【ケアマネが解説】遠距離の母│介護がはじまる前に知っておくべき5つのこと

遠方に住む高齢の母親は、日頃どんな生活を送っているのでしょうか。食事はちゃんと食べているのか、病気やケガはないかと、遠距離だからこそ家族の心配は募るものです。

そんな母親にもしも介護が必要となったら、遠距離の場合どのようなことが起こるのでしょうか。

このページでは遠距離介護のメリット・デメリットを紹介しながら、今から備えておきたい遠距離介護の注意点やポイントをご紹介します。

母親が要介護状態になったら何が起きるのか

主婦として長年家事全般を担ってきた方が大半だと思います。その家庭を支える母親に介護が必要となったら、家事ができないだけでなく、家計の管理にも影響するでしょう。

同居する父親がいれば、母親に介護が必要になる前から、料理・調理といった家事に参加してもらうこと。さらに、家計のやりくりも分担してもらうことが大切です。

もし一人暮らしの母ということであれば、家事については介護サービスの「生活支援(掃除・買い物・料理などの支援)」を利用することができます。

また、市区町村の社会福祉協議会で公共料金の支払いや預貯金の引き出しを依頼することができます。希望があれば通帳を預かってくれるので、金銭管理についても必要に応じて相談するようにしましょう。

訪問介護サービスについて詳しく見る

遠距離介護に備えておきたい5つの注意点

1.親子のコミュニケーション不足に注意!

日頃から電話やメールで母親とコミュニケーションをとり、いざ介護が始まったときに困らないようにしておきましょう。

介護が必要になるときには、”これまでどのような生活をおくっていたのか”、”母はどんな介護生活を希望しているのか”を知っておくのはとても大切なことなのです。

以下を参考に母親と話しをし、持病の有無や生活習慣などを確認しておきましょう。

介護が始まる前にとっておくコミュニケーションについて詳しく見る

2.見守り体制を整えておく

遠距離介護では、母の状況が把握しづらいもの。母にもしものことがある前に見守りの体制を整えておくと、体調や生活の変化に対し早期に気付けるようになります。

見守りについて備えておきたいことをあげますので、参考にしてください。

母の近所に協力者を見つけておく

母の近隣で様子を見守ってくれる方や、異変を教えてくれるといった協力者がいると安心のひとつになります。

女性は男性と比べて、近所付き合いや話し友達がいることが多い傾向にあります。そういった近隣に住む方は気軽に母の様子を聞ける協力者となってくれるでしょう。

また、地域の高齢者をサポートする民生委員や地域包括支援センターなども協力者といえる心強い存在です。

民生委員は、一人暮らしの高齢者の見守りや身近な相談相手となってくれます。

地域包括支援センターは、介護サービスが必要になった時に、手続きを代行してくれる窓口にもなります。

帰省時には、近所の方や民生委員へ挨拶すること、必要に応じて地域包括支援センターにも介護に備えた相談をしてみると良いでしょう。

地域包括支援センターについて詳しく見る

見守りも兼ねて配食サービスを利用する

配食サービスとは、指定した時間に自宅へ食事を届けてくれるサービスです。宅配だけでなく、昼食・夕食の配達のときに必ず安否確認もしてくれます。

もしも異変があった場合には、配食業者からご家族に連絡が入り、状況の報告をしてくれます。

ただし、配達時に応答がないからと言って”窓ガラスを割って自宅に入る”といったことまでは対応できません。そういった緊急時など、家族がすぐに駆け付けられない場合は警察に相談してみましょう。

配食サービスについて詳しく見る

ICT機器を用いた見守り

最近は照明や電気ポットなど、毎日使用する家電製品に通信機能が付いているものがあります。一定時間使われていないと、家族宛てなど設定した連絡先へメールで知らせるといった機能を備え、見守り方法のひとつとして注目されています。

カメラの設置とは異なりますので、母親のプライバシーが保たれたまま見守ることができます。

その他にも自治体によっては、緊急通報システムを配置してくれるところもあります。体調不良などの緊急時にボタンを押すと、警備会社が駆けつけるといったサービスです。無料で利用できるので、こうした自治体サービスも上手に活用し、介護に備えておきましょう。

3.親族とのコミュニケーションも欠かさない

遠距離介護をすることについて、親族からよく思われなかったり、理解が得られないことがあります。

「子供が親の介護をするのは当たり前」、「なぜ同居して介護をしないのか」といったことも言われかねません。

こうした意見をする親族は、介護当事者である母がどういった介護を望んでいるのか。また、それが母や、家族にとって実は理想的な距離感になっていることも知らずに意見するケースが多くみられます。

こうした誤解や、無用なトラブルを防ぐためにも、母の気持ちを代弁して伝えたり、遠距離介護の現状を知ってもらうようにコミュニケーションをとっておきましょう。

4.仕事と介護の両立は可能か

遠距離介護であっても、体調が悪く一人で病院にいけないときや、救急搬送されたときといった、いざという時には、仕事を休まないといけないことがあります。

日頃から、上司や同僚などに遠距離介護の可能性があること。すでに遠距離介護が始まっているようであれば、その大変さなどを知ってもらうようにしておきましょう。

普段から会社に遠距離介護について理解をしてもらえると、いざという時に上司や同僚が協力してくれるかもしれません。

5.介護にかかる費用を見積もっておく

介護が必要になると、医療費だけでなく介護サービスの支払いが生じてきます。毎月どのくらいの医療費が必要か。そして、介護サービスの料金や負担額も把握しておきましょう。

