【はじめての方へ】老人ホームの契約解除・クーリングオフのしくみ

老人ホーム関連トラブルの割合

有料老人ホームに入居しても実際に暮らしはじめてみたらイメージと違ったり、入居後すぐに持病が悪化し、入院が必要になる場合もあるでしょう。

そうした事情により退去したい場合、入居時に支払った高額な一時金は戻ってくるのでしょうか?

実は、契約日から90日以内に老人ホームを退去するときには、入居一時金などの前払い金を全額返還してもらえます。

これを短期解約特例制度、いわゆる「クーリングオフ」と呼びます。

入居一時金に関するトラブル例を参考に、この制度の内容について解説します。

老人ホームの契約解除・クーリングオフについて動画で知る

多発する入居一時金トラブル

老人ホームに入居後、一身上の理由のため短期間で退去する場合や、入居する前に解約した場合、入居一時金をめぐって事業者とトラブルになることがあります。一例を見てみましょう。

たった10日間の入退去で600万円を失ったAさんの例

  • Aさんは、ひとり暮らし。
    だんだんと日常生活に必要な家事を自身で行うことが困難になってきたため、有料老人ホームに入居することを決意。
    入居一時金として虎の子の2,000万円を支払って事業者と契約を結び、入居しました。

    しかし、入居してすぐに持病が悪化。入居からわずか1週間で入院が必要な状況に。そして10日後には入院してしまいました。入院は長期になることが予測されたため、Aさんは入院と同時に、施設を退居しました。

    事業者側は退居手続きには応じてくれたものの、「入居一時金2,000万円のうち30%分の600万円は初期償却となるため入居と同時に償却済です。それから今月分の利用料として20万円を差し引くので、返金は1,380万円です。」とAさんに説明しました。

このケースでは、たった10日間の入居期間に対して、620万円という高額な金額を対価として支払うことになってしまったのです。

かつてこのようなトラブルが多発し大きな問題となっていました。

こうしたトラブルを減らすために、平成24年4月1日から施行された改正老人福祉法で、短期解約特例制度(90日ルール、クーリングオフ)が規定されました。

保全措置

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クーリングオフで入居一時金が戻ってくる

かつては、初期償却分は入居日にすぐ償却されてしまうものと相場が決まっていました。

先ほどのAさんのように、たった10日の入居でも数百万円が返還されないことになっていたのです。

現在は有料老人ホームの入居から90日の間であれば、クーリングオフを利用することができ、入居一時金は原則、全額返還されることとなりました。

これは、退居の理由が自分側にあっても、ホーム側にあっても同様です。

例えば、こういった理由があげられます。

老人ホームの主な退去理由

  • 自分より高齢の人しかおらず雰囲気になじめない
  • 持病が悪化して入院することになった
  • 体験入居は明るい居室だったのに、契約した部屋は日当たりが悪く雰囲気が悪かった
  • ほかの入居者とそりが合わない。居室の変更を依頼したが聞き入れてもらえなかった
  • 契約前に聞いていた金額より行事・イベントの課金が高すぎて支払えない
  • ご逝去による退去

このように理由はなんであれ、クーリングオフは90日以内の退居・退出であれば返金されます。

また、利用者保護の観点から「厚生労働省が定めた一定の費用」とされており、初期償却分も返金の対象となります。

ただし、入居一時金の全額が返金になるわけではない点は注意が必要です。返金に際しては、家賃や食費など利用した分の費用が差し引かれます。

基本的には、入居していた期間を日割りで計算し、家賃や提供を受けたサービス分を差し引いて、その残りの入居一時金が全額返還となると考えればいいでしょう。

前述のAさんのケースだと、2,000万円の入居一時金から、日割計算した家賃分として、月20万円の1/3程度の金額が差し引かれ、1,993万円ほどが戻ってくる計算になります。

全額ではないにせよ、この差はとても大きいですよね。

  • 短期解約特例(90日ルール、クーリングオフ)制度に違反した事業者には、都道府県知事から改善命令が出され、罰則(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が適用される場合もあります。

