介護保険の住宅改修とは?できることや流れ、2回目の利用可否まで

介護保険の住宅改修とは、保険を利用して被介護者の方やご家族が生活しやすいようにご自宅の設備を整えることです。所得によって1〜3割の自己負担額で改修できます。支給限度額が定められているため、大幅な改修が必要な場合は施設入居も検討しましょう。

介護保険の住宅改修とは?

介護保険の住宅改修とは、保険を利用して段差の解消や手すりの設置など自宅設備を改善したり導入したりすることです。

対象者は下記の通りで、介護施設などに入居している場合は対象外。施設からの退去が決まっており、改修対象になる住宅に住む具体的な予定があれば、介護保険が利用できることもあります。

介護保険の住宅改修の対象になる方

  • 要支援1~2、もしくは要介護1~5のいずれかの認定を受けている
  • 介護保険被保険者証に記載されている住所の自宅に住んでいる

上記の両方を満たす方

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介護保険における住宅改修の支給限度額

介護保険における住宅改修の支給限度額は20万円です。基本的に費用の9割(所得によって7割~8割の場合もあり)が支給されるため、20万円の改修を行った場合の自己負担額は2万円という計算になります。

介護保険を利用して住宅改修できる回数

介護保険を利用しての住宅改修は、原則1人1回と定められています。住宅で1回ではなく個人で1回です。

しかし例外として、同じ人が複数回申請できるケースもあります。20万円の上限内であれば、複数回の改修工事を行うことが可能。たとえば1回目に5万円を使った場合、次回15万円の工事を行えるといった具合です。

また下記などのケースでも、2回目以降の住宅改修が認められることがあります。

2回目以降の住宅改修が認められるケース例

  • 要介護認定を受けた父が介護保険の住宅改修を利用した。その後同じ住宅に住む母も要介護認定を受けた
  • 要介護度が3段階以上重くなった
  • 別の家に引っ越して、引っ越し先のバリアフリー化が必要な場合 など

介護保険を利用して住宅改修するメリット

在宅介護の負担軽減
バリアフリーリフォーム費の削減
被介護者に自立した生活を促せる

介護保険を利用した住宅改修にはさまざまなメリットがあります。ご本人が住み慣れた自宅で生活を続けるうえで、心強い味方になってくれる制度です。

在宅介護の負担軽減

住宅改修を行い自宅の動線や設備を改善すれば、介護を受けるご本人はもちろん、ご家族の負担も軽減できます。在宅介護はどうしても介護負担が重くなりがちです。住宅改修で双方の負担を軽減すれば、共倒れ防止にもつながるでしょう。

バリアフリーリフォーム費の削減

バリアフリーリフォームにはある程度の費用が掛かってしまいますが、介護保険から給付を受けることでリフォーム費用を大きく削減できます。支給限度額内のリフォームであれば、所得によって1~3割の自己負担で工事が可能です。

被介護者の自立した生活を促せる

手すりを設置したり、床材を変更したりと環境を整えることでご本人の自立を促せる点も大きなメリットです。できることはご本人にやってもらうことで、身体機能や認知機能の維持改善も図れるでしょう。

介護保険を利用して住宅改修するデメリット

手続きに時間がかかる
改修内容が限られる

介護保険を利用した住宅改修には、所定の手続きを踏んだり、限度額内での改修を行ったりする必要があります。どうしても速度感や費用感に限りが出るため、あらかじめ把握しておきましょう。

手続きに時間がかかる

介護保険を利用して住宅改修をする際は、所定の手続きを終えてから着工するため、どうしても一定以上の時間がかかってしまいます。ご本人が要支援・要介護の認定を受けていない場合は、要介護認定の申請手続きから行うため、さらに時間を要するでしょう。

特に入院し退院に合わせて住宅改修を検討される際は、申請と同時に手続きを進めていくこともあります。詳細は担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談をしてみましょう。

関連記事要介護認定とは?認定基準や区分、申請~通知の流れ、有効期限まで

改修内容が限られる

介護保険を利用した住宅改修には限度額が定められているため、改修内容が限られてしまいます。限度額は20万円なので、思い描く改修がすべてできないこともあるでしょう。超過分は介護保険の対象外なので、工事の予算感をあらかじめ把握する必要があります。

