介護離職で老後資金が破綻する!?仕事と介護を両立する方法
そろそろ親に介護が必要かもと感じていても、子育てや仕事のことなど忙しい日々の中でなかなか考える機会が作れないもの。しかし、親は確実に年をとっていてある日突然親の介護が始まる!ということも珍しくはありません。
もしも親が在宅介護を望んでいて自分がメインで介護をすることになったら…。今すぐにでも仕事を辞めて介護に専念するべきか、という悩みもあります。
しかし、介護離職をすると自分の老後資金が危うくなるということもあるのです。そこで今回は、「辞めない介護」を模索する方法についてご紹介していきます。
介護離職を回避する
親が要介護認定を受けて介護が必要となり、在宅介護を希望した場合に、主に介護をする人は誰なのでしょうか?
下のグラフは、実際に在宅介護をしている人の属性を表したデータです。最も割合が多いのは、同居の配偶者で、主に、夫婦が互いの介護の担い手になっていることが分かります。次に多いのは同居の子どもで、子どもの配偶者の約3倍近くの割合になっています。つまり、自分の親は自分で面倒を見るケースが主流と言えます。
また、別居の家族・親族と事業者の割合の合計が、全体の約3分の1近くを占めていることも見逃せません。在宅介護は、同居の家族がするものと思いがち。しかし、必ずしもそうではないということが分かります。
また、どちらかの親がメインの介護者となった場合、年老いた親がすべての介護を担うことは、体力的にも精神的にも厳しいものがあります。そのため、子どものサポートが不可欠と考えます。子どもも積極的に介護に参加するようにすることで、自分が介護役のメインになるときの準備にもつながるのです。
もし、自分が介護役のメインを担うことになったら…。今まで通り仕事を続けながら、介護をすることが難しく、仕事を辞めて親の介護に専念するのが、子どもがやるべきことと考える人もいるでしょう。
ましてや離れて暮らす親の介護になると、もっと難しく感じてしまいます。しかし、仕事と介護の両立が難しいからと焦って仕事を辞めことは、必ずしも得策とは言い切れません。実際に下のグラフのように、介護離職をして精神的に負担が増したと答えた人が半数以上もいるのです。
このことから、焦って仕事を辞めるという選択をせずに、まずは必要になる必要な介護の状況や、サポートしてくれる家族の有無、外部サービスの利用など様々な角度から状況を把握し、仕事と介護の両立を目指していくことも一つの方法と言えます。
介護離職をすると自分の老後資金が危なくなることも!
実は、介護離職をすると自分の老後資金が大幅に減少してしまうことが考えられます。介護離職をした場合、経済的負担がどのくらいになるのかをシミュレーションしてみました。
Aパターン 介護期間8年間(55歳で介護離職をした場合)
上記のAパターンは、22歳と19歳の2人の子どもがいる人が、55歳時点で介護離職をして、介護に専念した人のシミュレーションです。介護を離職した時点の貯蓄残高は1200万円で、8年間の介護期間は妻のパート収入130万円のみと想定しました。
介護に専念できるため、介護費用は親の年金などで賄うとし、持ち出しは0円。しかし、61歳時点で貯蓄残高はマイナス200万円となり、介護が終わったあと63歳から5年間働き続けたとしても、85歳時点で1000万円以上の負債を抱える結果になりました。
これは、介護費用の負担がなかったとしても、自分たちの生活費をはじめ、住居費(住宅ローンなど)や子どもの大学の学費、子どもの結婚による資金援助など臨時にまとまった出費が予測されます。また、自動車の購入や自宅のリフォームなど、自分たちが必要な様々な費用を収入が減少した中で確保しなくてはならないからです。
Bパターン 介護期間8年間(仕事を辞めずに65歳まで働いた場合)
一方、上記のBパターンは、Aパターンと同じ人が仕事を辞めずに、働きながら介護と仕事を両立させた場合のシミュレーション。定年まで年収600万円で働き、定年後も65歳まで再雇用で働き続け、年収400万円を確保できたとしました。
働きながらの介護のため、外部サービスの利用が増えることを想定し、その分の介護費用を、年間155万円負担します。その結果、8年間の介護期間にかかった費用総額が1240万円だったとしても、老後の貯蓄残高を1000万円以上安定的に確保でき、85歳時点での貯蓄残高は、1140万円を残すことに。これなら、自分の老後も安心して暮らしていくことができると言えます。
