【はじめての方へ】認知症による着替え拒否への対応
汗をかいた、外出する、入浴する、寝間着に着替える。着替えに介助が必要になると、日常生活の中で着替えをする場面はたくさんあることに気が付きます。
その分、着替え拒否が見られるようになると、その負担は大きく、ご本人もご家族も大変な思いをすることになります。
このページでは、こうした着替え拒否は、どのような原因で起こり、どのような対策が必要かを説明します。
着替え拒否のとらえかた
着替えはプライベートな作業だと認識しよう
- パジャマのまま一日を過ごすようになってくる。
- 寝るときに着替えなくなってきた。
- おしゃれだった人が部屋着と外出着を区別しなくなった。 ……
こうした出来事が、周囲の人が認知症に気づくきっかけになるほど、認知症の人にとって着替えは苦手なものです。
適切な衣類を選び、順番に更衣をすることは、実は認知機能を十分に必要とするとても難しい作業なのです。
さらに、入浴や排せつと同じく、着替えも本来、とてもプライベートなものです。着替えを手伝われるというのは、直に触れられ、隠したい場所を見られてしまうことになります。
また、ご本人にとっては、ご自身が子どものころ、もしくはお子さんの着替えの手伝いをしていたころを思い出してしまい、子ども扱いされているような、情けないような気持ちになっているかもしれません。
言葉づかいや振る舞いに注意して、自尊心を傷つけないように介助することが必要となります。
着替え拒否の原因と対策
原因1:着替え方がわからない
着替えという一連の動作には、以下のようなたくさんのつまづきのポイントがあります。
- 認知症の実行機能障害により、たくさんある服をどの順番で着ればいいのかわからない。
- 失行(※麻痺などで動かないのではなく、行動や動作のしかたがわからなくなる認知症の症状)でどのように着ればいいのかがわからない。
- 記憶障害で、いま、服を脱いでいたのか、着ていたのか忘れる。
- この下着は脱いだものなのか、それとも、これから身に着けるべきものなのか忘れる。
だからといって、着替えを全て手伝われると、ご本人は傷つきますし、次第に、どんどん着替え方を忘れてしまいます。
そっと見守り、どこにつまづきがあるのかを確認し、その部分だけの対策をとるようにしましょう。その際、なるべくご自分だけでできるような工夫をしてみましょう。
例えば、着る順番がわからなくなり、シャツの上に下着を身に付けるようなこともあります。その場合、上から手に取れば正しく着替えられるよう洋服をセットしておくことで失敗を防げます。
また、かぶって着る上衣で、首の穴に腕を通す失敗をするのなら、前開きの衣類に変えるなどの工夫ができます。
原因2:介助されることで自尊心が傷つく
着替えを手伝われることは、そもそも自尊心が傷つきやすい状況です。また、認知症により、なぜ自分に介助が必要なのか認識できていないこともあります。
ですので、言葉づかいに注意し、時には手伝われていることに気づかれない工夫も必要になります。
自尊心が傷つく可能性があるような態度や発言に注意しましょう。「ちゃんと~できます?」「大丈夫ですか?」などという言葉も、悪気がなくとも、着替え拒否を引き起こしかねません。
以下のように、見られているという意識を持たせないため、あたかもついでに手伝っているかのような状況を作り、必要最小限に手伝うとご本人も自然に受け入れてくれるかもしれません。
- 脱衣所の掃除や片づけ物をしているふうにして見守る。
- 今着ているものを洗濯するために回収するついでに手伝う。
- 体に湿布を貼るついでに手伝う。
- ローションやクリームを塗るついでに手伝う。
原因3:集中力が続かない
認知症の症状が原因で、注意力や集中力が低下することがあります。
特に冬場は、着ている衣服の種類や枚数が増え、着替えが長時間になり、行程の後半では脳が疲れ嫌気がさしてしまうことがあります。そうした疲れへの配慮が必要になることもあります。
例えば、脱衣所では風邪をひかない程度の更衣にとどめ、リビングに来てから上着を着てもらうというように、行程を分割するとうまくいく場合もあります。
また、たくさんのボタンがあるものは、どうしても疲労を起こしやすいものです。ボタンを掛け違えてしまい、手戻りすると、なおさら拒否感が強くなってしまいます。ボタンの一番上と下を手伝っておくと、スムーズです。
男性でベルトを愛用している方なら、ベルトを先にズボンに通しておいたり、こだわりがないようならボタンではなくジッパー、フックではなくゴムのズボンなど、着替えの手順が容易なものを用意することもよいかもしれません。
原因4:身体的な要因がある
肩が上がらず袖を通しにくい、足が上がらずズボンをはくとバランスが崩れて怖い。そういった身体的な要因で着替えが苦手になっていることがあります。
また、関節が動く範囲(関節可動域)が狭くなっている場合、無理に手伝うと痛みを感じてしまい、怒りや暴言暴力につながる場合もあります。
着替えの介助の方法を介護専門職に相談してみるのもよいでしょう。
着替えが楽になる手すりなどを提案してくれたり、痛みのない介助の方法をアドバイスしてくれると思います。また、伸縮性のある着脱しやすい衣服や、四肢の脇が開く衣服などを試してみるのもよいでしょう。
着替えは、私たちにとっては容易なことであっても、認知症のご本人にとっては大変難しいものであることを再認識しましょう。
まずは焦らせずゆっくり待ち、ボタンの掛け違いなどがあってもそのことを注意せず、例えば一枚上着を羽織ってもらって見えないようにするなどの、妥協や代替策も用意しておくとよいかもしれません。
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この記事の制作者
著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)
現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。
(編集:編集工房まる株式会社)