- 質問
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認知症の父は一人暮らしをしています。先日、父の家に行ったときに通帳を見てみると、1週間で7万円も減っていました。用途も覚えていないとのことで、高齢者を狙った詐欺ではないかと心配です。
通帳やカードは、多少強引にでも家族の管理にすべきでしょうか。
必要以上に使わせないようにする工夫などあれば教えてください。
- 回答
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金銭管理はご本人の自尊心の源でもあります。一定金額以上の出費は必ず相談してもらうなど、お父様がご自身で金銭管理ができる工夫を行い、家族による管理はあくまで最終手段にしてください。
ここでは、実際に多い金銭トラブルの事例やご本人に必要以上にお金を使わせない工夫、金銭管理を支えるために役に立つ制度やサービスを解説します。
トラブルを回避しつつ、ご本人とご家族を幸せにする金銭管理の計画を立てましょう。
認知症高齢者に多い金銭トラブル
認知症高齢者は様々な場面で、金銭トラブルを抱えがちです。
金銭の計算が難しくなりレジでもたついてしまったり、短期記憶の障害により同じものをいくつも買ってしまうたりは、耳にすることが多いでしょう。このような「その場の支払い」「日~週単位の金銭管理」にも困りますが、月単位での計画的な金銭管理や、客観的な判断力が必要となる大きな買い物でトラブルが起きることも。この例をいくつか挙げてみましょう。
年金(生活費)を支給日に全ておろしてしまう
月単位の家計のやりくりに必要な計画性や判断力は、認知症初期から低下してきます。
特に手元にお金がないことが不安で、月の生活費を一気に大金を引き出してしまうタイプの人は要注意です。あっという間に使い果たし、家賃や水道光熱費の引き落としができなくなります。しかも本人はお金を引き出したことを忘れ、「銀行が私のお金をとった」と毎日のようにクレームをいいにいくこともあります。
小出しに引き出し、生活に必要な分だけ消費するタイプの人は、大きな問題になりにくいようです。
高額商品を購入してしまう
病気により前頭葉が委縮し始めると、判断力の低下や欲求のコントロールが弱くなり、いわゆる衝動買いが増えていきます。気に入った洋服を次々と購入してしまったり、車をローンで購入してしまったケースもあります。
可能な限り返品や契約取消を行えばよいのですが、自分の金銭管理能力の低下を認めたくないがために、ご本人が「自分の意思で購入したものだ」と返品や取消を認めない場合もあります。
悪徳商法に引っかかってしまう
独立行政法人国民生活センターに寄せられる、70歳以上の人からの相談件数は、ほぼ年間15万件に上ります。高齢者を狙う詐欺や悪徳商法の多くは高齢者の持つ「お金」「健康」「孤独」の不安に巧みにつけこんできます。認知症高齢者は、認知症の不安から、この3つの不安をさらに強く感じています。だまされていることにも気づきにくく、ご本人や周囲がやっと気が付いたときには、高額な被害を受けていることも多いのです。
金銭は家族が管理すべきか
このような金銭トラブルを避けるため、お金や通帳は家族が管理する方がよいと感じるかもしれません。しかし、自分で自分の金銭管理を行うことは、自尊心の源でもあります。
初めてお小遣いをもらったとき、初めてお給料を頂いたときは、誇らしい気持ちを感じたのではないでしょうか?お金を取り上げられてしまうと、ご自身の自由と尊厳が奪われた気持ちにならないでしょうか?それは認知症の方も全く同じです。自尊心を大きく傷つけられ、時には修復の難しい傷をご本人とご家族の間に残しかねません。
家族による管理はあくまで最終手段
また、ご家族の一人がご本人の金銭や通帳を管理することで、兄弟姉妹や親戚間でのトラブルを引き起こすこともあり、慎重に考える必要があります。
また、高齢者の金銭トラブルが社会問題になっているため、制度上も他者による金銭管理の厳格化が推し進められています。家族といえども、委任状や様々な手続きなしでは、ご本人の銀行口座からお金を引き出すことも難しくなってきました。