このように、介護離職をするとしないとでは、自分たちの老後資金に大きな差が生じることになります。ここまで大きく差が出てしまうのは、介護離職をした場合と比べて給与はもちろん、退職金や年金額を増やすことができるからです。
もちろん、家族構成や出費は人それぞれなので、ここまでの状況にはなるとは限りませんし、様々な事情から介護離職という選択もあります。しかし、民間サービスの活用や家族のサポートをできる限り受けるなどで、仕事を続けながら介護をしていく可能性を模索するのは、老後資金を確保するためにもとても重要なことと言えます。
介護のサポートをしてくれる人を考えましょう
仕事と介護の両立をするには、どのようにしていくといいのでしょうか。たとえば、父親が倒れた場合、その配偶者がメインの介護者になるケースが一般的ですが、その他の親族でどのように介護の役割分担ができるのかを考えていきましょう。下の図は、父親が倒れた場合、メインの介護者を母親とした場合の例です。
介護される人の子ども達はもちろん、介護に参加できそうなメンバーを幅広く考えていきます。たとえば、おじ、おば、孫や姪・甥、普段親しくしている隣人などと書き出していきます。
普段親しくしている隣人や近くに住む友人がいるなら、親の様子が心配な時に見に行ってもらったり、逆に心配な様子を目にした時に連絡をもらったりと、離れて暮らしているとすぐに対応できない場合のサポートを担ってくれるかもしれません。意外な人から協力を受けられるということもあるので、思いつく限り手助けを要請してみましょう。
一方、サポート役が増えると、情報共有や意思疎通が大変になってしまうこともあるので、とりまとめをするリーダー役が必要になることも覚えておきましょう。
また、介護サービスを受けるための事業者や親の住む地域の自治体独自のサービス(ボランティアなども含む)がある場合もあるので、情報を収集しておくようにしましょう。
サポート役が決まったら介護スケジュールに合わせて担当を決める
サポート役が決まったら、それぞれの人がどの曜日や時間帯なら協力できるのかを洗いだします。たとえば、要介護者の孫が大学生なら、授業のない時間帯に病院の付き添いができるなど、短い時間帯でもサポートできることがあります。
このように、細かなスケジュールを把握しておくことで、日中仕事があって自分が介護できない部分をサポートできることにつながります。介護サポートの協力体制の時間が把握出来たら、ケアマネジャーが作成してくれる介護プランに合わせて、誰がいつどの担当になるのかを具体的に考えていきます。
下の例は、平日は介護事業者をメインで利用し、家族が朝と夜、週末を中心に介護するプランの例です。
メインの介護者である母以外に、平日の夜2回は長女、週末は、長男と長男の妻、長女が介護に参加する体制を組んでいます。週1回の通院は、家族が基本分担しますが、どうしても付き添いが難しい場合は、自治体サービスや民間事業者などのサービスを利用することもできます。
このように、平日昼間の介護は事業者に任せることで、メインの介護者の母の負担を減らすこともできます。これなら、自分がメインの介護者になったとしても、働きながら介護を両立させることも不可能ではありません。
また、コロナの影響で、リモートワークが中心になった人や、フルフレックスで働いている人など働き方も多様化しています。自分1人では抱え込まずに、介護が必要になったら、会社の上司などに相談して、働き方を変えるという選択肢もあります。
介護は、何年後に終わるという決まりがありません。ですので、1人の負担を大きくせずに、家族のサポートや事業者のサポートを借りながら進めていくことがカギとなります。もちろん、介護される人の要望を最優先にすることが大切ですが、介護する側の人の事情も考慮しながら介護をするようにしましょう。
資料作成:あおぞらコンサルティング
角川SSCムック『離れて暮らす親に介護が必要になったときに読む本』より抜粋
この記事の制作者
著者:株式会社回遊舎 酒井富士子(フィナンシャル・プランナー)
“金融”を専門とする編集・制作プロダクション。
お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで担う。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」、「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点1 0」(株式会社ダイヤモンド社)など