そのうえで、母にどのくらいの収入があるのかも確認が必要です。もし本人の収入だけで、医療費や介護サービスの支払いが難しい場合には、家族内で経済的なサポートをどのように行うのかを話し合っておきましょう。

在宅介護にかかる費用について詳しく見る

遠距離介護のメリット

自分の生活スタイルを変えずに介護できる

同居する親の介護の場合、自分の生活スタイルを変えなければならない場合がほとんどです。

しかし、遠距離介護の場合は頻繁に親元へ行くこともできないため、仕事や家事など今までの生活スタイルを維持することができます。

実際の介護は母親の自宅近くにある介護サービスを利用することで対応できるため、介護は必ずしも家族が行わなくても良いのです。

このように、生活スタイルを変えずに介護できる点は、メリットのひとつといえます。

同居だと受けにくい介護サービスが利用できる

介護サービスの中には、介護ができる同居家族がいると利用しづらいサービスもあります。それは訪問介護における「生活援助」です。

生活援助とは、掃除や洗濯、調理、買い物などを訪問介護のヘルパーが行ってくれるサービスのことで、法令上、介護ができる同居家族がいる場合には、原則として利用することができません。

生活援助は一人暮らしの方や、家族が同居しているが病気などを理由に介護ができない場合に、利用することができます。

また、入居できるまで長期間待つこともある特別養護老人ホーム(特養)においても、一人暮らしや高齢者世帯に関しては、入居の優先順位が上がってきます。家族と同居してるときに比べて入居しやすくなるというメリットもあります。

特別養護老人ホームについて詳しく見る

適度な距離感で介護ができる

同居して毎日介護をしていると、身体的にも精神的にも負担が増えてきて、介護者の心の余裕がなくなってしまうことがあります。

すると、思い通りにならない状況が続いたときに母に対して強くあたったり、イライラしてしまう場面があるでしょう。

一方で、遠距離介護の場合は、会う頻度も限られるので、ある程度心の余裕を持ちながら接することができる点もメリットの一つといえます。

医療・介護費が軽減できる場合も

医療費や介護サービス費は、世帯の所得に応じて負担額が変わります。

仮に母親の収入が国民年金のみで、所得が少なく非課税世帯になっているとします。医療費ついては、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を取得することで、病院の窓口で支払う金額が軽減されます。

同様に、介護サービス費についても、「負担限度額認定証」を取得することで、介護事業所へ支払う金額が少なくなります。

ただし、同居家族がいるとその所得も合算されるため低所得とはみなされず、減額制度を利用できない場合があるので覚えておきましょう。

医療保険の標準負担限度額認定証について詳しく見る 介護保険の負担限度額認定証について詳しく見る

遠距離介護のデメリット

親の様子がわかりづらい

離れて生活しているため、日頃の母の様子がわかりづらいことがあります。定期的に電話で様子を聞いていても、家族に心配かけたくない、という想いで、困っていることなどを隠し、話さないかもしれません。

様子がわからないと離れて暮らしている家族も心配に思うこともあるでしょう。

体調不良時に対応しづらい

母の体調が悪くなったとき、または救急車で入院したときなど、遠距離であるがゆえに、すぐに駆け付けることができません。

深夜・早朝に救急搬送された場合には、すぐに病院へ行くことは難しいため、遠距離介護の不安な点といえます。

仕事を休む機会が増えることもある

もしも一人暮らしの母親が入院したら、母の家に泊まり身の回りの手伝いをしなければならない場合もあります。そのときは、介護休暇や有休休暇を利用することになるでしょう。

母親が近隣に住んでいる場合は、仕事と両立することも可能かもしれませんが、遠距離だとその両立が厳しい場合もあります。

このように、母の状況によっては、仕事を休まないといけないことがあることも想定しておきましょう。
 

備えることで遠距離介護でも安心した生活ができる

ここまで、遠距離介護で直面することや、備えておきたいことを紹介してきました。

遠距離介護は、母が離れた場所にいるので、家族のサポートが難しい場面があることや、家族が心配に思うことも多くあります。当然遠距離介護という決断を躊躇する人もいらっしゃるかと思います。

中には、自宅での生活をあきらめて介護施設への入所を検討する場合もあるでしょう。しかし、母親の希望が「自宅介護」であるならばその希望を叶えられるように、しっかり備えをしておきたいものです。

遠距離介護は不安や心配というデメリットだけでなく、一方で家族の生活スタイルを崩さずに、お互いに自分らしい生活ができるというメリットもあります。

このページでご紹介してきたような備えをすれば、例え遠距離だとしても、在宅生活は決して不可能ではありません。

母親のサポート体制を整えることで実際に遠距離介護をしている方も、沢山いらっしゃいます。やるべきことも多いため、体制を整えるまでは苦労もあるかもしれません。

まずは介護が始まる前から母とのコミュニケーションをとることから始め、母と一緒に介護の備えについて考えてみましょう。

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この記事の制作者

森 裕司

著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)

株式会社HOPE 代表取締役 
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。

介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、その他介護施設や老人ホームなど、高齢者向けの施設・住宅情報を日本全国で延べ57,000件以上掲載するLIFULL 介護(ライフル介護)。メールや電話でお問い合わせができます(無料)。介護施設選びに役立つマニュアルや介護保険の解説など、介護の必要なご家族を抱えた方を応援する各種情報も満載です。
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