介護保険における住宅改修の流れ

1.ケアマネジャーに相談する
2.住宅改修プランの作成
3.申請書類の提出
4.役所からの結果通知
5.着工

介護保険を利用した住宅改修はどのような流れで進むのでしょうか。漏れのない手続きをするためにも流れを確認しておきましょう。

1.ケアマネジャーに相談する

介護保険を利用して住宅改修する際は、改修事業者より前にケアマネジャーに相談します。ケアマネジャーは複数事業者から見積もりを取るよう、利用者に促すことを義務づけられています。どのような施工が必要かなどのアドバイスもくれるので、まずは相談しましょう。

出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修」

2.住宅改修プランの作成

ケアマネジャーに相談後は、住宅改修事業者と「住宅改修プラン(住宅改修が必要な理由書)」を作成します。

打ち合わせでは、被介護者ご本人の状態などを基に必要な設備を明確にします。打ち合わせ段階で福祉用具等を組み合わせて介護保険を利用したり、バリアフリー化を目指したりする旨を事業者に伝えて、適切な住宅改修プランを作成してもらいましょう。

3.申請書類の提出

住宅改修プランの作成を終えたら申請書類を所定の窓口に提出します。必要な書類は地域によっても異なる場合があるため、ケアマネジャーに確認したり、自治体のホームページをチェックしたりしましょう。

申請書類について詳しく見る

4.役所からの結果通知

住宅改修の支給申請書類を提出したら審査結果の通知を待ちます。審査に通過してはじめて着工できます。完成の希望時期がある場合は逆算して、なるべく早い段階で行動に移しましょう。

5.着工

審査に通過して役所から通知が来た後はいよいよ着工です。2で作成した住宅改修プラン通りに工事が進んでいるかを随時確認しながら、完成を待ちましょう。

介護保険における住宅改修に必要な書類

事前申請時
事後申請時

介護保険を利用した住宅改修では、事前申請時と事後申請時にそれぞれ所定の書類を提出する必要があります。書類ごとに準備方法も異なるので注意しましょう。

事前申請時

  • 住宅改修費支給申請書
  • 住宅改修が必要な理由書
  • 工事費見積書(複数の住宅改修事業者から選定した見積書)
  • 完成予定の状態がわかるもの

介護保険から住宅改修費を受給する場合は事前申請が必須のため、上記の書類を提出して申し込みます。ここで特に注意をしたいのは事前申請前に工事を開始しないことです。事前申請をして自治体からの許可が出る前に行った工事は保険対象外となります。

「住宅改修が必要な理由書」は担当のケアマネジャーや理由書の作成ができるとされている者に作成してもらいましょう。また、保険が使えるからといって高額な見積書を出す事業者もあるため、複数の業者から相見積もりをとりましょう。

完成予定の状態がわかるものについては、写真や簡単な図を用いて改修前後のイメージが伝わるようにします。

事後申請時

  • 住宅改修費用の領収書
  • 工事費見積書
  • 完成後の状態を確認できるもの
  • 住宅所有者の承諾書

住宅改修費の受給には、住宅改修工事完了後にも事後申請を行う必要があります。現地確認などを経て、費用が支給されるためです。施工業者からの領収書を保管したり、改修後の写真を用意したりするのを忘れないようにしましょう。

介護保険における住宅改修費用の支払い方法

償還払い
受領委任払い

介護保険を利用した住宅改修費用の支払い方法は、大きく分けて2つあります。支払方法は資金計画を練る際にも大切なので、それぞれの方法をチェックしておきましょう。

償還払い

償還払いは、先に工事費用を全額事業者へ支払い、介護保険による住宅改修費の給付を待つ方法です。住宅改修費は後から戻ってきますが、一時的に自己負担で全額支払う必要があります。大半の方が利用している支払い方法です。

受領委任払い

受領委任払いとは、利用者が介護保険の自己負担額だけを支払い、残りは自治体から事業者に支払われる方法です。工事費用を建て替える必要がないため、一時的な出費を抑えられます。ただし、自治体によっては償還払いと比べて事前申請の決定までに時間がかかることが多いため注意しましょう。

介護保険における住宅改修のリフォーム内容

手すりの取り付け
段差の解消
扉の取り替え
床や通路の材料の変更
便器の取り替え
工事に付帯して必要な改修

介護保険を利用した住宅改修は対象箇所が定められています。対象箇所を把握したうえで、ご本人にとって最適な施工内容を決定しましょう。

手すりの取り付け

廊下や階段、トイレ、浴室、玄関などの手すりの取り付けは住宅改修の対象です。動線の手すりであれば、屋外に設置した場合も対象内。置型の手すりは福祉用具のレンタルとなり住宅改修の対象外なので注意しましょう。

