質問

老人ホームで働きたいと思っているのですが、資格がなくても働くことは可能ですか?

みなさん福祉系の学校で専門知識を学んでから入社しているのでしょうか?在学中にどのようなことを学んで、どんな資格を取得できるのでしょうか?

回答
武谷 美奈子

老人ホームの介護スタッフ全員が福祉系の学校を卒業しているわけではありません。無資格・未経験で施設に入職し、現場で経験を積み、施設で研修を受けながら資格を取得し活躍しているスタッフも多くいます。
福祉系の学校では、介護業界で唯一の国家資格である「介護福祉士」の取得を目指します。学校では介護の基本、コミュニケーション、こころとからだのしくみなどを体系的に学びます。

このページでは、介護スタッフになる道すじや福祉系の学校の教育課程。取得できる資格について解説します。老人ホームなど介護施設で働こうと思ったときに参考にしてください。 武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

【目次】
  1. 老人ホームの介護スタッフになる
  2. 福祉系学校で学ぶ「4つの領域」
  3. 福祉系学校で取得できる資格
  4. 本当のスキルは介護の現場でこそ養われる
  5. まとめ

老人ホームの介護スタッフになる


老人ホームの介護スタッフになるまでの進路には、介護系の資格取得後に入職するパターンと、無資格で入職するパターン大きく二つあります。どちらも老人ホームで働くことはできますが、業務内容や待遇が変わるため、無資格で入職した後は、経験を積み資格を取得するスタッフが大半です。また、未経験でも取得しやすい「介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)」の資格を取得してから入職するスタッフもいるようです。


●福祉系の学校(高校・専門学校・大学)を卒業し、介護系の資格を取得して入職する

●福祉系以外の学校を卒業し、新卒もしくは異業種から「介護職員初任者研修」を取得して入職する

無資格で入職し、施設で経験を積みながら資格取得を目指す



福祉系学校で学ぶ「4つの領域」


福祉系学校では高校、専門学校、大学のいずれにおいても、「人間と社会」「こころとからだのしくみ」「介護」「医療的ケア」という4つの領域を学んでいます。

それぞれどんなことを学ぶのかをまとめてみました。


<1.人間と社会>

「人間の尊厳と自立」「人間関係とコミュニケーション」「社会の理解」に細分化して学びます。
介護を行うにあたって「人間」を理解し、尊厳の保持と自立・自律した生活を支え、現場での倫理的課題に対応できる基礎能力、コミュニケーション能力を養います。

さらに、人間の生活と社会の関わりや社会保障の基本的な考え方、介護保険制度と障害者自立支援制度、個人情報保護や成年後見制度などの基礎的知識を学びます。



<2.こころとからだのしくみ>

「発達と老化の理解」「認知症の理解」「障害の理解」に細分化して学びます。
それぞれについて、身体機能の変化や特徴、心理的側面の理解、本人・家族・周囲も含めた介護の視点を学びます。



<3.介護>

「介護の基本」「コミュニケーション技術」「生活支援技術」「介護過程」「介護総合演習」「介護実習」に細分化して学びます。

「尊厳保持」「自立支援」を踏まえた安全な介護技術、チームケアの重要性、本人・家族とのコミュニケーション技術などを学び、実習を通して実践力を養います。


<4.医療的ケア>

医療的ケアを安全・適切に行うための知識・技術を学びます。具体的には、痰の吸引と経管栄養について基礎知識・実践方法を学び、演習を通じて実践力を養います。



福祉系学校で取得できる資格


介護の資格には下記のものがあります。それぞれ取得できる条件が異なります。

<介護職員初任者研修>

2013年4月に「ヘルパー2級」から名称変更し、新しくなった介護の研修課程です。これから介護の業務に従事しようとする方などが対象となります。年齢や学歴についての制限は一切なく、誰でも受験可能です。

この資格を取得すると、訪問介護の仕事に従事することができます。施設介護においては法的に資格取得が義務付けられていません。しかし、資格取得を応募条件と規定している施設もあります。