これらを鑑みると、家族による管理は最終手段です。できるだけご自身で金銭管理ができる工夫を行いつつ、家族信託や、成年後見制度、日常生活自立支援事業など、後述する金銭管理サービスを利用するのもよいでしょう。
必要以上に使わないための工夫
金銭管理方法や注意喚起の工夫をいくつか挙げてみます。どのような場合も、金銭という極めてプライベートなことにかかわるのですから、原則として、「ご本人を信頼していないわけではない」「社会的に問題になっているから念のための対策である」とご本人にしっかり伝えておかないと、ご本人の反発を受けるかもしれません。
資産を分散して管理
口座を複数持ってもらい、普段使いのものと資産管理用をわけ、資産管理用のものを「これは貯金しよう」と預からせてもらうのもよいかもしれません。この場合、別の銀行印を届け出ておく方が確実です。
また、頻繁にお金を引き出してしまう場合は、キャッシュカードを作らないなど、お金の引き出しにワンアクション必要な状態にしておくと、かんたんにお金を引き出すことはしなくなります。
買い物時の注意喚起
「10,000円以上の出費→息子に電話」など、一定額以上の買い物や契約の際には必ず相談してもらえるようご本人と約束して、そのメモを財布の中や居間など目につくところに貼っておくのも有効でしょう。
悪徳商法防止のパンフレット、ポスターを、電話の近くなどご本人の見えやすい場所に掲示する方法もあります。しかし、来客や玄関先からこれが見えてしまうと、かえって訪問セールスに狙われてしまうこともあるので、貼る場所には注意が必要です。
金銭管理サービス
ご本人の金銭管理を支えるために、以下のような制度やサービスがあります。
家族信託
家族信託とは、信頼できる家族に生前から資産の管理を委託する財産管理の手法です。司法書士事務所や弁護士事務所で相談できます。委託された家族の側には忠実義務という、ご本人を保護する義務が課せられ、その義務に基づいた資産管理を行うこととされています。ご本人の法律行為の制限も部分的にあるものの、成年後見制度よりも家庭裁判所のかかわりが少なく簡便に制度利用できるほか、資産管理上の柔軟性もあり、場合によっては逝去後の相続もスムーズになるなどのメリットもあります。
しかし、家族信託は判断能力が低下していない状態での契約が必要です。認知症への備えとしては適していますが、認知症を発症した後の利用はできません。
社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」
判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、ご本人との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うものです。有料のサービスではありますが、おおむね訪問1回につき平均1,200円などと低額で、各種支払いや契約行為の支援を受けることができます。このサービスを利用するには、すでに認知症で判断能力が低下していることが前提です。
お住まいの市町村の社会福祉協議会で相談を受け付けています。
成年後見制度
成年後見制度とは、判断能力が不十分なため契約等の法律行為が難しい人を後見人等が代理したり、必要な契約等を締結したり、財産を管理したりして本人を保護することを目的とした制度です。
成年後見制度には、既に判断能力が不十分になってから家庭裁判所に申立をしする「法定後見制度」と、将来判断能力が不十分となった時に備えるために、ご本人が元気で判断能力があるうちに、公正証書により任意後見人を選んでおく「任意後見制度」があります。
>「成年後見制度」について詳しく見る
おわりに
金銭管理や資産保護は、生計を維持していくために大切なもの。それがゆえにトラブルも招きやすく、認知症があれば被害妄想や興奮などの症状にも関係しやすくなります。ご家族としては心配の種でもありますが、上手く対応すればご本人の安心感が得られ、ご家族との信頼関係をもたらします。
金銭管理を考えることで、ご本人の未来の望ましい生活、ご家族の介護の方針をともに考えることができます。ぜひ、多くのサポートを受けながら、ご本人とご家族を幸せにする金銭管理の計画を立ててください。
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