トラブルを未然に防ぐために注意すべきこと

入居する際には、誰しも退居のことなど想定していません。

しかし “万が一” は誰にでも起こりうるものです。

入居時は快適でも、その後の環境の変化で短期間の間に退去に到るケースも考えられます。

だからこそ、入居前に、もしもに備えて必ず確認しておくべきことがあります。

契約前に費用についての説明を納得するまで受ける

全国消費生活相談員協会に寄せられたトラブルケースを見ると、その第1位は、圧倒的に契約や解約における金銭にまつわるトラブルです。

老人ホーム関連トラブルの割合

契約・申込みをする前に、入居時に必要な費用、入居後毎月必要な費用、退居時の費用など、それぞれの時点で必要な費用について、事業者から十分に説明を受けましょう。

このとき、内容をきちんと理解できたかだけでなく、理解した内容について納得できたかが重要です。

納得がいかない場合には、何度でも聞き、説明してもらう、そして納得がいかない事業者とは契約しないこと。

一人では不安な場合には、信頼できる人に一緒に聞いてもらうのがいいでしょう。

入居一時金について契約前に確認しておくこと

  • 返還がされるのか、されないのか
  • 初期償却はどのタイミングで行われるのか
  • 初期償却の割合は何%か
  • 償却期間は何年(何ヶ月)か
  • 償却のタイミング(月ごとか、年か)

こうした内容を確認し、退居・解約した場合の返金について不明な点をなくしておきましょう。

また、前払金(入居一時金)の保全措置がきちんとしていることと、その保全措置の内容、もちろん短期解約特例制度(クーリングオフ)の設置についても、重要事項説明書や契約書などへの記載を確認し、内容を理解しましょう。

施設とのトラブル|話し合いで解決しないときの相談先

退居に伴う返金に関して、どうしても納得がいかず、事業者との話し合いでは解決ができないという場合、相談先はいくつかあります。

施設最寄りの役所の窓口

入居している施設のある都道府県、市区町村の高齢福祉課や介護保険課といった該当の窓口に相談ができます。内容によっては行政から施設に対し、改善指導をお願いすることができます。

消費者ホットライン

また、最寄りの消費生活センターや消費生活窓口に繋がる、消費者ホットライン188(局番なしのイヤヤ)に電話すると、どうすれば解決の糸口がつかめるか、ガイドしてもらうことができます。

各都道府県の国保連(国民健康保険団体連合会)

国保連は、介護サービスの質の向上に関する調査や指定事業者への必要な指導・助言を行うことになっています。

これは、サービス利用者の権利擁護と介護サービスの維持、向上を目的とするもので、介護保険法、第10章 第176条で定められています。

各都道府県の国保連ごとに介護サービス苦情相談窓口があり、電話などで相談ができます。

法テラスなどの法律相談窓口

法の力を借りないと解決できないようならば、法テラス(日本司法支援センター)のサポートダイヤル0570-078374(オナヤミナシ)で相談を。

相談内容に応じた一般的な法制度や手続き、トラブル解決の相談窓口を無料で情報提供してもらえます。

他人事ではなく自分事として考えよう

90日ルールは、有料老人ホームの利用者を守るために作られた制度です。この制度ができたおかげで、入居してすぐの退居による入居一時金返還にまつわるトラブルは減りつつあります。

しかし、「返還金が振り込まれない」「こちらは一括で支払ったのに、返還は分割でしか振り込んでくれない」などといったトラブルは引き続きあるようです。

入居する施設を決めるときには、何を大事にするか、そしてきちんと施設からの説明を受け、納得して契約することが一番です。

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この記事の制作者

株式会社回遊舎 酒井富士子

著者:株式会社回遊舎 酒井富士子(フィナンシャル・プランナー)

“金融”を専門とする編集・制作プロダクション。
お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで担う。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」、「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点1 0」(株式会社ダイヤモンド社)など

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