また、上位資格である「実務者研修」を受講する場合、カリキュラムの一部が免除されます。


<介護職員実務者研修>

2013年4月から「ヘルパー1級」「介護職員基礎研修」一本化されたのがこの実務者研修で、介護職員初任者研修の上級にあたる研修課程です。

福祉系の学校で学ぶ4つの領域「人間と社会」「こころとからだのしくみ」「介護」「医療的ケア」を体系的に学びます。

国家資格である介護福祉士を受験するには、実務者研修の修了が必須となります。

この資格を取得すると、訪問介護事業所におけるサービス提供責任者に実務経験なしで従事することができます(介護職員初任者研修修了者の場合は3年以上の実務経験が必須)。

また、研修を受け「認定特定行為業務従事者認定証」が交付されれば、「たん吸引」や「経管栄養」の医療行為が可能となります。


<介護福祉士>

介護福祉士とは、介護に関する唯一の国家資格です。利用者の状態に対して的確な介護を実践し、幅広い領域の知識や技術を習得したと認められた者に与えられます。

また、一定の研修を修了することで痰の吸引といった一部の医療行為も認められています。

医療行為以外では、介護福祉士ではないとできない業務はありませんが、施設の介護職員のうち、介護福祉士の割合が一定数を超えると施設の評価が高まります。そのため、介護福祉士取得者は給与などの条件が優遇されることがあります。

また、上級資格の「ケアマネジャー」を取得する際に介護職を実務経験とする場合は、介護福祉士取得が必須となります。


さらに、実務経験を積み一定の条件を満たすことで、さらに上位資格の取得も可能です。

<認定介護福祉士>

介護福祉士の資格取得後のキャリアアップの道筋を作り、幅広い知識・技術を身に付け、質の高い介護を行い、他の現場職員を指導できるレベルに達した介護福祉士を認定する仕組みを作るものとして、現在検討中の新しい資格です。


<介護支援専門員(ケアマネジャー)>

ケアマネジャーは、利用者からの相談に応じ、その心身の状況に応じたサービスを利用できるよう、市区町村、サービス事業者等との連絡調整等を行い、利用者の自立支援のためのケアプランを立案し、ケアマネジメントを行います。

施設に入所している利用者についても、ニーズに応じて施設サービスが適切に提供される必要があり、それを担う立場としてケアマネジャーがケアマネジメントを行っています。

ケアマネジャーになるには、下記のような実務経験を経て、資格試験に合格する必要があります。

・保健・医療・福祉に関する法定資格(※1)に基づく業務に5年以上従事
・施設等においての相談援助業務に5年以上従事
・介護業務に、社会福祉主事任用資格者や介護職員初任者研修修了者であれば5年以上、それ以外は10年以上従事

※1 保健師、看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、あん摩マッサージ指圧師、栄養士(管理栄養士を含む)、など

2018年の試験からは経過措置を経て受験資格が限定され、「5年または10年以上の介護業務」は受験資格から外されます。介護業務を実務経験とする場合は、介護福祉士を取得する必要があります。



本当のスキルは介護の現場でこそ養われる


国は
介護福祉士の有資格者を増やし、「介護の質」を高めようと考えています。福祉系の学校に通い介護を体系的に学び、国家資格を取得して施設に入職することは、学校で学んできたことが活かされ、即戦力になる時間も短縮できるものと思われます。

他方で、無資格・未経験で入職し、体当たりで介護を学び、施設の教育・研修を受けて資格を取得し、高いスキルを身につけ管理職にまでなっているスタッフも現場では多く見られます。

介護は生きた人間を相手にする仕事ですので、机上で学ぶことより現場で起きていることによってスキルが磨かれるといっても過言ではありません。



まとめ


介護の資格全体のキャリアアップの道筋やそれぞれの必要水準が明確化されていく中で、介護福祉士は福祉系の大学や専門学校を卒業すれば自動的に取得できるものではなくなり、ケアマネジャーの受験資格としての介護の実務経験は介護福祉士を取得していないと換算されないなど、「介護福祉士」の難易度が高まり、実力も認められる仕組みができ始めています。

今後は、施設の質を見極める際には、介護福祉士の人数や割合がさらに重要視されるようになるでしょう。

このQ&Aに回答した人

武谷 美奈子
武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

学習院大学卒 福祉住環境コーディネーター 宅地建物取引士
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の高齢者の住まい選びについての相談を受ける。 「高齢者住宅の選び方」「介護と仕事の両立」等介護全般をテーマとしたセミナーの講師をする傍ら、テレビ・新聞・雑誌などでコメンテーターとして活躍。 また日経BP社より共著にて「これで失敗しない!有料老人ホーム賢い選び方」を出版。