- 質問
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同居する高齢の母(82歳)は身体は元気ですが外出もせず、食事もあまり食べません。母の栄養不足が心配です。みんな高齢になると食欲は減退するものでしょうか?
改善するにはどうしたら良いのでしょうか?
- 回答
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高齢になると食事量が低下する傾向はありますが、変化には個人差があります。食事量が低下する原因には、加齢による咀しゃく力や消化吸収能力の低下など食べる機能に関すること。さらに活動量が減ることで空腹を感じにくい、あるいは食事環境や精神的な影響などさまざまな理由が考えられます。
ご本人が気づかずに過ごされることもありますので、ご家族や周囲の方々の注意や配慮が低栄養状態を防ぐことにつながります。
ここでは高齢者の食欲不振の原因と対策について解説します。ご家族の食欲減退が気になってきた際に参考にしてみてください。
無理に食べさせることは逆効果
「なんとか食べて欲しくて」という周囲の思いは、高齢者にとって「食べなければならない」というストレスに変わり、食事への拒否につながることが心配されます。
本来、楽しみであるはずの食事時間が高齢者の負担とならないよう、状況を理解したうえで見守ることも大切です。状況を理解するとは、食欲低下の要因と背景に、病的、精神的疾患、あるいは認知機能の低下がないかなどを把握しておくことです。
これにより食事が進まないことへの臨機応変な対応が可能となります。
なぜ高齢になると食欲が低下するのか
加齢に伴う食欲低下は誰にでも起こりうる
通常、食欲は、脳にある食に関するセンサー(摂食中枢と満腹中枢)が刺激を受け、食欲に関する信号を送ることで空腹感や満腹感を感じます。
満腹のセンサーは、咀しゃくによって刺激を受けますが高齢者の場合、咀しゃく力が低下して満腹感の刺激を感じ取りにくいことに加え、消化酵素の分泌が減ることによりお腹がすきにくいことも考えられます。
また、高齢者は消化の第一歩となる唾液が減少し、消化酵素の分泌量も減るため食べ物の消化が進みにくくなります。
からだを動かしエネルギーを消費することで、脳のセンサーが刺激され空腹信号を送りますが、活動量が少ない高齢者の場合は「食欲」が生じにくいといわれています。適度な運動は、筋力を高めるだけでなく、食欲への刺激や調整にも役立っています。
高齢者の食欲減退、その理由は?
加齢以外の食欲低下がみられる要因と対策
要因 | 理由 | 対策 |
---|---|---|
生活習慣病 | 減塩などの制限食 | 減塩調理により、おいしくないと感じてしまう傾向があります。すべてを薄味にするよりも、煮物を炒め物に変更するなど料理方法の工夫や、うま味や酸味の活用で塩分摂取量を見直すことができます。 |
便秘 |
腸内の活動が低下 腹筋の低下 |
水分の補給、適度な油料理、野菜やきのこの食物繊維摂取、ヨーグルトなどをとり入れ善玉菌を増やして腸内を活性化させましょう。日常的な運動で腸への刺激と筋力維持を目指します。 |
水分不足 | 脱水状態にかかわる | 食事が減ることで、食材に含まれる水分摂取量も不足しがち。意識的な水分の補給はもちろん、食事ではスープや味噌汁で水分と栄養を同時に補給しましょう。 |
運動不足 |
筋力低下 痛みによる |
膝関節や腰痛などを日常生活においても痛みを伴う方も多いと思います。筋力低下を防ぐために、個々にあった体操やウォーキング、水中歩行などにチャレンジしましょう。 運動は医師やリハビリの専門家に相談してみましょう。 |
不規則な 食生活 |
時間的不規則、栄養の偏り | 空腹感を感じてから食べる習慣は、不規則になりがちです。食事内容にもムラができ栄養が偏る原因になりかねません。多少のずれは気にせず、おおよその食事時間は決めておくとよいでしょう。間食は補食として楽しみましょう。 |
食事時の悪い姿勢 | 誤嚥による危険性、腹部圧迫による食欲低下 |
個々に適した食事の姿勢は、誤嚥を防ぎ食欲を促します。 テーブルでとる食事は、椅子に深く座り、足が床に着くようにして安定させます。ベッドでの食事は、高齢者の摂食状況・身体状況に合わせてリクライニングの角度調整を行いましょう。 |
精神的負担 | ストレス、不安、うつ、認知機能の低下など | 身体的、環境的な要因が複合的な場合、容易に解決できるものではありません。安心できる環境づくりと周囲の方々のサポートを受けつつ、まずは欠食しないことから始めましょう。 |
食欲を高める工夫
高齢者の食欲アップのためには、好きなものを献立にとり入れると、食事へ手を伸ばしやすくなります。もちろん、毎日・毎食となると偏りが出てしまうので、食欲を高めるきっかけを作ることが目的となります。
家庭でできる工夫
①環境の工夫
できる限り、ひとりで食べずに誰かと一緒に食べましょう。
また、テレビをつけず落ち着いた音楽を流すことで食事に集中できます。
②五感で食欲を刺激する
料理を作るときの音、料理の匂いなどを感じてもらい食欲を刺激しましょう。
③盛り付けの工夫
たくさんの量を一度に盛り付けず、量を減らして小分けにすることで、見た目の圧迫感がなく食べようという気持ちを起こしやすくなります。
簡単にできる栄養の補給方法
食欲が低下しているときは、噛む負担の少ない適度な硬さ、喉に負担のかからない飲み込みやすいものを食卓に並べて栄養補給に役立てていただけたらと思います。
特に汁物は、栄養の補給と同時に匂いも楽しむことができるのでおすすめです。食欲の回復に伴って、通常の食事へと近づけるようにします。
①のど越しのよい食事:茶わん蒸し、かぶら蒸しなどの蒸し物、ゼリー寄せ、コンポート など
②手軽に食べることができる食事:サンドイッチ、そうめん など
③喉に潤いを与える食事:だしのきいた汁物、ポタージュスープ など
④香辛料や調味料を活用する:こしょう、酢(酸味が強すぎないように)、ゆず、生姜、梅干しなど
低栄養のリスク
高齢者の低栄養状態とは、食事量が減る、噛む力が弱くなる、消化や吸収能力が低くなるなどさまざまな理由で栄養状態が低下し、からだを動かすために必要なエネルギーや筋肉を作るたんぱく質が不足した状態をいいます。低栄養状態は、免疫力の低下や筋力の低下などにより寝たきりの原因にもつながります。
食事量が減る、体重減少がみられる場合は、低栄養のリスクが潜んでいるかもしれません。早めにかかりつけのお医者様、管理栄養士、介護関係者にご相談ください。
まとめ
食べるという行為は、当たり前のようでいて時に高齢者にとってはとてもエネルギーのいる行為であるということも知っておかなければなりません。食べるためには咀しゃくや飲み込み、食事を運ぶ手、からだを座らせるための筋力を使い負荷がかかります。
食に対する欲求が低下したときに、その負荷を超えられる「食べたくなる気持ち」を刺激できるよう工夫したいものです。
食事はできるだけ孤立しないよう「一緒に食べましょう」や「お母さんの好きなもの作ってみたよ」など声をかけてみましょう。ご家族や周囲の方々のそうした言葉も食欲低下を防ぐ大切な要素となります。
イラスト:安里 南美