段差の解消

玄関と廊下、脱衣所と浴室など、段差がある部分にスロープを設置する工事を指します。転倒を防ぐほか、車椅子での移動が可能になります。

扉の取り替え

開き戸を引き戸やアコーディオンカーテンへと変えることで、開閉が楽になります。開き戸の開閉時に転倒する方も少なくないため、安全性を大きく高められる改修です。

床や通路の材質変更

家の中での転倒を防止し、車椅子移動がしやすくなるための工事も住宅改修のリフォーム対象です。浴室や廊下、階段の床を滑りにくい材質に変更する工事などが該当します。

便器の取り替え

和式便器から洋式便器への取り替えも住宅改修の対象です。その改修の際に温かい便座や洗浄機能付き便座への変更も対象内です。ただし洋式便器を新しいものにする場合や、温かい便座や洗浄機能付き便座のみの設置は対象外です。

工事に付帯して必要な改修

  • 既存の手すりの撤去
  • スロープ設置に係る転落防止柵の設置
  • 床面の表面加工
  • 扉の取り替えを目的とした、扉枠の撤去とカーテンレールの取り付け
  • 便器取り替えに係る給排水設備工事 など

上記で紹介した工事に不随して必要な改修も、住宅改修の対象になります。対象となる可能性が高い工事は具体的に上記などで、予備工事や事前工事が該当します。

介護保険にける住宅改修の費用相場

トイレの費用相場
浴室の費用相場
階段の費用相場
玄関の費用相場

細かいリフォーム費用は事業者によって異なりますが、ある程度の相場があります。相場を把握しておくことで事業者選びの際にも役立つでしょう。

トイレの費用相場

工事内容 工事費 自己負担額
和式から洋式へ変更 約17万円 約1.7万円
引き戸への交換 約10万円 約1万円
手すりの設置 約5万円 約5,000円

和式便座は身体が思うように動かない方にとっては大きな負担になるため、洋式便座への変更を視野に入れる必要があります。温水洗浄便座など、機能付きのものに交換する場合は相場よりも高めの費用感を想定しておきましょう。

浴室の費用相場

工事内容 工事費 自己負担額
扉の取り替え工事 約12万円 約1.2万円
段差の解消 約10万円 約1万円
滑り止めタイルへの張り替え 約5.5万円 約5,500円

浴室は転倒の危険が高い場所なので、怪我防止の観点から改修対象になりやすい箇所です。いずれも自己負担であれば大きな出費になりますが、介護保険を利用することで費用感を大きく抑えられます。

階段の費用相場

工事内容 工事費 自己負担額
手すりの設置(6m) 約11万円 約1.1万円
段差の解消 約10万円 約1万円
滑り止めシートの設置 約9万円 約9,000円

階段の手すりのについては、壁に取り付けるタイプや固定するものなどがあり、種類によっても費用が異なります。段差の解消にはスロープやステップアップパーツを設置するのが一般的です。

玄関の費用相場

工事内容 工事費 自己負担額
滑り止めタイルへの変更 約10万円 約1万円
段差解消 約4万円 約4,000円

玄関の段差解消には、床をならしたり、段差用スロープを設置したりと予備工事が必要な場合があります。車いすの利用が想定される場合は、スペースを確保するなど玄関全体の改修も必須。費用も高額になることを念頭に置いておきましょう。

大幅な改修が必要な場合は、介護施設への入居の検討も

介護保険を利用すれば、手すりの設置や段差の解消などの住宅改修が可能です。ご本人やご家族にとって生活しやすい環境になるほか、金銭的な負担も軽減できます。ただし支給額に上限が定められているため、希望の施工がすべてできるとは限りません。

対象箇所を改修することで住み慣れた自宅での生活が期待できるからこそ、介護保険を利用する意味があります。大幅な改修が必要な場合は、施設入居を検討するのも1つの手でしょう。

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イラスト:安里 南美

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この記事の制作者

横山由希路

著者:横山由希路(ライター)

町田育ちのインタビューライター。漫画編集、ぴあでのエンタメ雑誌編集を経て、2017年に独立。週刊誌編集者時代に母の認知症介護に携わり、介護をはじめて13年が経った。2020年にひとりっ子でひとり親を介護している経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」(2刷)を企画・構成した。

HP横山由希路

note横山由希路/ライター

Twitter@yukijinsky

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

公式おかげさま社労士事務所

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