった費用が必要になった場合は払う」
といった解決策を提示して、弟さんが合意すれば調停成立となります。
その後、裁判所が合意内容の書面(調停調書)を作成し、当事者はその内容を履行します。もしも支払い義務を果たさない場合は、強制執行が可能となり、債務者の財産が差し押さえられます。
調停の手順と費用
兄弟間の話し合いがまとまらない時は、相手方(今回の場合は弟の住まい)の住所地にある家庭裁判所に調停の申し立てを行います。
申し立てに必要な費用として、「収入印紙 1200円分(扶養を要する方1人につき)」と「郵便切手(連絡用)960円分」が必要となります。
第一回目の調停日時を決め、その後月1回程度のペースで調停が行われます。
双方の話を聞いた調停委員より「○○さんは月〇万円の介護費用であれば負担できませんか?」といった解決策が示され、その内容に双方が合意すれば調停成立となります。
調停で合意されなければ「審判」に移行する
仮に質問者さんと弟さんが、調停での話し合いで合意にいたらなかった場合、「審判」という手続きに移行されます。
審判とは、調停で合意がとれなかった事項について提出書類や調査結果をもとに、裁判所が当事者に代わって取り決めを行うものです。最終的に裁判官が決定し、質問者さんと弟さんはその決定事項に従うこととなります。
家族間の争いを避けるための介護の事前準備を
1.介護方針を決める
なるべく自宅で一緒に生活したい、世話ができないので施設に入ってほしい等、兄弟間でも親御さんの介護に対して思いや感情が違うと思います。
現実に直面した時に協力できるように事前に介護方針を兄弟間で確認しておきましょう。
2.兄弟間で役割分担を決める
介護費用の負担は月〇万くらいはできるが、時間はとれない、遠方に住んでいてなかなか介護は難しいなど兄弟それぞれが置かれている状況が違います。どの方がどこまでの事をするのか、役割分担を決めておきましょう。
3.親の資産を把握しておく
介護に直面した時、まず困るのが親の資産がどのくらいあるのか、日常使っている預貯金の通帳やキャッシュカードが実家のどこにあるのか、キャッシュカードの暗証番号がわからないなど、すぐにお金の出入金ができずに困ってしまいます。
親御さんの元気な時にノートにまとめて書いておいてもらうなどの準備が必要です。
特に生命保険証書類はまとめておいてもらうことが大切です。
まとめ
法律で「扶養義務者」が定められているため、家族間のトラブル解決に調停を申し立てることができます。
ただ、家族間でのお金のトラブルは金銭的なこともありますが、家族ならではの感情的な部分も影響すると思われるので調停で解決するにしてもそれなりの時間と労力を要します。またそのことによって、今後の兄弟関係に感情的なしこりを残さないとも限りません。
またお母様としてみれば、ご自身の介護費用をめぐってご家族がいがみ合うのは辛いことでしょう。まずは弟さんとしっかり話し合う機会をつくることから始めましょう。